(ほぅ……この日輪刀……)
黒死牟は行冥の初手を『まっすぐ投げただけの雑な攻撃』だと判断し剣で受けたが、すぐに悪手だったと気付いた。
(鉄に染み込んだ、この太陽光の純度……! 他とは段違い……!)
彼の血肉から作られた刀身が溶かされ、剣が折れる。瞬時に屈んで直撃は避けるも……
(血鬼術の起点となる得物は潰した! 出し惜しみはしない、ここで畳みかける!!)
『南無阿弥陀仏!!!』
読経──それは彼の反復動作。これにより行冥の腕へ
その強化された豪腕で鎖を引き戻し、行冥は背後から黒死牟の頭を狙い打つ。
(膂力が凄まじいことは言うまでもなく……狙いも正確……そこに痣の強化が上乗せされるとなれば……猗窩座までなら、仕留められるやもしれぬ……)
しかし、上弦の壱は伊達ではない。筋肉の動きを視認できる黒死牟は、着弾点を瞬時に計算。直前に首を捻って回避し、同時に刀を再生。お返しの一撃を放つ。
──ホオオオオ
月の呼吸 壱ノ型 宵の宮
単純な投擲への意趣返しか、彼が扱う型の中で最もシンプルな横薙ぎ。
これを行冥は身を翻して大きく回避し、そのままの勢いで手斧も投擲する。彼独自の壱ノ型 『蛇紋岩・双極』だ。
(両手共に武器を手放すか……いや、それよりも気になるのは……此奴……)
(手数を増やしても当たらない。全て直前に回避される。もしやこの鬼……!)
((
攻防を交わす内、彼らは互いにそれを確信した。
「悲鳴嶼と言ったか……」
「うむ……」
「謝罪しよう……私はお前を、侮っていた……」
「謝罪はいらぬ。代わりにその頸を置いて逝け……!」
「頸はやれぬが……」
黒死牟が大きく飛び退き、刀を上段に構えると──刀身が伸び、枝分かれするように
「誇るがいい……単独で私に
「──ッッ!!」
行冥は、見えない目を見開いた。
(この筋肉の動き……
咄嗟に鎖を、急所を守るように展開し──その直後、凄まじい衝撃が彼を襲った。
「防いだか……流石だ……」
「ぐぅっ……!」
(対処を間違えた! 射程が先程までの倍以上に伸びている。距離を取ったのは、仕切り直しのためではなかった……!)
先程まで対等に渡り合っていた行冥が、一気に防戦一方となった。
……無理もない。これは単純な引き算の結果だ。同じ痣と、同じ呼吸と、同じ至高の目を取り除いた時──残るのは『人と鬼』という、絶対的な差なのだから。
武器の射程が違う。再生力が違う。体力が違う。踏んだ場数が違う。
行冥がここまで粘れているのはむしろ奇跡。鬼以上の身体能力を生まれ持った彼であるからこその奇跡。
……だが太陽の刺さないこの城において、持久戦は無謀。無謀なのだ。
「ぜぇっ、ぜぇっ……何故、攻撃を止める……!」
「認めよ……お前の負けだ……」
致命傷、部位欠損こそ無いものの……行冥はボロボロだった。それに、全集中の呼吸も乱れている。あと数合で、彼は殺されていただろう。
「悲鳴嶼行冥よ、鬼になれ……お前が失われるのは惜しい……」
「断る……!」
「…………考えは、変わらぬか……?」
「鬼にされるくらいなら、私は舌を噛む……!」
「そうか……残念だ……」
結果は出た。分かりきった引き算の結果。だからそう──
(行冥よ……せめてその名は、我が生涯最高の強敵として語り継ごう……)
────足りない分は、他所から持ってきて足せばいい。
行冥がニヤリと笑い、黒死牟は上段に構えた刀を振り下ろす直前──
「……バカ、な……! だがコレは、忘れもしない……!」
「黒死牟よ……すまないが、私は一つ嘘を吐いた……」
それは『ゴオオ』という、燃え盛る炎のような音。彼の心を、四百年妬き焦がし続ける音。
──天井が砕け、一人の少年が降り立った。
「貴様……貴様は何だ……!!」
「
「錆兎は……
「…………死ね……頼むから死んでくれ……! ヨリイチィィィ!!!」
*
■■コソコソ噂話
??「……彼、何か勘違いしてないかい?」
??「……無理もありませぬ。少年の師匠を考えれば、仕方なきことかと」
??「おかしいな。
??「彼女自身が仰っていたでしょう。彼女が使う炎の呼吸音は適性呼吸に引っ張られ、音が違うのだと。そして少年は、それをそのまま模倣していたではありませんか」
??「うん、そうだね。そうか、見ていたのか。嫁入り前の娘の肌をマジマジと」
??「あなた……?」
??「……!?」
──その後暫く、痣の青年が慌てて弁明する様を周囲が見守るだけの光景が続く。その間に行われた戦闘に関しては、別資料を参照すること。