虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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小話5:振り回される人々。

 リュー・リオンは意識を取り戻し、路地のベンチに座らされていることに気付く。

 そして、意識を取り戻すまでの記憶が一切ないことを理解した瞬間、凄まじい恐怖感に駆られた。

 

 自身の記憶がない数刻の空白。その間、このベンチにただ座らされていたのかどうか分からない。

 なんせ迷宮都市オラリオの夜は安全とは言えなかった。見目麗しいエルフ娘が人気のないベンチで横たわっているところを見つけたら、格好の獲物を見つけたと考える者がいくらでもいる。財布を盗まれるくらいで済めば御の字、その場で下着を脱がして――なんて輩だって珍しくない。

 

 リューは恩恵持ちの超人である矜持を投げ出し、恐怖に駆られた一人の乙女として我が身を調べる。巨大な恐怖感に冷や汗を流しながら、今にも泣き出しそうな顔で。

 服は脱がされていない。汚されてもいない。財布も無事だし、懐に呑んだナイフも―――ナイフがない!?

 

 さあっとリューの顔が蒼くなる。盗まれたナイフが売り飛ばされるくらいなら良い。でも、もしもそのナイフが悪事に使われたら? 自身の落ち度で誰かが傷つくことになったら? とても責任を負えない。

 

 リューが記憶喪失の恐怖に加えて現状の不安と焦燥に駆られ、軽度の恐慌状態に陥る寸前。

 不意に、ベンチの右隣からポンッと栓が抜かれる軽妙な音が響き、リューは物凄い反射速度で右隣へ顔を向ける。と、

「呑むか?」

 そこには紅色髑髏が座っていて、梨のサイダー瓶をリューへ向けていた。

 

 リューは驚愕のあまり悲鳴すら上げられなかった。驚いた猫のようにベンチから飛び退き、大きく後ずさる。

 そりゃそうだ。相手は痴漢や不審者という次元ではない。

 

 それに、隣に居たことに全く気付かなかった。自身が意識を取り戻してから今の今まで確かに誰もいなかった。それは間違いない。いつ隣に座ったのか、全く知覚できなかった。

 驚愕と恐怖と戦慄と不安。同時に改めて確信する。

 

 この紅色髑髏は五年前、自分が討った髑髏の異能者と同類だと。

 

 リューが最大限の警戒心と不信感を露わにする一方。

「呑むか?」

 紅色髑髏はサイダー瓶を掲げ、再び問うも、リューは何も言わずただ睨み返してくるだけ。小さく鼻息をついてサイダー瓶をベンチに置く。

 

「酒場の女給がなぜ俺を尾行した? まさかチップ欲しさとは言わないよな? 単なる好奇心か? それともどこかに飼われてるのか?」

 認識阻害のボーンチャームによって茫洋とした姿の怪人が深青色の瞳でリューを射る。

「よく考えて返答と行動を採れ。俺はこの場でお前を殺して、死体を跡形もなく消し去ることも出来る。そして、場合によっては、あの店を丸焼きにすることも辞さない」

 

 あからさまな脅迫に、リューの意識が即座に戦闘用へ切り替わる。

『豊穣の女主人』の皆は五年前、凄惨な復讐劇の後、ボロ雑巾のようになったリューを救ってくれた大切な恩人達。二度と得られないと思っていた新しい家族。彼女達を傷つけようとする者を、リューは許さない。絶対に。

 

 だが、リューの冷静な部分が短慮な決断を押し留めていた。

 冷静沈着な理性が告げている。今、店の皆を危険な状況に追いやったのは、他でもない自分だと。

 藪を突いて蛇、どころか怪物を出してしまったのだ。

 

 五年前の髑髏の異能者――万全でない老人だった――ですら紙一重の辛勝だった。この紅色髑髏は五年前の髑髏仮面より遥かに強い。しかも、今の自分は得物を何も持っておらず、実戦から離れて久しい。

 勝てない。絶対に勝てない。であればこそ、この怪物を敵に回さぬよう立ち回らなければない……のだが。

 

 はっきり言おう。リュー・リオンにその手の交渉術など期待できない。

 そんな器用さを持っていれば、度々失礼な客の腕を捻り上げたり、無礼な客をぶちのめしたりしていない。

 

 だから、リューは持ち前の勇敢さで立ち向かうことにした。

「まず、その不気味なマスクを外してください……エミール・グリストル」

 

「取り合えず話をしようとする姿勢は評価する。回答としては落第ギリギリだがな」

 紅色髑髏の覆面が首元へ引き下げられると認識阻害が解除され、涼しげな優男の姿が鮮明になる。

 

「……貴方の事は知っています。クラネルさんから色々と伺っていますから」

 リューはエミールを睨みながら続けた。

「どういうつもりで、クラネルさんの傍に居るんですか?」

 

「それが俺を尾行した理由だと? クラネル少年が心配だから? 本気で言っているのか?」

 エミールは呆れながらリューを見据え、その真剣な顔つきに嘆息をこぼし、

「まず俺がクラネル少年の傍に居るんじゃない。クラネル少年の方が後から来た。調べればすぐ分かることだから言っておくが、俺の拠点は女神ヘスティアの拠点の近所だ。女神ヘスティアの要請でクラネル少年にちょっとした訓練を施し、少しばかり面倒を見ている」

 梨のサイダーを一口飲んでから問う。

「今度はこちらが質問する。名前は?」

 

「……リュー・リオン」

 少し悩んだが、リューは素直に名乗る。

 

「覚えがある名前だ。たしかギルドのブラックリストに載っていた。五年前に闇派閥と抗争事件を起こした冒険者だ。なんでも仲間の仇討ちに大勢殺したとか。件の闇派閥の眷属共だけでなく市井の協力者まで」

 エミールは目を細めて小さく冷笑する。

「大量殺人犯がクラネル少年を心配して俺を敵視してるわけか。まるでブラックユーモアだな」

 

「っ!」

 大量殺人犯と嘲られ、リューは瞬間的にカッとなった。何も知らないくせに、という罵りが喉元まで込み上がる。しかし、心のどこかでその非難が事実とも受容していた。復讐を終えた時の虚脱感と自己嫌悪は今も生々しく残っているから。

 

「正味な話、あんたがこの街のクズ共をいくら殺そうと知ったことじゃない。俺が聞きたいことは一つだ」

 エミールは無情動な目つきでリューを見る。

虚無を歩く者(ヴォイド・ウォーカー)という言葉をどこで聞いた? あの店で聞き耳を立てていたのも、既知の単語を耳にしたからだろう?」

 

 リューは答えない。

 

「沈黙は肯定と見做すぞ」とエミールが冷厳に告げる。

「……五年前。髑髏の異能者と呼ばれている男と戦って、」リューはエミールの深青色の瞳を真っ直ぐ見つめ「男が死に際に名乗った。自分は虚無を歩く者だと」

 

「ほう」エミールは感嘆をあげ「刻印持ちを殺せたのか。大したものだな」

「……なんとも、思わないのですか?」

「刻印持ち同士に繋がりは無い。オラリオに居たという髑髏の異能者とやらは完全な赤の他人だ。殺されても俺に不都合はまったく無い」

 エミールはサイダー瓶を傾け、頷いた。

「良いだろう。用件は済んだ。今夜のところは帰って良い」

 

「!?」リューは大きく困惑し「私は貴方の秘密を知った。なのに解放すると?」

 

「こちらもお前の素性を知った。豊穣の女主人にはブラックリストの凶状持ちが居ると。そちらが余計なことを吹聴するなら、こちらも情報を方々に流すだけだ。さて、その場合、面倒を被るのは、あの店の女将だけか? 俺が察するに同僚の幾人かはギルドやガネーシャ・ファミリアの注目を浴びたくないように思うが」

「どうして」

 リューはエミールの指摘が正鵠を突いていることに、身を強張らせる。

「気づかない方がどうかしているだろ。初めて入店した時は戸惑ったぞ」

 エミールは慨嘆し、行け、というように顎を振った。

 

「ナイフを返してください」

「女給には必要ない」エミールは返却を拒否し「刃物を持つより愛想良くするんだな」

「……余計なお世話です」

 唇を尖らせつつ、リューはエミールを警戒しながら距離を採り、踵を返して脱兎の如く去っていった。

 

 その背中を見送り、エミールは梨のサイダーを飲み干した。

「この想定外の関わりがどう転がるやら」

 

      ★

 

 朝日を浴びて靄が溶けていく中、ベル・クラネルは右手で黒短剣を水平に構え、左手を真っ直ぐ伸ばす。

「ぉおおっ!」

 鋭く吠え、全身のバネを躍動。ベルは一息で相手へ迫り、躊躇なく黒短剣の刺突を放った。

 

 が、相手はレイピアで易々と刺突を弾く。黒短剣を通じて伝わる衝撃の大きさにベルの身体が大きく傾ぐ。相手はその隙を見逃したりしない。黒短剣を弾いたレイピアを返し、ベルの頭蓋目掛けて片手面打ち。

 ベルは崩れた姿勢のまま右へ側転して面打ちを緊急回避。側転から反撃を試みようと顔を上げた時、優雅な脚線美が視界を埋めていた。

 

 ごん。

 

 剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの放った蹴りがベルの側頭を蹴り抜き、そのまま一瞬で意識を飛ばす。悲鳴すら上がらなかった。

「あ」

 アイズは『やっちゃった』とばかりに目を丸くし、失神したベルに駆け寄る。

 

 ここで時計の針を少々戻す。

 ギルド本部にてアイズがようやくベルの捕獲に成功し、いつぞやのミノタウロスの件を詫びることが出来た時のこと。

 

 何かお詫びがしたい、と告げたアイズに、ベルは『僕を鍛えて下さい』とお願いした。

 本来なら師匠筋に当たるエミールとアスラーグに頼むことが筋なのだが、2人はなんだかんだ忙しい。それに、アイズは迷宮都市でも最上層の冒険者であり、ベルが憧憬する本人だ。憧れの人の強さを肌で知りたい。その強さから学び取りたい。出来れば……お近づきになりたい(思春期の男の子なら当然の欲求である)。

 

 アイズはベルの申し出を快諾した。

 なぜなら、アイズもベルに興味があった。ベルがミノタウロスを前に手も足も出なかったのは半月前。それが、先の10階層で見かけた時にはオークの群れを相手に大立ち回りを繰り広げていた。常識的に言ってあり得ない成長速度だ。

 力を渇望し、強くなることに貪欲なアイズは、鍛錬を通じてベルが強くなった理由を知ろうと考えていた。

 

 ただ、問題もあった。

 ベルの主神ヘスティアとアイズの主神ロキは不仲で有名だった。大っぴらにアイズがベルを鍛えると騒動になるかもしれない。それに、アイズの戦闘技能はフィンやガレスから教わったもの。ロキ・ファミリア流の戦闘技術を他派閥の眷属に教授することは、色々差し障りがある。

 

 というわけで。

 早朝の市壁上で秘密の特訓と相成った。

 なお、ベル・クラネルとアイズ・ヴァレンシュタインが迷宮都市の市壁上で『早朝の秘密特訓』を始めて間もなく――

 

 最近、ベル様がおかしい。

 リリルカ・アーデが抜け目ない女らしく、鋭い勘を働かせていた。

 

 最近、アイズさんがおかしい。

 レフィーヤ・ウィリディスが重い女の第六感で嗅ぎつけていた。

 

 最近、じゃが丸君の売り上げが好調だ。今月のバイト代は色がつくかも。

 オリュンポスで希少な処女神ヘスティアはベルの異変に気付いていなかった。

 

 一方、非常に粘着質な女神もまた、ベルとアイズの早朝特訓に気付いていた。

 

 

      ★

 

 女神フレイヤは巨塔バベルの居住区最上階――現代日本風に言えば、タワマンの最上階コンドミニアムに住んでいる。

 

 天界の郷里では、奔放過ぎて旦那に逃げられたという逸話を持つ彼女は、下界して以来、人間の魂を眺めることを趣味としていた。

 半月ほど前、素晴らしい輝きを持つ少年を見つけて以降、フレイヤは度々件の少年へ裏からちょっかいを出している。先の怪物祭で化物猿をけしかけたのも、神なりの愛し方――試練を与えた結果だ。

 

 フレイヤは少年の交友関係にも注意を向けていた。あの素晴らしい輝きを翳らせたり、澱ませたりする存在を排除するために。

 

 もっとも、少年の周囲にそんな不届き者は“いなかった”。

 むしろ、少年の輝きが引き寄せたのか、興味深い者達が集まりつつある。

 

 特に、旧知のロキが気に掛けていた異邦人の2人。

『失われし神々』の一柱ネヘレニアの眷属である黒妖精の美女とヒューマンの青年。前者の魂は名匠が手掛けた翠玉のような輝きを放っている。高貴な出自と波乱の人生を歩んでいる者なのだろう。後者の魂は蛋白石を思わせる遊色の輝きだった。辛苦を伴う出自から努力と機転で人生を切り開いた努力家に見られる複雑な色味。

 

 2人とも輝きの奥に深い闇が垣間見えた。何かを喪失した者にありがちな闇が。

 珍しくはない。ダイダロス通り辺りで生活する人間達によく見られる。

 

 ただ……青年の方の闇はフレイヤをして見たことがない不吉さを有している。輝きも温もりもない虚無のような不吉さを。

 良くないものかとも思ったが、少年は2人と接して一層輝きを増していたため、フレイヤは見逃すことに決めた。不吉なものであれ、少年を輝かせるなら有用であろうから。

 

 それより、今は少年と関わり始めた“アレ”の方が問題だ。

“アレ”と関わることでも少年の魂は輝きを強くしていた。が、その輝き方がフレイヤの気に障る。その感情を一言で言えば――嫉妬かもしれない。

 

 当初、フレイヤは久しく抱いていなかったその感情を楽しんでいたが、早朝特訓が日を重ねるに連れて苛立ちを覚えていた。

 

“アレ”と関わることで、少年の魂が美しく光り輝くことが気に入らない。

 あの少年を輝かせるのは自分だ。あの少年を男にするのも自分だ。“アレ”ではない。

 

 フレイヤは決める。

「アレンとガリバー兄弟を呼んでちょうだい。それと、オッタル。ちょっとお願いがあるの」

 

 斯くて美神の我儘が始まった。

 現迷宮都市最強の男オッタルはいつものように美神の願いを叶えるべく動き始めた。

 

         ★

 

 医神ミアハの眷属ヌァーザ・エリスイスは歳若い犬人乙女なのだが、ダメ亭主に苦労させられる昭和女みたいな香ばしい雰囲気をまとっている。

 

 それというのも、主神ミアハがファミリアの主力商品であるポーションをタダでばら撒いているからだ。原料費や製作費も安いものではないのに……おかげでミアハ・ファミリアの財政はいつも火の車。たった一人の眷属ヌァーザが爪に火を点すように働いても追いつかない。

 

 とはいえ、かつて中堅どころだったミアハ・ファミリアがド底辺貧乏ファミリアに落ちぶれた理由が、自身の義肢を賄うための借金であるため、ヌァーザは主神を強く諫められない。

 

 で。そうこうしているうちにミアハ・ファミリアは借金苦で首が回らなくなってしまった

 

 もはや背に腹は代えられぬとばかりに、ヌァーザはポーションを薄めて販売。品質偽装で経費削減。利益率アップを試みたのだ。まあ、焼け石に水だったけれど。

 

 品質偽装ポーションはアホな冒険者達に気づかれなかった。しかし、ヘスティア・ファミリアに改宗したリリルカ・アーデが見抜く。

 

 リリルカは憤慨した。

 人生の大半を金で苦労してきた身であるし、自身の慕うベル・クラネルがカモにされていたという事実に、それはもう烈火の如く激怒した。

 

「詐欺としてギルドとガネーシャ・ファミリアに通報してやりましょうっ! 二度と商売できなくしてやりますっ!」

 アスラーグの教え通り公権力を利用してぶっ潰すと息巻くリリルカちゃん。

 

 ミアハの神友ヘスティアと、ミアハからポーションを貰っていたベルが何とか宥めて賺して通報を押し留める。

 

 それでまあ、色々あってヌァーザから品質偽装に至った理由を説明されたのだが――

「借金? 知ったこっちゃあありませんっ! 商売で稼げないならサポーターでも娼婦でもやって稼げばいいでしょうっ! ベル様をカモにした事実を許す理由になりませんっ!」

 別の世界線よりタフなリリルカは怒ると容赦がなかった。怖い。

 

 最終的にはミアハとヌァーザ、それとなぜかヘスティアとベルまで跪いてリリルカの慈悲を乞う始末。なんだこれ。

 

「……分かりました。ベル様たっての嘆願とあれば、仕方ありません」

 ひとまず矛を収めたリリルカはミアハとヌァーザを睨みつける。

「事の一因たるミアハ様は今後、ポーション配布禁止っ! 破ったら、配布した分のポーション代をヘスティア様と同じようにバイトで稼いでもらいますっ! それと、ヌァーザ様っ! 貴女には早急にその考案中の新ポーションとやらを開発して貰いますっ!」

 

「で、出来なかったら?」

 慄きながら恐る恐る問うヌァーザへ、リリルカは微笑んだ。怖い笑みだった。

「サポーターか娼婦。お好みの方をどうぞ」

 

        ★

 

 迷宮都市の某広場。その一角のベンチにて、ロリ巨乳女神が知己の男女と茶をしばいていた。

「――というわけなんだよ。アスラ君とエミール君はどう思う?」

 

 バイト休憩中のヘスティアが愚痴る様に一連の件を語り終えると、アスラーグ・クラーカは満足げに大きく頷いた。

「素晴らしい。リリちゃんは立派に淑女の道を歩んでいますね」

 

「ええ……」ヘスティア様、御困惑。

 エミールも相棒の見解にやや呆れつつ、フォローに回る。

「アーデ嬢は改宗したばかりですし、ヘスティア様やクラネル少年のために役立ちたくて気が流行っているのかもしれません。じきに落ち着くと思いますよ」

 

「そうかなあ……だと良いけど……」

 はあ、と仰々しく溜息をこぼし、ヘスティアは2人へ問う。

「それにしても、一緒に行かなくてよかったのかい?」

 

 本日、ベルとリリルカはヌァーザの依頼――新ポーションの材料採取:迷宮都市外の森林に生息するブラッドサウルスの卵を確保――に赴いている。

 

 リリルカは人生初の都市外遠征に初めて遠足に臨む子供みたく昂奮していた。そんなリリルカの様子にベルは『僕も村を出た時、こんな感じだったなあ』と微笑んでいた。

 リリルカとベルはアスラーグ達も誘ったが、アスラーグとエミールは謝辞して代わりに『楽しんで来なさい』と御弁当代の小遣いを渡していた。

 

「リリちゃんは新しい人生を歩み出しましたばかり。まずは新しい環境に順応させませんと」

「そのためには俺達が適度に距離を取った方が良いですから」

 アスラーグとエミールの回答に、ヘスティアは感じ入ったように頷いた。

「君達は大人だなあ」

 

 アスラーグはくすりと微苦笑をこぼす。

「それにまあ、リリちゃんが正式にヘスティア様の眷属となり、ベル君のパーティに加わった以上、私達は下層遠征に向けて新たなサポーターを探さないといけませんし」

「リリルカ君が君達に同行したいみたいだけど」とヘスティア。

「流石にクラネル少年と正式に組んでいる状態で、アーデ嬢を下層遠征へ連れ出すことは憚られますよ」

「ふぅむ。確かに」

 ヘスティアはエミールの言い分に首肯を返し、大きな胸を抱えるように腕を組んだ。

「それで、新しいサポーターに心当たりはあるのかい?」

 

「一応、ロキ様から御紹介していただく話になっていますが、とりあえずは本人に会ってみてからですね」

「むぅ」

 ヘスティアは不満げに唸り、じとっとした目をアスラーグとエミールへ向けた。

「君達にはいろいろお世話になってるし、君達のことが大好きだけど、あの陰険ド貧乳と付き合いがあることはどうかと思うなっ!」

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