虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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29:アーデちゃんを囲む会。

 地上に帰還したエミールはアスラーグから聞かされた内容に、眉間に深い皺を刻んだ。

「……アーデ嬢の容体は?」

「治療師の腕が良かったのね。顔は暴行される以前と変わりなかったし、骨折も問題なく治った。負傷による体力低下が回復次第、退院できるそうよ」

 アスラーグは無表情に語った。相当キている証拠だ。自由射撃良し、と告げたなら、きっとソーマ・ファミリアに最大火力の“花”を叩きこむだろう。

 

「クラネル少年の方は?」

「ベル君は無事よ。ショックを受けていたようだから帰らせたわ。リリちゃんを守り切れなかったことを後悔しているようだけれど、あの子ならきっと後悔も前に進む力に変えられる」

「ふむ……」

 エミールは目を鋭く細めながら考え込み、アスラーグに問う。

「どうする? 潰すか?」

 

「ソーマ・ファミリアはリリちゃんが回復してから善後策を話し合いましょう。件の狸人に関しては」

 アスラーグが淑女らしい微笑みを湛えた。青紫色の瞳がひたすらに冷たい。

「労働が如何に尊いものか教育してやりましょう」

 

「異論はない。伝手もあるしな。とりあえずは」

 エミールは小さく頷いた。

「アーデ嬢の見舞いに行こう」

 

          ★

 

「無事で何よりだな、アーデ嬢」「元気になった?」

 エミールとアスラーグ、ベル・クラネルの見舞いを受け、リリルカは一瞬、嬉しそうな笑みを浮かべるものの、すぐに気落ちして肩を落とした。

「リリは……勝てませんでした。エミール様とアスラ様に色々教えていただいたのに……」

 

 アスラーグはベッドの縁に腰を下ろし、リリルカを抱き寄せて髪を梳くように優しく撫でる。

「胸を張りなさい、リリちゃん。こうして生き延びた。貴方は”冒険者として”一番大事な勝利を掴み取ったのだから。よくやり遂げたわ」

 

 エミールはサイドテーブルに見舞いの林檎が入った小さな籠を置き、

「勝利は大事だが、生きていることの方がより大事だ。生きてさえいれば、どんなことも出来る。憎い相手に復讐することも、新たな人生を歩み始めることも、幸せになることも」

 リリルカの肩に手を置き、表情を和らげた。

「よく生き延びたな、リリルカ」

 

 短くも心のこもった言葉に、リリルカの涙腺から滴が零れ落ちる。

「ありがとう、ございます……っ!」

 嬉しい。この2人に認められたことが、とても嬉しい。

 

 エミールはアスラーグに抱かれながらぽろぽろと涙をこぼすリリルカから視線を切り、ベルに向き直ってベルの肩を軽く叩く。

「たった1週間の教官役だったが、君の成長に関われたことが誇らしい。よく仲間を守り抜いたな、ベル」

 

「エミールさん……」ベルは俯く「でも僕は……僕がもっと早くリリの許へ駆けつけていたら……」

「それは違うわ、ベル君」

 アスラーグはリリルカをいたわりながら、ベルへ柔らかく微笑む。

「貴方は出来ることを成し遂げた。自分を恥じることも責めることもない。反省すべきことがあるなら、改める努力を重ねなさい。後悔があるなら、繰り返さぬ努力を積みなさい。それが貴方に必要なことよ」

 

「はい。アスラさん」

 ベルは目元を擦ってから、大きく頷いた。

 

「2人ともよくやった。胸を張って良い」

 エミールは林檎を一つ手にし、小型ナイフを取り出してリンゴを切り分けながら少年少女へニヤリ。

「とはいえ、見直すべき点はしっかり見直して、今後に活かしていかないとな」

 

「「え」」とリリルカとベルが目を瞬かせる。

「事後検討は大事よね」と鈴のように喉を鳴らすアスラーグ。

「「ええー……」」

 予期せぬ展開に、呆気に取られるリリルカとベル。

 

「ま、林檎でも食いながらやろう」

 エミールは切り分けた林檎の芯と皮を削ぎ、“うさぎりんご”を作って2人に渡す。

 

 うさぎりんごを渡されたリリルカは目をぱちくりさせた。

「エミール様はこんなことも出来るんですね」

 

「近所のおばちゃんが作ってくれたなぁ……」とベルが懐かしそうにうさぎりんごを見る。

 故郷では物心ついた時には祖父と2人暮らしで、祖父はこういうファンシーな小技を披露してくれなかったが、近所のおばちゃんが幾度か作ってくれたことがあった。『男ならハーレムを目指すもんだ』とベルに語る祖父へ、おばちゃんは『子供にバカなことを教えるな』と呆れていたものだ。

 

 アスラーグは少年少女の様子に表情を和らげながら、林檎を口に運ぶ。しゃりっとした食感と爽やかな甘酸っぱさ。

「うん。美味しい」

 

        ★

 

 木賃宿の一室。

「あ、あああ、あ、あ、ああ、あああああああ……っ!」

 カヌゥは激痛を堪えながら小便を済ませ、涙をこぼす。

「ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう……っ!」

 

 なけなしの銭をはたいてポーションを購入して用いたが、千切られた右耳も刺し抉られた金玉も完全に治らなかった。特に金玉は小便する度に涙が滲むほどの激痛が走る。何より刺されて以来、一切勃起しない。まったく勃起しない。どれだけ弄っても全く勃起しない。

 これがどれほどカヌゥの精神を打ちのめしていたか。

 なんで俺が、どうしてこんな……俺が何したってんだ。こんなのあんまりだ。あんまりだぁああああああっああっあっあああっ!

 

 狸人中年男カヌゥは惨めさに自己憐憫の涙しつつ、便所から部屋に戻り、凍りつく。

 

 小汚い窓から夕陽が差し込む部屋に、ローグタウンで自分達をぶちのめした二人組――黒妖精の美女とヒューマン青年がいた。

 カヌゥは悲鳴も出せなかった。股間の残痛も忘れ、ただただ震え上がっていた。

 

 淑女然と椅子に腰かけていたアスラーグ・クラーカは部屋を見回し、優雅に微笑む。

「良い部屋ね」

 便所虫の巣穴よりマシという意味では。

 

 アスラーグの背後に護衛然と屹立していたエミール・グリストルが、後ろ腰の雑嚢から何かを巻いた革布を取り出し、傍らのテーブルに広げた。

 革布の中には、様々な形状の狩猟解体用ナイフが収まっていた。いずれもよく使い込んであり、充分な手入れがされている。

 

「私はね、愛する人の子供を持てなかった」

 ぽつりと言葉を紡ぎ、アスラーグが左手の薬指を彩る指輪を撫でた。

「貴族に生まれ、女神から恩恵を賜り、魔法使いとしても研究者としても名を成した。それでも、子供を持つことだけは叶わなかった」

 

 何も言わないカヌゥを無視し、アスラーグは言葉を編み続ける。

「師から幼い妹弟子を預けられた時、なんて酷い仕打ちだろうと思ったわ。子供を持てなかった私に他人の子供を育てろなんて……でも、あの子を育てることに一喜一憂することは、素晴らしい体験だった。本当に愛おしい時間だった」

 

 ふぅ、と小さく息を吐き、

「あの子と過ごしていると、幼い頃の妹弟子を思い出すの。もしかしたら、これは一種の代替行為なのかもしれないし、何かの代理贖罪行為なのかもしれない。あるいは、そう。私が可愛がっている子を傷つけられて、単純に腹を立てているだけかもしれない」

 アスラーグは青紫色の瞳でカヌゥを見据えた。鼠のクソにも劣る存在を見るような眼で。

「以前言ったはずだ。私は子供を食い物にする奴に我慢ならないと」

 

 冷厳な言霊をぶつけられ、カヌゥが悲鳴を上げそうになった刹那。

 エミールが呟く。さながら魂を刈りに来た死神のように。

「Rashu Garhaya」

 

 時が止まり、エミールは狸人中年男を容易く捕らえた。

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 その日の夜、迷宮都市オラリオから冒険者カヌゥ・ベルウェイは永遠に姿を消した。

 

 そして、しばらくの後、北方某国の鉱山に狸人男の奴隷が送り込まれる。

 顔の皮を剥がされ、舌が無く、両足の腱が完全に破壊されたその狸人奴隷は、やけに体が頑丈で他の奴隷がバタバタ死ぬような重労働でも倒れなかったため、散々に酷使されたという。

 

       ★

 

 退院したリリルカ・アーデの回復祝いは酒場や飲食店ではなく、ヘスティア・ファミリアの拠点である廃教会の裏庭で催された。

 なんで店じゃないんです? と小首を傾げたベルに、アスラーグはにやりと微笑む。

「ベル君。覚えておきなさい。女の子を元気にするためには演出が必要なのよ」

 

 

 で。

 

 

 夕暮れ時。

 送迎役を仰せつかったベルがリリルカを治療院から廃教会に案内する。ちょっとしたデート気分を堪能し、リリルカは早くも機嫌を良くしていた。

 

 そうして、到着した廃教会内にはテーブルが用意され、クロスの敷かれた卓上には、取り皿とグラスが並んでいた。卓の周りにはいくつもの蝋燭が点され、ボロい廃教会がどこか幻想的な雰囲気を醸している。

「わぁ……」乙女心を刺激されたリリルカ、ではなく、ベルが思わず感嘆を漏らした。

 

「お帰り、ベル君っ! リリルカ君も無事に退院できて何よりだっ!」

 出迎えのヘスティアが2人を卓に座らせ、パンパンと柏手を打つ。

 

 地下室に通じる扉が開き、料理を抱えたアスラーグとエミールが姿を見せた。

「退院おめでとう、リリちゃん」「元気になって良かったな」

 2人から労わりの言葉を掛けられ、リリルカは嬉しそうに破顔する。

「ありがとうございます。アスラ様、エミール様」

 

 そして、卓上に料理が並べられていく。

 

 皿からはみ出そうなポークステーキ。彩り豊かで新鮮なサラダ。カワマスのホワイトシチュー。チーズの盛り合わせ。それに、ヘスティア持ち込みのじゃが丸君。

「凄い。これ、エミール様が作ったんですか?」と目を瞬かせるリリルカ。

「素人料理さ」「サラダは私が作ったわ」

 小さく微笑みながら梨のワインを手に取るエミールと、野菜を切っただけで得意げなアスラーグ。

 

 エミールが各々のグラスへ梨のワインを注いだ後、

「リリルカ君の退院を祝して、乾杯っ!」

 廃教会の主神たるヘスティアの音頭で、楽しい宴が始まる。

 

 食事が始まってほどなくリリルカとヘスティアの微笑ましい鞘当てが起きたり。神話マニアなベルに乞われ、アスラーグが諸島帝国の伝説や伝承を語ったり。アスラーグのカバーのせいで風評被害を被っているエミールが、リリルカとヘスティアに御説教されたり。

 

 健啖揃いのためか、料理も瞬く間にそれぞれの胃袋へ消えていく。デザートに紅茶と手作りパンナコッタが提供された。

 

 上品に紅茶を嗜んだ後、アスラーグがさらりと告げる。

「さて、そろそろ本題を話し合いましょうか」

 

「? 本題って?」と小首を傾げるヘスティア。可愛い。

「リリちゃんをソーマ・ファミリアから脱退させる方策ですよ、ヘスティア様」と口端を緩めるアスラーグ。

「……へ?」

 まったく予期せぬ提案に目を瞬かせるリリルカ。ベルとヘスティアも呆けている。エミールはパンナコッタの出来栄えに内心で密かな自画自賛をしていた。

 

 アスラーグは言葉を続ける。

「今回の件でよく分かった。リリちゃんはあんなろくでもないファミリアから、さっさと抜けた方が良い。だから」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!?」

 リリルカは慌ててアスラーグの言葉を遮った。

「ファミリアは必ず脱退しますけど、その件を皆さんで話し合うってどういうことですかっ?」

 

「そりゃ、ソーマ・ファミリアの連中がアーデ嬢の脱退を簡単に認めるわけがないし、脱退した後の身の振り方も、ある程度考えておくべきだからな」

 エミールはパンナコッタを平らげ、ベルに顔を向ける。

「クラネル少年。2000万ヴァリスを貯めることがどれほど大変か分かるな?」

 

「はい」とベルは首肯する。

 駆け出し冒険者のベルでも、2000万ヴァリスを貯蓄することが如何に難しいか、よく分かる。あまつさえ雇われサポーターならば筆舌に難い苦労があったことだろうことは、想像に易い。

 

「アーデ嬢はその大変なことを成し遂げる寸前だ。だがな」

 エミールは紅茶を口にしてから、不快顔を作る。

「クズ共は2000万ヴァリスを稼ぎあげたアーデ嬢を、よくやったご苦労さん、と褒めて手放すなどあり得ない。必ずこう考える。2000万稼いだなら、もっと稼がせられる、とな。奴らにとってアーデ嬢のような立場にある者は家畜や奴隷と同じだ。死ぬまで搾取し続ける」

 

「酷い」

 ヘスティアは愛らしい顔を強くしかめた。ベルも義憤を抱いており、リリルカは悔しげに唇を噛む。

 

「リリちゃんを脱退させるためには、団長ザニスが約束したという2000万ヴァリスを揃えるだけでは足りません。相応の準備を整えなければ、必ず反故にされるでしょう」

 アスラーグがヘスティアへ語ると、ベルが堪え切れず声を荒げた。

「そんなの絶対にダメです!」ベルが拳を握って「僕がリリと一緒に行きますっ! 僕はリリに約束したんですっ! 必ず力になるってっ!」

 

「ベル様……」ほわわんと頬を朱に染めるリリルカ。

「ぐぬぅ」面白くなさそうに眉をひそめるヘスティア。

 

 処女達を余所に、エミールが話を進める。

「クラネル少年の心意気は買うが、クラネル少年だけでは少し威容が足りない。こういう場合、クズ共に戯言を吐かせない武力背景が要る。だから、俺達も同行する。それと、ギルドに立会人も頼む」

「「ギルド?」」きょとんとする少年少女。

 

「そうか」とヘスティアは合点がいったように頷き「ギルドは冒険者とファミリアを管理統制する組織だから、公証人として立ち会わせるわけだね」

「御慧眼です、ヘスティア様」

 アスラーグは満足げに頷き、少年少女へ説明する。

「公証人が認めた脱退に綾を付ければ、ギルドを通して相手に公的制裁を請求できるし、私達が“反撃”する大義名分を得られる。こういうのはね、行政や司法組織を味方につけた方が優位に立つのよ」

 

 エミールがヘスティアへ水を向けた。

「ヘスティア様にも御同行を願えますでしょうか?」

 

「ボクかい?」と訝るヘスティア。

「先方が2000万で脱退を認めるという発言に関する真偽をはっきりさせたいのです。言った言ってないの水掛け論を防げます。ここはヘスティア様に御出馬願いたいのです」

 エミールの説明を聞き、ベルも主神へ懇願する。

「僕からもお願いします、神様っ! 力を貸してくださいっ!!」

 

「うーん……基本的に他所のファミリアへ手を出すことは御法度なんだけれど」

 ヘスティアはちらりとリリルカを窺い、しばし内心の葛藤に駆られる。

 可愛い我が子がこの小人族の娘っ子を気にかけている。親として我が子の友達を助けてやっても良い。しかし、この娘っ子、どうも可愛いベルに懸想している。この娘っ子を助けることでベルを掻っ攫われては堪ったものではない。ベル君はボクのなんだからっ!!

 

 悩むヘスティアへ、アスラーグが横車を押しにかかる。

「ヘスティア様がリリちゃんを眷属に迎えるという前提ならば、如何でしょう?」

 

「「えっ!」」

 リリルカとベルが目を丸くして吃驚する。即座に口を挟もうとする2人へ、エミールが首を横に振って、様子を見させた。

 

「それなら、ボクが同行する理由にはなる、ね」

 外堀を一つ埋められ、ヘスティアはむぅうっと唸った末、じろっとリリルカを見据える。

「……はっきり言えば、ボクはベル君ほどリリルカ君を信用してはいないよ。いろいろ良からぬ風聞も耳にしているからね」

 

 リリルカが大きく項垂れ、ベルが慌てて弁護しようとしたところへ、アスラーグが言葉を編む。

「慮外な額の脱退金を貯めるため、正道に背く振る舞いもしたでしょう。こればかりはヘスティア様のご寛恕を賜るしかありませんが、力無き少女が荒事師の世界で生き抜くためには、邪悪さは必要な強さなのです。街の裏側で生きていかざるを得ない子供達には、選択肢が多くありません。寄る辺なき孤児ならば、特に」

 

 アスラーグはただ説得を試みて言葉を編んだ。炉の女神ヘスティアの重要な権能の一つ、“全ての孤児の守護者”であることを知らずに。

 

 己が神性を刺激され、ヘスティアはその愛らしい顔を毅然と引き締めた。オリュントス十二大神の長姉にして、他の十一大神とは一線を画した格式を持つ大女神が、静かに神格と神階に相応しい威厳を漂わせる。

 俄かに場の雰囲気が一新され、卓の面々は反射的に背筋を伸ばした。

 

 ヘスティアはリリルカを真正面から注視する。

「リリルカ君。君はボクの眷属になりたいのかい? ボクやベル君の信用や信頼を裏切らないと心から誓えるのか?」

 

 これは単に心構えを質す口頭試問ではない。リリルカ・アーデに宣誓を求め、誓約を結ぶ覚悟を問うている。

 そして、神に偽りは許されない。

 

 リリルカはゆっくりと卓の面々を見回す。アスラーグ。エミール。ベル。

 この三人と出会ってからまだ半年も経っていない。それでも、三人は心から信じられる。母のようで姉のようなアスラーグ。父のようで兄のようなエミール。2人は尊敬すべき師で、頼れるオトナ。

 それに、ベル・クラネル。自分にとって初めての……

 

 姿勢を正し、リリルカは真剣な眼差しでヘスティアを見つめ、

「リリはアスラ様とエミール様のお顔を潰すような真似は、決してしません。ベル様の真心を無為にするようなことは、絶対にしません。リリルカ・アーデはヘスティア様とベル様の御信用と御信頼を決して裏切らないと誓います」

 深々と一礼した。

「女神へスティア様。どうかリリを眷属にお加えください」

 

 ヘスティアはしばし瞑目した後、大きく頷く。

「分かった。僕も同行するよ」

 

「神様っ! ありがとうございますっ!!」とベルが喜色満面の笑顔を浮かべた。見るものまで嬉しくなりそうな、良い笑顔だった。

 エミールとアスラーグも柔らかく微笑む。

 

「でも、ベル君はボクのだからねっ!!」

 ヘスティアは湛えていた威厳を明後日の方角へ投げ捨て、ベルを抱き寄せる。

「“誰を”選ぶかはベル様の自由だと思いますけれどっ!」

 リリルカが負けじとベルの腕を取って抱き寄せる。

「なんだとーっ!? 主神の意向に逆らう気かいっ!」「それとこれは別ですっ!!」「ちょ、神様っ!? リリっ!?」

 騒ぎ始めるヘスティアとリリルカとベル。

 

 大女神ヘスティアの威容が解かれ、教会内は和やかな喧騒を取り戻す。

 そんな三人を眺めながら、エミールとアスラーグは楽しげに酒杯を傾けた。

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