虚無を歩く者がオラリオに現れたようです 作:リバークラスト
同一にしてされど異なる世界においては、傷ついたリリルカの願いに応じ、ベルの許へ参じようとアイズ・ヴァレンシュタインとロキ・ファミリアの前に、女神フレイヤの意を受けたオッタルが立ち塞がる。
しかし、虚無の住人が遍在するこの世界において、エミールとアイズの行く手を阻む者はいない。
異なる世界では、オッタルは襲撃してきたイシュタル・ファミリアの戦闘娼婦達を容易く退け、白兎の少年に“試練”を課すべくアイズ達を阻んだ。
だが、この世界においてオッタルはイシュタル・ファミリアの女怪と戦った。都市最強の男をして容易に退けられる相手ではなく、追い払うために時間を取られてしまった。
そのため、オッタルは出遅れた。
“試練”への横入りを防ぐはずが、既に少年の許へロキ・ファミリアの剣姫が到達しており、剣姫が少年を救うべく、ミノタウロスと対峙している。それに、見慣れぬヒューマンの青年が倒れている小人族の少女を手当てしていた。
このまま剣姫に“試練”を台無しにされては、主神に対して大変な不面目だ。かといって、強大なモンスターからレベル1の冒険者を救おうとする剣姫を阻むことは、冒険者の道理に叶わない。強引に事を為すことは易いものの、事が拗れた場合、やはり主神に大変な迷惑をもたらしてしまうだろう。オッタルがそのような選択肢を採ることはあり得ない。
「むぅ」オッタルは思わず唸る。どうしたものか。
その逡巡の間に、ぞろぞろとロキ・ファミリアの主要幹部達が現れた。
「なんだってんだ……おい。なんで猪野郎が居るっ!?」「オッタルっ!? なんでここに!?」「ええ……どういう状況よ、これ」
ついには団長フィン・ディムナと副団長リヴェリア・リヨス・アールヴまで姿を見せた。何やら猛烈に不機嫌そうな黒妖精の美女と共に。
「……やあ、オッタル。今回の遠征でも会ったね」
フィンが朗らかに笑いかけてきた。
が、オッタルには分かる。こういう状況で“勇者”が嗤う時、それは既に戦うことを選択肢に含めていることを。
と、知らぬ顔の黒妖精の美女が小人族の少女の傍らに片膝をつき、手当てをしていた青年に問う。
「エミール。リリちゃんの具合は?」
「見た目ほど出血は酷くない。頭を打って脳震盪を起こしてるだけだ」
エミールと呼ばれた青年が黒妖精の美女に答えると、白兎の少年がふらつきながらも立ち上がり、
「……いかないんだ」
剣姫の腕を掴んで叫んだ。強固なる決意を込めて。
「もう、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられるわけには、いかないんだっ!」
戸惑うロキ・ファミリアの面々。内心でホッとするオッタル。
そこへ、エミールがオッタルへ冷たい目を向けた。
「フレイヤ・ファミリアの武名高き冒険者オッタル殿とお見受けする。一つ答えられたい」
「なんだ」オッタルがうっそりと応じる。
「そこの少年があのミノタウロスに勝てると思うか?」
「ちょ、何言ってんのっ?!」ティオナが目を瞬かせ「その子、レベル1なんでしょ!? ミノタウロスに勝てる訳ないよっ!」
アイズやフィン達もエミールの意図を図りかね、困惑を露わにしていた。
「……」眉間に深い皺を刻んだオッタルは、どこか不承不承な様子で「不可能ではない。小僧の闘い方次第では光明もあるだろう」
驚くロキ・ファミリアの面々を余所に、
「だ、そうだ。オラリオ最強の男がお墨付きをくれたぞ」
エミールは少年の背に向かって言った。
「やってみせろ、ベル」
アスラーグも告げる。
「リリちゃんは大丈夫。憂いなく挑みなさい」
ベルはアイズを押しのけ、前に出る。
「征きます」
状況の推移を見守っていたミノタウロスは、戦いに邪魔が入らないと分かり、戦意を新たにして雄叫びをあげた。
ベル・クラネルの“冒険”が始まる。
★
冒険者の戦いであれ、学生の競技試合であれ、勝負の本質は実戦に至るまで何を如何に積み上げ、練り上げ、磨き上げたか――己の実となった力によって決まる。
才能や発想で勝敗が決まることは稀だ。というより、才能や発想が勝敗を分ける段階に至らない、というべきか。
むろん、神々が下界し、人間に恩恵を与える世界にあって、その真理がどこまで適用されるかは分からない。されど絶対的な物質的優劣は厳然と存在する。
隻角のミノタウロスは紛れもなくベル・クラネルよりも格上である。肉体的優位は極めて大であり、その渾身の一撃が真芯で当たったなら、ベルは遺言を残す暇もなく即死するだろう。
ましてや、この隻角の牛鬼は何処より得た大剣を握り、拙くとも技として扱っている。侮りがたい強者である。
対するベル・クラネルはその非凡な稀少スキルにより、恩恵の驚異的成長を遂げていた。一月前に冒険者となったとは思えぬほど、身体能力が向上している。また、2人の諸島帝国人との関わりは、違えた世界のベル・クラネル以上の内的成長をもたらしていた。
眼前の強敵に対する燃えるような戦意。自身の希求する憧憬への激しい熱情。死線の上に立つ恐怖と昂奮。
その一方で、頭の芯は氷のような冷静さを維持している。
考えろ。頭を使え。知恵を絞れ。訓練と経験を活かせ。どうやってこの強敵に勝つか、どうすれば勝てるか、考え続けろ。
汗が目に入っても瞬きしないほどの集中力を発揮し、ベルはミノタウロスの一挙手一投足、筋肉の蠢きから視線の動きまで全てを観察して最適解を思考し、選択し続ける。
思考が間に合わなければ、選択を違えれば、待っているのは敗北の死。
ミノタウロスの横薙ぎを後ろ飛びして回避。ベルは距離をとり、構え直した。牛鬼に対し、黒短剣を順手に握りしめ、左手を翳すように伸ばす。微かに前かがみとなり、全身のバネを勇躍に備えさせる。肩を揺らすように深呼吸を重ね、全身に酸素を供給する。
大剣を握り直し、ミノタウロスは傲然と距離を詰めていく。
一歩。二歩。三歩。四歩。跳躍の間合いに入った。五歩。六歩。ミノタウロスが黒目がちな双眸、その白目が見える距離に入った。ベルはひときわ大きく息を吸い込む。
七歩。ベルは白髪を大きくたなびかせ、矢弾のようにミノタウロスへ向かって跳ぶ。
ミノタウロスが太い両足で地面を踏みしめ、隆々たる筋骨の最大出力を絞り出した。
暴力的な風切りを牽きながら袈裟に振り下ろされる大剣。刀身に宿る破壊的な運動エネルギーはベルが対処できる限界を超えていた。黒短剣でいなすことも、受け流すことも、弾くことも出来ない。そのような試みをしたならば、ベルの腕ごと体躯を両断するだろう。
ゆえに、ベルは地を這う蛇の如く刃の下を掻い潜りながら、ミノタウロスの足首を斬りつけた。そのまま止まることなく、ベルはミノタウロスの間合いから離脱。
肉を裂く手応えはあった。しかし、ミノタウロスの頑丈な体皮と頑健な筋肉に阻まれ、腱まで刃が達しなかった。
このやり方ではダメだ。傷を与えられても、倒せない。
ベルは今の一撃離脱を素早く分析し、戦い方と倒し方を再検討する。
考えろ。頭を使え。知恵を絞れ。経験を活かせ。
★
ベル・クラネルの動きは鮮烈だった。
己を奮い立たせるように吠えながら怪物の剛剣をかわし、怪物の豪打を掻い潜って肉薄し、黒短剣で四肢の関節傍を刻む。跳躍して離脱し、着地と同時に怪物の胸元へ飛び込むように突撃していく。
一撃でも食らえば、命を落とすだろうに、ベルは恐れることなくミノタウロスの間合いに踏み込む。まるで勇気が燃え盛っているように。
バベル最上階で女神が発情して蕩けている時、
「――凄い」
ティオナが魅入られたように戦いを見つめ、呟く。
「アルゴノゥトみたい……」
英雄に憧れ、後に真の英雄に至った少年アルゴノゥト。なるほど、格上の強大なケダモノに敢然と戦う姿は、まるで物語のようだ。
一方、姉のティオネは冷静にベルの戦いぶりを分析していた。
「動きは速いけれど、攻撃が軽すぎる。あの短剣じゃ致命傷にはならない」
「どうなってやがる」
ベートは困惑を禁じ得ない。半月前、あのトマト野郎は確かに駆け出しのド新人だったはずだ。
「テメェらが仕込んだのか」
凶狼に睨まれたアスラーグはただ小さく肩を竦め、エミールが答えた。
「師を気取るほど教えちゃいない。あれはクラネル少年自身の努力と研鑽の結果だ」
「――ぅ」
エミールに介抱されていたリリルカが意識を取り戻す。
「ベル様は……」
「戦ってるわ」アスラーグが言った。
「アスラ様……?」リリルカは意識が鮮明になり「アスラ様っ! ベル様がっ! ベル様を助けて下さいっ!」
「落ち着け、アーデ嬢」エミールが顎で示す「アレを見ろ」
リリルカは促されるままに、見た。
ミノタウロスを激しい体裁きで翻弄し、素早い攻撃を繰り返しているベルを。
その姿はまるで御伽噺に出てくる英雄のようだった。
フィン・ディムナは皆の許を離れ、ベルとミノタウロスの激しい戦いを横目に窺いながら、オッタルの許へ近づく。
「これは君の描いた絵図かい?」
その問いは、オッタルが危険なモンスターにベルとリリルカを襲わせたのか、と問うに等しい。それは言うまでもなく、許されぬ行いでもある。
「――逆に問おう。その問いに是と応じれば如何とする」
オッタルは強烈な威圧感を伴って反問する。
並の者ならば肝を潰しかねない圧力に晒されても、フィンは涼しい顔で答えた。
「君の忠誠や献身の在り方を否定する気はないけれど、時に主神の求めを諫めることも大事ではないかな」
「貴様の見解に同意する気はない」
オッタルが威圧感を消し、どこか苦い面持ちで応じた時。
攻撃が当たらず、いなされ、凌がれることに苛立ち、ミノタウロスの動きが雑になる。
ベルはその隙を逃さない。全体重に速力を乗せ、リリルカが撃ち込んだ矢弾の尻を力いっぱい蹴りつけた。頑強な脂肪層と頑健な筋肉に押し留められていた矢弾が強引に押し込まれ、血管を裂き、臓腑を抉り、骨を削る。
初めてミノタウロスから悲鳴が上がった。
オッタルは懐から最高級の回復剤を二瓶取り出してフィンに放り、踵を返す。
「あの小僧と小人族の娘に与えろ」
再生薬の瓶を受け止めたフィンが、からかうように“猛者”の背中へ問う。
「結末を見なくていいのかい?」
「必要ない」
“猛者”は歩み出しながら言った。
「もはや勝敗は決した」
★
「ファイアボルトッ!」
ベルは無詠唱で炎雷魔法を放つ。ミノタウロスは咄嗟に身構えたが、その炎雷は酷く小さい。意表を突かれたミノタウロスは注意が逸れる。その間にベルは既に肉薄し、
「ファイアボルトッ!!」
今度こそ今度こそ最大火力で炎雷を叩きこむ。
爆圧を浴びた矢弾達がミノタウロスの体躯へ深々と埋まっていき、ミノタウロスの腱や臓器や骨を激しく損傷させた。
「無詠唱。しかも魔力の出力制御まで」リヴェリアが小さな感嘆をこぼす。
ミノタウロスが左膝をつき、手首の砕けた右手から大剣がガシャリとこぼれ落ちる。それでも、その双眸から戦意と闘志は微塵も損なわれない。無事な左腕を固く握りしめ、踏ん張りがきく右足で立ち上がる。
ベルはミノタウロスが落とした大剣を拾い上げ、黒短剣と合わせて二刀に構え、飛ぶ。
先ほどまでと逆の光景が描かれる。ベルが舞うように大剣と黒短剣を振るい、斬撃を連ね重ねていった。
片足を潰されているミノタウロスはその場から引かず、両腕を駆使してベルの剣戟を防ぐ。手や腕の肉を削がれながらも、左拳で攻撃を殴り弾き、手首の折れた右腕を盾代わりに身を護る。
少年が跳躍し、身を捻りながら大剣を振り下ろす。ミノタウロスは頭蓋に迫る大剣の横っ腹を、血塗れの右腕で殴りつけて強引に太刀筋を逸らす。
眼前の宙に浮かぶ無防備な少年へ、ミノタウロスは渾身の左拳を放った。
必殺の一撃。
観戦者達が思わず息を呑み、顔を強張らせた刹那。アイズは「大丈夫」と呟き、エミールとアスラーグはベルの対応を注視する。
ベルは空中でさらに身を捻って一回転。迫る牛鬼の拳へ正対して叫ぶ。
「ファイアボルトッ!」
半ば自爆するように炎雷の爆発に吹き飛ばされながらも、ベルは無事に着地。黒短剣を口にくわえ、大剣を両手で抱えながら疾駆。急迫して袈裟に斬り上げる。
左拳を炎雷で破壊されたミノタウロスは、それでも闘志を失わない。指が幾本も足りぬ左拳を振り下ろす。
怪物の拳と少年の大剣が交差し、ミノタウロスの太い左腕が宙を踊る。
「ヴォオオオオッ!!」
片腕を斬り飛ばされた激痛に絶叫しながらも、ミノタウロスは体当たりを繰り出す。無事である右足に頼った捨て身の体当たりはベルを捉え、隻角が大剣を折り砕きながらベルの左腕を籠手ごと貫いた。
「―――――――――――――――――ッ!!」
ベルは口にくわえていた黒短剣を目いっぱい噛みしめて苦痛を堪えた。右手で黒短剣を握りしめ、ミノタウロスの眼窩に突き立て、叫ぶ。
「ファイアボルトッ!!」
眼下内へねじ込まれる炎雷の爆発。ミノタウロスの壮絶な悲鳴。爆発の衝撃が隻角を通じてベルにも届き、左腕に激痛をもたらす。
互いにグロッキーだった。
磔刑の如く左腕を貫かれたまま隻角に吊るされるベルは、もはやその場から逃れる力が残っていない。
ミノタウロスももう動けなかった。耳鼻目と口から大量の血が溢れ出て、肉を焼いた煙と血を焦がした湯気が昇っている。短剣を突き立てた眼窩から頭蓋内に凄まじい爆圧衝撃と炎熱が流し込まれたのだ。即死していてもおかしくない。
にもかかわらず、ミノタウロスは隻角で貫き吊るしたベルへ激しい闘志と殺意を発していた。
ベルもまた、消耗し、疲弊し、傷つきながらも、その紅眼に宿る戦意をまったく損なわせていなかった。
ミノタウロスの潰れて焼けた眼球が確かな意思をベルに訴える。
やれ。やれよ。ケリをつけろ、人間。俺を仕留めてみせろ。
痛みと消耗で震える手を伸ばし、ベルはミノタウロスの眼窩に突き立った黒短剣の柄を握りしめ、残る全ての魔力を絞り出して吠えた。
「ファイア、ボルトォッ!!」
★
魔石を含めた上半身を爆破され、ミノタウロスの遺骸が灰に還っていく。
遺灰の舞う中、魔力が枯渇したため立ったまま気絶しているベルを、エミールがその場に寝かせた。
「勝ちやがった……」
唖然と呟くベートを余所に、エミールがベルの容態を確認していく。
「重傷は左腕だけだ。動脈は奇跡的に無事だが、橈骨と尺骨も複雑解放骨折。外傷だけでなく砕けた骨片によって筋肉や腱が酷く損傷してるな」
「治りますよね!? 治りますよね、エミール様っ!?」と真っ青な顔で半ベソ顔のリリルカ。
「再生薬を使えば大丈夫だろう。体力回復に二、三日寝込むが、それくらいだと思う」
「……慣れてるわね」とティオネが片眉を上げる。
「軍隊に長くいたからな。前線では回復剤や再生薬の数は限られる。だから、助かる奴と助からない奴の見極め方と、助かる奴を後方の野戦病院までもたせる応急処置の仕方を叩きこまれる」
エミールは淡白に語り、パウチから再生薬を取り出そうとした。
「使ってくれ」とフィンがオッタルから受け取った再生薬をエミールへ渡す。「猛者からの贈り物だ」
「そういうことなら、遠慮なく使わせてもらいましょう」
フィンから渡された再生薬を用い、エミールはベルの怪我を治療し始めた。
「クラネル少年はしばらく意識を取り戻さないだろう。俺が担いでヘスティア様のところまで送ってくる」
「僕らはこのまま進むが、構わないかい?」
「ええ。すぐに追いつきます」とエミールはフィンに応じて「アーデ嬢、俺の援護を任せるぞ」
「はいっ!」とリリルカはクロスボウを抱えて頷き「必ず守り抜きますっ!」
エミールがベルを背負って地上へ向かって駆けだし、リリルカも追従して走っていく。
2人の背中とベルを見送りながら、アイズはどこか嬉しそうに頷き、口の中で呟いた。
ゆっくり休んで、ベル。
「そろそろ出発だ」
フィン・ディムナが不敵な面持ちで言った。
「僕らも冒険に赴こう」
★
ベルがエミールに廃教会へ連れ帰られ、巨塔の最上階で美神が濡れた下着を替えている頃。
某所――
「ロキ・ファミリアの遠征にアスラーグ・クラーカが同道している、と」
豪奢な部屋のソファに座るハーフエルフ女性が、細巻を燻らせながら呟く。
ソファの肘置きに座る金眼の鼠が首肯した。
『はい。虚無歩きの可能性がある者と共に』
ハーフエルフ女性はしばし沈思黙考した後、細巻の灰を灰皿に落としてから言った。
「グリムに監視させろ。状況次第では仕掛けるが、投入する人員は追って指示する」
『?』金眼の鼠が小首を傾げて『宿願の獲物です。全員で掛からないのですか?』
「そうしたいところだが」ハーフエルフ女性はどこか不満げに「愚神や負け犬共の件もある。そちらを疎かには出来ない。それに、現段階で私とお前の素性をオラリオの者共に掴まれたくはない」
『分かりました。手配を進めておきます』
納得した金眼の鼠はぺこりと首肯し、虚空へ溶けるように消失した。
女性は短くなった細巻を灰皿に押しつけて揉み消し、心底忌々しげに吐き捨てる。
「待っていろ、アスラーグ・クラーカ……っ! 必ず殺してやる……っ!!」
★
「選択の時だ、エミール」
アウトサイダーは虚無の中で静かに呟く。
「剣姫の神聖譚に与すれば、闇派閥との死闘を歩む。それはお前の復讐譚を叶えることにもなるだろう。しかし、同時にお前のささやかな物語は剣姫や英雄達の添え物になるだろう。結果として、お前の復讐が完全に成就することは無いかもしれない」
漆黒の瞳には何の感情も宿していない。
「白兎の英雄譚に寄り添えば、迷宮都市の闇からは遠ざかる。それはお前の復讐譚の成就を妨げるかもしれない。しかし、若き英雄とその仲間達はお前の癒えぬ苦しみと痛みを癒す希望を伴う。もしかしたら、お前の復讐が意外な形で叶う可能性もある」
青白い顔には情動の一切浮かんでいない。
「あくまで自身の力だけで復讐譚の完遂を望めば、お前は多くの苦難と困難を踏破しなければならない。だが、その果てに満足のゆく結末が得られる保証は一つもない。この世界は残酷だ。神の恩恵を得ようと、虚無の超常を得ようと、世界の冷徹な無常さから逃れられない」
アウトサイダーは誰へともなく独りごちる。
「しかし……世界が如何に無常といえども、この状況は些か公平性に欠く」
何の感動も含まない平坦な目つきで。
「この世界の異物達にも物語を紡ぐ機会を与えてやるべきだな」
Tips
オッタルさん。
原作同様の苦労人。