「ぜぇ……ぜぇ……」
〝……そろそろ話を聞く気になったか? 童磨〟
脳内に響く『始祖』の声に、彼は鉄扇の一撃を以って返した。
「聞く耳は、ありませんよ。
〝そう言わず、聞いておけ。お前の願いにとっても、悪い話ではないのだぞ?〟
無惨は『懇願』ですら『命令』と受け取り、部下を殺処分することもある、極度の癇癪持ちである。その彼が、ここまで明確な敵対行動を取られても尚『言葉による説得』という手段を取るのは、
──それを理解しているから、童磨は帰還後ノータイムで
殺せないのは分かっていたが、少しでも無惨の血を減らし、あわよくば癇癪を引き起こして短絡的に殺してくれれば、太陽克服への道は再び闇の中。『人を救う』ことを存在意義と再認識した彼にとっては、それでよかった。
〝童磨、私が鬼を増やしていた理由はな──太陽を克服するためだ〟
「だったら何です?」
無惨を挑発するため、童磨は無惨の首を足で踏み潰した。それでも無惨の声は止まない。
〝青い彼岸花が手に入るなら、
──童磨の心が、グラリと揺れる。
「……本当ですか?」
〝そもそも私は本来、同族を増やしたくはなかったのだ。おかげで鬼殺隊のような異常者集団に追われるハメになったからな〟
実の所、『鬼の被害を減らす』だけなら……これが一番手っ取り早いのだ。勿論、『鬼の根絶』はほぼ不可能になるだろうが……
(──そもそも現状、鬼殺隊は無惨様に勝てるのか?)
百年以上、
〝
「…………」
あぁ、『勝てなくはない』
何故なら今代の柱には、無惨すら恐れる『本当の化け物』と同種の存在がいる。
だが、それでも……
(またあの子に、血を吐かせるのか?)
〝無論、そうするしかないだろう〟
彼女が振るう『日の神の加護』を最大活用する以外に、鬼殺隊の勝ち筋は無い。
──だが黒死牟は、玉壺を片手間で斬り刻める。無惨は文字通り『瞬く間』に彼の首を捥ぎ取れる。
それが示す意味は──柱ですら、『上位』程度なら彼女の足手纏いに過ぎないという事実。
だが、同じ時代にそんな『別格』が何人も
〝間違いなく、奴らは躊躇せずあの
その度に、彼女は血反吐を吐くだろう。だけど誰も、それを止められない。だって、そうするしかないのだから。
〝ところでコレは独り言なのだが……最近の黒死牟は、やたらと殺気立っていて扱いに困る。何やら『日の呼吸』などという、
「──あ」
童磨の周囲が、軋むような音を立てながら凍結していく。
(しまった──! 何を浮かれていたんだ俺はッ。任務前に、アレだけ黒死牟殿の様子がおかしかったことを忘れるなんて……!)
〝さて、お前に任せた任務──ここで投げ出すなら、後任はお前より序列の高い者に任せるしかないワケだが……さて、誰にするか迷いどころだなぁ童磨よ〟
──童磨は、血鬼術を解いた。
無惨の身体が、一瞬で元に戻る。
「産屋敷かぐやは、私が鬼に致します。どうか任務を、続行させてください」
「いいだろう。では──」
触手が童磨の首を貫き、脈動する。先の戦いで失った分以上の血が、ドクドクと送り込まれていく。
「奴から青い彼岸花の在り方を聞き出せ。そうすれば約束通り、二度と鬼は増やさん」
「承知しました」
「報酬の前払いだ。下弦未満は『処分』しておいてやる」
「ありがたき幸せ」
氷の鬼は、賢かった。
氷の鬼は、感情を持たなかった。
氷の鬼は、良くも悪くも公平だった。
氷の鬼は、感情を手に入れた。
氷の鬼は、命を尊いものだと言った。
氷の鬼は、命を天秤にかけた。
氷の鬼は── 一つだけ、やけに重いものがあることに気付いた。
「……恨まれるよね。嫌われるよね──でもやっぱり、俺は君に死んでほしくないんだ」
自らを突き動かす感情の名を、彼はまだ知らない。
*
明治コソコソ内緒話
本当はここで童磨が喰われて、童磨に化けた無惨がかぐやの前に現れるという展開の予定だったらしいが、流石に鬱過ぎて止めたらしいぞ!