虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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ちょっと文字数多めです。


26:倒れるドミノが向かう先。

 ダンジョン第8階層にて小休止中。

 

「ざまあみろ、というのが正直な感想です」

「ええ……」

 ベルはリリルカの強い言葉に困惑する。

 

 ソーマ・ファミリア壊乱の報せに、ベルが気遣いを見せたところ、リリルカが返した言葉が先の回答だった。

 ベルはリリルカが自身のファミリアを忌み嫌っており、脱退金を貯蓄していることは聞かされていたが、大勢の死者が出た事態に対して『ざまあみろ』と吐き捨てるほど怨恨が深いとは思っていなかった。

 

 ベル・クラネルは住民同士が助け合ってなんとか暮らしているようなド田舎で生まれ育った。そりゃ住民同士にも好悪はあるし、細かな諍いはある。だが、病や事故で死傷者が出れば、日頃嫌っている相手であっても心配し、その死を悼み、遺族に弔意といたわりを示す。

 それだけに、ベルはリリルカの死者に鞭打つような反応に戸惑いを隠せなかった。

 

 リリルカは静々と語った。

「ベル様。リリは幼い頃からずっと……ずっとファミリアの冒険者達に虐げられてきました。リリにとってファミリアは“敵”なんです。敵が酷い目に遭っても同情なんてしません。リリがこれまで味わってきた苦痛と屈辱の記憶が同情など許しません」

 

 リリルカの瞳に宿る憎悪の大きさと怨恨の深さに、ベルは言葉を失う。どんな言葉を掛けて良いのか分からない。

 それでも、何か言葉を掛けなければいけない。そんな直感に従い、ベルは必死に言葉を探す。

 

「僕には……リリがどれほど大変な目に遭ってきたのか想像もできない。だから、気持ちが分かるとは言えない」

 ベルは申し訳なさそうに、そして、どこか泣きそうな顔で言葉を続ける。

「でも、『ざまあみろ』なんて言わないで欲しい。それはきっと、えっと、上手くは言えないけど、そういう言葉はリリにも良くないことだと思うんだ」

 

 拙いけれど真摯な響きがリリルカの心に染み入る。

 ベルには件の発言が、リリルカ自身の人品が貶めているように聞こえたのだろう。倫理的立場から苦言を述べたのではない。あくまでリリルカを思っての真心だった。

 何も知らないくせに、とは思う。でも、それ以上にベルの心遣いが温かかった。

 

 ……仕方のない人ですね。

 リリルカはゆっくりと深呼吸し、頷く。

「そう、ですね。ベル様の言う通りです。私の心は彼らの犠牲を悼むことを許しませんが、それをわざわざ口にして周囲の眉をひそめることもありません。今後は控えます」

 

「……ごめん」ベルは詫びた。「もっと気の利いたことを言えたらよかったんだけど……」

「いえ。ベル様はむしろそれで良いと思います」

 リリルカは柔らかく微笑んで言った。

「さ、そろそろ行きましょう。今晩は『豊穣の女主人』に行かれるのでしょう? しっかり稼いでおかないと、支払いに困りますよ」

 

 朝方、ダンジョンへ潜る際だ。『豊穣の女主人』の女給シル・フローヴァがベルに弁当を渡しながら『今夜は店に来てくださいね』とベルの手を握った。

 で、ベルは顔を真っ赤にして即座に了承。

 そんなベルの様子に、リリルカは少しばかりイラッとしていたり。

 

 まったく簡単に転がされて。ベル様はリリが付いてないと駄目ですね。これからはしっかり“指導”しないと!

 

       ★

 

 先日のまぐわいを思い出し、ジェラルディーナは激しく懊悩していた。

 

 狼人女性ジェラルディーナは裏社会に生きる人間らしく、内に狡猾さと獰猛さを備えている。

 ジェラルディーナは性交渉に情を持ち込まない。男と寝る時、それは誑し込んで手駒にするためだ。手玉に取って何もかも奪い尽くすためだ。男達が娼婦を使い捨ての日用品同然に扱うように、ジェラルディーナも男を家畜のように皮を剥ぎ、その身肉を食らう。

 だからこそ、歳若くして『ハウンド・ピット』で窓口を任されている。

 

 そんなジェラルディーナが蕩けてしまった。

 演技抜きで巨大な快感にベソを掻かされた。腰と尻尾が肉悦の残滓で痙攣し、心が多幸的倦怠感に浮遊したなんていつ以来だったか。普段被っている仮面を剥がされ、快楽に蕩けたメス顔を晒すなんて初めてかもしれない。

 

 ――あるまじき失態。あるまじき醜態。あるまじき痴態。あるまじき! あるまじきっ!!

 ジェラルディーナは頭を抱えて煩悶する。

 

 エミール・グリストル。凄腕の元国家憲兵隊最上級衛兵。国の非公式機密任務を負った殺し屋。誑し込んで手駒にできれば大きな利になる、と連れ込み宿に誘ったら、逆に蕩けされてしまった。誘ったのがこちらだけに、見事な赤っ恥である。

 

 あいつとは二度と寝ない。ジェラルディーナは心のメモ帳に下線付きで記入する。

 ジェラルディーナにとってセックスは裏社会で戦う手段だ。愛の営みではないし、快感を得るための享楽でもない。敗北必須なら男と寝る意味がなかった。

 

 というわけで。

 

 ジェラルディーナは極めて事務的な態度で(取り繕った感がアリアリだが)、再会したエミールに約束通り情報提供を始める。

「怪物性癖について御存じですか?」

 

 予期せぬ話題の切り出しに戸惑いつつ、エミールは答える。

「好き好んでモンスターを飼育したり、捕えたモンスターを虐待したり、性的行為に及ぶ倒錯趣味だ。どういうわけか、金持ちに多い」

 

 エミールの回答に首肯し、ジェラルディーナは紅茶を飲んで唇を湿らせた。

「イケロス・ファミリアはモンスターを生け捕りし、怪物性癖の資産家へ密売しているそうです」

 

 エミールは目を瞬かせ、次いで鋭く細める。深青色の瞳が急速に温度を下げていく。

「ダンジョンからどうやってモンスターを移送している? バベル経由ではないはずだ」

 

 分からない、と言いたげにジェラルディーナは小さく肩を竦め

「随分前から業界で噂になってはいます。バベルの出入り口を通さず、どうやってダンジョンからモンスターを地上へ運び出しているのか。その秘密を探ろうとした連中は皆――」

 人差し指を立てて喉を掻き切るジェスチャー。

 

「……ギルドもガネーシャも把握していない情報だな」

「どこの街でも同じことです。誰もが知っていることを当局だけが知らない」

 仏頂面を作る元国家憲兵隊員から目線を切り、ジェラルディーナは紫檀の煙草ケースを取り出した。

「イケロス・ファミリアを通せば、誰の目にも触れず地上からダンジョンへ物資を送ることも可能でしょう。先に断っておきますが、私共はイケロス・ファミリアと関わりがありません。業界内でも主神や団員の居所は完全に不明です」

 

 考え込み始めたエミールを余所に、ジェラルディーナは煙草をくわえて燐棒を擦った。眼鏡が小さな灯火をきらりと反射する。艶っぽく紫煙を燻らせてから話を再開した。

「ところで、ダイダロス通りの由来を御存じですか?」

 

 唐突な話題の変化に眉根を寄せつつ、エミールは首を横に振る。

「この街の歴史はほとんど知らない」

 

「ウラノスの眷属、名匠ダイダロスが狂気に駆られて作り出した地区です。あの地区はスラム化以前からあんな有様だったそうです」

「よくまあ、そんな馬鹿げた事態を放置したな」とエミール。

「オラリオでは馬鹿げた事態が珍しくありませんから。それと、この話にはオマケがありましてね」

 ジェラルディーナは瑞々しい唇の端を歪め、尻尾を一振り。

「ダイダロスが地区を弄繰り回した際、発注した資材と用いられた資材の量が一致しないんですよ」

 

「横流しされたと?」

「いえ。どこにも横流しされていません。消えたんです」

 フッとね、とジェラルディーナは悪戯っぽく紫煙を吐き、

「同じ頃、北区の工業用地を整地する際、造成用残土が捨て値同然で取引されています。興味深いことに、これらの残土が都市外から移入された記録が存在しません。代わりに、現在のダイダロス通りと北区を行き交う貨物馬車が大量に確認されています」

「……ダイダロス通りの地下に何かしらの大型施設がある、と?」

 エミールの指摘を聞き、野暮ったい眼鏡の奥でアイスブルーの目を細めた。

 

「大型どころではないと思いますよ。ダイダロス通りには今でも大量の建築資材が流れ込み続けていますし、発生するはずの残土はどこへ消えているのやら。名匠ダイダロスから現在まで約一千年。この街の地下に何があっても驚きませんよ」

 そして、とジェラルディーナは言葉を編む。

「イケロス・ファミリアは上手く隠しているつもりでしょうが、定期的に建築資材を調達しています。それも魔封石や超硬金属などの高額資材を大量に。しかし、そのような資材が使われた建物はオラリオのどこにもありません」

 

 エミールは少し考え込んでから問う。深青色の双眸が銃剣のように冷たく鋭い。

「それらの情報の出どころは?」

 

「この街は隠し事だらけですが、物流や会計の記録を多方面から手繰られることを、誰も考慮していないんです」

 煙草を燻らせ、ジェラルディーナは鈴のように喉を鳴らす。悪意を込めて。

「楽しい街ですよ、ここは」

 

        ★

 

 ベル・クラネルが『豊穣の女主人』で女給シル・フローヴァから渡された書籍を読んだ夜のこと。

 

 ごん!

 迷宮都市の路地裏に、ロン毛青年冒険者の頭に棍棒が叩きつけられた音色が響く。

 

 ロン毛冒険者は脛骨がひしゃげて首が縮み、頭頂部がへこんで割れ裂けた頭皮からプピッと鮮血が引き出す。ロン毛冒険者がぐるんと白目を剥き、顔から地面へ突っ伏した。

「な、な、ななあっ!?」

 脳漿を垂れ流しながら痙攣するロン毛冒険者。その仲間の犬人冒険者が顔を引きつらせて後ずさる。

「テ、テメェ何しやがるっ!? 俺らが誰だと―――」

 

「知ってんよぉ~。ソーマんとこのレベル1(クソ雑魚ナメクジ)だろぉ~?」

 棍棒を握りしめたチンピラがにたぁと笑う。

「他にも知ってんぜぇ~。テメェらソーマんトコがよぉ~、イシュタルんトコにワチャワチャにされて身動きが取れねぇってよぉ~。神酒も作れねェらしィってよぉ~」

 

「酒と頭数しか取り柄のねェ雑魚ファミリアが、俺らの縄張りを好き勝手イジりやがって。ファミリアとして動けねェなら、テメェらなんざ怖くも何ともねェんだっ!」

 チンピラの仲間達がそれぞれの得物を見せびらかしながら、じりじりと距離を詰めていく。

「ひ、ひぃいいいいっ!?」

 犬人冒険者の悲鳴が夜道に響いた。

 

 

 ぼご!

 ごつい拳がやくざ者の顎を捉えた。迷宮都市の裏路地に鮮血と黄色い前歯が飛ぶ。

 

「ソーマ・ファミリアを舐めてんじゃねえぞ、ドサンピンがぁっ!!」

 悲鳴を上げて小汚い裏路地を転げ回るやくざ者の腹を蹴り抜き、失禁&失神させると、ドワーフ男性の冒険者が周囲のやくざ者達を睨み据えた。

「イシュタルんとこの化物女にやられたからってなあっ! 一般人のカス共に舐められるほど弱っちゃいねえぞっ!!」

 

 レベル2冒険者であるドワーフ男は太い腕をぐるんぐるん回しながら眉目を吊り上げた。

「オツムの足りねぇバカ共が~っ! ソーマ・ファミリアの怖さをきっちり教育してやんぞ、おぉっ!?」

 

「な、舐めやがって……」

 やくざ者達は得物を抜き、一斉にドワーフ男へ襲い掛かる。

「ぶっ殺したらぁっ!!」

 

「掛かって来いやあああああっ!!」

 月光の注ぐ裏路地にささやかな戦闘騒音が奏でられた。

 

 

 

 ギルド職員達の表情は暗い。

 ソーマ・ファミリアの周囲が非常に荒れており、市民からギルドへ苦情が殺到、職員達は対応に追われていた。

 しかも、今回の騒動はソーマ・ファミリアと市民(といっても裏社会の筋者達だが)の衝突であるから、『ギルドは冒険者による一般人への暴力を許すのか』とギルドそのものへの非難批判も強い。

 

「大変なことになったわね……」

 ハーフエルフの窓口職員エイナ・チュールは疲れた溜息をこぼす。

「上もガネーシャ・ファミリアと協議を重ねてるみたいだけど……どうするのかしら」

 

「大したことはできませんよ」

 隣の席で作業をしているローリア女史が言った。

「ギルドにはこの件に介入する権限がありませんし、ガネーシャ・ファミリアは既に対応能力を超えています。さらに言えば、元々良からぬ噂の多いファミリアと街の害虫が共食いしているだけです」

 

 作業の手を止めることなく、ローリア女史は淡々と私見を述べる。

「仮にソーマ・ファミリアが壊滅したところで、神ソーマさえ無事なら神酒はいくらでも流通します。場合によっては、街の経済界が現行の団員を徹底的に潰し、息が掛かった者達と入れ替えるかもしれませんね。そうすれば、神酒の流通を掌握できますから」

 

「そんな……」エイナは整った顔を険しくし「それじゃ、この事態を放置するというんですか?」

「少なくとも、この街の運営や経済の観点からすれば。ええ、その通りです」

「――な」

 絶句するエイナを余所に、ローリアは手元の書類を『処理済み』の籠へ収める。

 

「この件の問題は市民が神々の眷属を襲う、という事態を神々がどう受け止めるか。その一点でしょうね。神々が眷属を襲う市民を『けしからん』と処断に動くか、対岸の火事と傍観するか。まぁ、これまでも市民が冒険者を襲う事例が無かったわけでもありませんから、神ソーマが害されぬ限り間違いなく後者でしょう。ですから」

 ローリアはどうでもいいと言いたげな顔で話をまとめる。

「事態が落ち着くまで、ガネーシャ・ファミリアがソーマ・ファミリア拠点の警備に就き、市民の襲撃を防ぐ。そんなところでしょうね」

 

 不意に顔を上げ、ローリアは愕然としているエイナへ目を向けた。

「チュールさん」

 

「……なんですか?」

 暴論(エイナの価値観で言えば、そうとしか言えない)を聞かされ、エイナは憤慨気味に応じる。

 

「たしか、貴女の担当冒険者は近頃ソーマ・ファミリアの関係者と一緒に活動しているのではありませんでしたか?」

 ローリアがさらりと口にした内容に、エイナは眼鏡の奥で目を丸くして吃驚を上げる。

「な、なんでそれを」

 

 しかし、ローリアはエイナの疑問に答えず、話を続ける。

「担当冒険者が心配なら忠告しておくことです。この情勢下でソーマ・ファミリアと行動を共にしていたら、巻き込まれかねませんよ」

「!」エイナはハッとして脳裏に白兎の少年を思い浮かべ「助言、ありがとうございます……っ! でも、どうして」

 

「迷惑だからです」

 

 予期せぬ非難を浴び、エイナが思わず身を強張らせる。が、ローリアは容赦なく冷たい言葉を重ねていく。

「以前、貴女は担当冒険者が死んだ時、しばらく使い物になりませんでした。同じような事態になられては迷惑です。ただでさえ、貴女は冒険者相手に無駄な講義をして仕事に穴を空けがちなんですから」

 これが言葉のキツいツンデレなら可愛げもあるかもしれないが、ローリアは完全に真顔で声色は刺突剣のように鋭く冷たい。

 

 エイナは悔し涙を堪えるように下唇を噛み、挑むように問う。

「……ローリア先輩は冒険者を、この仕事をどう思ってるんですか?」

 

 くだらないことを聞くな、と言いたげに目を細め、ローリアは無言で作業に戻った。

 

         ★

 

“どういうわけか”魔法が使えるようになったベルが、夜中にダンジョンへ潜り込み、魔法をぶっ放しまくってマインドダウン。目を覚ましたら剣姫アイズの膝枕をされており、びっくりしたベルは脱兎の如く遁走。

 そんな愉快な夜が明けたこの日。

 エミールとアスラーグはこれまで集めた情報の精査と、ジェラルディーナから得た情報の裏取りと相互参照を進めていた。

 

 キャミソールに短パンと淑女らしからぬ格好で資料に目を通し、アスラーグは結った銀色の長髪を苛立たしげに掻き上げる。

「ドブネズミ共が1000年に渡って足元に巣穴を掘っていたのに、誰も気づかないとか……この街の連中はバカばかりなの?」

 

「今更だろう。この街に俺達の常識が通用しないのは」

 何杯目か覚えていない珈琲を口にし、エミールは掲示板替わりの壁を窺う。

「例のギャング共から回収した帳簿や航海日誌も興味深いな。度々イシュタル・ファミリアから特別便でニョルズ宛てに“何か”を移送してる。しかも戦闘娼婦の護衛付きで。性風俗を商うイシュタルが港湾事業者のニョルズに何を渡してるんだ? 娼婦ってことは無いだろう?」

 

「見当もつかないわね」

 アスラーグは官能的な声をこぼしながら体を伸ばした。ふぅ、と唇から細く息を吐き、獰猛に口端を歪める。

「この情報を親愛なる髑髏殿にぶつけてみましょう。どんな反応をするか見ものだわ」

 

 

 

 そして……ダンジョン第10階層。濃霧の中でアスラーグとエミールは不死の愚者と会合を持つ。

 

 

 

「イケロス・ファミリアのモンスター密売事業は、少なくとも裏社会では以前から噂になっていたようね」

「そう、だったのか」

 小豆色のケープコートをまとい、フードを目深に被ったアスラーグから説明を聞き終え、黒づくめのフェルズは怒気を滲ませながら拳を固く握り込む。

 

 イケロス・ファミリアに狩られた異端児は、決して少なくなかった。

 異端児達はこの世界を変える希望だ。彼らを下劣な欲望の餌食にするなど絶対に許せない。

 異端児達はフェルズの友人だ。彼らを下卑た欲望から守れなかった自分が許せない。

 

 フェルズは痛悔の念を堪え切れず、吐露する。

「もっと早くその方面にも伝手を作っておけば……」

 

「後悔するより事態の解決に意識を注げ。それが異端児達のためだ」

 紅色髑髏の面布で顔を覆うエミールは容赦なく厳しい言葉を浴びせる。

「イケロス・ファミリアはダンジョンに出入り可能な独自ルートを持っている。これは確定事項だ。おそらくダイダロス通りの地下に」

 

「その根拠は?」

 フェルズに問われ、エミールとアスラーグはジェラルディーナの名を伏せつつ、彼女から入手した情報。その情報を基に調査、精査、裏取りと分析した内容を淡々と語る。

 

 

「―――物流記録と会計情報……盲点だったな」

 唖然としながら呟き、フェルズは幾度も小さく首肯した。

 

「だが、言われてみれば合点がいく話だ」フェルズは前置きし「私がオラリオへ来た以前の話になるが、名匠ダイダロスは『ダンジョンを超えるものを作ってみせる』といって広域住宅地の建設を請け負い、取り憑かれたように再開発を繰り返したそうだ」

 

「それはつまり、端から地下施設の建設が目的だったということじゃないか……またしても“ウラノスとギルドのうっかり”か?」

 エミールの皮肉を無視し、フェルズはぶるりと身を震わせた。

「君達の情報が全て事実なら、1000年に渡って地下施設の拡張工事を続け、ダンジョンとつなげたことになる……バベルの足元以外にも“穴”が開いてるなんて大問題だ」

 

 巨塔バベルが建設された理由はダンジョンに蓋をすること。横穴が開いていたら何の意味もない。もしも、その穴からモンスターが地上に湧いたら大惨劇が生じるだろう。

 これまでそうした事態が生じなかったのは奇跡なのか、それとも件の地下施設がよほどしっかりした出来なのか(だとしても喜べる話でもないが)。

 

 フェルズは額を押さえながら呻き、

「参ったな……今日は第24階層の食糧庫の件を話し合うつもりだったんだが……」

「第24階層の食糧庫?」

 フードの中で怪訝そうに眉根を寄せたアスラーグへ説明する。

「ああ。リド達からの情報だ。先の第30階層と同様の状況らしい」

 

「闇派閥は第30階層でしくじったばかりだ。なのに同じような事態を許してるのか?」とエミール。

 もっともな疑問だった。間を置かずに同じ失敗を繰り返すようなノータリンでは、危険なダンジョン内で長生き出来ない。

 

「誘いなのかもしれない。闇派閥とデリラ信奉者が協力しあっているなら、闇派閥の活動を臭わせ、君達を誘い出すために」

 黒づくめ髑髏の推論に紅色髑髏と黒妖精は納得する。

 

「歓迎委員会か。あり得そうな話だな」

「ああ。だから、今回は君達にヘルメス・ファミリアと共同で当たってもらいたい」

「迷宮都市一胡散臭いとかいう連中だろう。信用できるのか?」

 眉間に皺を刻むエミールを宥めるように、フェルズは言葉を重ねた。

「彼らの尻尾は握ってある。確かに神ヘルメスは怪しいところが多く、信用も信頼も出来ないが、裏切ることはない。異端児のこともある程度把握している」

 

 エミールとアスラーグは顔を見合わせ、アスラーグが首を横に振る。

「ヘルメス・ファミリアと同行する件は断るわ。連中、というよりヘルメスが諸島帝国の件と無関係という証が無い限り、直接の関わりは避けたい。だから、エミールが秘密裏に同行して、現場にデリラ信奉者が居た場合のみ、手を貸す」

 

「分かった。それで構わない」フェルズは頷いて「協力の対価は……」

「第24階層の件が片付いてからで良い」

 

 エミールは深青色の瞳をぎらつかせながら言った。

「デリラ信奉者が現れることが最大の対価だからな」




エイナさんの冒険者に対する思いやりとかギルド職員としての義務感ってなんかズレてる気がして……
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