TS轟ちゃんと入学
雄英の試験から一週間後のこと。
届いた合格通知を、冬夏の膝の上に座りながら開いた。
『――私が投影された!!』
「……誰?」
「投影機、裏返しになってる」
『筆記試験では同率1位! そして実技試験でも敵ポイントだけで5位だ!』
「すごいじゃん、ルナ」
「もっと褒めていいんだよ?」
「そういうところは可愛くない」
『――そして! 今回入試で見ていたのは敵ポイントのみにあらず! 審査制の
「ウフフ。審査制だって。公平さに欠けるよね」
「……ルナ」
『――合計の結果、君は次席入学だ!』
「ルナと一緒にいられるんだ」
「ボクはトーカと一緒だからね」
『――来いよ。月撫少女……いや、少年か? とにかく! ここが君のヒーローアカデミアだッ!!』
「合格だって、トーカ。これで一緒だね」
「……その前に、投影機裏返して遊ぶの止めなよ」
中学校を卒業後、僅かな春休みをトーカと過ごしたボクは、今日もトーカに起こされていた。
「……うにゃ。おはよう、トーカ」
「うん。おはよう。今日から雄英だから、制服間違えないでね」
「分かってるよ~」
「言った傍から中学の制服着ようとしないで。まだ出してたの?」
いつものようにトーカに髪を梳かれ、初めて着る制服特有のパリパリ感をうっとおしく感じつつも、二人で家を出る。
雄英に入学することになったとしても、変わるのは通学路と交通手段のみ。
何も起きることなく、雄英に到着したボクたちは、無駄に大きい学園を歩く。
「クラスどこっだけ?」
「1ーA。パンフによれば、ここら辺に……あった」
トーカに手を引かれて辿りついたのは、バカみたいにデカい扉。
「大きいね~」
「……多分、異形型の個性でも入れるように、なのかな」
見た目の割には軽い扉を開け、中に入る。
意外にも仲は普通の高校と一緒だけど、異形型の生徒にも対応するための巨大な扉なのに、中にある机はみんな同じなんだね。
そもそもあの扉が必要な生徒だったら教室は入れないけど。
そんなことを考えながら入ると、誰かの言い争う声が聞こえてきた。
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方、机の製作者型に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよ、カス!! てめーはどこ中だよ、端役が!」
さすがはあの実技試験を潜り抜けただけあるね。いかにもキャラが立ってる人たちだ。女装してるボクが言えたことじゃないけど。
それにあのメガネの人って、入試に居た痴態の人だね。受かってたんだ。
(一方的に)知っていた人が居たことに驚いていると、痴態の人と喧嘩してるカスの人を、トーカが見つめていた。
「どーしたの、トーカ?」
「もしかして知らないの? 1年くらい前に、ニュースに出てた人だよ」
「ふーん」
「……ルナ。私はルナと一緒だから」
急に言われたことに首を傾げると、いつの間にかトーカの制服の袖を掴んでいることに気が付いた。
これは驚きだ。まさか無意識に寂しさを感じていたというのだろうか。とっくにそんなの感じないぐらいには
黙りこくったボクに何を思ったのか、トーカが頭を撫でてきた。気持ちいいからもっと撫でてよ。
「――アンタ、あの時の!」
トーカに撫でられていると、ボクたちより早く来ていたらしい女の人が声を掛けてきた。
「ん? あー、優しい人だ」
「……ルナ、知ってる人?」
「入試の時にいろいろあってねー。優しい人も合格したんだ」
「アンタのお陰でね。礼を言っとくよ。ありがとう」
「ウフフ。まあ、ボクのせいでもあったしね。それにあの遅れがなかったら、優しい人なら余裕で合格してるだろうし」
「そっか。ああ、自己紹介してなかったね。アタシは耳郎響香。優しい人って呼ぶのは勘弁して」
「ボクは狂四季月撫。月に撫でるでルナだよ」
「轟冬夏。冬と夏で冬夏」
「月撫に冬夏か。よろしく」
互いに自己紹介を終えると、ふとトーカが開きっぱなしの扉から見える廊下を見ていた。
その視線を追いかけると、そこには膨らんだ寝袋があった。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
寝袋が喋った……ということもなく、中から出てきたのは不衛生そうなオジさん。
ボクは即座にスマホを取り出す。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。ついでにそこ。通報しようとするな」
「ウフフ。不審者が何か言ってる。雄英に不審者が侵入なんて、一大スキャンダルだ」
「俺はこのクラスの担任だ。名前は相澤消太だ。よろしく」
「――と、不審者は担任だと嘘をついて……」
「嘘じゃねえよ」
「ウフフ。冗談だよ。ヒーローには小粋なジョークが付きものでしょ?」
「全部のヒーローがオールマイトと同じだと思うな」
ホントに冗談だったのに。
合理主義者なら生徒から好感度稼いだ方が良いんじゃない?
「さっそくだが、これ着てグラウンドに出ろ」
混乱している(ボクとトーカ以外)の生徒たちの様子に目もくれず、相澤センセーが寝袋から取り出したのは学校指定の体操服。
入学式とかあるものだと思ってたけど、相澤センセーにとっては無駄らしい。さすが合理主義者。
周りから困惑の声が上がるけど、言っても仕方ないので更衣室で着替える流れとなった。
「それじゃトーカ。また後でね」
「うん」
ボクもトーカと別れ、体操服に着替えるために男子更衣室に――――
「「「「「「待て待て待て待てッ!!」」」」」」
入ろうと思ったら急にほとんどの生徒からツッコミを入れられ、女子6人に引っ張られた。
「何当たり前のように男子更衣室行こうとしてるの!?」
「女子更衣室はこっちですわよ!?」
「ケロケロ。あなたって天然なのね?」
……うん? 彼女たちは何言ってるんだろう?
「……何の事?」
「おいー!? 何してんだよ! 本人が気にしてないなら男子更衣室で着替えさせてあげてもいいだろう!」
「「「お前はちょっと黙ってろ!!」」」
「ぐほぁっ!」
あ、なんか如何にもバカ丸出しな人がツッコミを入れられた。
ウフフ。クラスメイトの仲が良くて何よりだよ。
それにしても、なんでみんなボクを引き留めるのかな?
首を傾げるボクを見て、響香が女子更衣室に向かうトーカに慌てて応援を求める。
「と、冬夏! 冬夏! アンタからも何か言ってよ! 月撫が男子更衣室で着替えようと――!」
「……変じゃないと思うけど?」
トーカの一言に、更衣室前の空気が固まった。
さっきツッコまれてた人が喜んでた。今度は静かにツッコミを入れられた。
「冬夏、目を覚ませ! あいつ女だろ!? さすがに男子更衣室は不味いって!」
「……? ルナは男だけど」
『……………………………………………………え?』
こんどは更衣室前の空気が死んだ。
ぶっちゃけ最後のがやりたかった。