当然の話だが、
「──やぁ、猗窩座殿。やっぱりここに居た」
「……何の用だ、
人里離れた山奥の、とある滝。
滝行を行なっていた猗窩座に童磨が声を掛け、
「……
「用件を言えと、そう言った筈だな」
不機嫌そうな声色だが、やはり本題に関しては聞いてくれるらしい。彼の気が変わらない内に、童磨は素直に用件を伝えることにした。
「……猗窩座殿、俺に──破壊殺を教えてくれ」
そして童磨は両手を地につき、頭を下げた。無惨相手ですら膝を突いての敬礼で許される上弦が、平伏したのだ。猗窩座の唇が、三日月状に裂ける。
「やってやらん理由も無いが、同じくやってやる理由も無い訳だが?」
「当然、見返りは用意する」
「最初に言っておくが、女は食わんぞ」
「知ってるさ。そうじゃない。猗窩座殿にとっては、もっとイイものだよ」
「じゃあなんだ、まさか『
冗談混じりに言った猗窩座に対し、童磨は──。
「…………えっと、うん。そう言うつもりだったんだけど……もしかして、いらない?」
『困ったな……』とでも言い出しそうな苦笑いで、童磨は猗窩座の顔色を伺っている。
「…………」
猗窩座は無言で『術式展開』を行い、童磨の闘気を読んだ。羅針盤がグリングリンと暴れ出した。
奇襲・奥の手が破られて『アテが外れた! どうしよう!?』と焦っている鬼殺隊士と同じくらい、乱れまくった闘気だった。
「正気か!?」
「うん、正気正気」
「お前、『血戦』経験者なら知っているだろう!? 降格する鬼が、一体どうなるのか!!」
「うん、知ってる。俺は猗窩座殿に喰われるだろうね」
「何が、お前にそこまでさせる?」
「……死んでも、
「貴様、本当に童磨か?」
猗窩座には、つい最近まで『喰うことが救い』と嘯き、女性を好んで喰らっていた鬼の台詞とは思えなかった。
「本物だよ? 証拠にほら──」
血鬼術によって出現した人形が、一瞬で滝を凍らせた。
これほどの出力は、紛れもない上弦の証。だが猗窩座は、まだ『解せない』という顔のままだ。
「……貴様が、自分で守ってやればいいだろう」
「
『なるほど』と、猗窩座が頷こうとして──ふと、黒死牟が殺意を燃やす相手に、思い当たる節があったことに気付く。
「……おい待て、確認させろ。まさかその『娘』というのは……こないだの産屋敷か?」
「うん、そうだよ」
「確認その2だ。お前、もう既にそいつを鬼にしたんだろう?」
鬼になっているなら、自分から『血戦』でも申し込まない限りまず死なない。そもそも守ってやる必要なんて──
「いやぁ、それがさ……俺、あの娘と引き分けちゃったんだよねぇ……」
「────」
猗窩座は完全に絶句した。
口にこそ出さないが、彼は童磨の頭脳と戦闘力に関しては、自分以上と認めていた。その彼が、『
「あの娘は血鬼術──より正確に言うと、『鬼由来のもの』を触れただけで焼き滅ぼせる。人の形をした太陽そのものなんだよ。つまり俺の天敵だったって訳」
「それは最早黒死牟どころか無惨様も殺せるんじゃないか? むしろお前、よく引き分けたな」
ますます守ってやる意味が分からない……と、猗窩座でなくとも頭を抱えるだろう。
「……あの娘は、俺の『粉凍り』を焼き払った直後に、吐血して倒れたんだ」
「反動があるというワケか」
「……もう、あの娘に血を吐かせたくない。そのためには、血鬼術を使わず戦闘不能にする必要がある」
「そのための破壊殺か」
ようやく猗窩座にも、話が見えてきた。
「貴様は俺から体術を学び、産屋敷の娘を倒して鬼にする」
「猗窩座殿はその後、報酬として俺を喰うといい。そして──」
「俺は
「俺の血鬼術を吸収して、更に身体能力も跳ね上がった猗窩座殿なら──」
「──いいだろう、お前に
上弦の弍と参が、手を組んだ。
*
明治コソコソ内緒話。
──猗窩座殿。感情が無かった頃から、俺がキミを『親友』だと言い続けていた理由が分かったよ。……猗窩座殿が、俺を毛嫌いしていた理由もね。
言ったら猗窩座殿は怒るだろうけど……俺達は、
今なら分かる。猗窩座殿も、『虚無』を抱えていたんだって。本当は死にたいくらい、自分が大嫌いなんだって。キミが殺したいくらい大嫌いだった弱者は、きっと過去のキミ自身なんだろうね。
……つまるところ、同族嫌悪だったんだよ。
でも今の俺は、
……今でも俺は、キミを親友だと思っている。なのに私欲で利用するだなんて、相変わらず最低な自分に嫌気がさす。
でも、キミしか適任がいないんだ。黒死牟から守ってやれる実力と、女性を殺さない信念を併せ持つ、猗窩座殿以外には任せられない。
だからきっとこれでいい。これで……