体力テストの翌日。
午前中は普通科の授業。以外にも普通、あまりにも普通な授業を受けた。それでもプレゼント・マイクの声はうるさかったけど。
お昼は食堂で、クックヒーローの料理を食べた。
本来、そこらのファミレスよりも遥かに高いであろうプロの味を、ワンコイン以下で食べられるのは、国立ならではなのだろう。
世間で言われるところの、雄英贔屓の一端を垣間見た気がした。
そして午後、
「わーたーしーがー……普通にドアから来た」
教師として来たのはオールマイトで、クラスのいたるところから歓声が上がる。
「午後の授業は、ヒーロー基礎学! ヒーローの下地を作るための、さまざまな訓練を行う科目! さっそくだが、今日やってもらうのはぁ……戦闘訓練だ!」
戦闘訓練と言う単語に、教室がざわめく。
普段は寡黙なトーカも、珍しくやる気を漲らせている。
「入学前に送って貰った個性届と、要望に沿ってあつらえたコスチューム!」
オールマイトがリモコンを操作すると、壁から21個のアタッシュケースが現れた。
無駄にハイテクだね。
「着替えたら、順次グラウンドαに集まるように!」
『はい!』
オールマイトの指示が出されると、アタッシュケースを引っ掴み、更衣室へと向かって行く。
戦闘訓練……ウフフ。楽しみだなぁ。
◇◇◇
更衣室に移動した私たちは、すぐに制服から着替えはじめる。
アタッシュケースから取り出したコスチュームが要望通りであることを確かめ、制服を脱ぐ。
その途中、周りからゴクッと唾を飲み込むような音がした。
「……どうしたの?」
「いやぁ、なんていうか、スタイル良いなぁって……」
「うんうん! 引き締まってるところは引き締まってるし、出るとこ出てるし……」
「……発育の暴力」
若干一名、恨みのこもった声が聞こえて来たけど、聞こえないふりをする。
というか、
「スタイルなら……えっと、八百万だっけ?」
「ええ、八百万百ですわ。轟さん」
そう言ったのは、黒髪をポニーテールにした女子生徒、八百万百。
昨日の個性把握テストには感謝しておこう。あれがなかったら名前を憶えてなかった……。
「冬夏でいい。私は八百万の方が、スタイル良いと思うけど」
「そうですか? 個性を使うと脂質を消費するので、ちょっと気にしているのですが」
「「「「「(……嫌味か!)」」」」」
……おかしいな。怨嗟の声が聞こえた。誰も話してなかったのに。
皆の視線が八百万に集中する中、ピンク色の肌をした女子生徒が近寄ってきた。
「ねえねえ、聞いても良い?」
「芦戸、だっけ? なに?」
「冬夏って、
芦戸の質問を皮切りに、他の皆も次々と聞いて来た。
「あ、それ私も気になる!」
「ケロ。そういえば、朝手を繋いで来てたわね」
「な、馴れ初めとかすっごい気になる!」
「う、ウチも気になる……」
ここまで期待されていると、少し話しづらい。
別に話すのは構わないけど、まずは誤解を解いておかないと。
「先に行っとくけど、ルナとは付き合ってないから」
「ええ!? そうなの!? すっごい良い雰囲気っぽいけど……」
「じゃあ、冬夏ちゃんは月撫ちゃんのこと、好きなの!?」
「好きだよ」
ほんわかしてる女子生徒、麗日お茶子の質問に答えると、周りから黄色い悲鳴が上がった。
それもそうか。高校生なら恋バナの一つや二つはしたい年頃。
どうやら私は、めんどくさそうな話のタネを持ち込んでしまったらしい。
「何時から何時から!?」
「ルナと出会ったのが……中学生の時で、それから好きになった」
「うひゃー! 告白とかしないの?」
「――――しないよ」
騒がしかった更衣室が、途端に静まり返った。
私の答えが意外だったのか、はたまた、無表情になったであろう私の顔に驚いているのか。私にはわからない。
でも、これだけは決めてるんだ。
「きっと、私から告白することはないよ。しても意味ないと思うし」
話しながら、コスチュームの着用を終える。
黒のコートを羽織り、内側にグレーのシャツと黒のズボン。
集合場所へ向かうために、更衣室を出ようとドアに手を掛けて、振り向く。
「早く着替えた方が良いよ」
ハッとして、急いで着替えはじめたのを尻目に、集合場所へと向かう。
ふと隣を見ると、手袋とブーツが宙を浮いていた。
……え、お化け?
「――――――――――」
「どうしたの? 急に止まっちゃって」
謎の宙に浮く手袋とブーツの正体は、葉隠透だった。幽霊じゃなかった。良かった。
彼女は確か、透明化の個性だった気がする。常時発動型の。
……いやちょっと待て。
「……葉隠は、コスチュームそれだけ?」
「うん! 私透明だからさ、手袋とブーツだけだよ!」
……急募。クラスメイトがほぼ全裸で隣を歩いている時の対処法。
◇◇◇
オールマイトの担当するヒーロー基礎学は、滞りなく進んで行った。
もっとも、教師として授業の進め方に慣れていない彼が、時々カンペを見ていたのはご愛嬌だろう。
そして戦闘訓練の内容が伝えられた。
二人一組のペアを作り、それぞれヒーローチームとヴィランチームに振り分け、一ペアずつ戦う。
加えて核兵器が隠されたビルと言うシチュエーションで行われるため、単に相手を倒せばいいというわけではない。
ヒーロー側がビルに攻め込み、核兵器を模したハリボテに触ること。ヴィランチームは15分間の防衛。これらがそれぞれの勝利条件となっている。
加えて確保テープを巻かれると、自動的に戦闘不能扱いとなり、全滅した時点で敗北となる。
ここまでが説明されたところで、くじ引きによるペア決めが行われたのだが、ここで一つ問題が起きた。
「あれ? 俺らって21人いるよな? 一人どうすんだ?」
「良い所に気が付いたね! もちろん、一ペアだけ3人にすることも出来るが、今日は初めての戦闘訓練。故に、私の方で対策を考えてある」
そう言うとオールマイトは、昨日のテストの時のように冬夏に後ろから抱きしめられているルナへと、視線を向けた。
「狂四季少年。君にはペアを作らず、少し待っていてもらいたい。もちろん、君も訓練はするからね」
「ウフフ。別に良いよ。でも、少年じゃなくて少女で呼んでもらいたいな。ボクは綺麗で可愛く美しいからね。少女の方が、そうっぽくない?」
「HAHAHAHA! それは失礼なことをしたね、狂四季少女!」
『(いやそんな簡単に済ませられるのか!?)』
教師間でルナの女装について、あまりとやかく言わないように言われていることもあってか、オールマイトはさらりと流したが、事情を知らない生徒たちのツッコミが重なった。
その後、ペアの組み合わせが決められ、戦闘訓練が開始した。
第一試合 緑谷・麗日 対 爆豪・飯田
途中から緑谷対爆豪、麗日対飯田の展開を見せた試合は、緑谷・麗日ペアの勝利で終わった。しかし、
「負けた方が無傷で、勝った方がボロボロだ」
「勝負に負けて、試合で勝ったってところだなぁ」
例の個性の反動でボロボロになった緑谷、そして負けて呆然としている爆豪をオールマイトが回収し、講評の時間へと移る。
冬夏と同じく推薦組の八百万の講評によって、ハリボテだと知っていたが故の緑谷・麗日・爆豪の三人の行動にダメ出しがなされ、逆に適切な行動がとれていたとして飯田がMVPとなった。
言おうと思っていたことを全て言われたオールマイトは、思いっきり焦っていた。
その後も試合が続き、冬夏・障子 対 白尾・葉隠 の試合へと移る。
試合が始まる前の作戦会議。
冬夏はペアの障子目蔵と情報交換をしていた。
「俺の個性は複製腕。この触手の先を、身体の一部を変えることが出来る。加えて、複製した部分は強化されている」
「なるほど。私の個性は半冷半燃。右は氷、左は炎を出せる。ただし、片方だけを使うと身体に影響が出る。それに、今回のシチュエーションの関係上、あまり炎を積極的に使うわけにもいかない」
「ふむ……作戦を考える前に、一つ聞いていいか?」
「構わない」
「昨日のテストの時、轟は氷だけでテストを受けていたな?」
「…………まあ、氷だけで何処までやれるか、知りたかったから」
「……そうか。俺の言いたい事というのは、轟のその個性ならば、ビル全体を凍らせることが出来るのではないかという事だ」
障子の言葉に、冬夏は思わず口を閉じる。
確かに、昨日のテストは氷だけで受けた。言った理由も、
そして、ビル全体を凍らせる、これも出来ない事はない。
だが、冬夏はそれをするつもりはなかった。
「あなたの言うことは、間違いではない。でも、私はそれをするつもりはない」
「理由を聞いても良いか?」
「……簡単に言えば、今日のこれは訓練だから」
「ふむ」
「初手でビルを核ごと凍らせれば、簡単に制圧できる。でも、何時でもそれが出来るとは限らない。ドデカイ一発だけじゃなくて、もっと小回りを利かせる戦い方も学んでおきたい。障子には、悪いと思ってるけど」
障子から目を逸らすことなく、理由を話した冬夏。
それに対し、障子は怒ることも、文句を言うこともしなかった。
「……分かった。轟の言うことにも確かに一理ある。ならば俺も、最善を尽くそう」
「ありがとう」
「いや、礼を言われることじゃない。それに、轟が一撃で決めてしまうと、俺の点数もやばそうだからな」
礼を言う冬夏に気付かってか、おどけたように言う障子を見て、冬夏はこの気遣いをルナも持ってくれればと、思わずにはいられなかった。