虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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12+:トライアル・リザルト

 賢者は歴史や書から学び、愚者は己が体験で学ぶ。と言うが、やはり自分は愚かだな。度し難いほどに。

 

 フェルズはそう自嘲的に忍び笑う。実際、笑うしかなかった。

 人気の乏しい裏路地にまんまと誘い込まれ、高所から夜闇色の影がこちらを見下ろしている。

 

 透明化魔導具を使用しているというのに、“自分を精確に睥睨している”。

加えて、その姿を精確に認識できない。魔力を感じないから、魔法や魔導具の類ではなさそうだ。スキルか、それとも未知の手段か。

 

 こちらを見下ろす影。その茫洋とした輪郭の中で、顔を隠す面布――紅い塗料で描かれた髑髏の口元だけがやけに印象的だった。

 

 友好的な雰囲気ではない。おそらく二言三言交わした後は荒事になる、そんな予感が拭えない。

 

 フェルズはレベル4の魔導師だ。近接戦は本職ではない。両手の籠手や魔導具を用いればそれなりに戦えるが……相手は防具を一切まとっていない――高速機動戦闘を得意とする軽戦士かそれに属する類。相性が悪すぎる。

 

 これは一時撤退が吉か。フェルズが此度の接触を諦めかけた矢先。

 

「貴様、何者だ。姿を見せて答えろ」

 紅色髑髏が問うてきた。

 

「ただの愚か者さ。そう名乗ってもいる。フェルズ、と」

 フェルズは魔導具”リバース・ヴェール”を操作して透明化を解除。姿を現して問い返す。尋ねてきたのは向こうが先。少なくともコミュニケーションを図る意思はある。

「そちらは?」

 

 紅色髑髏は回答する代わりに右腰から何かを取り出し、手のひらでくるりと回した。“何か”は瞬時に展開し、小剣へ姿を変える。

 

 いきなり物騒な展開に変わったことより、髑髏の覆面と折り畳み式小剣、その組み合わせにフェルズの意識が注がれる。記憶にある一人の凶徒と重なった。

 

「髑髏の覆面と折り畳み式小剣。以前、この街には君に似た装備を持つ者がいた。奇怪な髑髏の仮面をつけ、折り畳み式小剣を用い、魔法ともスキルとも定かでない異能を使っていた。君はその者の関係者か?」

 

 フェルズの問いに、紅色髑髏は切っ先を向けてきて機械のように告げる。

「貴様は何者だ」

 

「君は会話が苦手なのかね?」

 フェルズが持ち前のユーモアを披露した、次の瞬間。

 

 ―――は?

 

 フェルズは冷たい石畳に組み伏せられ、刃を首元に突きつけられていた。全く知覚できなかった。予備動作が全くなく、予兆も無かった。はっきり言って何が起きたのか分からない。

 

 もっとも、困惑しているのは紅色髑髏も同じだった。捻り上げたフェルズの右腕を掴み、困惑している。

 当然の反応だな、とフェルズは組み伏せられながら自嘲的に思う。

 

「貴様は――なんだ?」

 紅色髑髏は小剣の切っ先でフェルズのフードをめくる。

 

 街灯と月光に照らされたフェルズの横顔は、真っ白な頭蓋骨だった。

 

「言ったろう。愚か者さ。無知と愚昧ゆえに死ぬことも出来なくなった、愚か者だよ」

 

 そうフェルズは人間ではない。800年を生きる不死者だ。かつて人類最高の英知と讃えられた賢者であり、不死の秘法を実現した唯一の人物。ただし、その不死のあり方は体から肉を失い、骨だけになっても死ぬことが出来ない、という無惨なものだった。

 

 フェルズは一瞬だけ籠手“魔砲手”――無詠唱攻撃可能な魔導具――の使用を考えるが、止める。骨だけに成り果ててもフェルズは文明人だった。言葉による相互理解を尊ぶ。

 何より、抵抗したところで近接戦では勝てる気がしない。

 

「君を追ってきたのは、金庫の中身ではなく資料を狙ったことが気になったからだ。その理由を知りたいだけで、君を捕縛する気はない。出来る気もしないがね。さて、このように骨だけの身ではあるが、問題なく言葉を交わせる。どうだろう?」

 

 フェルズの提案に対し、紅色髑髏は無言で小剣を下げ、油断なく数歩ほど離れる。

 

 どうやら彼も文明人のようだ。

 フェルズは身を起こし、ぽんぽんとローブを払って汚れを落とす。それから、フードを被り直して紅色髑髏へ再び名乗る。今度はもう少し踏み込んで。

 

「改めて名乗ろう。私はフェルズ。ギルドの主神ウラノスに与し、あれこれと活動しているものだ」

「……」紅色髑髏は無言でフードの奥からじっとフェルズを窺うのみ。

「こちらは名乗ったんだがね……」

 小さく頭を振りつつ、フェルズは紅色髑髏を推し量る。

 

 髑髏の覆面。折り畳み式小剣。それに先ほどの瞬間的な移動。やはり共通点が多すぎる。反応を引き出すために、カマをかけてみよう。

 かつての髑髏の異能者は問答無用でフェルズを殺しにかかった――殺せないと分かったら“破壊”を試みてきた――が。

 

「髑髏の異能者も君も……まったく“虚無を歩く者(ヴォイド・ウォーカー)”は気難しいな」

 反応は薄い。紅色髑髏は微動にしない。が、目深に被ったフードの奥から向けられる視線に揺れがあった。

 

「――貴様、何を知ってる」

 

 当たった。紅色髑髏の警戒心は強くなったが、こちらへの関心も深くなった。

 フェルズは自身の推測が正しかったことに喜びつつ、同時に藪を突いて蛇どころか竜に出くわしてしまったことを理解する。まさか本当に”虚無を歩く者”とは。これは大問題だ。

 

「詳しいことは知らない。しかし、800余年も死なずにいれば、いろいろ見聞きする」

「800……」

 静かな驚嘆が返って来た。その毒気を抜かれた声色に、フェルズの勘所が働く。ここが交渉の勝負どころだと。

「改めて互いの立場や目的について話し合う機会を設けられないか? 君がギルドを敵としていないなら、可能だと思う。どうだ?」

 

 紅色髑髏はフェルズを見据えながら、しばし沈思黙考した後。

「……一週間後。場所はダンジョン10階層。夜」

 

 一週間。盗み出した情報を分析して精査する時間を見込んだか。こちらも準備の時間を設けられるな。フェルズは首肯した。

「了解した。しかし、あの階層は霧に満ちている。互いを見つけるのに苦労しそうだな」

「お前は来れば良い。こちらが見つける」

 フェルズが軽口を叩くも、紅色髑髏は淡白に応じるだけ。

 

「分かった。それで、君のことを何と呼べば――」

 不意に路肩の側溝から鼠が現れ、フェルズの意識が一瞬だけ逸れた。

 

 ふっ、と紅色髑髏が跡形もなく消え去っていた。痕跡も何も残さずに。

 

 可能なら拠点まで突き止めたかったのだが……

「いろんな意味で手強いな」

 フェルズはぼやき、透明化魔導具“リバース・ヴェール”を用い、その身を透明化させ、路地裏から去っていく。

 

 残された鼠は鼻をひくひくさせ、側溝の中へ帰っていった。

 

        ★

 

 深夜未明。廃教会傍の借家。そのダイニングにて。

愚か者(フェルズ)、ね」

 アスラーグはカップへ熱い紅茶を注ぎ、無事に帰還したエミールへ差し出す。

 

「心当たりがあるのか?」

 紅茶を受け取ったエミールが問い返せば、

 

「魔法大国アルテナの賢者。『賢者の石』の製造に成功した唯一の魔導師よ。ただし、その後、忽然と歴史の闇に消え、その名も語り継がれなくなったわ。まさか不死者となっていた、というオチは想定外だけれどね」

 首肯し、アスラーグは嫌みを込めて喉を鳴らす。

「それにしても、虚無についても知っているとは。他分野であっても超一流の研究者は見識が豊かね。それとも、800年余も生きていれば、ということかしら」

 

「さあな」

 エミールは熱い紅茶で一息つける。

 想定外がいくつも重なった単独潜入から帰還したばかり。疲労した心身に紅茶の熱と風味が染み渡っていく。

 

「……勝手に会見の機会を設けてしまった。済まない」

 カップを両手で包むように持ちながら、エミールはうっそりと詫びた。

 

「たしかに問題だけれど、状況を考えたら止むを得ないわ」

 アスラーグは背もたれに体を預け、テーブルに置かれた満杯の背嚢を一瞥する。

「情報収集の面で言えば、好機かもしれない。でも、ギルドが敵か味方か分からない現段階で、こちらの素性は明かせないわ。盗まれた資料類からこちらの目的や素性を推測してくるだろうから、適当に話を合わせて情報と向こうの姿勢を探りましょう」

 

 アスラーグの見解に首肯しつつ、エミールは冗談めかして問う。

「窃盗の賠償と資料の返却を求められたら?」

 

「そういう筋で何かしら要求してくるでしょうね。それも適当にあしらって良い」

 冗談に真顔で返し、アスラーグは青紫色の瞳に冷たさを湛えて続ける。

「愚者は貴方を追跡できず、こちらは向こうを追える。会見後に尾行し、拠点を押さえてしまえば、いくらでも対応が取れる」

 

「向こうは不死だと言っていたが?」とエミールが問いを重ねる。

 

 魔女染みた冷笑を浮かべ、アスラーグは傲然と返した。

「不死だから何? バラバラにしてダンジョンへ分散投棄してしまえば良い。それでも復活できるというなら、別に手段を考えるだけよ」

 

 怖い女だ、とエミールは思う。むろん、口に出したりしなかった。

 アスラーグは不意に柔らかく微笑み、エミールの肩を優しく揉む。

「体を休めなさい。資料の精査と分析はこちらでやっておくわ。今夜は御苦労様」

 

       ★

 

 エミールとアスラーグがデブリーフィングを行っている頃、ギルドの最奥でもデブリーフィングが行われていた。

 

「よりによって“虚無を歩く者(ヴォイド・ウォーカー)”とはな」

 ウラノスは瞑目して唸りながら言った。

「初めて耳にした時は、フィアナ同様に子ら(人間)の妄想だと思っていた。我ら全知全能の超越存在が知覚できぬ存在などあり得ないと」

 

「だが、実在した」フェルズは小さく肩を竦め「この場合も世界は広いというべきか」

 

 冗談を好まないウラノスは、厳めしい顔に似合いの重い声色で言葉を紡ぐ。

「今、オラリオもダンジョンも非常に不安定だ。袋に詰めた蛇のように様々な事象と思惑が絡み合っている。そこへ虚無を歩く者が加われば、いかなる事態になるか」

 

 フェルズもウラノスの懸念は理解している。暗黒期に現れた虚無を歩く者――髑髏の異能者は暗黒期の惨状をひたすら荒らし続けた。彼の凶徒が居なければ、犠牲者の数は大きく違っただろう。

 それでも、フェルズは前向きな可能性を口にした。

「確かに強烈な不安要素ではある。しかし、協力し合えるなら実に頼もしい」

 

「髑髏の異能者と同様に神々とその眷属の抹殺を目的としているかもしれん」

 対して、ウラノスが悲観的な可能性を返す。

 

「それが目的なら、今、君はここで私と話をしていないだろう」

 フェルズの指摘は一抹の真実だった。

 紅色髑髏はいとも容易くギルド内へ侵入した。その気があれば大祈祷場まで足を運び、ウラノスの首を獲っただろう。

 

 ウラノスもその事実を認めざるを得ない。重々しく鼻息をつき、告げる。

「……明後日の会見。その場で奴の目的を明らかにせよ。そのうえで、オラリオの、いや世界の脅威となるならば」

 

「どうする? 私では勝負にもならない。またぞろヘルメスの眷属を用いるか? 彼らでは相手にならないと思うぞ。髑髏の異能者と同じく時と空間の魔法を使うようだし、第一級冒険者でも勝てるかどうか」

 フェルズがウラノスの言葉を遮る。紅色髑髏が髑髏の異能者並みの戦闘力を有しているなら、ロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリア並みの戦力でなければ、犠牲者を生むだけだ。

 ロキ、フレイヤの二大派閥とて無傷で済むとは思えない。なんせ敵は時と空間を操るのだから。

 

 しかし、ウラノスの見解は違った。

「地上の子らで勝てぬなら、“地底の子ら”に協力を求めるしかあるまい」

 

「それは――」

 フェルズは大きく慨嘆する。

「会見を成功させることが一番ということか」

 

      ★

 

 迷宮都市オラリオは都市国家の体裁を取っているが、実態は無政府都市であり、

 

 無法都市だ。

 

 司法でも律法でもなく、神々とその眷属の道理や理屈で回る。技術や文化の水準は高くとも、その統治構造は酷く稚拙な都市なのだ。

 まあ、これはオラリオに限らない。

 神の時代を悲観的に表現するなら、人間が超越存在の横暴に苦しめられても泣き寝入りするしかないディストピア、と言えるのだから。

 立憲君主議会制国家で法治国家である諸島帝国の方が、むしろ異質な少数派だろう。

 

 ともかく、行政も法も無い都市のスラムともなれば、そりゃもう酷いものだ。

 

 事実、迷宮都市のスラムは無秩序な混沌そのものだった。住民の身勝手な建築と改築が幾重幾層にも連なり、グロテスクな立体迷宮と化している。廃虚や瓦礫も多く、道はゴミに塗れ、排水溝は汚物が詰まって久しい。死体も転がっていたりする。悪臭と汚臭に満ちたその姿はまさに掃き溜めそのもの。

 

 当然ながら、そんな掃き溜めに住む連中も大概だった。

 行き場の無い貧乏人。親に棄てられた浮浪児。日の当たるところから転落したロクデナシ。“普通”に生きられない社会不適合者。何もかも嫌になった乞食。悪さをして逃げ込んだ犯罪者。廃人一直線なアルコール中毒者に薬物中毒者。バカアホマヌケにカスゲスクズ。

 こんな奴らが住んでいて、治安が良いわけもなく。都市衛兵を気取るガネーシャ・ファミリアでさえ、ここにはそうそう足を踏み入れない。

 

 まさに無法都市の中でも最悪の無法地帯。“世界の中心”オラリオの掃き溜め。

 その名は広域住居区『ダイダロス通り』。

 

 

 

 

 戦鎚を振るうその姿は悪鬼か野獣(ケダモノ)か。

 

 ペストマスクに似た鳥面の覆面を被った上半身裸の大男トーマスは、フシューフシューと嘴の中で息を荒げながら、エグい形状の戦鎚をハーフドワーフ男性の頭へ振り下ろす。

 不気味な破砕音と共にハーフドワーフ男性の頭部がぺしゃんこに潰れ、圧潰した頭蓋から血液混じりの脳漿などをまき散らしつつ、命が消失した肉体が崩れ落ちる。

 

「ひぃ、あ―――っ!?」

 ナイフを握る小人族の男が踵を返して逃げようとするも、鳥面大男が返す刀で振るう横薙ぎの一打に捉えられた。

 

 交通事故のような激突音が響き、小人族の男が宙を舞う。小さな体が汚れた石畳の上に血痕を残しながら跳ね転がっていく。運動エネルギーが尽きて止まった頃には、小人族の男は体中が捻じれ、歪み、曲がり、潰れ、二度と動かなかった。

 

 かたや視線を移せば、朱色を基調にしたエキゾチックな装いのエルフ美女エリノールが、棘付鉄球棍(フレイル)を舞うように振るい、ガラの悪いヒューマン男性を滅多打ちにしていた。

 鉄球が走る度、肉が潰れ、骨が割れる音が響き、鮮血が踊って、ヒューマン男性の悲鳴が上がる。それでいて、舞うように鉄球を振るうエリノールは返り血一滴浴びることがなく、鉄球が血飛沫を曳いて踊る様は、一種の美すら見いだせた。

 もっとも、ヒューマン男性はそれどころではない。棘付鉄球が駆ける度、体を削がれ、肉を潰され、骨を砕かれているのだから。

「も、ももぅ、もっも、やめ、やっめ」

 ヒューマン男性の哀願が唐突に絶えた。鉄球が深々と顔面に埋まり、命までも潰し砕いたから。

 

 好天の下、快い日差しが降り注ぐ昼下がり。

 出来立て死体達から流れる鮮血が、ゴミと汚物に汚れる石畳を赤々と染めていく。

 

「久しぶりに帰ってきたと思ったら、早々に通りを汚すんじゃあないよ」

 ふらりと老婆が姿を現し、凄惨な殺人現場に足を踏み入れた。

 

「こいつらがいきなり強盗(タタキ)を仕掛けきたんですよ、ぺニア様」

 エリノールは息を整えながら鉄球棍を振るって血を払い、懐から小袋を取り出して老婆へ放った。

「後始末は任せます」

 

「神を掃除屋扱いするんじゃあない。罰を当てるよ、エリノール嬢ちゃん」

 貧窮を司る女神ペニアはダイダロス通りを縄張りにしている。

 

 といっても、貧乏神の眷属になりたがる者はいないため、ファミリアは率いていない。

 ただ、ペニアが縄張りにしている辺りでは、貧乏神の神威を嫌厭してギャングやロクデナシがあまり近づかないため、比較的安全だった。それにペニアは金持ちから銭を毟っては気前よく貧乏人に分け与えるため、住民達からは敬意を払われている。

 

「近いうちに御仕事を依頼するかもしれません。その時はお願いします」

 エリノールはペニアの小言を無視して一方的に告げ、『いくよ』と鳥面大男トーマスを連れて去っていった。

 

「久方振りに顔を合わせたってのに、相変わらず可愛げのない嬢ちゃんだ」

 ペニアは鼻息をついて死体を一瞥し、右手を上げてくるくると回す。

 

 すると、通りの物陰から乞食や浮浪児が鼠のように現れ、出来立てほやほやの死体に群がり、装備や所持品、血塗れの着衣まで奪い取っていき、果ては死体さえ持ち去られた。死体がどう扱われるのかは……女神ペニアも関知したくない。

 

「やれやれ。オラリオは底辺すら豊か過ぎる……と思っちゃあいるが、人心の方は随分と貧しくなってきたもんだ」

 ペニアは威風堂々と建つバベルの巨塔を見上げ、嘲罵を込めて鼻を鳴らす。

 

 この箱庭で遊び惚けている馬鹿共や、この世界のあちこちで好き勝手している阿呆共は、分かっているのだろうか。

 

 人間はじきにモンスターを見るような眼で、神々を見るようになるだろうことを。

 暗黒期以来、オラリオで神々を冷たい目で見る人間がどれほど増えたことか。

 

 特にド低能な愚神エレボスが起こした『大抗争』。三万余のオラリオ住民が死に、その数倍の住民が都市内難民となった。あのクソバカがやらかして以降、オラリオ内では静かに、だが確実に『反神思想』が広がっている。

 

 そりゃそうだ。神々の身勝手な理屈で大切な人を奪われ、生活を壊され、夢や希望を踏み躙られ、人生を砕かれた。こんな仕打ちを受けてなお神々を尊崇し畏敬するほど、人間という生き物は信仰心が篤くないし、か弱くない。

 

 ペニアは目線を下げ、街角に書かれた落書きを一瞥する。

 

『Skull will Come Again』

 髑髏はいつか帰ってくる。

 

 新しき言葉と髑髏のマーク。かつてこの街で跳梁した髑髏の異能者。この掃き溜めにはあの凶徒を讃える者達が少なくなく、再来を願う者もまた少なくない。

 神とその眷属達を憎み、恨む者達。それに――ペニアの脳裏に先ほど顔を合わせたエルフ娘がよぎる。

 神ではない何かを尊崇する者達。

 

 ペニアはギルド本部地下の老大神を思い浮かべ、

「穴っぽこばかり見てるうちに、土台を崩されちまうかもね」

 寒々しく嘯き、血の臭いが漂う街角を去っていった。

 

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