──狭霧山にて。
「ん、かぐちゃん?」
「あれ、師匠? どうして家に? 岩柱様のところに行ったのでは」
「あぁ、それなんですが……」
数字を数える修行に加え、中国における修行法『馬歩』*1を参考にした修行によるボディーイメージの矯正などを行った結果、杏寿郎も見事『透き通る世界』の入り口に到達した。それはいい。
だが耀哉の直感からは逃れられず、働いていたことがすぐにバレた。
そこで『行冥と共に休むこと』という指示が出され、かぐやは渋々修行を中断。彼の家へ向かったのだが……
「あそこは、ダメです。全く心が休まりません」
「え? まさか行冥くんに何か……」
「あぁいや、行冥さんが悪いのではなく。
……いや、行冥さんのせいでもあるのですが」
「うーん、なんだかよく分からないけど、家に入って話そっか」
「ありがとうございます」
そしてかぐやは鱗滝家に上げてもらい、錆兎と共に真菰が淹れてくれたお茶を啜る。
「それで……何があったの?」
「逸般人のおばあさんに、
「「はい??」」
「行冥さん家の近所に住んでいるおばあさんです。昨日は私、行冥さんに
「……ごめんかぐちゃん、その場で怒られたんじゃなくて、町内を叩きまわされたの?」
「はい」
「ナニソレ怖い」
ちなみに空想科学研究所の方によると、原作柱俊足順位5位の杏寿郎は時速約256kmで走ることが可能であるそうだが、行冥は3位である。かぐやは雷の呼吸を使えば2位の実弥より少し速く走れる。だが、おばあさんは彼らの速度に追随し、箒で叩きながら町内を追い回せるのだと言う。ナニソレ怖い。
「その人、本当に一般人?」
「間違いなく逸般人です」
なお、近代妖怪のターボババアでも時速200kmは超えない。完全に逸脱者側の一般人である。
「そ、そう……えっと、お疲れ様?」
「はい……久しぶりに本気で疲れました」
まさかの初苦戦する相手が鬼ではなくただのおばあさん。一般人とは一体。
「すみません、来たばかりで申し訳ないのですが少し眠らせてください……」
「あぁ、行冥くんの家からだとかぐちゃんの家よりこっちのが近いもんね。いいよ。ゆっくり休んでってね」
「ありがとうございます……」
──次の日。
「し、師匠!? どうしたんですかその
「あぁ、大丈夫ですよ錆兎……ふふ、そういえばこの山、普通に幽霊とか出るの忘れてました……」
「幽霊!? 本当に大丈夫ですか!?」
「はい。鱗滝さんのお弟子さん10名です。産屋敷は神仏との繋がりがあるので認識しやすいとかで……夜通しお話してました……鱗滝さんへの伝言が沢山あるので、ちょっと行ってきますね……」
「え、えぇ……?」
ちなみに錆兎が後程左近次に確認を取ったところ、『全員の名前と外見の特徴が合っていた。それに伝言の内容も、当人達しか知らない思い出も含まれていた』とのことである。もっと言えば、彼らは最終選別を突破していないので、産屋敷の墓地にも名前が記されていない。
それを知った耀哉は、遂に彼女を休ませることを諦めたとい────
「──ぐや様! かぐや様!!」
「……あれ、錆兎……?」
「勝手に入室してしまい、申し訳ありません。魘されている声が聞こえてしまいましたので……」
「あぁ……夢でしたか」
「一体、どんな夢を?」
「狭霧山で幽霊とお話する夢を……」
「狭霧山に、幽霊ですか? ハハハ、大丈夫ですよ! 義父さんも真菰姉さんも、ずっとあの山に住んでいますが、そんな話は1度も聞いたことがありません!」
黙れ幽霊代表その1──と言いたくなる気持ちをグッと抑え、かぐやはなんとか『そうですよね』と返答した。
──後に匡近から『行冥の近所のおばあさん』の話が出て、かぐやが顔を青くするのは、別のお話。
*
明治コソコソ噂話
逸般人おばあさんの存在は風の道しるべにて、匡近さんがしのぶさんに話していたぞ。
行冥さんが箒で町中を叩き回されるという意外な姿に、しのぶさんは思わず噴き出すが……どう考えてもホラー映像だぞ!
本当は『下町の呼吸』を使う妖怪BBAを書こうと思ったのですがオチが作れなくて断念しました。誰か書いてください()