虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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24+:トライアル・リザルト。

 朝日が照らす運河港の一角とその周辺飲食街は物々しい。

 

 ガネーシャ・ファミリアの冒険者達による規制線が敷かれており、貨物船の傍ではギルド職員と諸島帝国出先商館職員が難しい顔を突き合わせている。

 現場捜査と呼ぶには少々稚拙な記録採取活動が行われている傍ら、現場に到着したガネーシャ・ファミリア団長シャクティ・ヴァルマに現場責任者が説明を始めていた。

「事件は昨夜未明、我々と出先商館警備隊が警護する、貨物船傍に停泊中のアンダイン号で発生しました」

 

 現場責任者曰く――

 アンダイン号で人の争う叫喚と悲鳴が聞こえ、まず貨物船警備に参加していたガネーシャ・ファミリアの団員が様子見に向かった。

 その時、船楼から血塗れの男が飛び出してきた。

 男は手に血塗れの武器を持ち、頭部や腹部から出血。また左腕が開放骨折していたという。

 団員達は男に制止を命じたものの、男は錯乱状態でこれを無視し、警備中に貨物船がある方向へ暴走。

 貨物船を護る警備兵達が警告と制止を命じるも、男はやはり無視し――

 

「それでこの様か」とシャクティは溜息を吐いた。

 団員が地面に置かれた毛布を捲れば、完全に破壊され尽くした肉の残骸が転がっている。

 

 昨夜未明、十数名の警備兵と二騎の長脚重装兵は警告を無視した血塗れ男を脅威と見做し、半自動射撃可能なクロスボウで矢弾(ボルト)をじゃんじゃか叩き込んだ。彼らは『我々は任務を遂行したのであって、決して退屈な夜間警備の鬱憤晴らしに矢弾をぶち込んだのではない』と回答している。

 

「この男? は何者なの?」

 朝っぱらから凄惨なものを見せられて気分を大きく害するシャクティ。

 

「“関係者”によれば、ソーマ・ファミリアの団員スタニスロウという男です。ヒューマンの32歳。レベル1。ソーマ・ファミリアの例に漏れず神酒依存症者で度々問題行動を起こしています。冒険者というよりチンピラと大差ない手合いですね」

 団員は答えながら中型河川貨物船アンダイン号へ顔を向け、

「続きはあちらで」

 シャクティをアンダイン号へ案内する。

 

 

「この船は『フィッシャーズ』と呼ばれる河川運輸業者……実際は密輸が主だった弱小ギャングの持ち物で、スタニスロウは同組織の用心棒をしていたそうです」

「ソーマ・ファミリアの団員がギャングの用心棒だったのか」

 シャクティは眉をひそめた。

 

 ガネーシャ・ファミリアでもソーマ・ファミリアを問題視する者は少なくない。

 神酒は神々が呑む分には問題無いが、人間には危険すぎる。魂まで溶かし、狂わせてしまう。神酒に狂ったソーマ・ファミリアの冒険者達は方々で問題を起こしていたし、一部の団員がそうした神酒依存者を犯罪同然の手口で食い物にしていることも、随分前から問題視されていた。

 

 幾度かソーマ・ファミリアの悪事を告発し、人間相手の販売を規制すべきという意見を冒険者ギルドなどへ提案したこともあるが……商業系や貿易系の団体から強烈な反対に遭い、実現しなかった。

 そうして手をこまねいているうちに、ついにこんな事件まで起きてしまったわけだ。都市衛兵を担うガネーシャ・ファミリアとしては忸怩たるものを禁じ得ない。

 

 船長室へ案内されたシャクティは出入り口から室内を窺い、端正な顔を大きく歪めた。

 狭い船長室は大嵐が吹き荒れたように滅茶苦茶で、最前線の激戦地みたく天井から床まで血に染まり、床には死者が折り重なっていた。骸は6体。いずれも男性。破壊された壁や調度品と同じくどの骸も損傷が激しい。

 

「いったい何が起きたの?」

 団長の諮問に対し、団員は部屋の一角にある開け放たれた金庫を指さした。金庫の錠に鍵が刺さったままで、傍にヴァリス金貨が転がっている。

「推測になりますが、おそらくスタニスロウは昨夜、ここへ忍び込み、金庫の金を盗もうとしたのでしょう。そこを船番の連中に見つかり、戦闘が発生。夜番の者達を殺害して逃亡……というか戦闘で錯乱したのでしょうね。そして、あの様に」

 

「用心棒が雇い主の金を盗もうとしたと?」と目を細めるシャクティ。

「珍しい話ではありません」と団員は肩を竦める。

 

 現代地球において監視カメラが普及した時、各種小売店の店主達は監視カメラを迷わずレジやバックヤードへ据えたという。万引きやコソ泥より店員が売上金や商品を盗むことが問題だったのだ。そして、こうした事情はオラリオでも変わらない。

 

 シャクティが小さく鼻息を突き、

「それで雇い主、『フィッシャーズ』の頭目はどこに?」

「『フィッシャーズ』は運河港傍の安宿を根城にしており、そちらに」

 団員はシャクティを近くの安宿『キャプテンズ・チェア』へ連れていく。

 

 

 そして、シャクティは頭目ウェイクフィールド他幹部2人の死体を見せられた。

「……死んでたわけね」

 団員はシャクティへ小さく肩を竦め、推論を披露する。

「スタニスロウは金庫を開けるため、鍵を奪うべくこのホテルでウェイクフィールドと幹部2人を殺害。それからアンダイン号へ向かい、金庫の金を盗もうとしたところを発見され、戦闘。錯乱して逃げ出したところを貨物船の警備隊に撃たれた、といった具合でしょう」

 

 シャクティは腑に落ちないと言いたげに眉をひそめ、

「鍵を奪うために持ち主を殺すというのは道理よ? でも、ホテルで三人も殺す理由は? スタニスロウは鍵の持ち主を知らなかったの?」

「ウェイクフィールドがカギを保有していたことは既知だったようです。幹部2名の殺害は追跡を遅らせるためでしょう。頭目と主要幹部を殺されてしまえば、下っ端達は報復より自分達の身の不利を考えますから」

「そこまで冷徹に計画を立てて動く人間が、船であんな杜撰なことになるかしら?」

 部下の推理を聞き、ますます納得がいかなくなった。

 

「現場をよく見なさい。部屋は“まったく荒らされてない”。雇い主を裏切る金に汚い男がベッド脇に置かれた財布を見逃すのはおかしいわ」

 それに、とシャクティはウェイクフィールドの死体を観察し、死因たる首元を示す。

「この傷。ただ喉を刺しただけじゃない。正確に頸椎の継ぎ目を寸断してるわ。しかも刺した後に抉って頸動脈を破壊する際、出血を食道に誘導している。この殺しをレベル1のアル中冒険者に出来ると思うの?」

 

 動脈破壊による大出血を可能な限り外へ出さない――返り血を浴びない殺し方だ。シャクティがこれまで見てきた暗殺者の殺人でも、ここまで巧緻な刃傷はとても珍しい。

 まるで家畜を締めるような冷徹で冷酷な殺し。船長室での戦闘後はヘボ冒険者が恩恵頼りに得物を振り回しただけ。とても同一人物の犯行とは思えない。

 

「団長のおっしゃることは分かります。ホテルの殺しと船の殺しはまるで別人のようですからね」

 小さく頭を振ってから、団員は生徒が教師に失点を誤魔化すように、

「しかし、船に第三者が居た痕跡はありません。このホテルでの殺しにもまったく。物証がない以上、状況証拠からは、私が述べたツッコミどころのある推論が一番“らしく”なるんです」

 そして、言い難そうに続けた。

「自分の推理はともかく……この件はさっさとケリをつけた方がいいと思います」

 

「真相を明らかにせず終わらせろ、と?」

 シャクティが団員を鋭く睨みつけるも、団員は怯まずに真摯な態度で答えた。

「この『フィッシャーズ』は弱小組織ですが、イシュタル・ファミリアの庇護下にあるらしいんです」

 

 イシュタル・ファミリアの名が出たことに、シャクティは顔をしかめる。

 

 オラリオの歓楽街――特に性産業を牛耳る大組織で、戦闘娼婦と呼ばれる精強な女性冒険者達を揃えている。その資金力と戦力に加え、主神のイシュタルはギルドさえ遠慮がちになる厄介な女神だった。過去にはイシュタルと揉めた女神達が天界送還に追い込まれたし、ギルドも莫大な慰謝料を払う事態が生じていた。

 

 確かに面倒な話になりそうだ。だからといってこの件をなあなあに収めて良いとは思わない。

 

 迷宮都市オラリオは法や規則より情理や力がモノを言う。ガネーシャ・ファミリアにしても都市衛兵などと呼ばれているが、実態はガネーシャの眷属で私兵集団に過ぎず、法の執行機関ではない。群衆を護るために戦うのであって、法の公平性を尊ぶわけではなかった。

 しかし、オラリオの暗黒期を経験したシャクティの勘が言っている。

 

 この殺しの犯人は極めて危険だと。

 

 同時に、団員の言いたいことも、シャクティにはよく分かる。

 たとえ『フィッシャーズ』に眷属が居なくとも、イシュタルの庇護下に在った以上、ソーマ・ファミリアの団員によって頭目を含めて大勢殺されたならば、イシュタルはケツ持ちの面目を保つためにソーマ・ファミリアからケジメを取る必要がある。

 つまり、これはファミリア同士の抗争――両ファミリアの実力差を考えると一方的な虐殺――を招きかねない事件だった。

 

 犯人探しと街の治安――市民の安危を秤にかけたシャクティへ、団員が天秤の皿に錘を加える。声を潜めて語り掛けた。

「団長。今回の事件は死者こそ多いですが、死人はギャングとギャング崩れの冒険者だけです。ならば、市民が犠牲になるかもしれないファミリア間の抗争を防ぐ方が大事と考えます。何よりも、我々には“最優先すべき案件”があります」

 

 ガネーシャ・ファミリアはつい先日に仲間を殺されたばかりだった。しかも、犯人に関しての情報はほとんどない。

 

 迂遠に仲間の仇を討つことへ注力したい、と上申され、シャクティは瞑目して眉間に深い皺を刻み、ゆっくりと頷く。

 

「……分かったわ。公式発表は君の推理通りで良い。ギルドとは私が話を付けて、イシュタル・ファミリアにも説明と自重を促してみる」

 おそらくは無理だろうな、とシャクティは思いながら現場を離れる際、ふと足を止めて団員に問う。

「それで、何か盗まれたものはあるの?」

 

 団員は手元のメモを捲り、確認してから答えた。

「まだ調査中ですが……『フィッシャーズ』の生き残り達が言うには、金庫内には金の他に航海日誌や帳簿などが収められていたそうですが、今のところ見つかっていません。スタニスロウもそれらしいものは持っていませんでした」

 

         ★

 

 時計の針が朝から午前に切り替わる頃。

 迷宮都市歓楽街にあるひときわ豪奢な建物――イシュタル・ファミリア拠点『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』。

 

 その最上階にて、イシュタルは優雅な朝を迎えていた。

 起床したオリエントの大女神は昨夜のまぐわい跡を湯殿で洗い流し、美しい下女達に体を拭わせた後、イシュタルの男妾である副団長タンムズ・ベリリに髪を梳かせ、美少年娼達に着付けと爪の手入れをさせる。

 

 そうして、イシュタルは果実が中心の優雅な朝餉をたっぷりと摂る。

 豊穣と戦争と性愛と美。金星。多くを司るオリエント世界随一の大女神は、汁気たっぷりの果実をどこか官能的に食しながら、新聞を読む代わりに諸々の報せを聞く。

 

 イシュタルはどこぞの冒険者のレベルが上がったとか、どこぞのファミリアがダンジョン到達階層を更新したとか、そういう情報に関心は示さない。歓楽街の売り上げやトラブルに関してもあまり興味は示さない。まぁイシュタルの機嫌を損ねない限り、という捕捉を伴うが。

 

「ウチの傘下組織の一つが襲われ、10人近い死人が出た、と」

 イシュタルは片眉をあげ、ねめつけるように傍らに控える美青年――副団長タンムズを睥睨した。

 

 タンムズは背筋に冷たいものを覚えつつ、報告を続ける。

「傘下と申し上げても、イシュタル様が恩恵を授けた者がおらぬ枝葉末節の弱小組織ですので」

 

「取るに足らぬ者共であろうと、私の庇護下にあったことは変わらない」

 女神にぎろりと睨まれ、タンムズは凍りつく。

「ふ、不見識でございました。申し訳ありません」

 

 イシュタルが煩わしげな表情を浮かべて報告の続きを促し、タンムズは慌てて舌を回し、

「先ほど来たガネーシャ・ファミリア団長シャクティ・ヴァルマの説明によれば――」

 事の次第を女神へ語って聞かせる。

 

 で。

 

「フィッシャーズ、ウェイクフィールド、スタニスロウ……」

 説明を聞き終え、イシュタルは怪訝そうに眉をひそめた。

「どれも覚えがないな」

 

「イシュタル様のお耳へ届ける価値もない名です。いえ、でした」とタンムズ。

「そう。過去形だ。たとえ下賤で矮小な手合いであろうと、私の庇護下の者が襲われたというならば、それは私とファミリアの沽券に関わる」

 皿にぽたぽたと汁をこぼす果実を一つ摘まみ、イシュタルは口に運ぶ。

「下手人はソーマの眷属だったか」

 

「はい。ただ申し上げた通り、既に討ち果たされております」タンムズがおずおずと指摘する。

「本人の生死など些末な問題だ。ソーマ・ファミリアの者が私の庇護下にあるウェイク……まぁなんでもいい。ともかく私の庇護下にある者達を裏切り、殺した。ソーマ・ファミリアはその不始末を詫び、許しを請うのが筋だろう?」

 イシュタルの言葉は正しい。事は既に組織間の面目が問題になっているのだ。

「事の発覚から既に数時間経っているにもかかわらず、ソーマ・ファミリアから未だに使者は無く、弁解も釈明も無い。奴らは抗争を望んでいるようだな」

 

 ゾッとするほど冷淡な声色と発せられる冷厳な威容。部屋の隅に控えている侍女達が思わず身を震わせた。タンムズも気圧されていたが、竦む心胆に力を込めて口を開く。

「ガネーシャ・ファミリアとギルドが連名でこの件の仲裁を申し出ており、今少しの時を要請しております。如何でしょう。ここは彼らの懇請を呑み、少しばかり静観されては。ガネーシャとギルドが話をまとめられれば良し。そうでないなら、イシュタル様の寛恕を無下にした愚か者共に鉄槌を下す、とされては」

 

 ぶっちゃけ、タンムズはソーマ・ファミリアを皆殺しにしようとも構わなかった。むしろ、それで良いとも思っている。敬愛する女神イシュタルとファミリアの面子に比べれば、アル中集団など鼠のクソほどの価値もない。

 

 ただし、ここ数年で女神イシュタルは少々“後ろ暗いところ”と関わりが過ぎていた。不仲なガネーシャやギルドとの関係がこれ以上、拗れるような事態は避けたかった。さらに言えば、”今のフリュネ”を動かしたくない。

 崇拝し敬愛する女神を厄介な事態から守りたい一心で、タンムズは不興を買いかねない進言を行ったのだ。

 

 神は人間の言葉の真偽が分かる。イシュタルもタンムズの注進に込められた誠心と忠心、愛慕がよく分かった。

 果実酒を垂らした茶をゆっくりと飲み、託宣を与えるように言葉を紡ぐ。

「お前の忠誠心に免じて進言を容れてやろう。ギルドとガネーシャに伝えろ。時を与えてやるが、満足のいく結末を迎えねば、我らが手ずから酒狂い共の性根を叩き直してやるとな」

 

「御配慮、恐悦至極。それではすぐに取り掛かります。失礼します、イシュタル様」

 タンムズは恭しく一礼してからその場を辞した。

 

 お気に入りの男妾が去った後、イシュタルは摘まんだイチジクを少々乱暴に食い千切った。

 

      ★

 

「迅速な対応。ありがとうございます」

 狼人メガネ乙女ジェラルディーナはエミールへ艶やかな微笑を贈る。

 

「少々予定外の騒ぎになったが、問題にならないか?」とエミール。

「御心配なく。我々の関与は発覚しておりませんし、警備隊が件の用心棒を殺害した件にしても、ガネーシャ・ファミリアとギルドが問題無しと認めております。ソーマ・ファミリアが何か文句をつけてくることもないでしょう。“それどころではない”でしょうから」

 くすくすと喉を鳴らし、ふりふりと尻尾を揺らす。ジェラルディーナは上機嫌だった。

 

 この契約殺人の本当の目的は、運河港利権などではない。

『フィッシャーズ』は弱小組織だ。しかし、その幹部メンバーは本国でも名の知れた密輸組織デッドアールズの面々だった。その伝手や手管は侮れない。放置すれば、ブラックマーケット・シンジケートの“手数料”や“保険料”に不満を持つ帝国商人達が『フィッシャーズ』に流れる可能性があった。要らぬ草は芽のうちに摘んだ方が良い。

 

 フィッシャーズを殺すだけなら自分達だけでも出来る。が、ソーマ・ファミリアの用心棒と背後に控えるイシュタル・ファミリアが問題だった。

 神を敵に回すと鬱陶しいことになる。ブラックマーケット・シンジケートと諸島帝国の関与が明らかになっては不味い。

 

 ジェラルディーナはこの面倒な案件を綺麗に片付けた。組織から大きな評価を得られるだろう。

 向かい側に座る男のおかげで。

 期待通りに。

 

 賢人が情報の価値を知るように、ジェラルディーナもエミールとアスラーグのことを既に調べていた。

 エミール・グリストルの氏育ちも、経歴も、実力も、“不名誉”も、恋人を失ったことも、アスラーグ・クラーカと共に“浪人”をしてきたことも、把握している(もちろん、虚無の力に関しては知らない。知りようもない)。

 

 集めた情報を分析し、ジェラルディーナはエミールを誑し込む価値を見出しており、今回の件でその価値を確信した。

 この男を私の剣に出来たら、私は組織でもっと“上”に行ける。

 

 であるから、ジェラルディーナはテーブルの下で右足のローファーを脱ぎ、

「ミスタ・グリストル。貴方のお求めになった情報の提供ですけれど、情報の内容が内容ですから文書の形式でお渡しすることはできません。口頭でのお伝えになります」

 首肯したエミールの足へ爪先を擦りつける。

 

 砂を噛んだような表情をこさえるエミールに、卓の下では爪先でエミールの足を撫で続けながら、ジェラルディーナはうっすらと犬歯を覗かせた。

「長い話になります。如何でしょう。もっとゆっくり過ごせる場所へ移りませんか?」

 

 ふしだらなほどの“お誘い”をするジェラルディーナは、さながら羊を狙う狼のようだった。

 もっとも。

 彼女の前に居る男は決して羊などではないが。

 

        ★

 

 不運にもイシュタル・ファミリアと揉め事が生じたソーマ・ファミリア、その団長ザニス・ルストラは頭を抱えて煩悶していた。

「スタニスロウのクソ野郎がああああああああっ!!!」

 

 イシュタル・ファミリアはヤバい。

 精確にはイシュタル・ファミリア団長フリュネ・ジャミールがヤバい。

 

 かつてイシュタル・ファミリアのフリュネと言えば、”男殺し”の二つ名を持つ醜悪なヒキガエル女だった。

 

 だが、今は違う。

 レベル6に上がり、毛無灰色熊(ヤオ・グアイ)みたいな容姿に激変し、半ばモンスターと変わらない女怪に化けている。昨年の『第17階層騒動』において、単独でフレイヤ・ファミリアの精強なエルフ、ヘディンとヘグニの2人と引き分けたほどだ。

 

 しかし、真の”ヤバさ”は肉体的な脅威性よりも、ヒキガエルの頃より拍車が掛かった異常性だった。

 かつてのフリュネに拉致られた男は廃人にされるまで嬲られていたが、今のフリュネに拉致られた男は皆、”行方不明”になっている。噂では()()()()食われたとか、バラバラにされて下水に流されてるとか、ほとんど猟奇殺人鬼の扱いである。

 二つ名も今や”全てを食らうもの(ルル・コルコレ)”だ。

 

 

 ザニスは頭を抱えて苦悶する。

 頭を下げるのは構わない。女神イシュタルの爪先を舐めたって良い。有金や在庫の神酒を全て差し出しても良い。

 だが、そこまでやっても、自分達が助かる想像がまったく浮かばない(正確には自分自身が、だ。ザニスにとって他の団員など駒に過ぎない)。

「スタニスロウのクソッタレがっ! 生き返らせてもう一度ぶっ殺したいっ!!」

 




Tips

Dishonoredシリーズでは、主人公が傍観していると殺されたり、死んだりするNPCがちらほら居る。
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