終わらせにいきます。
第伍の間。大量の棚に数多の壺が飾られている、『壺の間』だ。
「──ヒョヒョッ、初めまして。私は玉壺と申す者。殺す前に少々よろしいか?」
「よくないかな〜」
そう言うと真菰は、全集中の呼吸で強化された脚力を用いて近くの棚を蹴倒した。置かれていた壺がガシャンガシャンと割れていく。
「ヒョッ!? 何をする貴様!?」
会話に応じない鬼狩りは今までにもいたが、鬼の頸を斬るより壺を壊すことを優先する隊士は今までいなかったのだろう。玉壺は上下に付いた目を見開いて驚き、硬直している。そうした間にまた一つドンガラガッシャン。
「止めんか!?」
やけに迷いなく、驚異的な俊足で壺を壊して回る彼女を止めようと、彼が動き出した頃には……棚が6つも蹴倒されていた。
そして動き出した後も、彼女に攻撃は当たらない。それどころか……
「血鬼術 水獄鉢!!」
(よし、捕らえ──)
「水の呼吸 ねじれ渦」
「なんですとぉ!?」
拘束のために出した水が、型の威力を上げるために利用された。飛び散った水の斬撃が、更に壺を破壊していく。
「……弱いね、キミ。ホントに上弦?」
「なんだとこの小娘がああああ!!!
こうなれば、我が美しき真の──」
「……念のため血鬼術の起点を潰してからにしようと思ったけど、もういいや」
「「──ヒョッ?」」
突然、彼の視界から真菰が消えた。
いや──
「じゃあね」
水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱 泡沫
──真菰の速度を全開にした奥義に、玉壺の目が追い付かなかっただけだ。
胴体から上をバラバラにされて、目玉の位置にあった二つの口が、間抜けな音を漏らして塵になる。
「……綺麗な壺、割っちゃってごめんね」
全身が消えたことを確認し、真菰は琵琶の襖を目指して走った。
*
一方、第四の間。
何も物が無く、ひたすら広い空間だけが広がる部屋だ。
「ヒィィィ、鬼狩りじゃあ。儂のところにも来たぁ……」
「…………」
(事前情報では、『肆の本体に戦闘能力は一切無い』んだったな……てことは、コイツが本体)
「──出せよ、分身。無抵抗の相手を斬る趣味はねェ」
「ヒィィィ、ならば刀をしまってくれぇ。怖いぃ」
「……納刀すれば、通してくれるかァ?」
「ヒィィィ。柱を通せば、生きていても粛正される……じっとしていてくれぇ……」
「……なら分身を出して戦えェ。どっちが勝っても恨みっこナシだァ」
「嫌だ……戦いは怖い……いぢめないでくれぇ……」
「……テメェ本当に上弦かァ?」
(徹底してガタガタ震えているだけな、この情けない鬼に、鬼殺隊は百年勝てなかったのか……?)
「儂は確かに上弦だ……しかし、儂は何も悪いことはしていない……」
「……最終警告だァ。分身を出すか、俺を通すと言えェ。でないと5秒後、問答無用で斬る」
「ヒッ、ヒィィィ! 止めてくれええええ!!」
結局半天狗は、分身を出さなかった。
そして実弥は宣言通り、彼の頸を斬って──
「──腹立たしい」
「いや、楽しいことになりそうだのう」
(クソッ、そういうことか!)
斬った頭からは胴体が生え、胴体からは頭が生えた。
4種の分身は、頸を斬ることで増殖する。それを一撃で理解した実弥は追撃せず、距離を取って相手を観察することにした。
「攻撃して来んか。童磨め、よくも儂の血鬼術を」
「よいではないか。ならばこちらからしかけるまで!」
血鬼術とて本当の意味で『何でもアリ』ではない。距離が離れれば、出力は下がる。特に、空間の歪みが激しいこの場所なら……必ず同じ部屋に本体が居るハズなのだ。
しかしそれを探す時間を与えてくれる訳もなく、『喜び』の鬼── 可楽が突進してくる。
(頸は斬れない。四肢を斬り落と──ッ)
実弥が反射的に迎撃すると、可楽は
再生した可楽は再び実弥に襲いかかり、増えた鬼──哀絶は十字槍を使って
「そんなのアリかァ!?」
──これで、喜怒哀楽全ての分身が揃ってしまった。
「……さァて、どうしたモンかねェ……!」
*
明治噂話。
────第参の間では、何故か一太刀で決着が付いてしまったようだぞ。
*
「…………よもや、よもや。コレは一体、どういうことか」
猗窩座と名乗った彼は、上弦らしくない鬼だった。
まず透明な視界で視た彼の身体だが……人を喰った数が、明らかに少なかった。食事の頻度は、無名の鬼より少ないと言っていいだろう数。
それだけなら、替え玉を疑うが……
「……首なしの身体が、消えない」
かと言って、それが動き出す様子も──いや、拳を振り上げて……
「…………自害、した?」
周囲を警戒すれども警戒すれども、何もない。何も起こらない。
──上弦の参は、あまりにもあっさり、その呪縛から解放されたのだった。
*
俺の部屋に来たのは、不思議な奴だった。
赤子ですら発している闘気を全く感じさせない『植物人間』かと思えば、その割に朗らかな調子で会話に応じる快男児。その笑顔は、遠い記憶の誰かを想起させる。
……だからだろうか、武人としてあるまじきことに、少し思考に耽ってしまった。よりにもよって、血鬼術が上手く作動しない相手の前で。
『炎の柱と戦ったことがなかった』なんて、言い訳にもならない惨敗だった。一撃で俺の首は宙を舞った。
身体は『まだ戦える』と言っていたが、誰かが塵になった筈の耳に、『もうやめて』と訴えた。
…………俺は、自分の身体を殴って潰した。
暗闇の方で、大切な人達が待っていた。
Q:むざりんどうした。
A:目の前の異常者がヤバ過ぎてそれどこじゃない。