2022/1/14 錆兎の反応に違和感を抱いたので微修正。
「──雷の呼吸、壱ノ型」
抜刀術の構えを取り、呼吸を整える。
シィィィィィ──
「──霹靂一閃」
一気に踏み込み、鬼に見立てた
「……クソッ」
抜刀術の特性上、肆ノ型より速度も威力も出る筈なのに……俺が使うと、こうも無様だ。どれだけ鍛錬しても、俺は
──柱稽古の第五の試練は、炎柱による『反復動作』訓練だ。
反復動作とは、後天的に作る『条件反射』のようなもの……らしい。何かしらの行動を起点にして、常に最高の成果を出せるようになるのだとか。
……だが、そもそも成功体験が無いのではどうしようもない。
「炎柱め……『壱ノ型を成功させるまで稽古はつけない』とか、ふざけんなよ……」
そもそも俺が虹柱の稽古を受けたかった理由が、壱ノ型を習うためだと言うのに……
「……でも、これでいいのかもな」
ここを突破してしまえば、
あの人は目が見えないから、一言も喋らなければまず俺だとはバレない。そもそもあれから4年も経ってるし、声変わりもしている。軽く相槌を打つ程度なら大丈夫だろうが……それでも、バレてしまったら。
「……生きていれば、いつか勝てる。死んだら、負けだ」
行冥先生との対面は、一種の賭けだ。命を賭けた、一発勝負の大博打。『趣味は何だ』と聞かれたら『博打』と答えるロクデナシな自覚はあるものの、流石にそれは勘弁願いたい。
だから、この先に進むことを諦めよう──そう思った時だった。
「──男が何をウジウジとしている、見苦しい」
「……あぁ? なんだよ、おま──ッ!?」
背後から声をかけてきた同年代の男はなんと──俺が振り向くと同時に、斬りかかってきた。咄嗟に抜刀し受け止めると、それが真剣であったことに気付く。
「テメッ、殺す気か!? 隊律違反だろ!」
「安心しろ、お前と同じく
「そういう問題じゃねぇだろ!?」
斬れないとはいえ重さ260
「そんなことよりお前──いいのか?
「……っ、あぁいいさ! これまでそれでも通用した! 柱稽古で強くなった今なら、下弦の鬼だって……!」
「そうだな。だが、それじゃ上弦には勝てない」
「それは柱だって同じだろ!? 今まで百年余り、誰も勝てなかった! あの
「──警告だ。『様』をつけた方がいい」
男の顔が、少し不機嫌そうになった。
「あぁ!? 役職に敬称をつけるのは間違い──」
「だとしても。いつどこで誰に襲われるか分からないぞ?
──こんなふうに」
「カハッ……!?」
腹に強い衝撃が来て、肺の空気が全部抜けた。何をされたのか分からない。
「今のが『霹靂一閃』だ。お前が覚えるまで、何度でも見せてやる」
バカな。こんな至近距離で、納刀・抜刀の工程が見えないなんて──
「ごっ……!?」
──今度は少し見えた。信じられないことに、コイツは本当に『霹靂一閃』を使っている。
「同じように、やってみろ!」
「霹靂一閃は、こんな距離で使う型じゃ──ぐふっ!?」
「迷うな! 止まるな! 時には
「クソが……! やっってやんよ!!!
雷の呼吸! 壱ノ型……!」
「来い!!」
我武者羅に、ただ素早く納刀して抜刀しろ────腕に衝撃。続けて落雷のような轟音。
────え?
「…………成功、した?」
成功した。成功した! 霹靂一閃が使えた!! なんでだ、どれだけやっても、今まで一度だって成功しなかったのに。
「その感覚を、忘れるな」
それだけ言って、男は立ち去ろうとした。
「あっ、待ってくれ! お前、名前は!?」
「──錆兎だ。鱗滝錆兎」
「
こんな素直に礼を言ったのは、いつぶりだったか。
「俺は感覚を馴染ませたいから、もう少しここで練習してく! 錆兎、今度会った時、何か奢らせてくれよな!!」
「……楽しみにしておく」
そう言って、錆兎は今度こそ立ち去った──
*
「見事な指導だったな、錆兎!」
「……ふん。たまたま似たような症状に陥っていた阿呆を知っていたから、『
「そうか! どういう症状だったんだ? アレは」
「……幸福恐怖症」
「……そうか」
『応急処置』という言葉通り、根本的な解決は為されていないことを知った杏寿郎は、目を伏せた。
『幸福恐怖症』とは文字通り、自分が幸福になると悪いことの前兆であるかのように恐れる状態も含まれるが──彼の場合、自らの幸福に極度の負い目を感じてしまう状態なのだ。それこそ、
(……義勇もそうだった)
『姉ではなく、自分が死ねば良かったのに』と言っていた時の彼と同じ。
「霹靂一閃は、落ち着かないとできない。
でもアイツは、落ち着けば落ち着くほど……矛盾したことに筋肉が硬直して、気管が狭くなる。お前も気付いていただろう?」
「……うむ。だから、霹靂一閃を使おうとすると『ああなる』のか」
透き通る世界に到達した者同士だからこそ、多くの言葉は必要ない。
杏寿郎は、錆兎の施術内容を理解した──アレは言わば、『抜刀術版の肆ノ型』だ。
「……今のアイツには、修行よりも『自分を好きになれる理由』が必要だ」
「……だが今は、時間が無い」
「分かってる。だからその分──」
「俺達が、強くなるぞ」
──案ずることはない。
雷雨は既に止んでいる。後は、虹がかかるのを待つのみだ──
*
明治コソコソ噂話
──獪岳は何故
敵を目の前にすると、刀を抜かずにはいられない臆病者だから?
あり得なくはないが、違うと思われる。それなら善逸と同じく、練習の時には成功する。それにそもそも、そんな奴は最終選別で死ぬか、アオイのように前線から退く筈だ。
ならば、片足のない師匠がお手本を見せられなかったから?
そんなワケがないだろう。足が必要な型は壱ノ型だけではないのだから。
──ヒントは、善逸が口にしていた。
獪岳は、『どんな時も不満の音がした』『幸せを入れる箱に穴が空いている』
だが悲鳴嶼さんの回想に登場する『勾玉を首に下げた男の子』は、笑顔で食事をとっている。彼の『箱』が壊れたのは、寺を出た後だ。
……ここからは私の勝手な想像だが、彼は『家族を生贄にした』自責の念で、重度の『幸福恐怖症』になっている。具体的に言うと──『立ち止まるだけでかつての家族が自分を責める幻聴が聞こえる』くらいに。
誰かに精神病の相談をするにも、そうなった経緯は普通に説明すると『被害者面すんなクズが』の一言。本人も自覚があっただろうから、セルフ地雷爆破で悪化の一途を辿り……原作のアレ。という状態だったのではないかと。故に今回の内容のようになりました。
ぶっちゃけ獪岳と童磨はクソオブクソ野郎なのは間違いないのですが、しやぶは性根が腐ってる悪人サイドなので、彼らは救済します。
──ただし無惨、テメェはダメだ。