見えない世界で少年は彼女達と出会った…   作:とあるP

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エピソード003 音になる世界

紗夜の肩を掴まりながら、音楽室へと続く階段を昇る音葉。それを心配そうに見つめる紗夜。傍から見れば異様な光景だが、幸いにも部活動等で校舎内には人はいなく、誰とも会うことなく音楽室までたどり着いた。

 

「着きましたよ、音葉さん。ここが、音楽室です」

 

「…ありがとうございます。もう一ついいですか?」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「…ここに、ピアノはありますか」

 

「ええ、ありますよ。こちらです」

 

そう言うと、紗夜は音楽室にあったグラウンドピアノの前まで歩いて行った。そして、鍵盤を見せた。

 

「ここに鍵盤があります」

 

「ありがとうございます」

 

そう言うと、椅子に座り鍵盤を一気に弾きならした。

 

~♪

 

「うん。良い音だ」

 

そして、おもむろに指を置き弾き始めた。

 

―♪

 

「この曲は…『悲愴』ですか」

 

紗夜の問いに答えることなく音葉は弾き続けた。

 

~ベートーヴェン-ピアノソナタ8番『悲愴』第二楽章~

[ベートーヴェンの書いた最も有名な楽章のひとつで、これを聞いたヴィリバルト・ナーゲルはベートーヴェン全作品中でも指折りの音楽と評価しており、マイケル・スタインバーグはこの楽章のために「ハープシコードの所有者は最寄りのピアノ屋に駆け込んだに違いない」と述べた。美しく、物憂い主題が静かに奏で始められる。]

 

そんな『悲愴』を音葉は時に悲しく、時に切なく奏でていた。気づけばもう少しで終わりそうな雰囲気になっていた。

 

「ふぅ…」

 

パチパチパチパチ

 

「素晴らしい演奏ありがとうございました」

 

「…姉さんに比べたらまだまだですよ」

 

「けど、音葉さんの音も綺麗で感情がこもっていましたよ」

 

「…ありがとうございます///」

 

姉以外からの賛辞で少しだけ照れてしまった。

 

「何時からピアノを?」

 

「…小学校入る前から姉と母の影響でピアノを始めました。母が奏でる音が好きで、一生懸命に練習してここまで、やってこれました」

 

「…幸いにも、一度聞いた音は忘れない「絶対音感」があったのでここまで来ましたけど、姉に比べたらまだまだです」

 

「そんな…」

 

湿っぽい話しをしてしまった音葉は、気分転換にもう一曲披露することにした。

 

「…すみませんでした。気分転換にもう一曲だけ弾いてもいいですか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「…わかりました」

 

そう言いって、再び鍵盤と向き合う所で音楽室のドアが開くと、6人の女子生徒達が流れ込んできた。

 

「ハァ、ハァ、音葉の…音が…」

 

「り、燐子先輩。早いですよ…」

 

「ねぇねぇさーや!音楽室からピアノの音が聞こえて来たんだけど!」

 

「ちょっと落ち着きなよ。香澄。あ、紗夜さんこんにちは」

 

「ハァハァ、早いよ香澄ちゃん…」

 

「大丈夫りみ?あれ?男の子?」

 

一斉に聞こえた燐子以外の声で、音葉は軽いパニック状態に陥って倒れしまった。

 

「え!え!…だ、誰!」

 

「音葉大丈夫!?」

 

「あ…」ドサ

 

「音葉!しっかり!」

 

「音葉さん!?」

 

慌てて燐子と紗夜が落ち着かせようとしたが、間に合わず音葉は倒れ込んでしまった。その様子を5人組の女子生徒達は見て呆然としてしまった。

 

「え!!大丈夫ですか!」

 

「香澄落ち着け!」

 

「でも、有咲…」

 

「ここは、燐子先輩達に任せて静かにしていようぜ」

 

「う、うん…」

 

 

数分後ある程度落ち着いた音葉は燐子の肩に掴まりながら、ピアノの椅子に座っていた。

 

『ごめんなさ~い』

 

「…大丈夫ですよ。こっちも驚いただけですから」

 

「じゃあ、改めて!アタシ戸山 香澄(とやま かすみ)って言います!2年生です!」

 

花園 たえ(はなぞの )って言うよ。みんなからは「おたえ」って呼ばれている」

 

「えっと…牛込 りみ(うしごめ )です。ふえぇぇ…男の子と話すの初めてだから、緊張するよ」

 

「あはは…えっと私は山吹 沙綾(やまぶき さあや)って言うよ」

 

「私は「有咲猫かぶってる」被ってねぇよ!あ、…コホン。アタシは市ヶ谷 有咲(いちがや ありさ)って言う」

 

「…白金音葉です。1年生です。姉の燐子がいつもお世話になっております」

 

「ちょっと…音葉///」

 

「凄い…焦っている燐子先輩初めて見たかもしれない」

 

「あたしも!いつも凛としていてかっこいいのにね!」

 

「ふふふ、慕われているんですね白金さん」

 

「ひ、氷川さんまで…」

 

「ねぇ、ねぇ、音葉君はどうしてここに居るの?」

 

香澄からの質問に少しだけまごつくが、どうせバレるならここで話してもいいと思って、音葉はこれまでの事を話した。そして、この花咲川女学園にいるのも話した。

 

「…だから、いつもは特別教室に居るんですよ」

 

「もしかして、香澄ちゃん達が見たお化けって白金君のことだったのかな?」

 

「あーあの時は気が動転していたからな。その事については…すまなかった」

 

「…いいですよ。もう終わった話ですから」

 

「…そう言えば、音葉はどうしてここに居たの?」

 

「…姉さんを待っている間暇だったからね。氷川さんに頼んで音楽室に案内してもらったんだ」

 

「そうだったんだ。…氷川さんありがとうございました」

 

「いえ、こちらもいい曲を聞かせていただきました」

 

「そうだ。皆さんに1曲披露致しましょうか?」

 

「いいの!やったー!」

 

「落ち着けよ香澄。じゃあお願いするわ」

 

「へ~聞いてみたいね」

 

「私、ギターがあるからセッションしようか?」

 

「おたえちゃん。流石に今回は遠慮しようよ」

 

そう言って、音葉と燐子は軽い打合せをして準備をするのであった。幸いもう1台のピアノを見つけたので、2人はアレをしようとした。

 

「それじゃあ行くよ音葉」

 

「うん」

 

♪!♪!♪!♪!♪!♪!♪!

 

突然鳴り響いたピアノの音にびっくりする5人。紗夜はさっきまで聞いていた、「悲愴」とは異なる、軽快なリズムでピアノを弾いて行く2人を見ていた。複数の旋律を織り交ぜながら華やかに演奏していた。

 

カミーユ・サン=サーンス組曲『動物の謝肉祭~フィナーレ』

 

[これは作曲家サン=サーンスの作った曲の中で最も有名な作品であり、いろいろな動物の名前の付けられた14曲の小品からなる組曲で、動物園の中を巡るような楽しさがあります。今回は難易度が高いとされる[フィナーレ]を2台のピアノを使って連弾する形となった。]

 

5人が聞き惚れている中そろそろフィナーレの部分となった。音葉は見えないが感覚で燐子とのタイミングを計っていた。そして、フィニッシュとなった。

 

パチパチパチパチ!

 

「凄い!すごいー!」

 

「ええ、いい音色を聞かせて貰いました」

 

「か、かっこよかった~」

 

それぞれの反応はあったものの、久しぶりの連弾で緊張したが、やり切った感じになっていた。燐子も同じ様に感じていた。

 

「ありがとうね。音葉」

 

「…うん。楽しかったよ」

 

そんな2人を見ている紗夜は少しだけ羨ましいと思ってしまった。姉妹でのわだかまりも無くなったとは言え、未だギクシャクしている所がある。

 

燐子は音葉の手を取って、5人に説明した。

 

「…音葉は目が…見えないの。だから…皆さん…音葉をよろしくね」

 

『はい!』

 

そして、燐子と音葉は手を取って、校舎前にいた。周りは真っ暗になっており、既に夜になりつつあった。

 

「それじゃあ、また明日ね~!」

 

「…はいまた明日です」

 

香澄達は音葉と燐子、紗夜と反対側の商店街へと歩いて行った。3人は途中まで一緒なので途中まで一緒に帰ることにした。

 

「今日は驚かされる事ばかり出したね」

 

「…音葉が…ピアノを…弾きたいって…言うのは、久しぶり…だったもんね」

 

「…うん。久しぶりに弾きたくなったから」

 

そんな2人の間に挟まれながら、氷川宅に着くのであった。

 

「それじゃあ、私はここですので、失礼しますね」

 

「…うん。また明日お願いしますね。氷川さん」

 

「音葉さんも、また「あーー!お姉ちゃん!」…はぁ、日菜ちょっと静かにしなさい」

 

「珍しいよね。お姉ちゃんがこんなにも、遅くなるなんて」

 

「別にいいでしょ。今日は生徒会の仕事で遅くなっただけだから」

 

音葉は第三者の出会いに戸惑っていた。そんな事をよそに、第三者は音葉の存在に気づいた。

 

「あれ?この子だれ?」

 

「今度花咲川女学園に入学してきた、白金 音葉くんです。音葉くん。妹の日菜です。日菜、挨拶しなさい」

 

「はーい!氷川 日菜(ひかわ ひな)でーす!よろしくね!」

 

そう言って、日菜は握手をしようと手を出したが音葉は上手く取れなかった。業を煮やした日菜は強引に音葉の手を取った。その時持っていた白杖を落としてしまった。

 

「えっと…」

 

「んも!こっちだよ!」

 

「あっ!」カラン

 

「うん?なにこれ?白い棒?」

 

「あ、あれ?ど、どこにいった!どこだ、どこだ…」

 

「もしかして、これのこと?」

 

「か、返してください!」

 

「うん。けど、そんなに大事なの?これが?」

 

「ええ、そうよ日菜。彼はね…音葉くん(・・)は…目が見えないの」

 

「え…そうなの…?」

 

「…はい。僕は生まれつき目が見えないんです」

 

「…ごめんなさい」

 

「…大丈夫ですよ。もう慣れましたから。それに、氷川さんと姉が付いて居たので大丈夫です」

 

「…紗夜」

 

「え?」

 

「私の事は紗夜と呼んで下さい。2人も氷川が居たら混乱するでしょう」

 

「あー!お姉ちゃんだけずるい!じゃあ私の事は日菜って呼んでね!これ絶対条件!」

 

「ええええ!いきなりはちょっと…」

 

「なら、慣れるまで呼び続ける事ですね」

 

「ふふふ、これからよろしくね!音葉くん!」

 

こうして、氷川姉妹に気に入られる事になった音葉。はてさて、これからどうなって行くのか…

 

因みに、その間燐子は音葉の服を握り終始頬を膨らませていたそうな…

 

 

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