──知っていた。不死川実弥だけは、知っていた。
『あなたの心はボロボロ。きっと今まで、誰も愛してくれなかったのよね?』
彼女が、傷だらけだったことを……知っていた。
『両親の名誉のために明言しておきますね。私、虐待なんてされてませんから』
『では、彼女の言っていたことは何なのか?
……まぁ、隠しているワケではないですし、いいでしょう』
彼女の出自を、知っていた。
『私、
以前の私は、何と言いますか……それはもう酷い奴でしてね。誰からも嫌われていたんです』
彼はそれを、嘘だと思った。
……でも、それが本当だったなら? 前世の記憶なんて持たない
(──ふざけるな!! だったら俺の知るかぐや様が
到底、認めることなぞできなかった。突然湧いて出た他人に『私が本物です』などと言われたら、彼は思わず斬ってしまうかもしれない。
「……昨日は大変でしたね、かぐや様。貴女が貴女じゃなくなるかもしれないと分かって、皆で大騒ぎして。『気持ちは分かるが病院で騒ぐな』って、胡蝶に怒られて」
眠る彼女から返答は無く。たとえ聞こえていたとしても、相手は赤の他人かもしれない。
「……それくらい、貴女は『皆に愛されている』んです。もう貴女は、『誰からも嫌われていた』あなたじゃないんです」
……善良な人間から死んでいく。いつだって、彼の前で命を散らすのは善人ばかりだ。
子を庇って死んだ母がいた。部下を守って死んだ先輩がいた。数え出せばキリがない。
(……そういえばかぐや様は、俺の呼吸を『恐ろしい技術』と言っていたな)
──ならば彼は、『悪』だ。
故に死なない。どこまでも生き続け、生きている限り『同類』を狩り続ける『絶対悪』
「……醜い鬼どもは、俺が殱滅する」
誓いを新たに、風柱は病室を後にした。
*
「南無阿弥陀仏……」
「────」
「ちょっと行冥くん、縁起でもないから止めてよ。それと錆兎、顔が凄いことになってるよ」
「……すみません」
次にやってきたのは行冥と真菰、錆兎の3人──
「……そんな顔をするな、錆兎。弱いから、勝てない。時間が惜しい、早く帰るぞ」
いや、扉の近くに義勇もいた。居ないのは、2日前の任務で遠出した葦実だけだ。
「……冨岡と言ったか。貴様、それはどう言う意味だ?」
「あぁ……『俺達はかぐや様より』弱いから、『まだ上弦の弍には』勝てない。『一刻も早く強くなるために』時間が惜しい。『要件を済ませたら』早く帰って『修行をする』ぞ。と言いたかったのでしょう」
「……? そう言いませんでしたか?」
「なんと……」
「数珠ジャリジャリするのも止めて……」
なんともワチャワチャして締まらない空気のまま、彼らの見舞いは終わった。
(……でも、このくらい賑やかな方が……かぐやちゃんも喜ぶよね)
(……虹柱は俺が継ぎます。安心して休んでいてください、かぐや様)
(『鬼殺隊最強』の名にかけ、全ての脅威は私が振り払おう……後はお任せください……)
*
かぐやの昏睡から4日目。突如、痣の模様が元に戻った。
次の日の夜、意識が回復。しのぶの診察を受け、記憶や人格に変化がないことを確認。すぐさま情報は共有された。
翌日、柱達は退院もまだだと言うのに、それはもう盛大に祝った。
真菰からは『厄徐の面』と同じ素材で作られた、リンドウ*1を
天元からは赤い宝石*4の首飾りを。
カナエからは千羽鶴*5を。
実弥からは
それぞれから贈り物を渡した後は真菰が抱き付いたり、天元が肩をバシバシと叩きながら生還を祝ったり、行冥が懲りずに念仏を唱えたり、もみくちゃにしていた。
──ただ。
杏寿郎だけは初日以降、見舞いに来ることはなかった。
*
明治コソコソ噂話
「しのぶ、重湯が食えたらおはぎも食えると思うかァ……?」
「…………まだ食べれないと思うわ」
「やっぱダメかァ……」
(まぁそれ以前に、この流れでおはぎを渡すのは、ねぇ……)
※おはぎはお供え物のイメージが強い上に、隠語として『男茎』の意味で使われていたり、方言で『はんごろし』と呼ばれていたりで、この流れだとかなりアウト。