虚無を歩く者がオラリオに現れたようです 作:リバークラスト
アスフィ・アル・アルメイダはファミリアの仲間達を率い、食人花の津波を掻き分けながら“食糧庫”を目指して洞窟内を急ぐ。
同道していた剣姫アイズ・ヴァレンシュタインとは緑肉の壁に分断されてしまったが、剣姫はレベル6の実力者。食人花など十重二十重に襲って来ようと問題にはなるまい。
問題は私達の方ですね、とアスフィは表情を強張らせる。
ヘルメス・ファミリアはギルドにレベル詐称しており、団員達は報告しているレベルより高い。しかし、食人花の津波を前にして欠伸を掛けるほど余裕は無かった。
団長アスフィは”万能者”などと大層な二つ名を授かっているものの、その戦い方は自作した魔導具頼り。アスフィ自身の技量は純粋な戦士に劣る。
団員達も中堅どころが主体。食人花の飽和攻撃が続けば、磨り潰されかねない。
ゆえに、迅速に“食糧庫”へ進入し、目的を達成。速やかな撤退を図るしかなかった。
「こんなタフな仕事とは聞いてなかったよっ!!」「ルルネの口が軽いせいだからねっ!」「帰ったら良い酒奢れよっ!」「高級娼館奢れっ!!」
団員達がやいのやいのと軽口を飛ばす。
「ごめんってばぁっ!」犬人娘ルルネも喚き返しながら、短剣で触手を切り払う。
「無駄口を叩く余裕があるなら、一歩でも早く進みなさいっ!」
アスフィは団員達へ叱声を張りながらも内心で満足する。予断を許さない状況であるものの、皆、気持ちに余裕がある。
この調子なら上手くやれそうですね。
★
ヘルメス・ファミリアから距離を取って洞窟内に侵入し、エミールは無音で進んでいく。髑髏の面布と相成ってさながら幽霊のようだ。
食人花の生き残り達も脇をすり抜けていくエミールに気付かない。
高度な無音進入技術に加え、認識阻害のボーンチャームも効いているのかもしれない。
剣姫とヘルメス・ファミリアを分断するした緑肉の隔壁を前に、エミールは足を止める。
――厚さはそれなり。さほど密度はなく、硬度も高くはない。壊せないこともないが……
エミールは壁の先から聞こえてくる激しい戦闘騒音を聞きながら、思案する。
この緑肉壁を破壊して突破することは構わないが、食糧庫内へ進入する際に要らぬ注意を集めてしまうし、些か芸がない。
「ふむ……隙間が無いわけでもないようだし……小細工をしてみるか」
★
「信じる者は救われる、か。己らも傍から見れば彼らと同類かな?」
グリムが自嘲気味に問えば、
「頭と心の弱い連中が利用されてるだけさ」
一緒にするな、とヴァスコは鼻を鳴らす。
「あんなもん、火に飛び込むバカな虫けらと変わらねえよ」
巨人花の腹に陣取り、高所から戦闘を傍観する継ぎ接ぎマスク男と全身甲冑男。
2人の眼下では、白ローブで体を包んだタナトス・ファミリアの者達が侵入者達へ向かって突撃し――家族か愛する者か、ともかく誰かの名を叫びながら次々と自爆していた。
天国だか来世だかで愛する人々と再会できると信じる彼らは、火炎石と呼ばれる燃焼性素材を用いた自爆攻撃を、嬉々として遂行していく。
侵入者達は当初こそ彼らの自爆攻撃に面喰い、仲間の一人が重傷を負って慄いていたが、すぐさま立ち直った。躊躇なくタナトスの信徒達を迎撃し始める。
「ほう」グリムは感心し「存外、場慣れしているな」
混戦模様が激しくなっていく。爆炎と爆発音が響き渡り、血肉が飛散し、食人花が踊る。そんな中、短い水色髪の眼鏡女が宙へ飛翔し、爆炸薬を散布して食人花と狂信者達を薙ぎ払う。
「おお……飛んだよ」とヴァスコが歪んだアーメット型兜の中で目を細め「あれが“万能者”とやらか」
「聞き覚えがある」グリムは小さく首肯し「高名な魔導具製造者だな」
「恩恵頼りの技術屋だが、作るモノの出来は良い」とヴァスコ。褒めてるんだか貶しているんだか。
空中から急降下し、小剣を構えた“万能者”が山羊髑髏男オリヴァス・アクトへ突撃していく。
「技術者としてはともかく、戦士としてはいまいちだな」
グリムは小さく肩を竦めた。頭上からの高速奇襲。それ自体は悪くない発想だが……如何せん遅いし、動きが大きく読み易い。高位冒険者には通じないだろう。
案の定、“万能者”の突撃はオリヴァス・アクトに容易く受け止められ、突撃の余勢のまま地面へ叩きつけられた。激痛に喘ぎながら“万能者”が身を起こしたところへ、オリヴァス・アクトが奪い取った小剣で万能者の胴を貫き、抉る。
肝臓辺りを貫いたようだ。常人なら一分と経たず死に至る致命傷であるが、高位恩恵者は身体能力が高いため、死に至るまでもう少し掛かるだろう。
「? なぜ即死させない? やれただろ」と首を傾げるグリム。
「さあ? 何か考えがあるんだろ」と頭を振るヴァスコ。
“万能者”の仲間――短髪のヒューマン青年が必死に救出を試み、自らが犠牲になる代わりに“万能者”を救出成功。小人族の魔法使いが大急ぎで万能者を治療していく。
「「ぇえ……」」
2人は思わず慨嘆をこぼす。
団長の“万能者”をさっさと始末しておけば、頭を喪った団員達を容易く片付けられただろうに。今や傷ついた団長を守るべく、団員達は意思統一されて堅固な防御態勢を整えている。
「しかし、
ヴァスコが何気なく食糧庫内を見回した直後。
出入り口を塞いでいた緑肉壁が吹き飛び、
「来たかっ?」
読みが当たったとヴァスコが喜色を浮かべると同時に、
「おらぁあああああああああああああああああっ!!」
猛々しい雄叫びが食糧庫内に響き渡り、飛び込んできた銀灰色の狼人がオリヴァス・アクトを蹴り飛ばし、
「やぁああああああああああああああああああっ!!」
同じく飛び込んできた褐色肌の美少女が馬鹿でかい双刃剣を振るい、ヘルメス・ファミリアを取り囲んでいた食人花を一掃した。
続いて山吹色髪と黒髪紅眼のエルフ少女達が姿を見せるが……
お目当ての男はいない。
「……予定していた相手と違うな」とグリムが溜息を吐いた。
ヴァスコは思わず新しき言葉で罵声を上げる。
「ファ――――――――――――――――――――――ック!!」
★
「ファ――――――――――――――――――――――ック!!」
食糧庫内に聞き慣れない言葉の怒号が響き渡り、誰もが(食人花までもが)動きを止め、大主柱に巻き付いた巨人花を見上げる。
全員の視線の先で、全身甲冑男が身振り手振りをしながら憤慨していた。
「お前らはお呼びじゃねえよっ! 帰れっ!! いや、待てっ!? 見覚えがあるぞっ! テメェ、蛮族の小娘っ! よくも俺の兜を壊しやがったなっ!!」
「はあっ!? あたし、そんなことしてないよっ!」と怒鳴り返すティオナ。
「白を切るんじゃ……ん? 髪型変えた? それに……どうした? 随分と萎んでるぞ?」
怪訝そうにティオナを注視する全身甲冑男。
「誰が萎み乳だ―――――――――――――――――――っ!!!」
ティオナは激怒した。必ず、かの厚顔無恥な悪漢を倒さねばならぬと決意した。ティオナにはこの場の事情は分からぬ。けれども己の平坦な乳に対する侮辱には人一倍、敏感であった。
「ぶっ倒すっ!!」
「上等だ、蛮族の小娘がっ! あの雌エルフは居ねえようだが、容赦しねえぞっ!」
「……孫のような歳の少女相手に恥ずかしい奴だ」
隣の継ぎ接ぎマスク男が呆れ気味に嘆きながらベート達が突入してきた緑肉壁の穴を窺い、その近くに転がる鼠達の死骸が目に留まった。
――鼠? こんなところに?
ハッとしたように腰から骨と茨の剣を抜き、叫ぶ。
「ヴァスコッ! 奴はもう来ているぞっ!!」
「ああっ!?」
全身甲冑男が煩わしげに応じ、直後。
2人の眼前の空中に突如として人影が生じた。
「え」
何処からともなく突然、宙に人影が現れ、ティオナ達もヘルメス・ファミリアも山羊髑髏男も食人花も呆気に取られる中、影が小剣を振り下ろす。咄嗟に継ぎ接ぎマスク男と全身甲冑男の2人が飛び退き、
どがん。
落雷のような轟音が食糧庫内に響き渡り、2人が居た巨人花の胴体が両断された。
★
破壊されて崩れ落ちていく巨人花。されど狙った2人の魔人は宙へ逃れている。
アビリティ『
「再会を歓迎するぞ、
継ぎ接ぎマスクは声に喜色を込めてエミールの斬撃を掻い潜り、その返しに回し蹴りを放つ。
エミールは回し蹴りを折り畳み式小剣の腹で受け止める、も、空中では踏ん張りがきかず、そのまま蹴り落とされていく。が、ただでは落ちない。左脇に下げていたクロスボウを速射。
「小癪っ!!」
継ぎ接ぎマスクは巧みに偏差を付けられた矢弾を斬り払いながら着地。と、既にエミールが
「ちぃっ!」
剣閃の衝突を皮切りに激しい剣戟が始まる。
二合。三合。四合。鋼と鋼の交錯に閃光が踊り、火花が舞う。繰り出される斬撃の合間に四肢による打撃が混じる。互いの拳が相手を捉え、双方の間合いが一瞬遠のく。と、即座にエミールがクロスボウを、継ぎ接ぎマスク男がリストボウを放つ。
リストボウの矢弾がエミールのフードを千切り飛ばし、クロスボウの矢弾が継ぎ接ぎマスク男の革コートの裾を大きく裂いた。
鮮烈な戦いぶりに、食糧庫内の誰もが思わず目を奪われる。
エミールがわずかに体勢を崩した瞬間、継ぎ接ぎマスク男が一気に肉薄して骨と茨の剣を袈裟に振るう。
小剣の柄頭で迫る刃を弾き、エミールは身を捩じりながら継ぎ接ぎマスク男の側頭部へ上段蹴り。
吹っ飛ばされた継ぎ接ぎマスク男は空中でくるりと身を捻って、危なげなく着地。楽しげに首を揉む。
「やるな。先の一戦より随分とキレが良い」
距離が開いたことで、エミールは一旦攻勢を止めた。折り畳み式小剣をくるりと逆手に持ち変え、剣を握ったままパウチから矢弾を抜いてクロスボウのボルトトラックへ給弾していく。
そんなエミールの姿を目の当たりにしたアスフィ・アル・アルメイダが唖然として呟いた。
「髑髏の覆面に、折り畳み式小剣、クロスボウ……まさか貴方は髑髏の異能者、なのですか?」
アスフィの言葉に冒険者達が息を呑み、無言で矢弾の装填作業を続ける男を凝視した。
髑髏の異能者。迷宮都市の暗黒期において、正邪を問わず冒険者達を殺傷し続けた凶人。五年前以来、姿を見せず、生死が定かでなかったが……
認識阻害のボーンチャームが効いているため、誰もエミールの容姿を精確に捉えられない。茫洋とした姿の中で、目元から首元まで覆う紅色髑髏だけが鮮明に見えていた。
「お前らのことなどどうでも良い」
矢弾の装填作業を終え、エミールは温もりが欠片もない声で告げた。
「そっちはそっちで勝手に遊んでいろ」
「ンだとゴルァッ!」と凶狼が眉目を吊り上げる。
「敵じゃないならそれでいーじゃん。あっちの三人が敵ってことでしょ」
ティオナは三人――被り物をしている男達を睨み、先ほどの鬱憤を晴らすように罵倒する。
「揃いも揃って変な恰好しちゃってさっ! バカみたいっ!」
「なんだとっ! オラスキル王朝時代の一点物だぞっ!!」と喚く全身甲冑男。
「変な恰好……そんなことはない。そんなことはないはずだ」と呟く継ぎ接ぎマスク。
2人と違い、山羊髑髏男は反応もしない。代わりに辟易とした調子で吐き捨てる。
「まったく煩わしい……ここは“彼女”のために用意した大事なプラントだというのに、どいつもこいつも土足で踏み込み、騒ぎ立てる」
「どういうことですっ!? 貴方達はいったい何者なのですっ!! ここで何をしているのですかっ!」
アスフィが情報引き出そうと問い質し、山羊髑髏男はあっさり引っかかった。
「ここで何を、だと? 決まっているっ! オラリオを滅ぼすために食人花を量産しているのだよっ! 全ては“彼女”のためっ! 空を欲し、空を求める“彼女”のためっ! そう、“彼女”の願いを叶えるためにっ! 私に永遠を与えてくれた“彼女”のためにっ!」
陶酔気味に語り、男は山羊髑髏の仮面を投げ捨て、白ローブを脱ぎ捨てる。
やけに色白な筋骨たくましい長身。白い長髪の精悍な顔立ち。鋭い双眸の瞳はどこか爬虫類を思わせた。
余計な真似を、と全身甲冑男が目元を覆う。同時に、アスフィが唖然と呻く。
「あ、貴方は……闇派閥のオリヴァス・アクト。27階層の悪夢で死んだはずっ!」
「オリヴァス、アクト……ッ!」とフィルヴィスが端正な顔を憎悪に歪め、怨嗟を漏らす。
「そうっ! 私はあの時、確かに死んだっ! だが、私は蘇ったっ! “彼女”によって永遠を与えられたのだっ!」
オリヴァス・アクトは胸元に生える魔石を晒し、恍惚として言葉を並べていく。
「私は彼女に選ばれたのだっ! 神などという虚飾に塗れた愚物共ではなく、彼女から真の恩恵を、恩寵を賜ったのだっ! 他ならぬ彼女にっ! ゆえに私は彼女の願いを叶えるっ! 私だけが彼女の願いを叶えられるっ! オラリオを滅ぼし、彼女のために空をっ! 彼女のっ! 彼女のっ!」
「オリヴァス・アクトッ!!」
垂れ流されるオリヴァス・アクトの狂気を妨げるように、
「あれだけのことをしておいてのうのうと……貴様だけは絶対に許さんっ!!」
”27階層の悪夢”の生存者フィルヴィス・シャリアが鋭い怒声を張り、
「一掃せよ、破邪の聖杖っ! ディオ・テュルソスッ!!」
素早く短杖を構え、短文詠唱の雷撃魔法を放つ。
「そのようなか弱い児戯などっ!!」
も、オリヴァス・アクトは素手で雷閃を容易く撥ね退けて嘲笑い、逞しい両腕を広げて朗々と叫ぶ。
「食人花、巨人花ッ! 掃除の時間だっ! 片付けろっ!!」
蛇モドキのような食人花が津波となって襲いかかり、大樹の如き巨人花が雪崩となって押し寄せる。
「あの2人は俺の獲物だ。邪魔をすればお前達も排除する」
エミールは冒険者達へ吐き捨てて、迷うことなく食人花の津波へ向かって駆けていく。
「抜かしやがれっ! テメェこそこっちの邪魔をしたらぶっ潰してやるっ!」
凶狼ベートがエミールを睨みつけながらオリヴァス・アクトへ向き直る。
「あの白髪頭は俺がやる。アホゾネスッ!」
「分かってるよ、バカ狼ッ!」ティオナはレフィーヤへ顔を向け「レフィーヤッ! あたしが援護するから、広域攻撃魔法をっ! 急いでっ!」
「は、はいっ!!」
レフィーヤは緊張と役割の重圧に身を震わせながら、杖を構えた。
アスフィも首肯し、団員達へ叫ぶ。
「私達も彼女を援護しますっ!! 防御陣を組みなさいっ!!」
斯くて戦いの第二幕が開く。
★
ティオナは内心で舌打ちする。
剣姫アイズや凶狼ベートほどではないにしろ、強さへの希求と強者の渇望は大きい。戦闘民族が持つ生来の性だ。
それだけに、ティオナは大双刃を振るい、雑魚――食人花の大群を撫で斬りにしながら舌打ちする。
妬ましさで。
怪人オリヴァス・アクトと近接格闘戦を交わすベートが妬ましい。
気に入らない奴ではあるが、ベートはロキ・ファミリア屈指の速さを持つ一流の戦士だ。
にもかかわらず、対するオリヴァス・アクトは激しく躍動するベートに容易く追従し、ベートの繰り出す旋風のような打撃を苦も無く捌いている。
強い。紛うことなき強者。疑う余地無き強敵。
――戦ってみたい。剣を交え、拳を交わしたい。
視線を巡らした先では、顔を覆う三人が壮絶な剣閃を交えていた。
紅色髑髏と継ぎ接ぎマスクと全身甲冑男が、広大な食糧庫内を所狭しと高速機動戦を繰り広げている。幼少より戦闘を積み重ねてきたティオナをして、目を奪われるほど鮮烈で熾烈な戦い。
継ぎ接ぎマスクの剣の冴え、動きの妙。全身甲冑男の狡猾な技、狡知な術。
2人とも奇怪なナリとは裏腹に不可解なほど強く、ティオナの戦闘衝動を強く刺激する。
が、紅色髑髏はそんな視界に映る戦士達を凌駕していた。
紅色髑髏は2人の精強な戦士を相手にしながら押している。一切の無駄がない洗練された剣捌きと身のこなし。剣による攻防の最中に、手足の打撃とクロスボウの射撃、アイテムの使用を混ぜる柔軟な戦術。加えて空間を飛び越えているような瞬間移動や高速運動。
恩恵頼りの連中とは一線を画す、鍛錬と経験で練磨された業と技。
戦いたい。あの紅色髑髏と戦いたい。あの力、あの技、あの強さ、戦って全てを味わいたい。
より強くあらんとする戦闘民族の欲求。より強き胤を得たいというアマゾネスの本能。
ティオナは荒れ狂う怪物達を眼前にしながら、意識を惹かれてしまう。
フィルヴィスは歯噛みする。
“呪われた身”になった元凶を前にしながら、緑の怪物群に阻まれて近づくことさえ出来ない。凶狼と激しい打撃を交わす仇敵を睥睨することしか出来ない。この手で復讐を果たすことが出来ない。この手で恨みを晴らすことが出来ない。
我が身の弱さがただただ悔しい。
歯噛みするフィルヴィスを嘲笑うように、食人花の津波と巨人花の雪崩がじりじりと冒険者達を追い詰めていく。“大切断”ティオナ・ヒュリテの剛剣が無ければ既に全滅していたかもしれない。
“27階層の悪夢”の時のように、その後に四度のパーティが壊滅した時のように。
ふと脳裏に、それでもいいかもしれない、と諦念の声が響く。今度こそ自分一人が生き残ることはあるまい。周囲から仲間を見捨てて生き延びた、見殺しにして生き残った、と誹謗されることもなくなろう。死を呼ぶ妖精がついに自身も死に捕まり、呪いから解放されるのだ。
「しま――っ! レフィーヤ、避けてっ!」
食人花の飽和攻撃がついに大切断の対応限界を突破し、その顎を山吹色髪のエルフ少女へ剥いた。
フィルヴィスの紅眼がレフィーヤの横顔を捉える。出会ってから一日と経っていないにも関わらず自分と友になりたいと言ってきた、人懐っこいんだか図太いんだか分からない同族。
ただし、その必死で真摯で真剣な眼差しと言葉が擦り減った自分の心に届いたことは、事実だ。その笑顔が久しく忘れていた人との交流の温もりを思い出させてくれたことも、事実だ。
死の妖精などと呼ばれ、ファミリアの仲間達からすら嫌厭され、忌避される自分に手を差し伸べてくれた―――
「盾となれ、破邪の聖杖っ! ディオ・グレイルッ!」
フィルヴィスは短文詠唱式を平行詠唱ながらレフィーヤの前に飛び込み、円形の魔法障壁を展開。食人花を弾き飛ばす。
「フィルヴィスさんっ!」とレフィーヤが驚愕と歓喜を混ぜた表情を浮かべ、
「助かったよっ!! そのままレフィーヤをお願いっ!」とティオナが安堵と感謝の微笑を向けてきた。
「――ああ」フィルヴィスは胸に熱いものを覚えながら「ウィリディスは私が必ず護るっ!!」
本作では特に説明がない場合、刀身長は以下の通り。
大剣/両手剣>直剣/片手剣>小剣>短剣>ナイフ。