鬼殺しのかぐや姫(リメイク前)   作:しやぶ

22 / 44
■■たい貴方へ

 

 ──大抵の場合、『生命の危機』というのは唐突にやってくる。それは彼女も例外ではなかった。

 

「やぁ、初めまして。俺は童磨」

 

 かぐやはいつものように専属の鴉(朝陽)から任務を受けて山に向かい、下弦の参を斬り捨てた。

 

 その、次の瞬間だった。

 

 琵琶の音がして、空中に出現した襖から──上弦の鬼が現れたのだ。

 そして、その姿を見た彼女は……脱兎の如く逃げ出した。

 

「えっ。

 ……鬼ごっこかい? 生憎俺は、本物の鬼なワケだけど」

 

 鬼を目の前にして、躊躇なく逃げる柱は初めてだったのだろう。童磨は一瞬固まっていたが、すぐに追跡を開始した。

 

「わぁ、速いね。目がいいんだ」

 

(嫌味ですかコンチクショウ!)

 

 山を走り抜けるのは非常に危険だ。それが暗闇の中なら尚更に。それでもかぐやが止まらずにいられるのは、彼女が持つ切り札の1つが理由だ。

 

(こちとら()()()()使ってるんですがねぇ!?)

 

 ──花の呼吸における『(つい)ノ型』 視力を大幅に強化するが、代償に失明する大技だ。

 彼女の場合、水の呼吸と日の呼吸という不純物を敢えて混ぜることで、ノーリスクで比較的長時間の使用を可能としているのだ。

 

(それでも、距離が離せない……!)

(うーん、このまま普通に追い続けてもいいんだけど……山を抜けられて朝が来たら面倒だな)

 

 そしてここで、童磨が血鬼術を使用した。

 

 ──血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

 氷の蔦が、かぐやを絡め取らんと迫り来る。だが、

 

(……あれ、むしろ距離が離れちゃった)

(やってて良かった鱗滝式山下り!!)

 

 トラップ祭りの狭霧山経験者の彼女にとっては、背後からしか来ないと分かっている技なぞ『勘』で避けられる部類らしい。

 血鬼術に意識を回した分、かぐやと童磨の距離は開いた。

 

(なら、コレはどうかな?)

 

 結晶ノ御子

 

 童磨の手元から、彼によく似た氷の人形が1体出現し──

 

「そぉれ!」

 

 童磨は、それを投げた。

 かぐやの『勘』が、警鐘を鳴らす。

 

 ──投擲、軌道は頭上を通って正面へ。

 形状の意図を推察。分身系の血鬼術である恐れあり。その場合、分身体の大きさから戦闘方法は血鬼術を用いるものと思われる。

 

(あ、コレは駄目ですね)

 

 ──変転 風の呼吸

 炎ノ型弍番 昇り炎天

 

 かぐやは咄嗟に風の呼吸へ切り替え、分身を撃破した。

 

「勘もいいね。だけどそんなのに構ってると、俺に追いつかれちゃうぜ?」

「問題ありません! だってもう、山を抜けますから!」

「へぇ? 直線の走りで鬼の俺に勝てると──ってあらまぁ。想像以上に速かった。

 ……でもそれ、()()()()()()?」

「余計なお世話です!」

 

 上弦ですら、痣者を知るのは黒死牟のみ。その身体能力に驚きこそしたものの──彼は持ち前の頭脳で、それが『真っ当ではないもの』と瞬時に察した。

 

(まぁいずれにせよ、姑獲鳥ちゃん相手には全く本気じゃなかったワケだ)

 

 かぐやは童磨を()()()()()()()()、ある程度速度を抑えて走っているのが、彼にはなんとなく分かった。

 

「──さぁ、そろそろいいでしょう」

 

 そして彼女は開けた場所で立ち止まり、向き直った。

 

「おや、もう鬼ごっこはお終いかい?」

「そもそも私、逃げてませんから。刀を振りやすい場所に移動しただけですので」

「あぁ、やっぱり? それと、朝まで粘れば日光で追い返せるというのもあるよね」

「日光なんていりませんよ。朝より先に、私が首を落としますから」

「あー、待って待って。戦う前に、ちょっとお話しないかい?」

「お話?」

 

 この状況、時間を稼げば日が刺すことに加え、かぐやには増援が来る可能性がある。童磨には不利な提案の筈だ。

 

「君は柱で産屋敷。俺は上弦の上から弍番目。互いに聞きたいことがあるんじゃないかい?」

「……そうですね。では一回ずつ交代で質問し、それに回答していく形式にしましょうか」

 

〝何をやっている、童磨。手足を()いで鬼に変え、それから思考を読めば済むだろう〟

〝お言葉ですが無惨様、勿論鬼にはいたしますが、肝心な部分の記憶が消える恐れもございます。また、鬼にならぬ体質である恐れや、呼吸剣士特有の時間的猶予で手足を再生させ、自害するという恐れも考えますと……〟

〝……分かった、もういい。失敗しないならそれで構わん〟

〝はっ。必ずや成功させてみせます〟

 

 そうして途中に無惨の介入が入りつつも、鬼と柱の情報交換が行われようと──

 

〝そうだ、最後に一つ言っておこう〟

〝……? なんでしょう〟

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に()()()()()()。ただし、必ず進化しろ。劣化は許さん〟

 

(……あらら、バレてたか)

 

 童磨が無惨に語った理由は、あくまで建前である。本当のところは、彼の頭にかかった『靄』が、『鬼にする前に会話をしろ』と言っていたからだ。

 

(でも、そうか。無惨様から見ても、俺の『コレ』は執着(感情)なのか!)

 

 無惨から身勝手を黙認された彼は、思い切って感情に任せ、『聞くべきこと』より先に『聞きたいこと』を質問することにした。

 

「じゃあまず俺から! 輪廻転生って、本当にあると思う!?」

「……え? 本当にその質問でいいんですか?」

「うん、早く早く!」

「……生まれ変わりはありますよ。私自身が体験しました。仏教における輪廻転生とは、違うと思いますが」

「そっか! 生まれ変わりはあるのか!」

 

 病的に青白かった肌を紅潮させ、童磨は『そうかそうか』と喜んでいる。その様子に困惑しつつも、今度はかぐやが質問した。

 

「上弦の壱の血鬼術を教えてください」

「目から三日月状の斬撃が出てくるぜ」

「……流石に情報が少な過ぎでは?」

「仕方ないなぁ。

 自分の血肉で作った刀にも目が付いてて、そこからも斬撃が出せる。斬撃はしばらく残る上に、不定形に揺らぐから注意だぜ。()()()()()()()()、俺の知る限り本当にこれだけだよ」

「血鬼術そのものよりも、剣士としてべらぼうに強い鬼ということですか……」

 

 かぐやにとって、相性が悪い部類の相手だ。

 

「そうだぜ。じゃあ次は、俺の番!

 神様とお話をする方法を教えておくれ!」

「……え、知りませんよそんなもの」

「おいおい、俺はさっきの情報でオマケしてあげたのに、君は(だんま)りかい? 不平等じゃないか。

 俺は知ってるぜ? 君が『日の神』の加護を受けているってことを」

「あぁ……『ヒノカミ神楽』のことですか。確かに私はヒノカミ様の加護を受けていますが……会話はしたことがありません」

「そう……残念だなぁ。でも、神様は実在するんだよね?」

「まぁ、実在するでしょうね。加護も呪いもあるワケですし」

 

 それを聞いた童磨は『なら良しとしよう』と頷き、次の質問を促した。

 

「上弦の肆の血鬼術について教えてください」

「肆? 俺や参じゃなくていいのかい?」

「構いません」

「分かったぜ。上弦の肆は、自立思考する分身を生み出す能力、かな。()()()()()()()()、分身は4種。

 雷を使う奴と、風を使う奴、空を飛んで音で攻撃する奴、槍を使う奴がいるぜ」

「本体は?」

「それは『血鬼術について』の範疇を超えてるから、知りたいなら次の質問で」

「……分かりました。ではアナタの質問をどうぞ」

「んー、じゃあそろそろ『聞くべきこと』を聞こうかな。産屋敷の本拠地はどこかな?」

「次の質問で無惨の居場所を答えてくれるなら、教えましょう」

「……ちょっと待っててくれるかな?」

「はい」

 

〝……無惨様、どうしましょうか?〟

〝迷うな愚か者。答えることは許さん〟

 

「ダメだってさ。一応確認なんだけど、知ってはいるんだよね?」

「実家の場所くらい知ってますよバカにしないでください。質問に答えたので、上弦の肆の本体の戦闘方法について聞かせてください」

「まぁ、それが聞ければ最低限問題はないかな。

 肆の本体に、戦闘能力は一切無いぜ。戦うのは必ず分身の方だよ」

「ふむ……分かりました。では、次の質問をどうぞ」

「うーん、じゃあ次を最後の質問にしよう。今回は、君が先に質問してくれて構わないぜ」

「では、上弦の伍の血鬼術を」

「上弦の伍は自作の壺を異空間にしてるぜ。壺から自分自身を含めた色んなものを飛び出させて攻撃する。それと、壺自体がどこからともなく突然現れたりする」

「……なんだか血鬼術だけ聞くと、上弦の伍が1番強そうに感じますね」

「実際は皆、序列相応の強さだぜ。

 ──さて、最後の質問だ」

 

 かぐやは軽く身構え、言葉を待つ。

 

「そう気負わないでほしいな。個人的な質問だからさ」

「……そうですか」

「俺は、とある宗教の教祖をやってるんだけどさ?」

「……教祖、ですか」

「うん。教義は『穏やかな気持ちで楽しく生きること』」

「良いですね」

「ありがとう。元々は両親が教祖でね。この教義はそのまま使ってるんだ。2人もきっと喜んでるよ」

「……すみません、話が見えないのですが」

「おっとすまないすまない。俺自身、こういう『感情』にまだ慣れていなくて……いつもみたいに、上手く話せなくなってるみたいなんだ」

「まぁ時間が過ぎる分には、私としては都合がいいので構いませんが」

「よかったよかった。

 それで俺はこの教義に従って、沢山の人を()()()()()()()()()よ」

「…………はい?」

「人間は愚かだから。生きてても苦しいだけで、穏やかにも、幸せにもなれない。だから俺の血肉として、永遠に存在できるように──そう思って、沢山食べたんだ」

「…………それで、私に何を答えて欲しいんですか?」

 

 かぐやの表情に、感情はなかった。少なくともまだ『感情』を本当の意味で理解できていない童磨には、読み取れなかった。

 今まで饒舌だった彼は、急に重くなった舌に違和感を覚えつつも、結論に至る。

 

「……俺は、何のために、生まれてきたのか。分からなかった。

 両親の意思で、教祖を継いで。俺自身、救うことが、使命だと思って。

 でも俺は、感情が無かった。『救われた』と感じたことがなかった。だから、分からなかった。

 

 ──俺が救ったと信じていた人達は、本当に救われていたのかな?

 

 なぁ、答えてくれ。俺は、俺がやってきたことは……()()()()()()()()()()? 無駄だったのなら、()()()()()()()()()()()。俺はずっと、それを知りたかった」

 

 相変わらずかぐやの表情からは、何の感情も読み取れなかった。

 そして感情が無い顔のまま、彼女は返答する。

 

「──私、()()()()()()()んです」

「えっ」

 

 仏教における輪廻転生では、自殺した人間の多くは人間道などの三善道には行けず、地獄道などの三悪道へ行くとされている。彼女が『輪廻転生とは違う』と言ったのは、『過去への転生だから(それも創作とされていた世界と非常に似通っている)』だけではなかった。

 

「生きることが辛いと、そう感じる人は多いです。私がそうであったように──()()()()()()()()()()()()

「……俺は、辛くなんて」

「でもあなた、()()()()()()?」

 

 言われて童磨は目に手をやる。

 ──確かに彼は、涙を流していた。

 

「あれ? え、コレは、どうして」

「……『感情が無い』なんて、そんなのあり得る訳がないでしょう。

 今までずっと、苦しかったんですよね。私も狂ってるので、解るんですよ。他人と心の在り方が違う苦しみは」

「……俺、は……苦しかった?」

「毎日毎日、『自分は狂っている』と自覚しながら生きてるんです。皆が笑っているのに笑えない。悲しんでいるのに悲しめない。呼吸を読んで、意見を合わせて、取り繕うことはできますよ。でもそんなの、辛いじゃないですか」

 

 童磨は知っていた。それは彼の在り方だ。

 

「本当に感情が無いなら、()()()()()()()()んですか? ()()()()()()()()()()()んですか?」

「それ、は」

 

 生活する上で合理的だったから?

 いいや、違う。鬼になってからは、確かに宗教は良い隠れ蓑だったろう。だが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「人を救い続ける──それは、間違いなく()()()()()()()()()()()()()()()()

「俺の、感情(意思)

「えぇ。故に、私の回答はこうです。貴方のしてきたことは──」

 

 

無駄じゃなかった

 

 

 その瞬間、童磨の思考にかかった靄が晴れた。

 

(そうだ。俺は、()()()()()()んだ)

 

 『死は救済である』という考えは、死を望む者の発想だ。彼は無意識のうちに、己の望みを救済に反映させていた。

 鬼の死因は限られている。上弦にもなれば、それは戦死以外にはないだろう。だがきっと彼は、死の間際でも『負けて悔しい』とは思わない。頸の弱点を克服することもない。

 ──だが、己を殺した者に『深い感謝』を覚えるかもしれない。それこそ()()()()()()()()()()

 

 

「──ありがとう、かぐやちゃん。やっと分かった。俺は死にたいくらい、苦しかったんだ。でも、生まれた意味も分からないまま死ぬのは嫌だったんだ」

「それで? 貴方は、何のために生まれたんですか?」

「──決まってる。人を救うためだ」

「人を喰らう、鬼なのに?」

「そうだよ。君も鬼にならないかい? 君が側に居てくれたら、俺はもっと人を救える」

「断ります。私は何があろうと鬼にはなりません」

「残念だよ。できれば自分の意思で鬼になって欲しかった」

「何がなんでも私を鬼にすると言うのなら、私は貴方を殺します」

「それはそれで、綺麗な終わりで良いね。俺には勿体ないくらい」

 

 狂人達は距離を取り、武器を構えた。

 

「俺と一緒に生きてくれ」

「生まれ変わって、また会うことがあったのなら。その時は友達になってあげてもいいですよ」

「そう言わず、今生で仲良くしようぜッ!」

「しつこい男は嫌いですッ!!」

 

 刀と扇がぶつかり、火花が二人を照らした。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話。

 

 かぐやは前世で、享年15歳だったらしいぞ。




 
 サブタイトル:死にたい貴方へ。もしくは生きたい貴方へ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。