虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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14:クラネル君とアーデちゃん。

「アスラ君、エミール君。ちょっといいかな?」

 炉の女神ヘスティアは居住まいを正し、

「御近所の誼でお願いがあるんだっ!」

 アスラーグとエミールへ勢いよく頭を下げた。長いツインテールが大きく踊る。

 

「少しの間、ベル君に冒険者の先達として色々教えてあげてくれないかな? 御礼にじゃが丸君をたっぷり贈らせてもらうからっ!」

 

 初めての眷属(我が子)が心配なママは、ベル少年が危ない危ないダンジョンでモンスター達に虐められないよう、御近所のおっかないお兄さんお姉さんに“習い事”をさせたいらしい。授業料はずいぶん安いが。

 まあ、ヘスティアの心配も分からなくはなかった。ベル・クラネル少年はどうにもダンジョンで長生き出来そうな人種に見えない。

 

「お顔をお上げください、ヘスティア様」

 アスラーグはやや困り顔で言った。

「私共はヘスティア様のおかげで三年振りに祖国へ便りを出すことが出来ました。その御厚情に報いるべく御要望にお応えしたいところですが、ダンジョン絡みとなりますと、私共も安請け合いは出来ません」

 

 半端に面倒を見た結果、ベルが死んだり不具になったりした場合、アスラーグ達にはとても責任が取れない。ファミリアが違う関係もあって、こういう事情を無視できない。

 

「少々生臭い話になりますが、クラネル少年に費やす時間で我々の収入が大きく変わります。私達だけでなく、共にダンジョンへ潜っている者の了承も必要です」

 エミールも難しい顔つきで言った。

 

 アスラーグとエミールの否定的な回答に、ヘスティアは心なしかしょんぼりし始める。

「余所のサポーター君と専属契約してるんだっけ?」

 

「ええ」エミールは首肯し「今のところ私共は主に中層で活動しております。クラネル少年と共にダンジョンへ潜るとなると、上層で活動することになるでしょう。収益が桁で変わってきますから、そのことで話し合わねばなりません」

 上層と中層では本当に稼ぎが桁で違ってくる。稼ぎに比例して危険も桁で違うけれども。

 

「け、桁で違ってくるのかぁ。それじゃ確かに話し合いが必要だね……」

「ですので、返事は少しお待ちくださいますか? ベル君もダンジョンへ潜るためにいろいろ支度が必要でしょうし」

「そうだね……」

 ヘスティアのツインテールがしおしおと萎れ、しょぼーんと肩が落ちる。

 

 すっかり気落ちしてしまったヘスティアを慰めるように、アスラーグが柔らかく微笑みかけた。

「出来るだけヘスティア様の御希望に沿う形になるようしてみます」

「ありがと、アスラ君。エミール君。よろしく頼むよ」

 

 

 

 ヘスティアの許を辞して借家へ戻る道すがら、

「どう思う?」

 アスラーグに問われ、エミールはどこか困り顔で応じた。

「次の作戦次第だ。時間が取れるなら少しくらい面倒を見ても良い」

 

「……そうね。フェルズと接触したばかりだし、向こうの出方も探りたい。少しの間、ヘスティア様のお願いに応えても良いわね」

 相棒の意見に同意しつつ、アスラーグは思い出したように言った。

「――たしか、虚無信奉者達がダイダロス通りに店を構えていたわね。彼女達にも接触しましょうか。イケロスはファミリアごとスラムに潜っているらしくて、ギルドも実情を把握してない有様だから」

 

 エミールは宵の口の空を見上げ、ウームと唸る。

「となると、後はアーデ嬢の説得だな」

 

         ★

 

 翌日。

 英雄に憧れ、ダンジョンに出会いを求める美少年ベル・クラネルが、最初の洗礼――冒険者ギルドで美人受付嬢エイナ・チュールの過酷な詰め込み教育を受けている頃。

 

 エミールとアスラーグはリリルカを伴ってダンジョンに潜っていた。

「新人教育、ですか」

 片眉をあげたリリルカへ、エミールは歩きながら頷く。

「ああ。知己を得た女神様に眷属が出来たそうでな。ベル・クラネルというんだが、少しの間、面倒を見てくれと頼まれた」

 

「……それはまた。ファミリアでもない御二人に頼むなんてズレた話ですね」

 リリルカはどこかむっすりと応じる。

 

 主神の計らいで指導役を付けて貰えるなんて、とリリルカは顔も知らぬベル・クラネルに嫉妬を抱く。

 自分にはそんな機会も人も無かった。幼い頃から周囲に罵倒され、蹴られ、嘲笑され、殴られ、上前をハネられ、報酬を誤魔化されながら、独力でダンジョンを、オラリオを生き抜く術を学んできた。誰かに教え導いてもらうことなんて、無かった。

 

 それを昨日今日オラリオに来た奴がアスラーグ様達に教導してもらえるなんて―――ずるい。

 

 リリルカが鬱屈した感情を抱いたところへ、

「これはアーデ嬢にとって必ずしも悪い話でもない」

 エミールが言った。

 

「と、おっしゃいますと?」

 訝るリリルカへ、アスラーグが説明する。

「私達がベル君の面倒を見ている間、収入は減るけれど……リリちゃんがベル君と一緒に冒険者をやってみても良いと思うの」

 

「――――」

 その提案にリリルカは思わず息を呑む。自然と右腰に下げたクロスボウへ意識が向く。

 

 これがあれば、自分も冒険者のように戦うことが出来る。

 

 リリルカは冒険者が嫌いだ。これまで散々虐げられてきたのだ。恨んでいるし、憎んでいる。一方で、リリルカは冒険者に憧れている。自分も冒険者になりたいと願ってきた。

 仮とはいえ、その機会が巡って来たことに、リリルカは困惑や不安、それらに優る昂奮を覚えていた。

 

「どうする? リリちゃん」

 アスラーグが柔らかな面持ちでリリルカに問う。

 

 リリルカは胸の奥に熱を感じながら、ゆっくりと口を開く。

「一つだけ確認させていただきたいのですが……お二人がクラネル様の訓練もなさるので?」

「基本だけな」とエミール。

 

 リリルカはぎゅっと拳を握りしめた。

「よろしければ、リリも一緒に訓練を受けさせてください」

 忌々しいファミリアと主神から解放された後、冒険者として生きていくかは決めていない。

 それでも、この2人から学ぶことはきっと役に立つから。

 

         ★

 

 でもって、さらに翌日。迷宮都市西区の市壁上にて。

 

 エミールとアスラーグは小人族の可憐な少女をヒューマンの白兎っぽい美少年に出会わせた。

「クラネル少年。こちらはリリルカ・アーデ嬢。俺達と専属契約しているサポーター兼射手だ」

 

「よろしくお願いします、ベル・クラネル様」

 ぺこりと丁寧に一礼するリリルカ。

「ベル・クラネルです」ベルも丁寧に挨拶を返し「様なんて付けないで、ベルでいいよ」

 

「そういう訳にはまいりません。サポーターと冒険者は明確に立場が違うのですから」

 リリルカに強い口調できっぱりと告げられ、ベルは戸惑いながらアスラーグとエミールへ顔を向けた。

「そう、なんですか?」

 

「オラリオの冒険者業界はそういうことらしいわ」とアスラーグが首肯し、

「ま、お互いの呼び方は好きにしろ。今回、一週間だけクラネル少年に冒険者教育を行うことになった。まず三日間の基礎訓練を行い、残る四日間はダンジョンで実戦訓練だ」

 エミールはベルの装いと武器を見る。

 

 冒険者向けの黒い上下とカーキ色のコート。小型背嚢に腰に挿した短剣。ギルドが貸し出した小銭でとりあえず一式揃えました、という見事な駆け出し冒険者振りだ。

 

「……クラネル少年の得物は短剣か」

「あの、何か不味かったですか?」

 何かしくじったか、と心配そうに眉を下げるベルへ、エミールは顎先を掻きながら答えた。

「不味いというか、短剣やナイフは扱いが難しい」

 

「え」

 どういうこと? と目を瞬かせるベルへ、アスラーグが微苦笑と共に説明する。

 

「ナイフや短剣は刀身が短いから、相手の間合いに深く踏み込まなければならないの。つまり、それだけ危険が大きい。それに、殺傷力が乏しい。皮膚や脂肪層をどれだけ傷つけても、嫌がらせにしかならないわ。筋肉を破損させ、血管や神経を切断し、臓器を損傷させ、初めて敵を倒せるのよ」

 

 例を見せよう、とエミールは傍らに置いてあった鮪切包丁モドキを抜き、ベルに短剣を抜かせる。

「刀身の長さだけでも単純に3倍以上違うだろう? これに俺とクラネル少年の腕の長さが加わる。仮にクラネル少年が俺と戦う場合、得物の間合いの差を詰める反射神経、体裁き、技、戦術が必要になる。ナイフ遣いが総じて体術に長けている理由だな」

 

 ベルはエミールの鮪切包丁モドキ――肉厚で厳めしい木目紋様の片刃直剣と自分の短剣を見比べながら、エミールに問う。

「つまり、ナイフや短剣で戦うには体術も修める必要がある、ということですか?」

 

「そうだ」エミールは首肯し「ちなみに、剣術はアスラが詳しい」

「私の剣は淑女の嗜み程度のものだけどね」と上品に微笑むアスラーグ。

 

 淑女の嗜み……? あれが? ダンジョンでアスラーグの暴れっ振りを知るリリルカは密やかに訝る。

 

「と言っているが、短剣の二刀流、短剣と長剣の二刀流も扱える」

「二刀流っ! 格好良いですねっ!」

 エミールの言葉にベルが紅い瞳を輝かせた。オトコノコなら二刀流に憧れる。仕方ない。

 

「さて。体術や二刀流はともかく、ナイフや短剣の基本は刺突だ。斬る、裂くは牽制に用いる」

 目をキラキラさせているベルと真剣な面持ちのリリルカへ、

「これはさっき言った刀身の短さが問題になるからだ。刃渡りが短いと斬りつけても骨を断つことが難しいから、臓器や主要血管を損傷できない。つまり致命傷にならない。だから、短剣やナイフの斬撃で致命傷を与える場合、相手が人間なら首元や四肢の動脈、腱などを狙うことになる」

 エミールは自分の首や手首などを示しながら説明し、

 

「ふむ。君らは恩恵持ちだからな。基礎訓練は体力強化より掛かり稽古を主にしようか」

 相棒の黒妖精へ告げた。

「アスラ。短剣術をクラネル少年に教えてやってくれ」

 

「あら。エミールが教えなくていいの?」

 どこか楽しげに表情を緩めるアスラーグ。

 

「俺のは軍隊式の近接戦闘術だ。クラネル少年には正統派の剣術を教えた方が良いと思う。それで、アーデ嬢」

「はい」

 目線を向けられたリリルカは居住まいを正す。

「アーデ嬢は基本的に射手だが、距離を詰められて近接白兵戦を行わねばならない状況もあるだろう。よって、アーデ嬢には剣術ではなく、帝国軍式近接戦闘術を教える。殴る、蹴る、投げる、極める、いなす、防ぐ、これら一通りを行えるようになって貰う」

 

「た、大変そうですね」

「なに、回復剤は用意してある。多少怪我をしても問題ない」

 しれっと告げられた言葉にリリルカが顔を引きつらせ、

「痛みへの慣れは荒事稼業の必須よ。ベル君」

 アスラーグの怖い微笑みにベルも顔を強張らせた。

 

 

 

 で、時は流れて夕暮れ時。

 

 

 

 市壁の石畳に少女と少年はグロッキー状態で転がっていた。

 回復剤のおかげで怪我はないが、消耗した体力までは戻らない。

 

「……リリ、生きてる……?」

「ベル様こそ、生きてますか……?」

 くったくたに疲れ切った2人がそんなやり取りを交わす中、アスラーグは満足げにニッコニコしていた。

「可愛い子達が真剣に頑張る姿って素敵よね。お姉さん、ついつい熱が入っちゃったわ」

 

「2人とも筋が良い。学びが早い。明日以降もその調子で頑張れ」

 エミールは褒めつつも内心で冷ややかに思う。

 たかが三日の速成教育でまともに戦えるようになれば世話は無い。

 

       ★

 

 そんなこんなで三日が過ぎ、速成教育は一旦の終わりを見る。

 

 エミールは市壁の胸壁に腰かけ、くたくたに疲れている少年少女へ告げた。

「明日は午後からダンジョンに潜る。今日の夜はしっかり体を休めておけ。俺とアスラも同行するが、基本的にはクラネル少年とアーデ嬢の2人でやってもらう」

 

「ベル君が前衛で、リリちゃんが援護と指示出しが良いと思うわ」

 アスラーグが買ってきた柑橘をベルとリリルカに渡しながら言った。

「賭けても良いけど、初陣のベル君は無我夢中になって周りが見えなくなると思う。だから、リリちゃんがしっかり周辺警戒と援護、ベル君へ指示出しをしてあげないと、群れに遭遇した時、ベル君は取り囲まれて死んじゃうわ」

 

 さらっと怖いことを言われ、『ええっ!?』とベルが顔を蒼くした。

 ベルの命の責任を負わされたリリルカも息を呑んで、身を固くする。

 

 エミールは柑橘の皮を剥きながらリリルカへ問う。

「アーデ嬢。やれるな? 明日はサポーターではなく射手として、クラネル少年と共に“冒険”できるな?」

 

「――やれます」リリルカは決意を固めた顔で「ベル様。明日はよろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそお願いします」

 リリルカの静かな気迫に呑まれつつ、ベルはこくりと素直に応じた。

 

 初めてのダンジョン潜りを控え、ベルは不安と興奮に胸を高鳴らせる。

 一方のリリルカも冒険者としての一歩を踏み出すことに色々な感情を抱いていた。

 

 そんな少年少女を目にしつつ、エミールは柑橘を口に運び、眉根を寄せる。

「すっぱいな、これ」

 

       ★

 

 そうして迎えるダンジョン初挑戦。

 ベルはギルド本部の受付に赴き、担当職員のエイナ・チュールにダンジョンへ挑む旨を告げた。

 

「これからダンジョンに潜るのね?」とエイナは白兎みたいな美少年へ問う。

「はい、エイナさん。エミールさん達と一緒に潜ります」

 ダンジョン初挑戦を眼前に控え、ベルは緊張と興奮の混ざった顔つきで応じた。

 

「エミールさん?」

 聞き慣れない名前に訝るエイナへ、ベルは掲示板の前へ顔を向け、該当人物を指さす。

「あそこにいる人達です」

 

 長身のヒューマン青年と黒妖精の美女。

「ああ。グリストル氏とクラーカ氏」

 エイナは微かに眉をひそめた。

 

 約一月半ごろ前に諸島帝国から“出稼ぎ”に来たヒューマン青年と黒妖精の美女。担当ではないが、いくつか噂を耳にしていた。

 曰く『上層のモンスターを大量虐殺した』とか、『ダンジョンに潜り始めたばかりなのにかなり稼いでいる』とか、『ソーマ・ファミリアと組んでいる』とか。

 

 最後の噂はソーマ・ファミリアのサポーターを専属に雇っているためだ。エイナは前者二つに関して特に思うところはない。聞けば、あの二人はオラリオ外の恩恵持ちでベテランの傭兵だったらしい。相応のレベルと経験があれば、おかしなことではない。

 

 ただ最後者の一点は気にかかる。

 ソーマ・ファミリアはギルド内でも評判がよくない。しょっちゅう換金所で騒ぎを起こすし、他派閥の冒険者とトラブルを起こしがちだった。

 そんな手合いを専属として雇う二人組。腕は立つようだが、人柄は大丈夫なのだろうか。

 

 自分が担当した新人――それも自分の講義をしっかりと真面目に聞く“有望な”美少年――が妙なトラブルに巻き込まれないか、心配になる。

「ベル君。危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ? 冒険者は冒険をしてはならない、だからね?」

 エイナは多分に含みを込めた忠告を送るが、

「はいっ! エイナさんっ! 頑張ってきますっ!」

 ベルは笑顔で応じた。

 

 正しく理解したのか怪しい調子だが、エイナは美少年の可愛い笑顔に釣られ、自然と微苦笑をこぼしてしまった。

 

 窓口で白兎と美人ハーフエルフがそんなやり取りをしている間、エミールとアスラーグは掲示板に貼られた依頼書の山を眺めていた。

『まさか本当に貼りだすとは』

『向こうとしては他に連絡手段がないからね。やるわよ』

 小声の諸島帝国語を交わす2人の目線の先には、

 

 ――髑髏から髑髏へ。下層の調査を求む。応じられる際は一週間後までに当依頼書を受け取られたし。

 

 嫌になるほど丁寧な筆跡で記されていた。報酬額はおろか具体的な依頼内容すら書かれていないが、ギルドの認証印はしっかり捺印されている。

 

『どうする?』

『今夜、回収しておきなさい。今は人目があり過ぎる』

 仏頂面のエミールへアスラはしかめ顔で告げ、こちらにやってくるベルへ顔を向けた。

「まずは今日の引率をしっかり務めましょ」

 

 

 

 昼を迎えた巨塔バベル前の広場で、リリルカはエミール達を待ちながら、心構えを整えていた。

 ハーネスと装具ベルトで右腰に下げたクロスボウ、左腰に下げた弾薬パウチ、後ろ腰のトラッカーナイフ、とっておきの切り札――エミール達にも教えていない小振りの魔剣も白いローブコート内に収めてある――を何度も確認してしまう。

 

 冒険者として、ダンジョンに潜る。

 こんな日が本当に来るなんて。

 感慨深い、と噛み締めるべきか。それとも、何の因果で、と毒づくべきか。

 

 リリルカは油断なく周囲を窺う。

 朝のうちに雇われ損ねたサポーター連中が、それでも冒険者を探しては声を掛けている。卑屈なほどへりくだって。憐れなほどへつらって。惨めなほどおもねって。

 

 冒険者とサポーターの立場は斯くも大きな違いがある。悪し様に言えば、サポーターとは冒険者に寄生し、おこぼれに与る存在だ。冒険者達もそのことをよくよく知っているから、サポーターを奴隷の如く家畜の如く扱う手合いが珍しくない。

 

 リリルカは冒険者が嫌いだ。憎み恨んでいる。

 同じくらい、サポーターが嫌いだ。卑屈で卑下で惨めで無様で、自尊心と誇りを擦り減らしながら生きていく様が、不快で不愉快で、そんなサポーターとして生きている自分が気に入らない。

 

 でも、それもあと少し。

 

 エミールとアスラーグの専属になって以来、稼ぎは飛躍的に増えていた(命の危険も飛躍的に増えたが)。このまま順調に行けば、もう数週間で目標金額に手が届くはず。

 

 腐れファミリアを抜け、自由を得る。自分の人生を取り返す。

 そのためならば。

 

 リリルカは周囲から密やかに自分へ向けられる目――妬み嫉み僻みや利己的な害意や強奪を目的としたような敵意などを感じ取りながら、右手をホルスターに収まるクロスボウに添え、後ろ腰のトラッカーナイフに意識を注ぐ。

 

 そのためならば。リリは戦うことも恐れません。

 

 

 

 

 

 

 別の時空、次元、世界線において、灰被りの少女は手を差し伸べてくれる王子の登場を待ち続け、救済を願い続け――その祈りは届いた。

 

 しかし、この時空、次元、世界線において、灰被りの少女は王子の到来を待たず、魔女とその仲間のもたらしたカボチャの馬車とドレスとガラスの靴で、閉塞した人生を踏破する覚悟を決めていた。

 

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