虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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9:シンデレラを救ったのは王子様ではなく、魔女。

 迷宮の楽園。

 

 ダンジョン18階層はそのたとえに相応しい、明光風靡な情景が広がっている。

 高い高い天井に埋まる無数の水晶床が陽光同様の温もりある光を発しており、海と見紛うほど巨大な湖の水面をきらきらと輝かせていた。その巨大湖には複数の島々が浮かぶ。ならず者の街(リヴィラ)も島の一つに築かれていた。

 

 また、巨大湖に引けを取らぬほど大きな森や湿地があり、この美しい大森林では可食性実生を採取できるという。

 空と太陽が無いことを除けば、地上でも稀有な美景だ。とても地下空間とは思えない。

 

 そんな麗しき自然が広がる島嶼の一つ。リヴィラから少しばかり離れた湖岸で、エミールは野営用の飯盒でお湯を沸かし、炒った珈琲豆を煮出していた(流石のオラリオにも即席珈琲(インスタントコーヒー)はない)。

 

 パチパチと油分の豊富な樹皮が鳴く焚火の傍らには、小石を弄ぶアスラーグと俯いて沈黙に徹するリリルカ・アーデがいる。

 膝を抱えるリリルカの表情は、深々と被った白いコートのフードに遮られて窺えない。狸人の中年ゴロツキが語った内容『リリルカがサポーターをしながら冒険者から盗みを働くコソ泥』に対する釈明の言葉を考えているのか。それとも、暴露された事実に自己嫌悪しているのか。

 

 珈琲の匂いを宿した湯気が広がり、アスラーグが不満そうに眉根を寄せる。

「なんで紅茶じゃないの? しかも……ミルクも砂糖も無し? 野蛮よ。非文明的よ」

 

「泥臭い川水の白湯に比べれば、充分に文明的だろ」

 ぶつくさと文句を垂れるアスラーグを面倒臭そうに一瞥し、エミールは野営用の金属製カップへ煮出し珈琲を注いでいく。

「アーデ嬢。吞め。気分が落ち着く」

 

「もしくは悩みが吹き飛ぶほどげんなりするわ」

 アスラーグが嫌みを吐きつつ珈琲を一口飲み、美貌を仰々しく歪める。

「にっが」

 

「黙って味わえ」

 エミールは仏頂面で珈琲を呑む。内心で『あ、煮詰め過ぎた』とぼやくが、もちろん口には出さない。

 

 リリルカはその小さな手で温かなカップを包むように持ち、そろそろと口へ運ぶ。

「……苦いです」

 

「ほら、見なさい。リリちゃんだって言ってるじゃない」

「アーデ嬢はまだ子供だから」

 勝ち誇った顔のアスラーグへ抗弁するエミール。ただし、その言葉に先ほどまでの抵抗力はなかった。

 

「……聞かないんですか?」

 ぽつりとリリルカは独白するように言い、顔を上げてアスラーグとエミールを交互に見る。

「どういうことなのかって、リリを詰問しないんですか?」

 

 アスラーグはエミールと顔を見合わせた後、リリルカの隣に移り、その小さな肩を抱き寄せた。びくりと身を強張らせるリリルカへ、慈しむように告げた。

「話をしようと言ったけれど、それは尋問や詰問が目的じゃない。私達にリリちゃんのことを教えてほしいの」

 

「リリのこと……?」と戸惑うリリルカへ、

「そう。リリちゃんのこと。教えてくれる?」

 アスラーグは垂れ気味の目を細め、いつもの母性的な微笑みを返す。

 エミールはカップを傾けながら思う。悪い大人だな。

 

 両手で包み持つカップを口に運び、リリルカは『にがいです……』と呟いてからぽつりぽつりと語り始めた。

 リリルカ・アーデの物語を。

 

       ★

 

 アーデさんちのパパとママはソーマ・ファミリアの眷属だった。

 

 ソーマ・ファミリア、これがまたどうしようもない組織だ。

 主神は酒造りにしか関心がなく、自身の酒が眷属を中毒にして狂わせても、放置&無視。まったく無責任極まりない。

 神酒中毒の眷属達は神酒を求めて争い、内輪揉めばかり。余所とも揉めるわ、犯罪に走って事件を起こすわ……

 

 パパとママも例に漏れず神酒狂い。生まれたばかりのリリルカちゃんを後先考えずファミリアへ入れたり、幼いリリルカちゃんの世話もせずダンジョンに潜ったり、無理無茶無謀を重ね、ついに命を落としてしまった。

 

 こうしてリリルカちゃんは物心つく前に浮浪孤児となってしまいましたとさ。え? ファミリアが保護しなかったのかって? アル中共にそんな甲斐性があるわけないでしょ。

 

 さながらオラリオ版『オリバー・ツイスト』だ。スラムで親無き幼子達が生き延びる術は多くない。ゴミ漁り、物乞い、盗み。リリルカもドブネズミのようにゴミを漁り、惨めに物乞いして命をつないできた。

 

 心優しい老夫婦に拾われて救われたかけた時期もあったが、ソーマ・ファミリアのクズ共が現れ、全てを踏み躙った。老夫婦達がリリルカを『疫病神』と追い出しても、無理はなかろう……

 

 やがて、『オリバー・ツイスト』の幕は閉じ、『灰被り』の幕が開く。

 種族的ハンディキャップなどにより冒険者として生きることが叶わず、サポーターとしてダンジョンと街を往来し、クズ共に稼ぎを奪われる人生が始まった。

 意地悪な継母と義理姉達に虐げられる『灰被り』の如く、屈辱と屈従、侮辱と嘲罵に塗れた日々。冒険者達から奴隷同然に扱われ、ファミリアのクズ共から家畜同然に扱われる毎日。世界の不条理と理不尽に怒り、傲慢で横暴な冒険者達を恨み、便所虫にも劣るファミリアの主神と眷属達を憎悪する人生。

 

 それでも、リリルカは希望を捨てていなかった。

 

 ファミリアの頭目ザニスが言ったのだ。

 金を払えばファミリアを抜けさせてやる、と。ファミリアから解放してやる、と。

 

 その言葉を信じ、リリルカは涙を堪え、歯を食いしばり、泥水を啜って金を稼いできた。犬畜生のように扱われながらダンジョンを潜り続け、間抜けな冒険者達から装備や金を盗み、クズ共を避けて金を貯めてきた。

 

 全てはファミリアを抜け、自由を得るために。

 

 自分の人生を取り戻すために。

 

 ※   ※   ※

 リリルカは何度も目元を拭い、鼻をすすり、時に嗚咽をまじえながら、自身の15年を、これまでの人生を語った。

 

 アスラーグはリリルカを抱きしめ、告げる。

「よく頑張ったわね」

 

 その言葉には同情も憐憫も含まれない。慰めも労わりもない。ただリリルカの歩んできた人生を認め、その生きざまを許容し、艱難辛苦に折れぬ勇気を褒め讃えた。母親のような抱擁と共に、リリルカという一人の人間を受け入れた。

 

 リリルカの涙腺からひときわ大きな涙粒が溢れる。

 

 その人生の大部分が辛苦と惨苦に満ちていたリリルカは、褒められたことなどほとんどない。

 自己肯定されたことなど数えるほどしかない。

 包容されて認められたことなどほとんどない。

 リリルカ・アーデは“努力”を、過酷な現実に屈しない勇気を、他人に容れて貰えたことが初めてだった。

 リリルカ・アーデの卑劣で卑屈な部分を赦して貰えたことが初めてだった。

 

 

 大湖の波音と焚火の音色に混じり、湖岸に少女のすすり泣きが響く。

 世界中に居るだろう『灰被り』。その一人が魔女の胸に抱かれ、泣いていた。

 

       ★

 

 アスラーグはリリルカを抱きしめ、その小さな背中を撫でながら、冷徹に思考を巡らせていた。

 現段階でリリルカ・アーデを取り込み、ソーマ・ファミリアを標的に据えることのメリット・デメリット。ソーマ・ファミリアを攻撃後の状況と情勢、そのリスクとリターン。

 

 誤解の無いよう言っておく。

 アスラーグ・クラーカは帝国淑女の良識を備えている。苦難にある子供を前にして、見過ごしたりせず、迷わず手を差し伸べられる女性だ。

 同時にアスラーグは私人と公人、利己と利他を使い分けることが出来る“大人”だった。

 

 果たすべき目的がある以上、優先順位を誤らない。必要ならば、苦難にある子供を見捨てるという不愉快極まる選択肢も採れるし、その不快な決断も割り切れる。

 

 それは、リリルカをあやすアスラーグへ冷徹な眼差しを向けるエミールも同じだ。憐れな境遇の女子供や老人を容赦なく見捨てるし、敵に回るなら躊躇なく始末できる。

 

『魔女の心臓』を取り戻し、下手人共を一匹残らず狩り殺す。いかなる事情があろうとも、立ち塞がるならば、切り捨てるのみ。

 

 2人はそうやって三年に渡る捜索と追跡、報復の旅をしてきた。現地の協力者や情報提供者を利用し、時に救い、時に見捨てて。

 今更、リリルカ・アーデ一人のために在り方を変えたりしない。

 

 もしもこの段階で、2人がソーマ・ファミリアの神酒密輸とイケロス・ファミリアの“裏商売”がつながっていることを知っていたなら。冷徹な2人は迷うことなくリリルカを『餌』にしただろう。

 

 だが、先走ったカヌゥの行動により、エミールとアスラーグはその選択肢を得る前に、リリルカの処遇を決断しなくてはならなくなった。

 その幸運が別時空、別世界線において、白兎の関係者故なのかは定かではないが……

 

 カップを揺らしながら、エミールがおもむろに口を開く。

「“俺達”にアーデ嬢を助けることはちょっと難しいぞ」

 

 そうね。とアスラーグが同意した。

「私達の主神ネヘレニア様は本国に居られるから改宗は出来ないし、かといって、改宗先がないままソーマ・ファミリアを潰しても、リリちゃんがままならなくなる」

 

「え?」

 リリルカはアスラーグの胸元から顔を上げ、泣き腫らした目を丸くして戸惑う。

 

 そんなリリルカを余所に、

「オラリオで縁のある神はロキ様かヘスティア様だけだ。ロキ・ファミリアは大手だから難しそうだ」

「ヘスティア様のところは零細過ぎて無理よ。リリちゃんを改宗させることが出来ても、残党からの報復を防げないし、面倒が生じても対処できない」

 淡々と話を進めていくエミールとアスラーグ。

 

「あ、あの」

 困惑するリリルカが声を上げるも、2人は気にすることなく算段を講じ続ける。

「現状だと、アーデ嬢の人生は俺達頼りになる。それは良くない」

「ファミリアへの隷従から脱した先が、パーティへの依存では救いが無いわね」

「いっそ高跳びさせるか?」

「右も左も分からない土地に放り出すの? それは無責任よ」

 

 何やら不穏な単語が飛び交うに至り、リリルカは大声を張った。

「聞いてくださいっ!」

 

 キョトンとするエミールとアスラーグに、リリルカは胸の内を開陳する。

「先ほどは御二人に助けて頂いたことは、感謝しています。でも、リリはこの街から逃げたりしませんし、ファミリアを潰してほしいとも思ってませんっ!」

 

「でも……」

 渋面を浮かべるアスラーグへ、リリルカは濡れた目元をこすってから言った。

「御二人のおかげで目標金額まであと少しです。だから、目標金額まで貯めて堂々とファミリアを出ていきます。あいつらに背中を狙われて、怯えて生きていくなんて絶対に嫌ですからっ!」

 

「さっきのアホ共がアーデ嬢を逆恨みするかもしれない」と懸念を呈するエミールに、

 

「ソーマ・ファミリアでは内輪揉めなんて珍しくもないです。それに、あのケガじゃしばらく動けないですよ」

 いい気味です、と侮蔑たっぷりに吐き捨てるリリルカ。その顔は擦れ枯れた老婆のような意地悪さに満ちていた。

 

 エミールはカップを口に運び、その苦さに眉を潜めつつ、問う。

「約束を反故にされたら? 金を奪われるだけかもしれない。相手が本当に約束を果たす保証は何もないんだろう?」

 

「その時は……」

 リリルカは少し逡巡した後、腹を括った顔つきでアスラーグとエミールを順に窺う。

「”御助力”をお願いしても、良いでしょうか?」

 

「最初から私達が動く方が早く済むわよ。リリちゃんも貯めた金を失わずに済むわ」

「ここまで“頑張って”来たんです」

 アスラーグの提案に首を振り、リリルカはアスラーグの青紫色の瞳を真っ直ぐ見つめ、宣言する。

「最後までやらせてください」

 

 その言葉に含まれる決意。その可憐な面差しに宿る覚悟。握りしめられた小さな拳にこもる意志。

 

 アスラーグは大きく息を吐き、

「子供が覚悟を見せた。なら、見守ってあげるのが大人の務めよね」

 リリルカの頬に手を添え、娘に道理を説く母親のように優しく語り掛ける。

「でも、無理はしないように。危ういと感じたら私達に頼りなさい。人を頼ることは恥でも間違いでもないの。頼ることが出来る相手がいる、それはリリちゃんが紡いだ縁。立派な力なのだから」

 

「はい、アスラーグ様」

 リリルカは素直に頷く。その瞳に迷いも恐れもない。ただ美しき勇気があった。

 

 エミールは2人のやりとりを横目に、

「仕方ないな……」

 癖の強い栗色髪をわしゃわしゃと搔き回してから、装具ベルトの汎用パウチを一つ開けた。

「もしも危険が迫ったら、これを使え」

 手のひら大の円形金属塊を取り出してリリルカに渡す。

 

「? なんですか、これ?」

 ずっしりとした重み。よくよく見れば精巧な絡繰りの塊らしい。

 

「スタンマインという非殺傷性の消耗品だ。ここの安全ピンを抜けば、半径数メートル圏内の敵に高圧電撃を食らわせて昏倒させる」

 エミールの説明を聞き、リリルカはギョッとした。

「ええっ!? こ、これ魔導具ですかっ!? そんな高価なもの、いただけませんっ!?」

 

「魔導具なんて大したもんじゃない。これは模造品で諸島帝国の正規品に比べたら性能も低い消耗品だ。仕組みも魔石のエネルギーを高電圧に転換して放出するだけの玩具だよ」

「それ、とても玩具とは思えないですけど……」

 

 困り顔を崩さないリリルカへ、アスラーグが微苦笑を浮かべながら説明する。

「オラリオみたく恩恵持ちが山ほどいると、恩恵を向上させて戦う方が早い、と考えがちだけど、オラリオの外は違うの。ほとんどの人間は恩恵なんて持っていないし、恩恵を持っていてもステータスもレベルも早々上げられない。だから脅威に対抗するための技術や方法を作り出す必要がある。恩恵に頼らずに、ね。このスタンマインもエミールのクロスボウも、そういう思想の下に開発されたものよ」

 

「オラリオの外……」

 世界が迷宮都市とこの穴倉で完結しているリリルカ・アーデにとって、『オラリオの外』など想像も及ばない。

 ふと気づく。自分は一度だって『オラリオの外に出る』と考えたこともないことに。

 

「世界はオラリオの外にも広がってるのよ、リリちゃん」

 アスラーグがリリルカの頭を労わるように撫でる。

 

 その感触と温もりが優しすぎて、リリルカは再び目頭がツンと熱くなった。

 

        ★

 

 湖岸でのウェットなやり取り後、リリルカの請け負った依頼(クエスト)を果たすべく、一行はしれっとリヴィラに戻り、件の届け先へ向かった。

 バラックが並ぶ胡散臭い小路。指先が黒く塗られた両手のシンボルを掲げる怪しい掘っ立て小屋。

 

「ここですね」

 リリルカの案内で店内に足を踏み入れたなら。

 

 仄暗い掘っ立て小屋の中は怪しい代物に満ちていた。得体のしれない小動物の干物。奇怪な植物や実生の乾物。ガラス瓶に収まった妖しい色味の薬剤。骨を加工した『ボーンチャーム』と呼ばれるアミュレット。

 

 店主も怪しい。

 金糸で緻密な刺繍が施された朱いロングスカーフで髪をすっぽりと覆い、朱色のゆったりとした着衣をまとっていた。ボーンチャームを中心とする装飾品も多い。細長い煙管から甘い香りの紫煙を燻らせている。

 なんともエキゾチックな装いをしているものの、本人は妖精族で白い肌に翠玉色の瞳、スカーフから覗く髪は金色、といわゆる“一般的なエルフ”だ。顔立ちは若く美しいが、長命種だけに年齢は容姿から推し量れない。

 

 だが、店の雰囲気や商品や店主よりぶっちぎりに怪しいのが、店の端に控える用心棒だ。

 

 2Mほどありそうな大男はペストマスクに似た鳥頭の覆面を被っており、裸の上半身は筋骨隆々で傷と刺青だらけ。指先から肘近くまで包帯を巻かれた両手で、禍々しい戦鎚を抱えていた。

 覆面の中でブツブツと何か呟き続ける様が酷く狂気的で、18階層に至るまでに出没するどんなモンスターよりも不気味だった。

 リリルカがそっとエミールの傍に近寄ってしまうくらい怖い。

 

「……いらっしゃい」

 うっそりと告げる店主。翠玉色の瞳が一行をねめつける。鳥面大男はリリルカ達に意識を向けず、ブツブツと呟き続けている。怖い。

 

「あの、『ノームの万事屋』の遣いで参りました」

 リリルカが気圧され気味に懐から封蠟された手紙を取り出し、エキゾチックな美人エルフへ差し出した。

 

「ほぅ?」

 エキゾチックな美人エルフは訝りながら手紙を受け取り、腰に差した曲刃ナイフを抜いて封蝋を切る。ふむ……と呟きながら文に目を通していく。

 

 リリルカがなんとも言えぬ不安と居心地の悪さを覚えている脇で、アスラーグとエミールは興味深そうに商品を見回っていた。

 

「立地が立地だけにアレなものが多いな」

「ええ。とても面白いわ」

 

 エミールとアスラーグが小声でやりとりをしていると、エキゾチックな美人エルフが煙管の火種で手紙に火をつけ、灰皿に放り捨てる。

「要件は分かった」

 

 エキゾチックな美人エルフは背後の棚に並ぶ瓶を一つ取り、中から青い丸薬を二掴みして紙袋へ収める。

「これを『ノームの万事屋』へ届けろ。それでお前のクエストは完了だ」

 

「はぁ……分かりました」

 お使いの子供みたく扱われ、リリルカは何とも言えない表情を浮かべつつ、紙袋をバックパックに収める。

 

 エキゾチックな美人エルフはリリルカからエミールとアスラーグへ視線を移し、探るように問う。

「そちらは随分と熱心に商品を見て回っているようだが……何か気になることでも?」

 

 そうね、とアスラーグは首肯し、

「ボーンチャームと素材をいくつかいただくわ。それと、一つ聞きたいのだけれど」

「なんだ?」

 訝るエキゾチックな美人エルフへ言った。

「こちらには注文が出来るのかしら? 少々変わったものでも。たとえば、そう。“外れたもの”とか、それに関する情報とか」

 

「―――!」

 エキゾチックな美人エルフは表情を微かに強張らせた。気づけば、鳥面大男も延々繰り返していた独り言を止め、嘴の辺りからフシューフシューと荒い呼気をこぼし始めた。

 

 不穏な気配が漂い始め、不安を抱いたリリルカがそっとエミールの背に避難する。

「あ、あの、ど、どうしたんですか?」

 

「何でも無いわ、リリちゃん」

 アスラーグはくすりと喉を鳴らし、懐から包みを取り出して卓に置く。

「支払いよ。釣りは結構。お近づきの印にオマケしてあげるわ」

 

「私はまだ何も返事をしていない」

 エキゾチックな美人エルフがアスラーグを睨むも、アスラーグはただ優美に微笑みを返す。

「私の名前はアスラーグ・クラーカ。それで充分でしょう?」

 

「!」エキゾチックな美人エルフは端正な顔に恐怖を滲ませ「……分かった」

 

「良い取引が出来て嬉しいわ」

 アスラーグは購入したボーンチャームと素材を鞄に納め、リリルカの手を取った。

「いきましょう、リリちゃん」

「え? え? え?」困惑したまま連れ出されていくリリルカ。

 

 最後にエミールがゆっくりと出入り口へ向かっていく。

 

「帝国を追放された“魔女”が猟犬を連れて、この街に来た。“そういうこと”なのか?」

 エキゾチックな美人エルフがどこか怯えた声でエミールの背に問う。

 

「だとしたら?」

 エミールは肩越しに深青色の瞳を向けた。その眼は氷より冷たく深淵より昏い。

 

「は、早とちりするな。私はお前達を敵に回す気はない」

 エキゾチックな美人エルフは怯えを強くしながらも、言葉を続ける。

「た、ただ取引の内容を変えたいだけだ。金は要らない。代わりにアスラーグ・クラーカが持つ”虚無”の御見識と知見が欲しい」

 

「そういうことは本人と交渉してくれ」

 エミールは小さく肩を竦め、店外へ出て――行きかけたところでエキゾチックな美人エルフに告げられた。

「今後はダイダロス通りに来てくれ。私の、エリノールの店と言えば、地元の人間が案内してくれる。私の店の客に悪さする者は居ないからな……トーマスを怖がって」

 フシューと鳥面大男が唸る。トーマスというらしい。

 

 エリノールと名乗ったエキゾチックな美人エルフは、エミールが店を出ていくと独りごちた。

「The Outsider walks among us」

 




tips

エリノール。
Dishonored:DotOのマイナーキャラクター。
原作では元ブリグモアの魔女。本作ではトルコ系民族衣装のエルフに。

トーマス。
Dishonored:DotOのマイナーキャラクター。
原作ではダウドをボコってたガチムチ。本作では頭のおかしいガチムチに。
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