虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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20+:トライアル・リザルト

「皆、御苦労さーん!」

 逃げ遅れたらしい迷子を連れ、女神ロキが姿を見せた。

「おっ!? アスたんにエミール君やんかっ! 久しぶりやなーっ!」

 

「これは、ロキ様」「お久しぶりです、ロキ様」

 エミールとアスラーグがロキへ丁寧に一礼する。

 

「固い固い。もっと気楽でええでっ!」

 ロキはにこにこと笑い、戸惑い顔を浮かべている眷属達(子ら)へ告げ、

「皆、もう一仕事頼むわ。アイズは残ったモンスターの掃討。ティオネとティオナは地下水道を見てきてんか? 他にもおるかもしれへんからな。レフィーヤはここで休んどき」

 エミールとアスラーグへ顔を向けた。

「アスたんとエミール君はウチとこの子の親御さん探し付き合ってんか? 先日の件も含めて“色々”話がしたいねん」

 

「ちょっと、ロキ!」

 ティオネが眉根を寄せた。

 エミールとアスラーグの信用性以前の問題だ。恩恵持ちの常識として、主神だけで“他所”の連中と過ごさせるなど絶対にあり得ない。

 なぜなら、ロキが害されて強制送還された瞬間、ロキ・ファミリアの全団員が恩恵を完全凍結されてしまうのだから。

 

「大丈夫やって。迷子を親御さんに届けるまでの間やからな。2人も粗相せんやろ?」

「我が血と主神ネヘレニア様の名誉に懸けて」とアスラーグは真摯に答え、

「ロキ様に何かあらばこの首を差し出しましょう」とエミールは丁重に一礼する。

 

「ちゅーわけや。ほな、また後でなー」

 ロキは迷子の女の子の手を引きながら、アスラーグとエミールを伴って歩み去っていく。

 

 渋面を浮かべてロキ達の背を見送り、ティオネは大きく息を吐いた。

「あのお調子者はまったく……行くわよ、ティオナ。さっさと確認を済ませてロキのところへ行きましょう」

 ティオナはロキ達の、特にエミールの背を何とも言えぬ面持ちで見つめ、

「分かった。それじゃアイズ、レフィーヤ、また後でね」

 姉と共に駆けだす。

 

 山吹色の髪をしたエルフ少女レフィーヤ・ウィリディスは、黙りこくっているアイズへ不思議そうに尋ねた。

「アイズさん? どうかしました?」

 

「……ん。なんでもない」

 首を横に振り、アイズは手持ちのポーションを半分飲み、

「残りは呑んで」

 ポーションの瓶を負傷したレフィーヤに渡し、ロキの命令通りに逃亡モンスターの捜索と掃討へ向かう。

 

 レフィーヤは去っていくアイズの背を見送り、手の中にある飲みかけポーションを見て、

「!! これは、か、かか、間接……キッスッ!?」

 顔を赤くして身悶えしていた。

 負傷していることも大魔法をぶっ放した疲労も忘れて。

 

         ★

 

 バラックの奥へ引きずり込まれた先、ベルの視界に映ったのは――

 鳥面マスクを被った上半身裸の大男と、朱いロングスカーフとゆったりした衣装をまとうエキゾチックなエルフ美女。なんとも蓮っ葉な印象の老婦人。

 それに、女神ヘスティア。

 

「ベル君っ! 無事でよかったっ!」

 ヘスティアに抱きつかれ、ベルは困惑する。

「神様っ!? なんでここに……それにこの人達は?」

 

 当然の疑問に対し、ヘスティアはベルに抱きついたままエキゾチックなエルフ美女と、おっかない鳥面大男のことを説明し、次いで、老婆を紹介する。

「彼らはこの区画に住んでいる冒険者でエリノール君とトーマス君だ。それと、こっちは女神ペニア。ここらを縄張りにしてる気難し屋さ」

 

 雑な紹介に女神ペニアが嫌そうに顔をしかめた。

「泣きながら助けを求めてきたくせ、随分な紹介の仕方じゃあないか。ええ、オボコ女神」

 

「ベル君の前で変なこと言わないでくれよっ!? それに、僕らの郷里では、むしろオボコは良いことじゃないかなっ!?」

「言われてみりゃそうだね。オリュントスは変態性癖のロクデナシばかりだ」

 やいのやいのと語り合う女神達に、置いてきぼりのベルが困り顔を浮かべる。

「あの、神様?」

 

 ヘスティアは居住まいを正し、ベルを真っ直ぐに見つめた。

「ベル君。あのモンスターはエリノール君とトーマス君がやっつけてくれる。だからベル君はもう戦わなくても」

 

「ダメですっ! そんなの、絶対ダメですっ!」

 ベルはヘスティアの言葉を遮るように叫び、拳を固く握りしめて真剣に訴えた。

「あのモンスターは、僕が倒しますっ! 僕が倒さなきゃいけないんですっ! お願いします、神様っ! 僕に、僕に戦わせてくださいっ!」

 

「ベル君……」

 ヘスティアが肩を落とし、ツインテールを萎れさせたところで、ペニアが口を挟む。

「何、しょげてるのさ。坊主が男を見せようってんだ。女なら背中を押してやるもんだろ」

 

「でも、ベル君はボクの大事な子供なんだよ。ボクの、たった一人の子供なんだよ、ペニア」

 泣き出しそうなヘスティアを、ペニアが鼻で笑い飛ばす。

「あんたが親だってんなら、猶の事見守ってやんなよ。坊主が男に見せるところをさ。呼び出して悪いが、あんたらもそれで良いね?」

 

「私達はどちらでも。トーマスも良いわね?」

『フシュー』

 水を向けられたエルフ美女エリノールは肩を竦め、鳥面大男トーマスは大きく頷く。

 

 外堀を埋められ、ヘスティアは目を瞑って大きく深呼吸した後、刮目してベルを見つめた。

「……一つだけ条件がある。ベル君を戦いに送り出すのは、ここで恩恵を更新してからだ」

「ここで、ですか?」とベルは紅眼をぱちくり。

 

「坊主、この女神はあんたの恩恵を少しでも強くしてやりたいのさ。過保護なこった」

 意地悪に笑うペニアへ、ヘスティアは噛みつくように言い返す。

「内助の功といって欲しいねっ!」

「それは親ではなく妻では?」とエリノールが野暮なツッコミ。

 

「あー、うるさいっ! ステータス更新するから君らは出てけっ!」

 

 ヘスティアにバラックの外へ叩き出され、エリノールは朱いロングスカーフを弄りながら呟く。

「ペニア様が他の神と親しくされているところを初めてみましたよ」

「別に親しいわけじゃない。あのオボコ……いや、ヘスティアが変わり者ってだけさ」

「? それはどういう意味です?」

「しょうもない天界の事情って奴さね。人間が知ることじゃあない」

 

 ペニアがエリノールの問いをはぐらかしていると、バラックからベルとヘスティアが出てきた。恩恵の更新が終わったらしい。

 

 外套や装備を外し、黒い上下姿のベル・クラネルは黒い短剣を握りしめ、

「ボクはここで見守ってる。だから、思い切りやって来い、ベル君っ!」

「はいっ!! 神様っ!!」

 女神に見送られながら戦いへ征く。

 

        ★

 

 幾度も振り返って頭を下げる母親と手を振る女の子に向け、ロキはニコニコしながら手を振り返す。

「地上の子らはほんまに可愛いわ」

 しみじみと吐露し、アスラーグとエミールに向き直る。

「先日はウチの子らが迷惑かけてすまんかったなぁ」

 

「視界の悪い階層での不慮の出来事。その御心遣いで充分です」

「御眷属のディムナ殿と円満な示談を済ませておりますので、そうお気になさらず」

 2人が丁寧に応じる。そこに感情的思考的な嘘偽りは感じ取れない。女神に対して確かな礼節と崇敬がある。

 

 同時にその丁重さが一種の“護身”であることも、ロキは見抜き始めていた。

 天界指折りの謀神らしい鋭敏な直感と見識。独自の伝手やフィン達の報告などにより得た情報。加えて、この2人が重要な密命を負っているという推論。

 これは一筋縄にはいかんな……面白い。

 

 ロキはにっこりと唇の両端を吊り上げ、悪戯っぽく言った。

「しっかし、エミール君。ウチの子を御姫様抱っこちゅうんはいただけへんな。ウチの子らはウチ以外の御触り厳禁やねんでっ!」

「あの場における最も無難な対処をしたつもりなのですが……」と眉を大きく下げるエミール。

 

「まあ、御触り厳禁は冗談やけども……エミール君。レベル3なんやろ? レベル5のティオナの蹴りをよぉ防げたなぁ」

 ロキが糸目の奥から顕微鏡を覗くような眼差しを向ける。

「ティオナがゆうとったで。もうどうしようもないような状況で、エミール君のこと殺したぁ思うたって。なのに、気づけば御姫様抱っこされとって訳わからんーって唸っとったわ」

 

「簡単に言えば、アビリティとスキルです」

 エミールはあっさりと言った。

「自分は機動戦重視の軽戦士系アビリティとスキルを有しておりますので」

 

「なるほど、なぁ……」

 言葉に嘘はない。偽りもない。誤魔化しもない。事実を述べている……訳ないな。上手いこと誤魔化しよるわ。そこらの神々(バカ共)より賢いんちゃう?

 

「アビリティとスキルのお話で思い出しましたが……ロキ様の御眷属。ウィリディスさんでしたか。あの可愛らしいエルフのお嬢さんは、素晴らしいですね」

 アスラーグが横から言った。

 

「せやろっ!? レフィーヤはええでっ! 可愛いし、魔法も凄いしっ! ウチんとこの期待の星やっ!」と得意げに子ども自慢するロキ。

「あの魔力量は早々類を見ない規模でした。才能と素質に恵まれた子ですね」

 どこか感傷的に呟くアスラーグに、ロキは興味が強く惹かれ、一歩踏み込もうとした矢先。

 

 通りの先から逃げ惑う人々と、ふらりふらりと歩く二足歩行の一角兎(アルミラージ)が目に映る。

「ありゃ。アイズたん、まだ狩り終わってなかったん――なんやの、あれ」

 

 アルミラージは血に塗れており、周囲には冒険者達が半死半生の有様で倒れており、悲鳴や呻き声を上げていた。

 眼前のアルミラージは、体に刻まれた深手の傷や目鼻口から極彩色のツタが溢れ出ていた。その冒涜的異質さは見る者に本能的な不快感と忌避感を強く訴えてくる。

 何より、後にこのアルミラージの話を聞いたアイズはロキに語る『あのアルミラージなら、ちゃんと倒したよ』と。

 

「ロキ様、お下がりを」

 エミールとアスラーグが慄然とするロキを守るべく一歩前に出た。

 

        ★

 

 レアスキル『憧憬一途』によって恩恵のステータス値が爆発的に上昇し、ベルは体の感覚に戸惑っていた。

 どこまでも駆けて行けそうな、どこまでも跳びあがれそうな、何でも出来てしまいそうな、強烈な万能感。

 強化された肉体への歓喜と感動。頭と心を満たしている恐怖と昂奮と怯懦とスリル。

 

 ――ダメだ。冷静さを失うな。

 初めてモンスターと戦った時のような失敗を繰り返すな。

 エミールさんに教わったことを思い出せ。頭を使え。知恵を絞れ。知識と経験を活かせ。

 アスラーグさんに習ったように。僕もあの電光石火のような一撃離脱を。

 リリの指示や言葉を活かすんだ。この戦いもリリと一緒に戦った時と同じように。

 

 このモンスターに勝つんだっ!!

 ベル・クラネルは黒き短剣を固く握り、巨猿に挑む。

 

 巨猿の豪打を掻い潜り、鞭の如く振るわれた拘束具の鎖を飛びかわす。矢の如く踏み込んで斬りつけ、風のように離脱する。

 そこに力無き少年の姿はない。恩恵で強化された肉体を駆使する歳若き戦士が、乱雑な家屋が連なる立体迷宮を縦横無尽に勇躍する一人の冒険者が、そこに在る。

 

「典型的な恩恵頼りの戦い方だな」

 腕を組んで戦いを眺めるエリノールが呟く。

「戦技もない。戦術もない。練度もない。恩恵に頼っているだけだ」

『フシューッ!』

「ああ、そうだな、トーマス。恩恵に頼った戦い方だが……見苦しくはない」

 

 使い手と共に成長する神匠の黒短剣を握りしめ、ベルは巨猿を少しずつ弱らせていく。

 甲冑同然の拘束具を断ち切り、皮膚を裂き、肉を切り、白い体毛を血に染めさせる。短剣ゆえの刀身の不足を手数で補う。幾度も斬りつけ。幾度も突き刺し。少しずつ、確実に追い詰めていく。

 

 頭を使え。知恵を絞れ。考えろ。

 僕にはまだこのモンスターを一撃で倒す力も技もない。だから、弱らせろ。確実に倒し切れるまでっ!

 

 苦痛と苛立ちと焦燥。巨猿がひときわ大きな咆哮を上げ、両拳を高々と振り上げ、体ごと振り下ろす。

 

 ベルは左右に避けず、後ろへ引かず、上へ逃れず、()()()()()()()

 巨猿の大きな両拳のわずかな隙間に向かって。

 

 致死の巨拳が身をかすめ、風圧と衝撃がベルの身体を苛み、骨をきしませる。

 それでも、ベルは勇気を砕かれず、ベルは止まらず、死線を一気に駆け抜けた。白い髪をたなびかせながら。

 

 ()の隙間を突破し、両腕の内に入り込めば、そこには大きく位置を下げた巨猿の首。

 ベルは叫びながら短剣を逆手に握り替え、跳躍と共に刀身を巨猿の首へ滑り込ませた。肉を深々と切り裂く感触を手に覚えながら刃を振り抜き、高々と宙へ舞い上がる。

 

 空中で身を捻って見下ろした先に、喉首を斬り裂かれて大出血して崩れ落ちる巨猿のうなじがあった。

 両手で黒い短剣を強く握り、ベルは重力に乗って巨猿のうなじ目掛けて飛び込んでいく。

 

 通りに響く衝撃音と巨猿の大叫喚。

 

 黒い短剣が巨猿のうなじに深々と埋まり、その刺突衝撃が太い頸椎を破壊。巨猿を血溜まりへ沈める。

 巨猿は自らの血の海に倒れ、二度と動かない。

 

 ――勝った。

 

 勝利を実感した直後、ベルの身体に凄まじい疲労感が襲ってくる。

 それでも、膝はつかない。

 物陰から満面の笑顔を浮かべて飛び出してくる女神がいるから。

 そこら中の建物から住人達が姿を現し、歓声と拍手を贈ってくれているから。

 男の子の意地だ。情けないところは見せられない。

 

 ベル・クラネルは巨猿の骸からゆっくりと降り、女神の許へ向かう。

 大事な家族の許へ帰るように。

 

 おめでとう。

 人混みの陰に居たアイズが心の中でベルに祝福の言葉を贈り、その場を去っていく。

 とある建物の屋上で美神が腰を抜かしそうなほど蕩け、その隣で都市最強の男が無心で仁王立ちしているが……まあ、ベルもヘスティアも住人達も気づいていないし、放っておいてよかろう。

 

      ★

 

 一角兎、否。その魔兎は冒険者の両手斧を拾い上げると、“ロキ”へ向かって凄まじい速度で襲い掛かってきた。

 

「ひっ!?」

 ロキが悲鳴を上げると同じく轟音が響き渡り、閃光と火花が爆ぜた。

 

 短剣で魔兎の一撃を弾いたエミールは、舌打ちする。今の受け流し(パリイ)で護身用ナイフが完全にひん曲がった。

「ウサ公のくせに、なんて馬鹿力だ」

 

 小柄な体躯からは想像もつかぬ凄まじい膂力。常の一角兎ではありえない。

 一旦距離を採った魔兎は両手斧を八双に構え、ツタが溢れる眼を蠢かし、ロキを睨みつける。

 

「なんでウチのこと睨むんっ!? 兎に恨まれる覚えはあらへんぞっ!?」

 顔を蒼くするロキ。

 

 得物が無いエミールは冷徹に思案する。虚無の手を使えば、倒れている冒険者達の得物を即座に確保できるが、神の前で虚無の力はあまり使いたくない。同様の理由で他の超常も却下。純粋にチャンバラで戦うしかない。それはそれで得物が無い。

 

「黒き水面より出でて食らいつけっ! アンブラ・ピストリクスッ!」

 そこへ、アスラーグが短文詠唱。

 漆黒の大鮫が魔兎の影から飛び出し、真っ黒な顎を広げて襲い掛かる。

 

 魔兎は咄嗟に大鮫の顎を避けるも、左半身をごっそりと食い千切られた。

 しかし、魔兎は死なない。欠損した創傷部から無数のツタ状触手が生え伸び絡み合って、左腕や左脇腹、左足を再構築。

 

「正体は兎の皮を被った植物系モンスターか」とアスラーグがシャーレを覗くような顔で呟く。

 

 刹那、魔兎の口が裂けるように開き、喉奥からゴソリと“花”が生え出す。

 

「あのきっしょい花、さっきアイズ達が戦ってた蛇モドキと同じ、か?」

 ロキが呻くが早いか、魔兎が左腕の触手をほどき、鞭のように振るった。打擲の嵐がロキ目掛けて荒れ狂う。

 

「失礼します!」「ひょえっ!?」

 エミールはロキを御姫様抱っこし、右へ緊急回避。アスラーグが左へ大きく回避。

 触手が直撃した石畳がばかんと割れ砕け、飛礫が舞う。

 

「エ、エミール君っ! 女の子をほいほい抱きかかえたらあかんよっ!?」

 場違いと分かりながらもロキは蒼かった顔を赤く染めていた。胸がド平坦でも女好きでも、ロキは女神だもの。女心があるんです。涼しげな優男に抱きかかえられれば、吊り橋効果と合わさってトキメいちゃったりするのだ。

 

「申し訳ありませんっ!」と触手の打擲を避けながら詫びるエミール。

「エミールッ!」左へ避けたアスラーグが冒険者の長剣を拾い上げて掲げる。

 

 エミールはアスラーグの許へ跳躍し、

「任せるっ!」

「ちょっ!?」

 ロキをアスラーグへ投げ渡して代わりに長剣を受け取る。

 

「ウチを荷物みたく放るなーっ!?」

 今度はアスラーグに抱きかかえられたロキの抗議を背に受けながら、エミールは滑るように駆けて魔兎へ迫っていく。振るわれる幾鞭の触手をさぱりと長剣で切り払い、大きく踏み込む。

 

 魔兎が右手に握る両手斧の振り下ろしを長剣の鎬で弾く。両手斧の横薙ぎを長剣の鎬で受け流す。両手斧の袈裟切りを長剣の鎬でいなす。両手斧の切り上げを長剣の鎬で受け逸らす。

 

 双方の鋼が交差して接触する度、固い衝撃音が通りに響き、閃光が煌めき、火花が舞う。

 さらに、剣戟に加えて、魔兎の触手が振るわれるも、エミールは動じることなく触手の嵐を切り払い、避け、かわす。

 

 刻印持ち(ヴォイド・ウォーカー)の力を一切使わずに、エミールは自身の力と技のみで全ての攻撃をさばいていく。

 激しい攻防の最中でも、エミールは思考を止めない。

飢血(ブラッドサースト)』は拾い物の剣がイカレるかもしれないから却下。『敏捷(アジリティ)』だけでしのぐしかない。ま、このウサ公が()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 閃光が爆ぜ、火花が弾け、斧は防がれる。避けられ、斬り払われ、触手は届かない。

 全ての攻撃を防がれ続けて苛立ったのか、狙いのロキを襲えず腹が立ったのか、魔兎が激昂してエミールへ襲い掛かった。

 

「今だ」エミールは言った。

 これは一対一の決闘ではない。単なるモンスター駆除だ。隙が生じたなら――

 

 短剣を握るアスラーグが魔兎の背後から電光石火で肉薄。雷光のような刺突を繰り出す。

 その一撃は魔兎の小さな後頭部を容易く貫き、裂けた口から生える妖花の核を穿った。

 

 切っ先から伝わる手応えに、アスラーグが淡白に呟いた。

()ったわ」

 

 ばきり、と魔石が砕けた瞬間、魔兎が灰となって散っていく。

 

「魔石と死体を調べたかったが、仕方ないな」

 エミールは傷だらけになった直剣を石畳の割れた地肌に突き立てる。

「どう思う? 突然変異か? 誰かの仕込みか?」

 

「さてね」

 問われたアスラーグは短剣を鞘に戻し、倒れ伏す負傷者達と何やら考え込んでいる女神ロキを一瞥した。

「いずれにせよ、この件は尾を引きそうね」

 

 

 

 

 

 そして、通りに市民の歓声が湧き上がる。同じ頃、円形闘技場でも祭の終わりが告げられていた。

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