TS轟ちゃんは付き合いたい   作:神咲胡桃

5 / 7
TS轟ちゃんとテスト

 

『個性把握テストォッ!?』

 

相澤センセーの指示内容に、他の人たちが声を上げる。

 

周りを見ても、居るのはボクたちA組だけ。やっぱりというか、ここで入学式をやるわけではなさそうだ。

 

「テ、テストっていきなりなんですか!? 入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは教師もまた然り」

 

教室で緑髪の生徒と話していた女の子が意見するも、相澤センセーに切り捨てられる。

 

ボクを後ろから抱きしめてるトーカを、ちらりと見上げる。興見なさそうな顔だった。ボクも興味ない。

 

周りの動揺も適当に聞き流していると、相澤センセーの説明が再開される。

 

「個性禁止で体力テスト、お前ら中学でやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなお、それを続けるのは非合理的。まあ、これは文部科学省の怠慢だから今は良い。……爆豪、中学の時ソフトボール投げ何メートルだった」

「67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ」

「個性を使ってねぇ。……んじゃまあ、死ねぇ!」

 

促されたツンツン頭の人が円の中に立ち、渡されたボールを個性と思われる爆破に載せてぶん投げた……いや、飛ばしたというべきかな?

 

なんにせよ、おそらく初めてやったであろうことを一発で成功させてる時点で、彼の戦闘センスはきっと凄まじいのだろう。

 

力の方向が分散しやすい爆発系の個性なら真っ直ぐ飛ばすのだって難しい。

 

それと、ほとんど知らない人たちの目の前で「死ねぇ!」なんて言える胆力もさすがと言うべきか。

 

相澤センセーの持つ端末に、700m以上の数値が映し出される。

 

『おおっ!!』

 

中学じゃ絶対見れない数値に、他の生徒は歓声を上げる。

 

「まず自分の最大限を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「個性使っていいとか、さっすが雄英!」

「すげー面白そう!」

「……面白そう、か」

 

湧き上がる生徒を尻目に、相澤センセーの口角が軽く上がった……ように見えた。

 

「ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのか?……よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、()()()()としよう」

『はあぁぁぁぁぁぁ!?』

 

へぇ……?

 

これは面白いことになったなぁ。ま、ボクとトーカは最下位にならなそうだし、別に構わないか。

 

トーカも、相澤センセーの発言に眉が微かに動いただけで、その後はまた興味なさそうな表情に戻った。

 

「再会で除籍って、入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても、理不尽すぎる!」

「自然災害、大事故、身勝手な敵たち……いつどこから来るか分からない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーローだ」

 

相澤センセーの演説で、他の生徒たちはハッとした表情になる。

 

……まさか納得したというのだろうか?

 

ボク? 今ので納得するわけない。

 

第一、現代社会におけるヒーローの動きは、敵のそれと比べても後手に回っている。云わば警察と同じである。事件が起こってからでないと、警察もヒーローも動いてくれないのだ。

 

理不尽は覆すのが最善じゃなくて、起こらないようにするのが最善なんだよ?

 

「”Plus Ultra”さ。全力で乗り越えてこい」

 

あーあ。やる気失くしちゃったなぁ。適当にやろ。

 

 

 

 

 

 

そして、テストはつつがなく進んで行った……わけでもなく。

 

それは五種目目のソフトボール投げで起こった。

 

「せい!」

「∞!? ∞が出たぞ!?」

 

どうも重力を操る事の出来る個性の少女が、∞とかいう記録を出した後の事。

 

あ、ちなみにボクはツンツン頭の人よりも1mだけ遠くに投げた。

 

睨まれた。くすん。

 

「次、緑谷」

 

相澤センセーに呼ばれて前に出る緑髪の人。だけどその表情は、緊張感と言うよりも焦燥感が現れていた。

 

「緑谷君はこのままだと不味いぞ……」

「ったりめーだ。無個性の雑魚だぞ!」

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

ふと聞こえてきた、ツンツン頭の人とメガネの人の会話に、興味深い内容があった。

 

ツンツン頭の人が言っていた「無個性の雑魚」というワード。

 

対してメガネの人が言っていた「入試時に何を成したか」という言葉。

 

明らかに二人の言葉が食い違っている。

 

会話の内容からして、ツンツン頭の人は緑髪の人と同中、メガネの人は入試の時の会場が同じだったのだろう。

 

うーん。”入試時”のことからすると、メガネの人が言ってるのはあの0Pのロボットの事だと思う。記憶にインパクトが残るなら、それくらいしか思いつかない。

 

だけど、ツンツン頭の人の訝しみ具合からしても、言っていることが間違いだとも思えない。そもそも「無個性の雑魚」と言い切れるぐらいには、中学で緑髪の人を知っているのだから、嘘ではないだろう。

 

なら緑髪の人がツンツン頭の人を騙していた? だとしたら彼は俳優にでもなった方が良いだろう。

 

……ウフフ。分からん。

 

ま、どの道ここでダメならさよならするわけだし、見てたら分かるか。

 

そんな訳で、緑髪の人の一投目。

 

「46m」

 

……いたって普通だね。

 

気になるのは、()()()()()()()()()()()()()だけど。

 

「なんで、今、確かに使おうって……!?」

「――個性を消した」

「なっ!?」

 

気づけば、相澤センセーが目を見開いていた。

 

それに個性を消したって……そういう個性か。そして緑髪の人の反応からするに、それは正しかった様子。

 

つまり、個性が消されたっていうことは、ツンツン頭の人が言っていた「無個性」というのが、違うと言うことなのかな……?

 

「つくづくあの入試は、合理性に欠くよ。お前のような奴が入学できてしまう」

「個性を、消した……? ッ!? あのゴーグル……そうか、見ただけで人の個性を抹消する、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』!?」

「……トーカ、知ってる?」

「昔、父さんがその名前の人と、電話で話しているのを聞いたことがある」

「個性からして、あまり知られない方が良いしね……」

 

それにしても、あの入試に意見がある人がボク以外にも居たんだ。ちょっと驚き。

 

その後、相澤センセーが緑髪の人と距離を詰めてしまったせいか、声が小さくなって会話が聞こえづらくなった。

 

そして話は終わったのか、緑髪の人が2投目を投げた。

 

記録はボクの記録を微かに上回る距離。そして何故か、右手の人差し指が変色していた。個性の、反動……?

 

ツンツン頭の人が緑髪の人に突っかかるも、相澤センセーに捕まり、その後はちゃんと何事もなくテストは進んで行った。

 

 

 

「これが結果だ」

 

相澤センセーによって表示される総合成績の順位。

 

適当にやったボクは8位。トーカは3位だった。

 

だけれど、件の人……緑髪の人は最下位だった。ま、目立った成績はソフトボール投げくらいだったからね。

 

残念だったけど、これも仕方のないことだと

 

「あ、ちなみに除籍は嘘な。君らの実力を最大限発揮させるための、合理的虚偽ってやつ」

『はあぁぁぁぁぁ!?』

 

あっさりと言われた内容に、またしてもみんなが驚愕する。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」

 

ポニーテールの、スクーターで50m走ってた人が呆れたように呟き、周囲の人はそれに納得する。

 

そりゃ余裕のある人なら、その考えにも行き付くだろうね。

 

だけど緑髪の人のような、個性的に不利がある人なら、それが嘘だろうと本当だろうと、確かに焦るだろう。なんたって、相澤センセーがどういう人か、全然知らないんだから。

 

その結果、緑髪の人はソフトボール投げで結果を出した。

 

そういう意味では、確かに効果的な手段ともいえる。

 

でもねぇ……。

 

「トーカはどう思う?」

「……多分、本気だと思う。『除籍にする』って言ってた時の相澤先生、訓練の時の父さんと似た雰囲気だった」

 

 

――つくづくあの入試は、合理性に欠くよ。お前のような奴が入学できてしまう。

 

 

思い出すのは、相澤センセーが言っていた言葉。

 

「あんなことを言って、しかも入試の内容に苦言を呈するような人が、合理的虚偽はしても”嘘”を言うとは思えない。ボクも本気だったと思うよ」

「でも、なんで今さら撤回するような発言を……」

「ウフフ。これは想像だけどさ、多分、相澤センセーが言った合理的虚偽っていうのは、『除籍処分にすること』じゃなくて、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』自体が、相澤センセーが言う合理的虚偽なんじゃないのかな?」

「じゃあ、もしかしたら本当に除籍処分になっていた……?」

「『トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう』……逆に言えば、最下位でも見込さえあれば言いわけだしね」

 

 

 

 

 

 

 

その後、解散したボクらは、更衣室で着替えていた。

 

着替えてる途中、なんか視線を感じたけど、先にスカートを履いてズボンを下ろしたら、明らかに項垂れた様な視線に変わった。

 

そんなことはどうでも良くて、手早く着替えを終えて教室に戻っていると、保健室で治療して貰ったらしい緑髪の人が前からやってきた。

 

「ウフフ。災難だったね」

「え!? あ、いや、そのべべべべ別に大丈夫だよ狂四季さん!」

 

ウフフ。凄いテンパり様。

 

そういえば、女の子と話せないくらい初心なんだっけ?

 

それは悪い子としたなぁ。ボクは綺麗で可愛くて美しいから。

 

「落ち着きなよ。女装してるけど、ボクは男だよ? それより君の個性。凄かったね。個性は超パワーなの?」

「そ、そうだった。男だったんだっけ……。え、えっと、まあ、そんな感じかな」

 

……やっぱりツンツン頭の人が知らない理由が分からない。

 

直接聞いてみてもいいけど、それはそれでめんどくさい。

 

「そ、そういえば! 狂四季さんの個性もすごかったね! 風を操る個性なの?」

「……そんなものと思ってくれていいよ」

「そ、そっか!」

 

あからさまな話題変更。やっぱり触れてほしくないのかな?

 

まあいいか。

 

それにしても、風を操る個性ねぇ。確かにテストじゃ()()()()()()()()()()()()()から、そう思っても仕方ない。

 

かと言って、訂正する必要性もない。自分の能力を親切に教える意味もないし、今は勘違いしておいてもらおう。敵を騙すには味方から。敵は知らんけど。

 

……取りあえず緑髪の人、ボクの個性について早口で分析する前に着替えてきなよ。

 

除籍させられるよ?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。