虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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22:道化神は御機嫌斜め。

 地下水道に降りていき、水路を前にロキが立ち止まり、身をもじもじさせ始めた。“純潔の園”アリシア・フォレストライトは思う。トイレを我慢してるのかしら。

 

 と、ロキは胸元に両手を添え、上目遣いで“凶狼”ベート・ローガを見つめ、言った。

「ベートぉ。おんぶして♡」

 

 身をもじもじさせていたのは乙女の恥じらいを演出していたらしい、と気づき、“貴猫”アナキティ・オータムは思う。これは酷い。人と神の違いはあれど、同じ女として思う。これは酷い。

 

 案の定、ベートは心底嫌そうに顔をしかめた。

「なんで俺が……」

 

「今日の靴おニューやから濡らした無いんや。女の子らには頼めへんし、ラウルは鎧着とってゴツゴツしてるやろー? せやしぃ、ベート、おんぶぅー。おんぶしてー。なあなあ、おんぶしてやぁ~。ベートがおんぶしてくれへんとぉ先に行けへんよぉ~」

 

 もはや乙女のおねだりというより、ダメ大人のダメダメな我儘だった。ラウルは思う。鎧を着てきて良かった。本当に良かった。

 

 ベートは心底うざったそうに顔を怒らせ、歯噛みして唸り、そして、渋々了承した。

 こうして、ベートは心底うんざりした顔でロキを背負い、水路を進んでいく。

 

「あんがとなー。やー、ベートはツンケンしとってもホントは優しい子やわー」

 ご満悦のロキがベートの頭をナデナデ。

 

 イライラを募らせたベートが喚く。

「頭撫でんなっ! 黙ってねェと投げ捨てるぞっ!」

 そう言いつつも、ロキを落とさないよう丁寧に背負っているベート・ローガさん(狼人・22歳・独身)。

 

 そんなベートの背に続くレベル4の三人組。

「ベートさん、なんだかんだ面倒見良いですよね」と微苦笑のアリシア。

「あれで口と態度が悪くなければね」と口端を緩めるアナキティ。

「口と態度の良いベートさんとかそれはそれで怖いっス」と表情を和らげるラウル。

 

 背後から無責任な言い草を浴び、ベートは再び喚く。

「テメェらも黙ってろっ!」

 ベートは切実に思う。

 こんなことになるなら、昼寝なんかするんじゃなかった。

 

        ★

 

 ロキ達とは別ルートで地下水道に降りていたエミールとアスラーグは、ロキ達のように会話を交わしたりしない。

 

 エミールは知覚強化を駆使し、わずかな痕跡も見逃さぬよう集中して水路を進んでいる。

 アスラーグもランタンに似た捜索系魔導具を用い、真剣に魔力痕跡が無いか探っていた。

 2人とも突発遭遇戦に備え、無駄口を叩かず水音を抑えるように足を動かす。

 

 エミールが手を挙げ、アスラーグが足を止めた。

「1ブロック先の貯水区画に生物反応。当たりだ」

 知覚強化されたエミールの目に壁など無きに等しい。効力圏内の生物を黄色く発光した影を捕捉できる。

「デカブツが2匹。それと小物と触手が複数」

 

「死体を調べたいし、魔石と素材を確保したい。留意して」

「インフラへの付帯損害が生じる恐れがあるぞ」

 

 先日の剣姫達が戦った様子を見る限り、魔石破壊による速攻撃破をしないと、地下水道に被害が及ぶかもしれない。いうまでもなく水利はデリケートな設備だ。損傷によって都市用水に影響が生じる可能性がある。場合によっては大規模な崩落が生じるかもしれない。地上の区画が丸ごと落ちてきたら、流石に御陀仏。

 

 が、アスラーグはエミールの懸念を冷笑と共に蹴り飛ばす。

「上手くやれば良いだけでしょう? それとも出来ない?」

 エミールは小さく頭を振り、背中から片刃直剣を抜く。

 

         ★

 

 獣人は他種族よりも感覚野や運動神経に長けているという。恩恵によって身体能力が強化されていれば、その特性はさらに優れたものとなる。

 不意にレベル5冒険者の狼人青年ベートが足を止め、鼻をヒクつかせた。

「人の臭いだな」

 レベル4冒険者の猫人乙女アナキティも首肯し「男女2人。ワインみたいな香りも残ってる」

 

 それに、とベートが続ける。

「この先で水音が聞こえたぞ。2人分だ。武具が擦れる音もした」

 

 ベートの言葉に、ラウルは負い革で背負っていた盾(ヒートシールド)を左手で抱え、左腰から直剣を抜く。

「俺はロキとアリシアの護衛に着くっス」

「私は後方警戒に回る」アナキティはベートへ「先頭は任せます」

 

「ロキ、降りろ」

 ベートは首肯してロキを下ろす。素っ気ない口調に反してロキを降ろす仕草は丁寧。

 レベル4魔法使いのアリシアがロキと共にラウルの背後へ移る。

 

「皆、ベテランって感じで頼もしいわ。任せるで」

 簡単なやりとりで無駄なく突発遭遇戦に備える子供達の様子に、ロキが満足げに頷いた。

 

 

 直後。

 地下水道内にケダモノの猛々しい雄叫びが轟く。

 

 

「先行するっ! テメェらはロキを守りながら来いっ!」

 怪物の雄叫びを聞くや否や、ロキ・ファミリア最速の男は機動戦重視の軽装備も手伝い、飛翔するような勢いで疾駆した。

 

 森の中を疾走する森林狼のように、ベートは水飛沫を牽きながら地下水道を激走。瞬く間に戦闘騒音の発生源――貯水区画へ飛び込む。

 

 貯水区画は怪物の巣に化けていた。

 植物と蛇の合いの子みたいな2匹の大型モンスターが、窮屈そうに天井や支柱に体躯を擦らせながら、花染みた頭を満開させて牙を剥いている。

 蛇モドキの巨躯から伸びる幾つもの触手が荒れ狂い、黒妖精の美女とヒューマン青年を相手に激しいチャンバラを繰り広げていた。

 

「ロキの勘が当たりやがった」

 ベートが未知の化物共を睥睨したところへ、

 

「そこの狼人っ! 危ないから逃げなさいっ!」

 貯水区画の中でレイピアを振るっていた黒妖精の美女が警告を発する。

 

「あぁっ? 誰に言ってやがるっ!」

 も、強者たるべしを本懐とするベートは眉目を吊り上げ、

「オラァッ!!」

 ミスリル製メタルブーツの回し蹴りで迫ってきた触手の群れを鎧袖一触。

 

「ベートッ!!」

 そこへロキ達が到着し、

 

「ロキ様っ!?」

「アスたんにエミール君っ!? こんなとこで何してんねんっ!?」

 予期せぬ遭遇に吃驚を上げるアスラーグとロキ。

 

「うっわ、気持ち悪いっスね!?」「蛇? 植物?」「さあ?」

 レベル4の三人が初見の蛇モドキに抜けた反応を返し、

 

「どいつもこいつもゴチャゴチャうるせェッ!! 後にしろっ!!」

 苛立ったベートは喚き、

「狼人。あっちの一匹は俺達で処理する。手を出すな」

「雑魚が俺に命令するんじゃねえっ!!」

 氷より冷たい目をしたエミールへ怒声を返す。

 

「アリシアっ! あのきしょいのは魔力に反応すんねんっ! 気ぃ付けやっ!」

「わかりましたっ!」

 道化神の助言を得て、”純潔の園”が左腰から小剣を抜く。

 

「ラウルッ! ロキを守ってっ! 私はアリシアの援護に回るっ!」

 長剣を抜いて戦闘へ加わる”貴猫”。

「了解っスッ!」盾を構えてロキの護衛に回る”超凡人”。

 

 戦闘、開始。

 

        ★

 

 エミールとアスラーグはロキ・ファミリアの闖入に困惑を覚えつつも、眼前の蛇モドキを仕留めに掛かる。

 

「だいたい体構造は分かった。アスラ。触手を引き付けてくれ」

「淑女に面倒を押し付けるなんて、紳士の風上にも置けないわね」

「氏育ちが悪いからな」

 軽口を交わした後、アスラーグとエミールは蛇モドキへ突撃。

 

 蛇モドキが触手群を蠢かせて迎撃を図ると、アスラーグが駆けながら並行して詠唱を始めた。

「爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ。野を薙ぎ払い、森を焼き払い、山を打ち砕け」

 

 本当に“花”を放つ気はない。長文詠唱で魔力を練り、蛇モドキの注意を引くだけだ。

 狙いは見事に成功し、蛇モドキの意識を釣り上げる。モンスターは基本的に本能へ抗えない。戦意や殺意に駆られれば敵わぬ相手にも襲い掛かり、恐怖や怯懦に屈したなら一目散に逃げだす。魔力に反応する習性があれば、そのままに動く。

 

 黒妖精の美女を捉えようと、蛇モドキの触手群が一斉に襲い掛かった。

「動きが単純すぎる。落第ものだ」

 アスラーグは右手に握るレイピアを踊らせ、左手に逆手で握った短剣を舞わせ、触手群を一蹴。

 

 斬り飛ばされた触手と共に蒼黒い体液が飛散する中を、エミールが駆け抜けていった。

 触手群の再生が間に合わないと判断した蛇モドキが、大きな口を前回まで広げてエミールへ食らいかかる。

 

「Sum Fdau」

 

 蛇モドキの大顎が眼前に迫った瞬間、エミールは天井へ瞬間移動(ブリンク)。ガチンッと獲物を捕らえ損ねた蛇モドキの牙の音色を聞きつつ、天井を強く蹴って蛇モドキの首元――植物学で言うところの花を支える花床と花柄の継ぎ目を狙い、片刃直剣を深々と突き立てて素早く抉り、斬り裂きながら離脱。

 エミールの着地と同時に、蛇モドキは蒼黒い体液をまき散らしながらズズンと倒れ、大量の水飛沫を散らす。

 

「あちらも終わるみたい」

 アスラーグの言葉に釣られ、エミールがロキ・ファミリアへ目を向けると、妖精乙女の放った氷撃魔法をメタルブーツに取り込んだ凶狼が、破城鎚みたいな飛び後ろ回し蹴りで蛇モドキの頭を蹴り砕いていた。

 

 貯水区画に反響するほどの破壊音が響き、砕けた蛇モドキの頭部から妖色の魔石が落ちた。魔石を失った蛇モドキの骸は即座に灰となり、貯水区画の水に溶けていく。

 

 蛇モドキの魔石を拾い上げ、女神ロキは全員を見回し、柔らかく微笑んだ。

「皆、ご苦労さん。誰も怪我せんで良かったわ」

 

「こんな雑魚相手に怪我なんかするかよ」

 ベートが舌打ち混じりに悪態を吐きつつ、エミール達に警戒を解かない。

「あの2人の臭いは道中で嗅いだものと違うけど」とアナキティも剣を収めない。

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達から不審者を見るような目を向けられたアスラーグとエミールは、互いに顔を見合わせ、アスラーグが事情を語ることにした。

「私達はギルドの指名依頼を受け、昨日より地下水道の調査に当たっていました。怪物祭に出没した蛇モドキ……ギルドは食人花と名付けたようですが、ともかくその残りが居ないか、の捜索ですね」

 

「ほぉか……ギルドがなぁ」

 神の権能でアスラーグの言葉が真実と分かり、ロキは妖色の魔石を見つめて考え込む。

 

「ロキ様はなぜこのような場所に?」

 エミールの質問に対し、ロキは手元から顔を上げて応じた。

「ウチの子ら襲われて、ウチ自身も殺されかけたんやで? きっちり調べて悪い子ちゃんを見つけ出して……ケジメ取らなあかんやん?」

 

「道理ですね」

 アスラーグは表情を和らげ、背後に横たわる怪異の骸を肩越しに一瞥した。

「私共はこの骸を調べ、魔石を回収してからギルドへ向かいますが……ロキ様達は如何されます?」

 

「うちらはこれで引き揚げるわ。とりあえず、収穫もあったしなぁ」

 ロキは妖色の魔石を弄りながら答え、アスラーグとエミールへニパッと笑う。

「怪物祭の時の礼もしたいし、近いうちに一緒に呑もーや」

 

 社交辞令というには生々しい目つきで告げ、ロキは我が子らを伴って貯水区画を出て行く。去り際、ベートが足を止めてエミールへ鋭い眼差しを向けた。

 

「おい。テメェ、レベルは?」

「3」無機質に応じるエミール。

 ベートは一瞬、眉間に深く皺を刻んで顔を険しくしたが、舌打ちしてロキ達と共に貯水区画から去っていった。

 

 ロキ・ファミリアが去り、エミールとアスラーグは揃って嘆息をこぼす。

「彼らがこの件に関わってるなんて聞いてなかったぞ」

「ロキ・ファミリアが勝手に動いているのよ。ギルド側も把握してないんでしょう」

 

 アスラーグは愚痴るエミールを宥めつつ、食人花の骸へ向き直る。

「さて。生態調査を始めましょうか。魔石を傷つけないようにね」

「この図体を解剖か。大仕事だな」

 エミールはうんざり顔でぼやいた。

 

 

 エミールとアスラーグが地下水道内で食人花を解剖調査していた頃、地上に戻ったロキ達はディオニュソスとその眷属と出くわし、ベートとアナキティがロキに小声で告げる。

「ロキ。地下で嗅いだ臭い。そいつらだ」

「ワインの香りも一致する。間違いないわ」

 

 女神ロキは細い糸目と唇の両端を大きく吊り上げた。

 

 

 

 で。

 

 

 

 太陽が地平線へ半ば沈み、夜の帳が降り始めた迷宮都市。

 ロキはベート達を連れて大通りを進んでいく。

 

 ディオニュソスと会談を終えたロキは、凄まじいまでに不機嫌だった。

 子供達の前では滅多に見せないほど酷薄な気配をまとうロキに、物怖じしないベートすら遠慮がちになり、軽口を叩かなかった。会談に立ち会っていないラウル達は困惑するのみだ。

 

「ねえ、ロキ」アナキティが代表しておずおずと「怖い顔してどうしたの?」

「あー、ごめんなぁ、アキ。空気悪ぅしてもうたな」

 ロキは大きく息を吐きつつ、先ほどの怪談を振り返る。

 

 ディオニュソスは妖色の魔石を2つ持ち出して語った。

 あの蛇モドキのことを調べていた、と。一月ほど前に眷属が3人ほど殺され、現場にこの魔石が残っていた、と。怪物祭に乗じて食人花が持ち込まれたのではないか、と。

 怪物祭という催しを始め、食人花を地上へ放ったのは……ギルドではないか、と。

 

 ロキは謀に関し、天界屈指の神である。

 そのロキの経験と知見と直感が告げていた。あの気取り屋の伊達男神はまったく信用ならない、と。

 

 気に入らない。酷く気に入らない。

 あの目つき。あの喋り。あの態度。あの仕草。

 

 端々に宿る奇妙な違和感を、神々を手玉に取った謀神ロキが気付かないと思っているのだろうか。

 端々から漏れる”作為”を、天界を血みどろの戦争へ誘った道化神ロキが見抜けないと思っているのだろうか。

 

「あの“クソガキ”」ロキが忌々しげに吐き捨てた。

「?」困惑する眷属達。ラウル達が説明を求めるようにベートを見るが、ベートは舌打ちしてそっぽを向く。

 

一番(いっちゃん)性質の悪い嘘つきってどんな奴やぁ思う?」

 ロキが誰へともなく問う。

「悪知恵が働いて口の上手い奴じゃねえのか?」と戸惑い気味にベートが答え、

「たしか……詐欺師は嘘に少しだけ真実を混ぜるとかなんとかって聞いたことあるわ」

 困り顔でアナキティが答えた。

 

 2人の回答を聞き、ロキは夜色に塗り潰されていく空を見上げながら語る。

「一番性質の悪い嘘つきっちゅうんわな。嘘をついてる自覚のない奴や。真実として嘘を語ってる奴が一番、性質が悪い。そやな。“酔っ払いが真実として与太話を垂れ流す”とかも、かなり始末に悪いな」

 

 ラウル達は怪訝そうに眉根を寄せ、ベートが声を潜めて問う。

「ディオニュソスが俺達を騙してるって言いてェのか? 何のために?」

 

 ロキはベートの問いに答えずコツコツと石畳を歩み、不意に言った。

「……晩飯前にちょっと寄り道しよか」

「今度はどこへ?」とアリシア。面倒事はもう勘弁、と言いたげ。

 

 ロキは糸目を開いて薄く笑う。

「ウラノスんとこや」

 その顔つきは天界で戦争を起こした時とそっくりだったが、幸か不幸かベート達には分からない。

 

       ★

 

 月光が注ぐ市壁。

 胸壁に背を預け、フェルズは考え込んでいた。悩んでいると言っても良いかもしれない。

 つい先ほど、女神ロキが突然ギルド本部に乗り込んできて、ウラノスと対峙したのだ。

 

 ロキはどうやらギルドが先の事件――食人花と奇怪なアルミラージを地上に持ち込んだ黒幕と疑っていたらしい。怪物祭は事件を起こすためのカバーだったのではないか、とも。

 

 邪推も甚だしい。怪物祭は人とモンスターの融和共存を図る大計の足掛かり。あの事件はこちらにとっても不測の事態、それも決して看過できぬ暴挙なのだ。

 

 しかし、ロキに事情を明かすことはできなかった。ロキとその眷属達にガネーシャのような異端児を受け入れる器量があるか分からない以上、真実を明かせない。

 かといって、このままでは現オラリオ有数の武闘派ファミリアがギルドの敵に回りかねなかった。

 

 ……どうしてこうなった。

 ロキがギルドやウラノスを疑うようなことがあったのか? 誰かがロキを焚きつけた? ウラノスは“気まぐれ”と見做したが、ロキは探りを入れにきたのではないか?

 いずれにせよ、今ロキ・ファミリアを敵に回すのは不味い。何とかせねば……

 

 新たな厄介事に、フェルズが溜息をこぼしたところへ、エミールとアスラーグが市壁上に姿を見せる。

 エミールとアスラーグが地下水道の報告を行うと、フェルズは思わず額を押さえた。

「なるほど、そういう……」

 

 アスラーグは小さく肩を竦め、

「ロキ様は先の事件にかなり業腹みたいね。手練れを4人も連れて調査に当たってたもの」

 エミールは他人事のように言う。

「俺達がギルドの指名依頼で動いていると言った時、乗り込んで事情を詰問しそうな顔をしてたな」

 

 仰々しく溜息を吐き、フェルズは2人を労う。

「御苦労だった。調査はこれで終わって良い」

 

 が、アスラーグは首を横に振る。

「いえ。もう少し続けさせてもらえるとありがたい」

 

「君達の目的のために利用したい、と?」

 意図を看破したフェルズが探るように問えば、エミールがあっさりと首肯した。

「ああ。ギルドの依頼で動く、というのは色々都合が良いんでな」

 

 フェルズは再び大きな、とても大きな溜息を吐いた。

「分かった。ただし、何かやらかす前に必ず連絡してくれ。頼む」

 

 偉大なる賢者フェルズはまだ知らない。

 今まさにダンジョン内では、自身が奔走して組んだ“宝玉”受け渡しの段取りが崩壊し、リヴィラの街で大騒ぎが起きていることを、まだ知らない。

 

     ★

 

「またえらく派手にやってるな」

 全身甲冑男はダンジョン第18階層の高台から“夜”のローグタウンを見下ろし、器用に苦笑いとぼやきを発する。

 

 リヴィラの街は食人花の大群に襲われ、大騒ぎになっていた。破壊され、燃える安普請。右往左往する低ランク冒険者達に混じり、少数派の手練れ達が食人花相手にチャンバラを繰り広げている。

 

 まあ、ここまではまだ許容範囲だった。騒ぎに乗じて目標を奪取する策は悪い手ではない。自分達も3年前に諸島帝国の首都ダンウォールで行った手口だ。

 

「しっかし……事態を引き起こした当人が“種”の回収そっちのけで、小娘共と遊んでるのぁどーいうこった?」

 全身甲冑男が目線を移した先では、赤毛美女――レヴィスが小娘三人(正確には剣士の一人)と“じゃれ合って”いる。

「本気を出しゃあぶっ殺せるだろうに。何をちんたら……あ」

 

 エルフの小娘が持っていた“種”が、剣士の小娘の魔力に反応して突如“芽吹き”、食人花に融合してしまった。

 

「あーあーあーあーあー……」

 せっかくあそこまで成長させたのに、食人花なんぞと融合しては台無しだ。如何に“種”が精霊の分身体と言えど、融合先の“質”は問われる。強力なモンスターや超人と融合すれば、超越的存在たりえるが……ではダメダメだ。

 

「とはいえ、このまま使い捨てるのも持ったいねェ話だよなぁ」

 全身甲冑男はくつくつと悪意を込めて喉を鳴らし、腰に巻いた装具ベルトから薬剤瓶を数本取り出す。

「ちっとばかり実験させてもらおうか」

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