時は少し巻き戻り、無惨が産屋敷邸に現れるより少し前。
(琵琶の音。杏寿郎の言っていた、襖の鬼か)
突然足場が消滅し、落ちていく中でも、悲鳴嶼行冥は冷静だった。鎖を鳴らし、臨戦態勢を取ると共に状況の把握に努める。
着地した先には、無数の鬼。そして、鬼と対峙する形で柱が呼ばれているらしい。それが示す意味は、
「全面対決か……望むところ……」
「丁度いい。こっちから出向く手間が省けたァ」
「うむ! 腕が鳴るな!!」
「……だからって、初っ端からド派手過ぎる状況だろオイ」
「そうだねぇ、ちょっとコレはマズイかも」
「と言いながら笑ってる辺り、お二人も意外と好戦的ですよね」
数の不利を笑い飛ばし、柱達は日輪刀を抜いて──
「待たれよ……」
『──ッ!』
その声を聞き、彼らは動きを止めた。無論素直に言葉を聞いたのではなく、
「悲鳴嶼さん、コイツはァ」
「分かっている。目が見えずともな──上弦の壱、なのだろう?」
鬼の群を割って最前線に出てきたのは、かぐやが引き分けた上弦の弍よりも上位の鬼。柱と言えど、彼を前にして迂闊に動くことはできない。彼らは注意深く、六目鬼の動きを観察し──
「……アホらし。地味に戦う気がねぇな、コイツら」
「その通りだ……私は、話をしに来た……」
事実、彼を含めた鬼達は全く動く気配がない。『話の解る鬼』もいるという事実を知る今代の柱達は、大人しく用件を聞くことにした。
「分かった。聞こう」
「良き判断に感謝する……
まず、お前達が最も気にしているであろう……産屋敷が置かれている状況について、説明しよう……」
どうやら産屋敷邸の場所も、バレていたらしい。『大人しく聞こう』と決めた彼らも、大なり小なり殺気を漏らす。
「そう、睨むな……我らの主は……これ以上、
「──本当か!?」
それが本当なら、かぐやは『かぐや』のままでいられる──杏寿郎はそれに破顔するが、
「嘘は吐かぬ……我が主の願いはただ一つ……太陽の克服……その手掛かりを、産屋敷かぐやが素直に伝えれば……鬼は数名を残し解体……和平は成立する……」
「……そうか」
その条件を、鬼舞辻に強い恨みを持つ
「……和平が成立しなければ、どうなる?」
「その時は……ここに居る鬼を解き放ち……お前達を、鏖殺するまでのこと……」
『…………』
状況は、全鎹鴉が持つ『愈史郎の札』により共有されている。朝陽がかぐやにこの状況を伝えた場合、彼女は……断腸の思いで無惨の太陽克服を『良し』とする可能性も、捨てきれない。
「しかし、安心するがいい……産屋敷が、和平を蹴ることは……まずない……」
「何故、そう言い切れる……」
「産屋敷邸に向かうのは……あのお方だけではない……上弦の弍も、参列する……」
「クソッ、そんなものただの脅迫だろうがァ!」
無惨か上弦、どちらか一方であれば彼女なら最悪道連れにできる。だが、孤立無援で家族を庇いながら二対一なぞ不可能だ。
「ならば……お前達が、助けに向かうといい……」
「……あァ?」
「お前達が、ここから出る方法を教えてやろう……実行すれば、お前達は勿論、一般隊士の命も保証されなくなるが……」
「舐めるなァ。俺らの中に、命を捨てる覚悟ができてねェ奴ァいないんだよォ」
「ならば聞け……お前達の背後に……襖が、見えるな……?」
「……おう」
隙を庇うように、行冥達が少し前に出る。そして実弥が振り返ると、確かに襖があった。
「そこを開ければ……参から陸までの数字が書かれた襖が……出るようになっている……この意味が……分かるな……?」
「……残った上弦の、数字」
「そうだ……各部屋には、数字に対応した上弦が居る……それを倒し、部屋にある……琵琶の絵が書かれた襖を、開けるがいい……」
壱がいるこの部屋にも、それはあった。
「ここにお前達を呼び込んだ鬼が、そこに居る……その鬼には……辿り着いた者を、産屋敷邸まで送るよう、言いつけてある……」
「……何故、そのようなことを教える」
上弦の壱がやっていることは、裏切り行為としか取れないものだ。でなければ──
「先に言っておくが……罠ではない……ただ……主君のやり方が、気に食わなかっただけだ……」
「……そうか」
行冥には、その表情が嘘とは思えなかった。
──故に彼は、『最強』の責務を果たすことにした。
「壱の相手は、私がしよう……皆は、下がれ……」
「分かった、任せる!!」
杏寿郎は、ノータイムでそれを承諾。一刻も早くかぐやの救援に向かうべく、背後の襖へ駆け出した。
「……承知ィ」
「……頼んだぜ、悲鳴嶼の旦那」
「お願いね、行冥くん」
実弥、天元、真菰もそれに続き──
「……悲鳴嶼様、死なないでくださいね」
「無論……」
そして行冥は、本当に一人きりとなった。
「──『鬼殺隊最強』 悲鳴嶼行冥。お相手願おう……」
「──『上弦の壱』 黒死牟。あの女を差し置き『最強』を名乗るのだ……失望させてくれるなよ……?」
「「参る」」
鉄球と剣が、激突した。
*
明治噂話
「むっ、陸の扉が二つあるだと!? 俺は参の部屋に入る予定ではあるが、気になるな!」
「まぁそのまま捉えたら『二人で入れ』ってことだろォ? 俺は肆の部屋に入るから関係ねェがなァ」
「じゃあ私は伍の部屋に入ろうかな〜」
「……まぁ実力的に、こうなるわな」
「頑張りましょうね、宇髄さん。皆さんも、ご武運を」
という訳で対戦表は、
行冥vs黒死牟
杏寿郎vs猗窩座
実弥vs半天狗
真菰vs玉壺
天元&カナエvs妓夫太郎&堕姫
となりました。
かぐや「いや、全員で黒死牟を叩けば良かったんじゃ(最低)」
全員 『上弦とタイマン張って負けるなら、結局無惨と戦っても足手纏いになりますから』
かぐや「えぇ……(困惑)」
次回:皆既月食or上弦戦