「さて、と……」
しのぶちゃんが部屋から離れたことを確認し、私は右手の親指に
「……やっぱり。
確認が取れたので、呼吸を使って止血する。
「傷痕すら、残りませんか」
再生力が、目覚める前より更に……人間離れしたものになっている
「これ、本当に『ヒト』に戻ってるんですかね?」
五感を含めた身体の調子は最高だが、なんというか──現実味が無い。
「……まぁ、『
──この身体は、私のものではない。
それを認めることに、さほど抵抗はなかった。十年以上前から、察していたことだから。
「うまくいき過ぎているとは、思っていましたが……まさか、今頃になってとは」
童磨さんとの戦いで、確信した。
最後に不完全な
「『
あぁ、構わないとも。前世での望みが叶うワケだし。きっと、
しかし、19年か。随分と長生きさせてくれたものだ。11歳の時に殺してくれれば良かったのに。
──全集中の常中体得と、ヒノカミ神楽の習得。そして迅速な退場。
おそらくだが、私に課せられていた役目はこの三つだ。
全集中の呼吸は常中まで行けば、後は身体がやってくれる。呼吸を読むことは、前世からあった、
ヒノカミ神楽の習得は、あの人里離れた雲取山へわざわざ出向かなければ習得できない。
だからもう、11の時には既に『私』の役目は終わっていた。
「でも、こんなに長く生き地獄を味わわせてくれたんです。ちょっとくらい、爪痕を残したっていいでしょう?」
──具体的に言うと、当初の予定通り杏寿郎と耀哉だけは曇らせる(鋼の意思)
この世界、やろうと思えば化けて出れるし。この身体から追い出されても、消える前に絶対2人の顔は拝んでやる……!
無惨の首はまぁ、モノホンのかぐや姫に任せた方が確実そうだし、しょうがないから譲ってやろう。型全部繋げなくても加護を貰えるのはチート過ぎるわ。
「……あぁでも、童磨さんと珠世さんは、逃してあげないと」
ちょっとだけ意識が混ざったから分かるんだけど、かぐやちゃんは『一度でも人を食った鬼』への殺意がエグい。童磨さんどころか珠世さんも殺す気──
「──ッ、考えるのも嫌ですかそうですか」
酷い頭痛がする。痛覚消えたんじゃなかったのか。
クソッ、さっき会った時はここまで酷くなかったのに。
……? あれ、今何か変だったな。
…………まぁ、いいか。やるべきことは分かってる。ただなるべく考えないように行動すれば問題ない。
「……寝ましょう」
あと何日、私が私でいられるのか分からない。少しでも早く回復して、『やるべきこと』をやらないと──
*
……で、朝。
「さて。かぐやが起きたみたいだから、緊急柱合会議を始めようか」
『御意』
「はい?」
待って待って待って。
え、早い早い。確かに早い方がいいし、しのぶちゃんも『ここでやってほしい』と言ってたけど。ここって『蝶屋敷のどこか』じゃなくて『
「かぐやが上弦と戦った日以降、極端に鬼の出現が減ってね。みんな毎朝、かぐやのお見舞いに来るくらいの余裕はできたんだ。会議のために私が集めた訳じゃないよ?」
つまり、全員自主的に集まったと? おいおい皆私のこと大好きかよ。勘違いしちまうぜ?
「いや、勘違いじゃなく。みんなかぐやのことが大好きだよ? 前にも言ったけど、もっと自分の価値を自覚してほしいな」
「なんでしょう、当然のように心を読むの止めてもらっていいですか?」
しかもわざわざ口に出して言わんといて……皆気不味くて目逸らしてるじゃないですか。『いや、自分は別にそんな……』って思ってるよ絶対。
(いや、泣き腫らした目を見られるのが恥ずかしいだけだと思うけど……)
「……仕方ないね。じゃあ早速、今回の議題だ」
「はい、私が戦った上弦の鬼についてですね?」
「いや、
「え……?」
なんだと? 鬼の出現数は減ったと言っていた。柱に欠けは出ていない。ならなんだ? まさか刀鍛冶の里に何かあったか?
「かぐや──」
なんだ、何を言われる……!?
「
「…………
「本当に? どこにも異変はないんだね?」
「えぇ、まぁ……」
一応肉体の機能的には問題ないですハイ。
「よかった。安心したよ」
そう言うと耀哉は立ち上がり、扉を開けて外に出た。
──ん? 何故に帰ろうと? 会議は?
「何を不思議そうな顔をしているんだい? 会議なら終わったよ。『虹柱の無事を柱の皆に周知する』という、最重要の案件が片付いたところだ」
……、…………。ふむ、なるほど。
──え、マジでお見舞いだけしに来てくれてたの!?
「私は
「え、あ、はい」
「それと最後に──みんな、
『御意』
──え゛、何が始まるの??
*
明治コソコソ噂話
次回:かぐや(の関係者のメンタル)死す
デュエルスタンバイッ!