虚無を歩く者がオラリオに現れたようです   作:リバークラスト

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37:遠征往路。あるいは彼と彼女の再会。

 ダンジョンの下層『水の迷都』前の連絡通路にて、ロキ・ファミリア遠征隊が小休止を取っていた。

 

「皆、ベル・クラネルの戦いに刺激を受けたようだね」

 フィンが水筒を手に微苦笑をこぼす。

 

 ベルの死闘を観戦した幹部達――アイズ、ベート、ヒリュテ姉妹が先を争うようにモンスターを狩りまくり倒しまくり、予定していたより数日早く深層の安全階層に到達しそうだ。

 

「遠征が予定より順調なことは喜ばしいが、気を張り過ぎている気もする」

 リヴェリアが小さく頭を振った。

「頼もしいではありませんか」

 アスラーグがくすくすと上品に喉を鳴らす。

「おかげで私達は観光気分ですよ。ねえ、エミール?」

 

「ああ。物資を消耗しないで済む」

 エミールは左脇に負い革で下げたクロスボウの位置を直す。この遠征でまだ一発も撃っていない。撃つ必要も無かった。

 

「君達の遠征目的は下層で素材採取、だったね?」

「ええ」アスラーグはフィンへ首肯し「依頼仕事です。3、4日ほど掛かるかと」

 

「出来れば、君達にも深層まで付き合って欲しいな」

 フィンは真顔で言った。

 

 未踏破階層への挑戦にはロキ・ファミリアの主要幹部達だけでなく、支援役として二軍中核メンバー達も複数人連れていく。これは深層安全階層で待機する者達の戦力低下も意味する。

 

 迷宮都市二大武闘派ファミリアといっても、主要幹部を除いた団員達の力量は他の有力派閥と大差はない。ましてや、深層安全階層の支援キャンプに残る者にはレベル4はおろかレベル3、場合によってはレベル2すら居る。

 言い換えよう。本来なら深層はおろか下層挑戦すら覚束ない者も少なくないのだ。

 

 そんな実力不足の連中を連れてくる理由は様々だ。支援要員の頭数。スキルやアビリティが有用。将来を見込んだ経験取得。エトセトラエトセトラ。

 

 ここで問題となるのは、厄介極まる『諸島帝国人達』が襲ってくる可能性があること。

戦術とは敵の弱いところを攻め、弱い敵から倒すことであるから、フィン達が未踏破階層へ挑戦している間、安全階層に留まる団員達が襲われるかもしれない。

 

 自分達が未踏破階層へ挑戦中、アスラーグとエミールが安全階層の支援キャンプを守ってもらえれば、心強い。

 

「あら。私達が居ることで、却って危険を招くかもしれませんよ」

 アスラーグが蠱惑的に微笑む。

「なにせ私はヴァスコに相当恨まれておりますから」

 

 黒妖精の露悪的な冗談に肩を竦めつつ、妖精族王女は疑問を口にした。

「そもそも、彼らは50階層まで潜ってこられるか?」

 

「単純な成否で言えば、可能でしょう」

 エミールは軍人の顔つきで言った。酷く無機質に。

「しかし定石で考えれば、遠征の帰路を狙いますね。待ち伏せし、主要幹部と団員を切り離したうえで、団員を叩く」

 

 登山よろしく遠征は行きより帰りの方が難しい。心身の疲労や負傷が集中力を鈍らせるし、戦利品等の余計な荷物も増えている。

 強い敵を避け、弱い敵を叩く。そうして頭数を減らして弱らせ、強い敵を囲んで殴る。

 戦術の初歩だ。

 

「もちろん、意表をついて深層で仕掛けてくることもあり得ます。襲撃の選択権は向こうにある」

「そこが悩ましい」フィンは微苦笑しながら水筒を団員に片付けさせ「この遠征だけに集中したいよ」

「同感だ」

 リヴェリアが緩やかに溜息を吐く。憂いを湛えた横顔が酷く神々しい。

 

「気休めですけれど」

 アスラーグはどこか煽情的に微笑む。

「“奴ら”は貴方達より私達を優先して狙います。上手くいけば、私達が良い囮になるでしょう」

 

       ★

 

『水の迷都』。

 地下空間を流れる河川が第25階層から第27階層まで続く、巨大な滝を形成していた。大瀑布の終点たる滝壺はダンジョン外へ通じており、ロログ汽水湖の水源となっている。

 

 また、大瀑布の膨大な散水は大滝壺以外にも湖沼や清流を造成しており、迷宮内河川や湖沼の周囲には蒼い水晶岩に混じり、樹木が命を育んでいる。第25階層の天井を突き破る『大樹の迷宮』の植生が伝播しているのだ。

 

 そんな水と水晶岩と樹木で構築された蒼い世界を、ロキ・ファミリア遠征隊が粛々と進んでいく。

 

 時折、水棲の小型モンスター達が水面から飛び出して隊列に襲いかかるも、妙に戦意漲るファミリア幹部達が率先して迎撃し、隊列に一切被害を許さない。

 

 繁茂する樹冠の隙間から、2人の諸島帝国人が密やかにロキ・ファミリア遠征隊の行軍を監視していた。

 

 巨滝に沿って通る岩場の道を進んでいく遠征隊を窺いながら、

「レベル6が3人。レベル5が4人。残りも大半がレベル4と3。レベル2も混じっているようだが、おそらく深層遠征に適うスキルかアビリティを持っているのだろう」

 継ぎ接ぎマスクのグリムが呟く。

「これはなかなか厳しい相手だな」

 

「グリム。剣姫のレベルが上がったらしいから、今はレベル6が4人だ。レベル5が3人だ。それと、レベル3ながらレベル5相当の魔力持ちもいるそうだし、今回に限ってはヘファイストス・ファミリアのレベル5が随行していると聞いたぞ」

 グリムの隣に立つ小柄な老婆が言った。

 

 老婆は柿渋色のフードを目深に被っていて顔が窺えないが、腰が半ば曲がり掛けている。マントから伸びて杖を握る手も、枯れ枝のように細く血色が乏しい。

 棺桶に両足を突っ込んでいるような老婆であるが、右腰には東方式湾刀――カタナを佩いている。刀身長だけでも三尺越え、柄を含めれば四尺に届く野太刀だ。

 

「メリンダ。勇者や剣姫を討てるか?」

 グリムに問われ、老婆のメリンダは肉の少ない指で愛刀の柄頭を撫でつつ、

「さて。どちらもえらく腕が立つようだし……討てる、と断言し難い」

 蒼黒い瞳をぎらりと輝かせた。

「ただ……死合う相手なら最高だ」

 

「宿願成就が優先だぞ」

「年甲斐もなく赤毛女に入れ込んでた奴がよく言う」

 釘を刺してきたグリムへ悪態を返し、メリンダは猛禽のような目つきで遠征隊に随行する黒妖精を睨んだ。

「それにしても……こうして再びあの女を目にする日が来るとは。しかも“あの日”のままの姿だ。恩恵持ちの長命種は腹立たしいほど変わらない」

 

「同感だ。小皺一つ出来てない」とグリムも憎々しげに毒づいた。

「あの女の傍らにいる小僧が刻印持ちか? ヴァスコの両脚を切り飛ばしたという」

「ああ。腕が立つぞ。戦いそのものに長けている。武人ではなく戦人だな」

「お前と同じか。それは“つまらん”な」

 老婆は失望に似た声色で吐き捨てる。

「武を競えぬ死合いなど面白くもなんともない」

 

「お前の趣味をとやかく言う気はないが……ん?」

 グリムはふと気づく。

「ところで、ヴァスコはどうした? 後から来ると言っていたが」

 

「知らん。道中でモンスターの餌になってるんじゃないか?」

 鼻を鳴らして嫌みを吐き、メリンダは顎先を掻く。

「ま、エスターモントが同行すると言っていたし、じきに」

 

 

 

「はぁろぉおおおおおおおおおお、ぇえええぶぅりわああああああああああああんんんっ!!」

 

 

 

 大瀑布の轟音すら搔き消しそうな大音声で叫ばれる新しき言葉。

「「……」」

 グリムとメリンダは揃って瞑目した。

 

      ★

 

 何事か、とロキ・ファミリア遠征隊が足を止め、新しき言葉の雄叫びをあげた者を探した。

 

「あそこだっ!」

 ベートが長い腕を伸ばし、巨大な滝の飛沫が生み出した湖沼の一つを指さす。

 

 数百M先の眼下。湖沼の対岸に転がる大岩の上に立ち、両腕を広々と広げ立つ初老男。

 血走って赤々とした翠玉の瞳。皺の刻まれた精悍な顔立ちは、半ばツタ状の痣に覆われている。

青を基調とした騎兵服に胸甲を巻いており、エミールにもがれたはずの両足が生えている。

 

「18階層で出くわしたあの変態クソジジイね」と口汚く罵るティオネ。

「“食糧庫”で戦った変態だ」と嫌そうに顔をしかめるティオナ。

 

「往路に現れたか」

 フィンは右手の親指を撫でる。疼きが弱い。“ここ”ではないということか?

「総員、周辺警戒。奇襲に備えろ。リヴェリア、魔法防壁の用意を。アイズ、ベート。まだ飛び出すな。出方を見る。アキ、第二隊に伝令を頼む」

 思案しながらもてきぱきと指揮を執り、フィンはアスラーグへ尋ねる。

「彼がヴァスコという男だが、君の知己と間違いないか?」

 

「ええ。あれはヴァスコで間違いない。予備知識として生きていたとは聞いてはいたけれど、こうして本当に目にすると、感慨深いものがあるわ」

 アスラーグが貴婦人然とした忍び笑いをこぼす。優雅な微笑に込められた凄まじい悪意と敵意と憎悪に、遠征隊の歳若い者達が思わず気圧される。

 

 そんなアスラーグの隣で、エミールが冷たく重たい殺気を放ち始めている。

「落ち着きなさいな。この場の指揮権はディムナ殿にある。判断を待ちなさい」

 アスラーグはエミールの肩に手を置き、優美に微笑む。

 

 と、大岩の上に立つヴァスコが再び叫ぶ。

「そこにいるんだろぉっ! アスラーグ・クラーカッ!! 姿を見せやがれっ!!」

 

「御指名ね」

 アスラーグは隊列から前に出て、ヴァスコに姿を晒す。にこやかで小さく手を振りさえした。

 垂れ気味な双眸を柔らかく細め、秀麗な顔立ちに典雅な微笑みを添える。

「お久しぶり、ヴァスコ君。こうして再び会えたことが本当に残念だわ」

 強烈な悪意と敵意が込められていた。

 

 それ故だろうか。静かな語り口にも関わらず、不思議とその言葉はこの場の全ての耳に届く。若者達が思わず背筋を震わせ、ベートですら『おっかねえ女だ』と顔をしかめた。

 もちろん、数百M離れたヴァスコにも、アスラーグの言葉と悪意はしっかり届いていた。

 

「あす、らーぐ、くら―――――――――か―――――――――――――――ッ!!!」

 まさしく怒号であった。

 

 ヴァスコは憤激と憤慨と憤怒と悲憤と何故か歓喜を込め、怒号を発する。

「この30年、この30年っ!! この時をどれほど待ったか、お前をどれほど憎み恨み続けたか、この俺の怒りがお前に想像できるかああっ!!」

 

「相も変わらず救い難い愚かさね、ヴァスコ君」

 黒妖精が音楽的声色で悪意を奏でる。

「本気で私が貴方のような退屈でつまらない、才能の欠片もない愚物の事を気に掛けると思っているの? いくら私が長命種で多くの時間を有しているからといって、貴方のような矮小で低俗で非才な人間のために費やす時間なんて、ある訳ないじゃない。まあ、貴方のカトンボに劣る知性では私の嫌厭感は想像できないでしょうけれど」

 

 うわぁ……、と第二隊でアスラーグの言葉を聞いていたレフィーヤがドン引きした。

 これは酷い。と冷静沈着なフィンですら、ヴァスコに少しばかり同情した。

 

「き、きさ、まあ……っ!」

 ヴァスコはツタ状の痣に塗れた顔を真っ赤にし、ぶるぶると肩を震わせる。

 

 も、黒妖精が畳みかけるように悪意を浴びせる。

「心底辟易しているのよ、ヴァスコ君。私はね、貴方なんかのために一分一秒だって費やしたくないの。それこそ本当に無駄だから。全くの無為で無価値で無意味な時間の浪費がどれほど虚しいか分かる? 溜息も出ないのよ? そういえば……貴方の稚拙でくだらない便所の落書きに劣る論文を読ませられた時も、時間を無駄にさせられた徒労感でいっぱいだった」

 

「―――」

 ヴァスコがふらりと立ち眩みを起こした。怒りの度が過ぎて脳卒中を起こす寸前だった。

 

 男が女に口で挑んで勝てる訳なかろうに、と第二隊を率いるガレスが憐れみを抱く。

 手前の鍛冶をこのように言われたら、と椿は我が身に置き換えて想像し、身を震わせた。

 

 美しい声音で紡がれる罵詈雑言に、リヴェリアは思わずアスラーグへ声を掛けた。

「アスラ、もう良いのではないか?」

 

「そうですね。彼のためにこのような時間を使うこと自体、無駄でした。流石はリヴェリア様。よくお分かりで」

 くすくすと楽しげに笑うアスラーグ。

「えっ」と戸惑うリヴェリア。

 

『リヴェリアも容赦ないわね』『18階層で酷いこと言われてたし、リヴェリアも怒ってたんだね』とヒリュテ姉妹が唸り、『リヴェリアは怒ると怖い』『えぐい真似するぜ』とアイズとベートも引き気味で、『リヴェリア様が御怒りだ』と遠征隊のエルフ達が若干慄いていた。

「いや、私はそんな……えぇ……」予期せぬ周囲の反応に困惑するリヴェリア。とんだ流れ弾であろう。

 

「ところで、ヴァスコ君」

 そんな周囲を余所に、アスラーグはしれっと尋ねる。

「貴方の他に何人いるのかしら? 30年前、“あの子”を見捨てて逃げ延びた恥知らずの負け犬共は何人残ってるの? 3年前、自然哲学アカデミーを襲った犬の糞に劣る無様な便所虫は何匹いるの? 教えてちょうだいな」

 

「――けるな」

 ヴァスコは顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ふざけるなっ!! そこまでぼろくそに言われて教えると思ってんのか、この腐れ色黒雌エルフがああああっ!!」

 妥当な怒りであろう。

 

「そう」

 アスラーグは肩を竦め、この世で最も劣ったものを蔑むように、言った。

「じゃあ、今度こそ死になさい」

 

 刹那、アスラーグは右腰から杖を兼ねるレイピアを抜き放つ。

「爆ぜよ爆ぜよ爆ぜよ野を薙ぎ払い森を焼き払い山を打ち砕け」

 超高速詠唱っ!? ぎょっとするリヴェリア。

 

「爆ぜよ爆ぜよ爆ぜよ風を燃やし嵐を焼き空を吹き飛ばせ」

 音楽的美声で瞬く間に紡がれる呪文。たちどころに練り上げられていく膨大な魔力。

「爆ぜよ爆ぜよ爆ぜよ世界に在る全てを破壊し破砕せよ」

 

 5秒と掛からず詠唱と魔力練成を完結し、

「爆華大咲。狂い咲け」

 自身を中心に生じた魔法陣の中で、アスラーグはレイピアを振るい、

「サーモバル・アントス」

 ヴァスコの頭上に爆炎の大輪を咲かせた。

 

        ★

 

 強大な火球が巨滝の莫大な飛沫を一瞬で蒸発させる。

 白い蒸気の幕が消散した直後。破滅的衝撃波が水の迷都を駆け抜け、殺人的な爆轟音圧が吹き荒れた。おまけで熱圧の暴威によって飛沫や湖水が瞬時に気化分解され、水蒸気爆発まで発生する。

 

 ロキ・ファミリア遠征隊の第一隊は咄嗟にリヴェリアが魔法防壁を展開して難を逃れたが、第二隊の団員がその場に伏せたり屈みこんだりして、衝撃波と爆風をやり過ごさねばならず、散々な目に遭っていた。

 

『水の迷都』が大量の蒸気に満たされていく。激甚な熱圧衝撃波に晒された湖沼などの水面に水棲モンスター達の死体がつぎつぎと浮かんでくる。どいつもこいつも高圧衝撃波の水中伝播で体内を圧潰させられていた。爆心地の湖水に至っては“煮られ”て死んだモンスターさえいた。

 

 ガレスの背に飛び込んで難を逃れたレフィーヤが、惨状を目の当たりにして呟く。

「凄い……」

 これほど殺傷力の高い広域殲滅魔法はリヴェリアの『レア・ラーヴァテイン』ぐらいしか知らない。自身の『ヒュゼレイド・ファーリカ』とて、これほどの破壊力は持たない。

 

 一方、“九魔姫”の二つ名を持つ迷宮都市最高の魔法使いリヴェリアは別の視点を持っていた。

 レベル4の魔法使いが出せる威力ではない。スキルとアビリティか。

 

 リヴェリアはアスラーグの装備にも気づく。

 レイピアだけではない。腰の装具ベルトには骨細工のアミュレット。しなやかな両手の五指には魔宝石や魔導合金のリング。左右の手首には魔晶入りのブレスレット。よくよく見れば、長い耳につけられたピアスや首元のペンダントも高価な魔力強化装具。装備の全てが魔法の威力増強に特化している。

 そうか、正しく“討伐”するためにこの街へ赴いたのだな。

 

「ドブネズミはしぶとい」

 レイピアを下げ、アスラーグが舌打ちして呟く。

 

 蒸気渦巻く湖岸にヴァスコの姿はない。死体はおろか血痕の類も見られない。

「逃げたか」とフィンが呟く。「君らの同行を確認するため。それと、こちらに負担を強いるために顔を出した、といったところかな」

「でしょうね」とエミールは首肯しながら装具を整えていく。

 

「? 団長。負担を強いる、とはどういう意味です?」とティオネがフィンに問う。

「ここから先、僕らは彼らに襲われるかもしれない。僕らが未踏破階層へ挑戦している間、安全階層に留まる団員が襲われるかもしれない。未踏破階層挑戦を終えた帰路、彼らに襲われるかもしれない。これからそういった可能性に対し、緊張と警戒を強いられる」

「チッ! 姑息な真似しやがってっ!」

 フィンの説明を聞き、ベートが忌々しげに毒づいた。

 

「その可能性はある程度減らせるわ」

 アスラーグがレイピアを鞘に納め、フィンへ告げる。

「ディムナ殿。私達はここで離脱します。元より私達の目的はここ下層での依頼物採取。それに、討伐すべき下手人を見つけた以上、追わねばなりません。連中も仇敵である私達がこの階層に留まっていれば、貴方達より私達を優先するでしょう」

 

「……2人だけで大丈夫かい? なんなら深層のキャンプまで同行してもいい。僕らが未踏破階層へ挑戦している間に彼らが襲ってきたら、団員も協力させるよ」

 悪くはない話だった。

 アスラーグは思案し、エミールへ問う。

「どう思う?」

 

 エミールはゆっくりと深呼吸した。ここがアウトサイダーの言っていた分岐点ではなのかもしれない。だとしても――

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「そちらの団員は余所者の俺達を信頼できないだろうし、俺達もそちらの団員のことで責任を負いきれない。それに、奴らは俺達の獲物だ。俺達の手で殺す」

 深青色の瞳に冷たく暗い炎が揺らぐ。

 

 ベートは口腔内で密やかに舌打ちした。エミールの目つきには覚えがある。一族を腐れ化物に奪われた時の自分と似た目。

 死者に囚われた人間の目。憎悪と怨恨に染まった復讐者の目。

 

 復讐を果たした時、こいつは死者と怒りから解放されるのだろうか。

 自分は解放されなかった。復讐を果たした代わりに、愛した女と居場所を失くし、新たな怒りに囚われた。

 いまだ癒えぬ心の傷を直視させられた気分になり、ベートは不快感を吐き捨てる。

「あの腐れ雑魚野郎がそいつらの獲物だってんなら、勝手に狩らせりゃ良いだろ。奴とその仲間が俺らを襲ってきやがったら、俺らがぶっ殺す。それだけの話だ」

 

「私達が未踏破階層へ挑戦中に皆が襲われたらどうするのよ」

 ティオネが挑むように問えば、ベートが白けた目で睨み返す。

「それこそ、雑魚共が負う責任だろうが。あのクソ雑魚共が襲ってこないにしても、前回みてェにクソ芋虫の群れや他のモンスターが襲ってくるかもしれねェ。安全階層なんて建前に過ぎねえ。ダンジョンに絶対安全な場所なんざねェんだよ」

 

 凶狼の言葉は正論だった。究極的にはダンジョン内で発生する全てが自己責任。生きるも死ぬも当人に帰結する。

 

「……そうだね。諸島帝国人が現れようと現れまいと、僕らが未踏破階層へ挑んでいる間のことは安全階層に残る皆を信じるしかない」

 フィンは首肯し、アスラーグ達へ告げた。

「分かった。ここで別れよう。君達に武運長久を」

 

「こちらこそ。道中お世話になりました。皆さんも御無事で」

 アスラーグは礼を述べ、フィンと握手した。

 

「仮に奴らをぶち殺したら」

 エミールは冷たい目でベートに声を掛けた。

「死体を持ち帰ってくれ。礼はする」

「お断りだ。欲しけりゃテメェで拾いに行け」

 ベートは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

 

「行くわよ、エミール」

 アスラーグが岩場道の縁に立ち、エミールはアスラーグの腰に腕を回し、崖へ飛び降りていった。

 

「……アイズなら同じことが出来る?」

 ティオナに問われ、アイズは眼下を窺い、うん、と頷いた。

「出来ると思う。フィン、私が先行して安全を確保してこようか?」

 意訳:一人で先に行ってモンスターをぶっ殺して回りたい。

 

「そこまでしなくていい。予定通り進もう」

『モンスター絶対殺すガール』の提案にフィンは苦笑いし、右手を大きく上げて振った。

「前進再開っ! 進むぞっ!」

 




Tips
メリンダ

Dishonord2のマイナーキャラ。
グランドガードの女性衛兵で、メイドの友人(なんか恋人っぽい)と屋上で密会している。
ローカオスだと、友人とレズっぽいやり取りを交わした後、無事に分かれる。
ハイカオスだと、友人と口論に至り……

本作ではデリラ信奉者の一人。
詳しいことは追々。

ヴァスコ
すっかりネタキャラと化してしまった。
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