鬼殺しのかぐや姫(リメイク前)   作:しやぶ

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全面対決、終幕

 

 細胞には、記憶が刻まれるものだ。些細なものであっても、完全に消すことはできない。思い出せなくなろうと、死んでしまおうと──400年以上先の子孫にだって、残り続ける。

 

 ──にも関わらず

 

(この女には、()()()()()

 

 代わりにあったのは、96人の歴代鬼殺隊当主から引き継がれた『千年分の憎しみ』

 

(常々鬼殺隊は『異常者集団』だと思っていたが……なるほど。(かしら)がこんな状態ならば、さもありなん。いっそ哀れですらある)

 

 あの鬼舞辻無惨が同情してしまうほど、産屋敷家は好き放題陵辱されていた。だからだろうか……

 

「もうお前に用はないが、いいだろう。やってみろ。貴様の憎しみを受け止めてやる」

 

 らしくないことに、彼は戦いを選んだ。

 

「もっとも、()()()()()()()()()()()だろうがな」

「──死ね」

 

 

 

 *

 

 

 

 嗤う女の肘から先が千切れ飛び、秒もしない内に再生する。

 撒き散らされた血液が、触手を生やした隻腕の男に火をつける。だが男は焼けると同時に再生し、全く気にも留めていない。

 

 ──それはまさしく、バケモノ同士の戦いであった。

 

「……だれ、だ」

 

 その様子を見た青年は、戦う片割れを知っていた。子供の頃から、よく知っていた。

 だからこそ、彼は問わざるを得ない。

 

「一体誰が、こんなことを……」

 

 集中が乱れ、杏寿郎の視界が平常時のものに戻る。だが、そんなものがなくとも、杏寿郎は知っているのだ。

 彼女は確かに人間だった。斬られたら当たり前に死にかける、人間だった。彼女は、後天的に改造されたのだ。

 

「杏寿郎、何してるの。()()()()()()()()()()、刀を抜いて」

「──そんな、こと?」

 

 杏寿郎は、幽鬼のような目のまま真菰を睨みつけた。

 

「かぐや様があんな状態になってしまったことが、どうでもいいと──!」

「どうでもいいワケないでしょう!?」

 

 大粒の涙を溢しながら、真菰も慟哭した。

 

「私だって辛い! 友達をこんな目にッ、ただ殺すより酷い方法で陵辱した相手のことは、グチャグチャになるまで滅多刺しにしてやりたい!!」

 

 『だけど』と、彼女は続ける。

 

「目の前に鬼が居て、それと戦ってる隊士が居る。その隊士が誰であれ、柱である私達は、助けなきゃいけない。それが、あの子じゃないのだとしても(相手が誰かは、関係ない)。そうでしょう……?」

「……不甲斐なし。これでは合わせる顔がない」

 

 血が出るまで拳を握り締め、真菰は己を律していた。その姿を見て、杏寿郎は己を恥じる。

 悲しみに呑まれてはいけない。まだ堕ちてはいけない。何故なら、彼には全うすべき責務が残っているから。

 

「──ならば首級を挙げることで、せめてもの手向けとしよう」

 

 心に昏い炎を灯して、彼は反復動作を実行する。

 『透ける視界』が戦況と、彼女の状態を誰よりも正確に伝えていく。

 

 鬼舞辻無惨には、脳と心臓が複数あった。かぐやの身体は味覚及び、痛覚が消失している。

 

「──ッ」

 

 歯を食いしばって、観測を続行する。

 鬼舞辻無惨の質量は外観とは全く一致しておらず、太陽光の下でも焼き切るのに数分はかかるものと思われる。かぐやは殺意以外の感情が制限されており、冷静な戦闘が行えていない。また──

 

「ここまで、するのかッッ……!!」

 

 ──遺伝子操作により、生殖機能が停止している。

 ソレは最早、ただの殺戮人形だった。ここで生き残ったところで、彼女はもう……

 

「……ごめんね、杏寿郎。私も同じものが、見れたらよかったんだけど」

「……いや、大丈夫だ」

 

 彼女とて、あまり大勢に見られたいものではないだろう。

 杏寿郎はなんとか観測を続行し、割り込む隙を伺う。

 

 手足を捥がれながらも、一度たりとてかぐやは日輪刀を手放していない。常に()()()()()を振るい続けている。

 その緩まない攻勢から、一見無惨を押しているように感じるが……実際は違う。

 

(被弾が多過ぎる。呼吸も型も、滅茶苦茶だ。かぐや様の戦い方とは似ても似つかない)

 

 撒き散らされている血に『鬼殺し』の力が宿っているから格好がついているだけで、身も蓋もない言い方をすれば『サンドバッグ状態』だ。

 

 実の所、このタイミングで『空』を呪殺したことは邪神──祟り神にとっても、本意ではなかったのだ。

 何柱もの神仏と結託し、加護と呪いを積み上げ凝縮した努力の結晶──千年蠱毒。その権能を振るう『器』として、彼は想定以上に優秀過ぎた。そうでなければ11歳か13歳の時に、彼は『用済み』として殺されていた。

 ……だが同時に、悪影響も強過ぎた。彼が権能抜きで童磨と互角に渡り合ったことで欲を掻き、空とかぐやの距離を近付けてしまったのが運の尽き。かぐやの()()が解けてしまったのだ。

 鬼への殺意が揺らいだ彼女に再洗脳を施すべく、彼女はかぐやの記憶を消去した。となれば当然、空が『固定装置(リテーナー)』として与えていた経験値もリセットだ。

 

 更には最悪なことに──空の優秀さが、神仏にとって悪い方向に働き始めた。

 大人しく病んで退場してくれれば良かったのだが、空は最終局面まで残ってしまった。そして『空が最終決戦に挑んだ世界線』は、『無惨とその配下は全滅するが童磨と珠世という人喰い鬼が二匹も生存する』方向に舵を切った。

 少なくとも珠世は鬼殺隊に殺されない以上、神仏は()()()()()()()()()()()()()()()()()。ついでに言えば、()()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている。度し難い所業だが……こうして奴らは、空を切り捨てた。つまり──

 

「……杏寿郎、割り込めそう?」

「……俺一人なら」

「あの子と杏寿郎の二人で、勝てる?」

「…………」

「……そっか」

 

 彼らに、勝ち目は無い。

 無惨を相手にするならば、『一撃必殺の触手回避』と『常に体内を移動し続ける複数の心臓と脳の認識』のために『透き通る世界』到達はほぼ必須。この時点で真菰が脱落する。

 その条件を満たした上で、赫刀を起動できなければ無惨には有効打にならない。だから杏寿郎も、現状では足手纏いにならないだけなのだ。

 

 この状況で勝つのであれば──

 

「……お話は、聞かせて貰いました」

「……珠世殿」

 

 今あるだけの弱体化薬を珠世が打ち込んだ上で、杏寿郎と真菰が痣者になるしかない。

 

「かぐやさんには止められていましたが──奴に私の薬を打ち込みます。隙を、作って頂けますか?」

「……承知した」

「待って杏寿郎。私も、()()使()()から。一緒に行かせて」

「──うむ」

 

 三人は、命を捨てる覚悟なぞとうにできていた。

 杏寿郎と真菰の心拍数が、すぐに200を超える。

 

 そして三人の犠牲を払い、かぐやの手によって無惨の討伐は為された──()()()()

 

 

「……あれ? 痣が、出ない?」

「むぅ、俺もだ」

 

『──駄目だぜお二人さん。それじゃあクソ神仏の思惑通りだ』

 

「「「!?」」」

 

 いつの間にか氷の人形が、杏寿郎と真菰の肩に乗っていた。それが体温を下げていたことに気付いた二人は、すぐさま人形を振り払う。

 

『話を聞いてくれ。俺もかぐやちゃんの仇を取りたいんだ』

「……真菰さん、杏寿郎さん、聞いてあげてください。この人形の主は……かぐやさんの味方です」

「しかしこの血鬼術は、話に聞く上弦の──!」

「はい。しかし私は、彼がつい先程()()()()()()()()()()()()()ところを……愈史郎の血鬼術越しに、見ていました。……この血鬼術はきっと、彼が遺した最期の遺志です」

『いや俺、生きてるぜ? ほらあっち』

「「「え?」」」

 

 人形が指差した方向を見ると、確かに同じ見た目の青年が、物陰から顔を出して手を振っていた。

 誤解させたままの方が好都合だろうに……余計なことを言ってしまう所は、今も変わらないらしい。

 

『逃れ者の珠世殿が鬼殺隊に協力しているのは知ってた。この状況を見過ごすとは思えなかったから、かぐやちゃんが使ってた透明になる札を張って出てくるって予想して、待ってたんだぜ』

「…………」

『そんなに身構えないでくれよ、()()()()。殺す気なら、()()()()()とっくに殺してる』

「……何故、俺だけが例外になる?」

『……キミが、かぐやちゃんにとっての『特別な人』だからだよ。鬼舞辻殿を前にして、あの子が唯一名指しで気にかけたのが……キミだった』

 

 人形越しでも、三人には彼の『複雑な感情』が伝わった。

 ──もう、迷うことはなかった。

 

「分かった。私はキミを信じる」

「……ええ、信じましょう」

 

「……氷の。キミの名は?」

『俺は童磨。よろしく頼むぜ煉獄さん』

「杏寿郎でいい。頼りにするが、構わないな?」

『勿論。人助けは、俺の生きがいなんだ』

 

 そう言って彼の人形は、戦場の方へ向き直って扇の形をした氷を構えた。

 

『防御は任せてくれ。絶対に、傷一つ負わせないぜ』

「……うむ」

「いつでも踏み込んでいいよ杏寿郎。合わせるから」

 

 杏寿郎は先頭に立ち、無防備な背中を見せることで信頼の意を示した。真菰もその隣に立ち、同様の意思表示をする。

 

 役者は揃った。始まりの蝶と最後の蝶は、炎と共に鬼の始祖へと挑む。

 

 

〝──なんだ、私が居なくても大丈夫そうじゃないですか〟

 

 

 その様子を見守っていた少女の存在には、誰も気付かないまま。

 

 

 

 *

 

 

 

「……弱いな」

「うるさいうるさい! さっさと死んでよ、人喰い鬼ぃぃ!!」

「それがお前の素か。最早仮面を被る余裕もないようだな、鬼殺し」

「黙れえええええ!!!」

 

 言われなくても分かっている。私が……あの子より、弱いということくらい。

 

「なら力尽くで黙らせればいいだろう。まぁ、()()()()()()()使()()()()()()()()()今の貴様では無理だろうが」

 

 ……言われなくても、分かっている。私自身、勝てる気がしない。

 

「そら、どうしたどうした。()()()()()()()()()()()()ぞ」

「うるっ、さい……!」

 

 頼むから、黙ってほしい。言われるまでもなく、分かっているんだ。

 私の力は、彼女が()()()()()呪いの力。()()()()()()()()()()限りある権能だ。再生だって、お父様を含めた歴代当主が奪われた寿命を貰っているだけだから有限なのだ。一度致命傷を負えば、50年分は持っていかれる。命は安くない。なのにもう……何回殺されたか、分からない。

 

 ……あの子なら、こんな無様は晒さなかっただろうに。

 

「そのような顔をしながら戦うくらいなら、逃げればいいだろう。見逃してやるぞ? 青い彼岸花の記憶を思い出す可能性もあるからな」

 

 ……あぁ。いっそ、逃げてしまおうか。

 そう考えると、頭痛がする。ご先祖サマ達が、私に『戦え』と訴える。本当に、キモチがわるい。

 ……どうして血が繋がってるだけの他人に指示されて、血の繋がってる鬼と戦ってるんだ私は。

 

「バカなことを……!」

 

 全く、本当にバカだ。それしか、私の存在理由はないというのに。

 

「では、死ね」

「──ぁっ」

 

 左右から首に向かって、今までで最高速度の触手が飛んでくる。この一撃のために、今まで首を狙わず、速度も抑えていたらしい。避けられない。ダメだ、喰らったら寿命が尽きる。

 

 ──そう、思った時だった。

 

「不知火ッ!」

「冬ざれ氷柱」

 

 突然現れた男が、私を庇った。

 心臓が跳ねて、口が勝手に言葉を発する。

 

「れんごくさん……」

 

「……うむ。炎柱の煉獄が、助太刀する」

「……なるほど、これが『妬ける』って感情なのかな」

 

「────」

 

 そして、二人の悲しげな表情に……何故か得もいわれぬ快感を覚える。なんだコレは、知らない。

 

「バカな……! 何故生きている、童磨!」

「親友が、助けてくれたんですよ」

「……教える気はないということか」

「あ、今『童磨()に友がいる筈ない』って思いましたね? 言っておきますが、俺は貴方と違ってちゃんと友達がいるんですよ?」

「貴様……!」

 

 無惨が青筋を浮かべている。まさか図星なのか? 千年生きてて友人ゼロ?

 ……いや、今はそんなことどうでもいい。それよりも

 

「……気軽に近寄るな、人喰い鬼」

「あぁ、あまり近いと燃えちゃうもんね。ありがとう、気をつけるよ」

「……むぅ」

 

 なんなんだ、コイツは。人喰い鬼、それも上弦。なのにどうしてこんなに親しげなのか。まさか本気で妹と仲が良かったなんてことはあるまいし。

 ……でもまぁ、

 

()()()()。この鬼、味方でいいんですよね?」

「……うむ」

 

 ──あ、ヤバい。何その顔ゾクゾクする。

 って落ち着け落ち着け。そうじゃない。

 

「貴方が認めているなら……」

「……赤くなっちゃってまぁ。妬けるぜ」

「うるさい。前見て」

「はーい、よっとぉ!!」

 

 氷の壁が、無惨の不意打ちを受け止めた。認めたくはないが、頼りになる。

 

「ところでさ、キミも加護の明け渡しができたりする?」

「……加護の、明け渡し?」

「……とりあえず、杏寿郎に触れてみて」

 

 ふむ。キョウジュロウというのか、彼は。

 

杏寿郎(キョウジュロウ)、さん」

「──っ」

 

 口に出してみると、意外にしっくりくる。もしかしたら……

 

「……手を出して、頂けますか?」

「……はい」

「貴方は、私が以前とは別人であると、気付いてますね」

「……えぇ」

「『以前の私』とは……名前で呼び合う仲、でしたか?」

「……同じ家で育った貴女を、姉として慕っていました」

「……そ。じゃあ貴方も、私の弟ね」

「──それはっ」

 

 あぁ、違う。私はあの子じゃない。私は貴方の姉ではない。それでも、

 

「お願い、頷いて」

「…………俺は、かぐや様の弟です」

「充分よ、ありがとう」

 

 貴方の言う『かぐや様』が、私のことではないのだとしても。『産屋敷かぐや』は、私なのだ。

 ──故に、口頭でも互いに認めれば義姉弟の縁が繋げる。縁が繋がれば、感覚的にはできる筈。

 

「『その身に呪いあれ』」

「!?」

「……怖がらないで。呪いは呪いでも『鬼殺しの呪い』よ。そこの鬼は、加護だと勘違いしてたみたいだけど」

「…………ふぅん? 呪いねぇ……まさかあの邪神──いや、流石にそれはない、か」

「……童磨。後でその『邪神』とやらの話、詳しく聞かせてくれないか」

「勿論。ただし、生き残れたらね」

 

 そうして私達は再び無惨と対峙するも……

 

「…………もういい、お前達の相手は疲れた。収穫は無かったが、元より半信半疑。これ以上の損害はごめん被る。私は帰るぞ」

「させない──!」

 

 煉獄さん達と同じく突然現れた女性隊士が、無惨の首に刃を振るう。

 たしかこの人は、以前妹の見舞いに来てくれた水柱。煉獄さんと同じく、上弦を破ってここまで来たというのか。

 しかしいくら腕が立っても、権能も赫刀もないのでは、そもそも切断自体が不可能だ。刃が通るそばから癒着していく。彼女は刀を振り抜いた体勢のまま、動揺して一瞬硬直してしまった。

 

「えっ」

「……帰る前に、一人は喰っておくか」

 

 マズい、救助が間に合わない……!

 ──と思った次の瞬間には、童磨が彼女を抱えて離脱していた。

 

「あ、ありがとう……」

「全く、世話が焼けるぜ」

「……時を止める血鬼術か。厄介な」

 

 ……そうだ、この鬼は時間を止められる怪物なんだった。

 

「でも、今ので殆ど力を使い切っちゃった。()()には申し訳ないけど、ここは見逃した方が良いと思うぜ」

「「…………」」

 

 ふむ。煉獄さんも水柱さんも、随分と大人しい反応だ。何かまだ狙いがあるのだろうか。

 

「鳴女──」

「逃す訳ないでしょう」

 

 またも突然現れた女性が、無惨に何かを突き刺した。これが狙いか?

 

「──いや、()()()()()。『一人は喰っておく』と言ったのは()()()()()だ」

 

「……マズいみたいだね」

「クソッ、選択を間違えた!」

「珠世殿、今助けます!」

 

 ズブズブと、女性の身体が衣服ごと吸収されていく。その様を──私だけが黙って見ていた。

 

「私のことは構いませんから! 杏寿郎さんとかぐやさんは、()()()()()()()()()()()()()()!!」

「できませんッ!」

 

「じゃあ、私がやる」

 

 『大地に呪いあれ』と念じれば、無惨と童磨と女性が纏めて火達磨(ひだるま)になる。

 ……打ち込んだのは藤の毒かな? 無惨にしっかり火傷ができている。

 

「なっ!? 何してるのかぐ──っ、あなたは!」

「今すぐ止めてください! 珠世殿は再生力が弱いんです!!」

 

 ……童磨も、目の前の女性も、人喰い鬼だ。

 なのに煉獄さんも、水柱さんも、協力し合うことに違和感がないらしい。

 なのに──あの子じゃない私とは、距離を測りかねている。

 

「……私の方が、よっぽど『いらない子』じゃないですか」

 

 

 なんだかもう──何もかも、どうでもいい。

 

 

 

 *

 

 

 

「……姉上?」

 

 ──息を呑んだ。

 その一瞬だけ、かつてのかぐや様が戻ってきた気がしたから。

 

「知らないわよ、あなたみたいな弟」

「……気の迷いだ。忘れてほしい」

 

 第一、いくら卑屈さのあったかぐや様でも……流石に今の発言は『らしくない』

 

 ──いつの間にか炎は消えていた。

 

「クッ、クク……! 愚かだな、情に流されるとは……! おかげで、()()()()()()()()()()()()()()()ぞ!!」

「構わないわよ? ここで殺すから」

 

 復活した無惨に、彼女が斬りかかる。

 対し無惨は珠世殿を盾にして飛び退き──琵琶の音と、肉が裂ける音。

 

「──何故、助けたんですか!?」

「ふぅん? 死にたいなら、今からでも殺してあげるけど」

 

 琵琶の血鬼術は、音がしてから襖が出現し、開くまでに時間差がある。直線上に居た珠世殿を無視すれば、無惨ごと血鬼術を焼けた筈だ。それをしなかったのは……

 

「……ありがとうございます、()()()()

「……いいの? 私を、その名前で呼んで」

「構いません。あの人は、いつも『姉』と呼ばれたがっていましたから」

「……そ」

 

 俺に気遣わしげな視線を向けているこの人は、今も負の感情に満たされている。鼻が効く人間であれば、酷い悪臭を感じるだろう。それでも主義主張を曲げて、感情に逆らって、珠世殿を助けてくれた。

 ……そう。どれだけ変わり果てても、やはり優しい人だったのだ。かぐや様は。

 

「……、…………。あーあ、やっちゃったなぁ……人喰い鬼を皆殺しにできたのにぃぃぃ……」

「物騒だね……」

「柱なんてやってる時点で、アナタも充分物騒でしょうが」

「言い返せない……」

「問題ない! 上弦は半壊、無惨の出現場所は予測可能! かつてない程状況は改善している!!」

「──おっ、調子が出てきたね杏寿郎」

「うむ!!」

 

「……活気付いてるところ申し訳ないんだけど、いいかな? 実は俺、力を使い切ったところに畳み掛けて燃やされたから凄く死にそう……」

「よもや!?」

「しょうがないわね。私の血を飲みなさい」

「えっ、いやそれだと逆に──」

「それドバーっと」

「死ぬぅーーっっ!?!?」

「よもやぁぁぁ!?!!?」

 

 躊躇なく手首を斬って滝のように血を出す光景も中々クるものがあるが、その先に起こる惨劇を予想して──首を傾げる。

 

「…………あれ、燃えない?」

「そりゃそうよ。呪いを込めなきゃただの血なんだから。むしろ私は忌々しいけど鬼舞辻の血縁だから、そこらの稀血より栄養価が高い筈よ」

「……ホントだ。これなら一気に回復できそうかな」

「ほら、珠世(アンタ)も飲みなさい」

「……ありがとうございます」

「礼なんて言わないで。反射的に呪いを込めそうになるから」

「……恐ろしいですね」

「褒め言葉よ」

 

 ……こうして全員落ち着けば、次に気になることは。

 

「……皆は、無事かな?」

 

 そう、囚われた隊士達の安否だ。

 鴉が愈史郎殿の術で情報を共有しているから、柱の誰かがあの琵琶鬼の場所まで辿り着ければ……

 

「あー、それはたぶん心配いらないぜ?」

「どういうこと?」

「鬼舞辻殿の性格からして、生き残った精鋭である君達を修羅にするよりは、足枷を残したいと考えると思う。だからたぶん、今頃全員元いた場所に送り返されてるかな」

「……炎柱様、元上弦の弍の予想は的中しております。鎹鴉(こちら)の情報網で、連れ去られた隊士の内8割の生存と送還を確認しました」

「……ありがとう、朝陽」

 

 ……8割。8割か。

 殉職した2割の英霊に、黙祷を捧げる。

 

「柱はどうなった?」

「……全員、()()()()()()()()()生存は確認しております」

「──重傷者が、いるのか?」

「……はい」

 

 そして、朝陽が口にした名は──

 

 

 

 *

 

 

 

 ──無限城。

 

「全員集めたな? 鳴女」

「はい」

「では──此度の戦い、()()()()()()

 

 集められた鬼達を、無惨は一言()()()。それだけで、彼の機嫌が最高であることが分かる。

 

「青い彼岸花の情報が入った。次が最後の戦いとなるだろう。そこでだ──」

 

 無惨の触手が伸び、目にも止まらぬ速さで()()()()()()()()

 

「次でお前達は、お役御免となる。しかし、その先も私に仕える価値がある者は──共に太陽を克服させてやる」

 

 再び触手が伸び、黒死牟の頭に突き刺さる。

 

「死に物狂いで、価値を示せ。基準の一つを、例に挙げてやる」

 

 触手が引き抜かれた黒死牟の瞳には──『陸』と刻まれていた。

 

「今欠番となった、上弦の壱。その椅子には()()()()()

 

 ……だとしても、黒死牟が降格した以上そこから分かるのは『強さ以外が必要』という事実のみ。

 

「──堕姫、妓夫太郎を出せ」

「承知しました」

 

 脈絡のない呼び出しに狼狽えることなく、堕姫は兄を呼んだ。

 

「此度の戦いにおいて唯一、お前達だけが()()()()()()。褒美として、上弦の弍に昇格する。それ相応の血もやろう」

「「ありがたき幸せ」」

「これで分かったと思うが、私は強さを軽視しない。より具体的に言うと──逃れ者の童磨を殺せ。()()()()()、奴を殺した者が次の『壱』だ」

 

 それは実質的な黒死牟への救済措置であり──

 

(どうして無惨様を裏切ったんだぁ? 童磨さんよぉぉぉ……)

(……お兄ちゃんを見る目が優しい、数少ない相手だったのに)

 

(……ふむ、問題ないな)

 

 兄妹の忠誠心は、無惨の及第点を上回った。

 

「さて、それでは序列の変更作業を続行する──」

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 天元とカナエの生死については、次回になるみたいだぞ。

 

 全面対決後の十二鬼月は、こんな感じになったみたいだぞ!

 

 壱:黒死牟→欠番

 鬼達にとっての蜘蛛の糸。

 

 弍:童磨→謝花兄妹

 ぶっちゃけ無惨はもう妓夫太郎しか信頼できるマトモな戦力がいない。

 

 参:猗窩座→ 鳴女

 唯一特に戦果を挙げずとも(目立った失敗さえしなければ)生存を許されるであろう、血鬼術ガチャ大勝利民の鳴女が就任。

 

 肆:半天狗→ 饜夢

 半天狗が喰われたのは、血鬼術を吸収して意外にヤバかった珠世の毒を分身に押し付けるため。序列変更作業後、実行。血鬼術は使い捨てにしたため失われたが、鬼殺隊は竈門家戦において()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 饜夢がこの席に居る理由は、半分黒死牟への当てつけ。もう半分は……

 

 伍:玉壺→ 塁

 流石に戦力が足りないので、血で塁君を超強化。

 

 陸:謝花兄妹→ 黒死牟

 黒死牟的には、『殺されなかっただけで充分以上の温情』と理解しているので不満は無い。

 

 下壱:饜夢→ 響凱。

 実は生きてた。戦力的には心許ないけど、忠誠心や空間操作の血鬼術は無惨好みなので『失望した』と言いつつ期待している。

 

 下弍:轆轤→■■により討伐。後任無し。

 佩狼? 槇寿朗がとっくの昔に倒しましたが何か。

 

 下参:病葉→月痣かぐやにより討伐。後任無し。

 下肆:零余子→■■により討伐。後任無し。

 下伍:塁→昇格。後任無し。

 那田蜘蛛山ファミリーは地味に生きてる。

 

 下陸:釜鵺→■■により討伐。後任無し。

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