帝王の母は皇帝
レースに絶対は無いが彼女には絶対がある。かつて無敗の三冠を成し遂げた1人のウマ娘がいた。その人物像は冷静沈着、仙姿玉質など彼女は人々から崇められていた。彼女はそのまま勝利を収め続け、URAファイナルズを優勝し、当時担当していたトレーナーと婚約。幸せな家庭を築いていた。
その偉大な母の子として生まれた1人のウマ娘がいた。その名はトウカイテイオー。そして家庭では今日も平和な日々を過ごしているはずだった……
「ママの分からずや!パパなら絶対ハンカチが良いって言うよ!」
「いやテイオー。大人の男性なら身だしなみを気にするものだからネクタイの方が喜ぶに決まってるさ。」
1年に1度の愛する夫、父の誕生日に親子は誕生日プレゼントで言い合いをしていた。
「どうして!?ネクタイなんてなんでもいいじゃないか!」
「まだ子供のテイオーには分からないかもしれないが大人はまず第一印象で判断される事も多いんだよ。だから今回はネクタイにしないかい?」
「子供……?またそうやってママはいつも僕を子供扱いして!僕だっってもう10歳なんだよ!もう1人だって生きていけるもん!」
勢いよく玄関に向かうテイオー。
「こら待ちなさいテイオー!」
このような喧嘩は初めてではない。親子なのだから喧嘩だって何回もしてきた。そしていつもこうなったテイオーは決まって近くの公園の滑り台で頭を冷やして帰ってくる。流石皇帝の娘と言うべきか1人で遠くへ行ってしまうような娘ではなかった。
だがこの日のテイオーは明らかにいつもの冷静さを失っていた。
「なんだよ!ママはいつもそうさ!何かと僕のやることに口出ししてきて、僕はもう幼稚園児じゃないんだ!」
テイオーは頭の中で様々な葛藤をしながらそれを忘れようとひたすら川沿いの道を走り続けた。
おかしい。いつもなら家を飛び出して1時間もしないくらいの内に家に戻ってくるはずのテイオーが2時間経っても帰って来ない。
ルドルフは珍しく冷静さを失い始めていた。
「あの子は一体どこで何をしていんだ……」
玄関が開いた。リビングに入ってきたのは……
「テイオー!あんな時間からどこに……」
「うぉ!どうしたルナ。そんな大きな声を張り上げて」
帰って来たのは自身の元トレーナであり1番の理解者である夫だった。
「あぁすまない。少しテイオーと喧嘩してしまってね。家を飛び出して2時間しても戻って来ないんだ……」
「いつもの公園にいるんじゃないのか?」
「私も見に行ったんだがいなかった……これでもしあの娘に何かあったら私は……」
そう呟いたルドルフは涙を流していた。
「まずは落ち着こう。俺らが慌てちゃダメだ。あの天下の皇帝が探す前から最悪を想定するなんてらしくないじゃないか」
優しく微笑みかけてくれている夫の言葉に少し元気をもらった。
「まずは俺たちが探して見つからないようなら警察に行こう。」
「あぁわかった。私は川沿いを探す。君は住宅街をお願いしたい。」
「わかった。30分探して見つからなかったら、1度家に戻ってきてくれ。あと、何かあればすぐに連絡をしてくれる?」
「了解した。」
現役時代ではあるが中央のウマ娘達ですら歯が立たなかった脚で全力で走り続けるルドルフ。愛する我が子を見つけるために
その頃テイオーは家から少し遠くまで離れた高架橋まで来てしまっていた。
「うぅ。ここどこだよ〜、分からないところまで来ちゃった。ママ怒ってるだろうな。パパも探してくれてるかな。早く迎えに来て……」
テイオーは溢れる涙を止めることはできなかった。
「お?こんな所でウマ娘のお嬢ちゃんが何をしてるのかな〜?」
見るとそこには成人男性が4人こちらに向かってきていた。
本気でウマ娘が逃げたら人間が追いつけるはずがない。だがまだ幼い少女の体は言う通りには動かなかった。
「俺ウマ娘見るの初めて〜本当に耳生えてる!尻尾もあるぞw」
「ちょっと触ってもいいよねー?」
「ひっ、やめて来ないで……助けて……」
「少しだけなんだから言うこと聞けよ!てか尻尾とかって引っ張ったらどうなのんかな?」
そう言うと男の集団の1人がテイオーの尻尾をやや強めの力で引っ張った。
「痛い!やめてよ!」
「これ抜けたりしないのかな?」
「それはさすがにやばいだろ。」
「まぁ誰もいないしすぐに逃げれば大丈夫だって」
その男がテイオーの尻尾を思い切り引っ張ろうとした瞬間
「何をしているのかな?」
一言で男達は背筋が凍った。生き物の本能としてなのか自分より確実に強い生き物を目の前にしたら動けなくなる。それを男達は一瞬で悟った。
「ふむ。私の子供と遊んでくれているのかと思えば少し力加減を誤っているのではないかい?」
男達はテイオーを掴んでいた手を離した。離さなければならないと感じたのだろうか。
「ママ……痛かった。怖かったよ……」
「すまないテイオー。迎えに来るのが遅れてしまったね。大きな怪我はしていないかい?」
そう優しく言うとルドルフはテイオーを背中の後ろに隠した。
「さて、君達はテイオーと何をしていたのか聞かせてもらってもいいかな?」
ルドルフは口調を変えず淡々と話を始めた。だが娘のテイオーにはわかった。これは完全に皇帝の怒りを買ってしまったのだと。
「いや、ちょっと遊んでただけなんすよ……」
「ほぅ、遺言はそれだけか?」
「う!?」
「クソ、相手は1人だ!俺ら全員でやっちまえば……」
「馬鹿か!相手はウマ娘だぞ!しかもあの皇帝シンボリルドルフだ。俺らは手を出してはいけない奴に手を出しちまったんだよ……」
「知るか!たかだか女1人俺だけでもやってやる!」
男の内の1人がルドルフに殴りかかろうとしていた。
「くたばれ皇帝!」
次の瞬間その男は宙を舞っていた。テイオーはルドルフを見上げたがどこも動いていなかった。
なら誰が……その疑問は一瞬で消えた。
「それ以上俺の大事な嫁さんと娘に手を出してみろ。一生歩けない体にしてやろうか?」
ルドルフと男の間には普段温厚な父が拳を突き上げて立っていた。
「う……」
「うわなんだよ!」
「どんな強さだよ……」
トレーナーという仕事はウマ娘と隣り合わせである。そのため人間よりも何倍も力が強いウマ娘と揉め事があった時用の為に護身術を会得しておく必要がある。だが実際にウマ娘に通用するとは限らない……
「おー、久しぶりに人なんて殴ったから手が痛いぜ……おいお前ら、今俺達の目の前からいなくなれば許してやる。とっとと失せろ。」
そう言い放つと男達は殴られて気絶した男を抱えながら去っていった。
「テイオー!大丈夫だったかい?怖かっただろ?本当にすまない……だけど君が無事でいてくれて本当によかった……」
テイオーは自分の母が泣いてるのを初めて見た。普段は絶対に涙を見せないような母が自分を心配してくれて泣いているのだ。テイオーはまた涙が溢れた。
「ママ……ごめん …… なさい。本当に怖かったよー!!!迎えに来てくれてありがとう……」
「テイオー、ルナ。さぁお家に帰ろうか!」
「あぁ」
「うん!パパもありがとう!かっこよかったよ!」
「ん?本当か?よーしパパボクサーにでもなろうかな!」
帰り道に見た夜空には2人のトレンドマークである三日月が大きく夜空にはかかっていた……
End