とある日暮れ、ナリタタイシンはカルガモの子と出会った

これは独りぼっちのカルガモ、ニシンと
独りが好きだったウマ娘、ナリタタイシンの物語

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ナリタタイシンとカルガモの子

 夕立晴れた河川敷を1人のウマ娘が駆ける。

 甘茶色の短い髪の毛が風に揺れ、背の低い体をそれに似合った腕と脚が支えて走る。

 虹色に輝く世界。ナリタタイシンの脚は、雨と草の匂いに包まれながら更に加速し続けた。

 

 スタートから数十キロの地点に着き、タイシンはその脚を緩やかに減速させた。

 

「少し休んでから帰ろう」

 

 まだほんのりと濡れた草原に寝転がると、虹色に煌めく川が辺りを照らしていた。

 少し冷たい風を感じながら息を整える。

 

──チチチチピッ

 

 沈みかけの夕日を見ながら息を整える。

 

──チチピッ

 

 息を整える。

 

──チチチチチチチピッ

 

 息を──。

 

──チチチチチチチチチチチチチチチチチピッ

「あー、もう! 一体何なの!」

 

 タイシンが小さな上体を起こすと、そこには茶色の羽を茜に染めた1羽の小さな鳥がいた。

 

「なにコイツ……。これってカルガモ?」

 

 そのカルガモは真っ直ぐにタイシンを見つめていた。真っ黒な瞳にタイシンが映り込む。

 気味の悪さを覚えたタイシンは、暗くなりかけている事もあり足早にそこを去ろうとした。

 

──チチピッ?

 

 後ずさりするタイシンに合わせて、カルガモが前進する。タイシンは耐えきれずに駆け出した。

 

──チピピッ!!?

 

「悪いけど、アタシは構っている余裕が無いの」

 

──チチピーッ!?!?

 

 タイシンはここへ来た以上の速さで地面を蹴り上げる。小さな鳴き声がさらに小さくなる。

 

──チチッチチチッピ!!

 

──チチチチチピッチチピッ!!

 

 もう、その鳴き声はほとんど聞こえない。

 

──チチチチピチチチピチピチチピピッ

 

──チチピ

 

──ピ

 

 タイシンの前を走る影は周りを飲むこむように黒黒としていて、輪郭が冷たく見えた。

 いつの間にか立ち止まっていたタイシンは、僅かな距離しか走っていないにも関わらず、大きく荒く息を吐いていた。その鼓動に紛れて、背後からまた鳴き声がする。泣く声にも聞こえた。

 

──チピッチチ……チーピチチッ……

 

 タイシンは、己の後ろを必死に着いてくる声を無視出来るほど冷酷では無かった。

 


 

 太陽は地平線の下、熱気は未だ地上を這う。

 タイシンはジャージの中に隠したカルガモを誤魔化すために、ポケットに手を入れながら寮の入口に近づいた。寮はペット連れ込み厳禁。これがペットかどうかはさて置き、寮長のフジキセキから快くは歓迎されないだろうという考えだ。

 

──チピー

「いい? 鳴くなよ。絶対に鳴くなよ」

──チピッ!

 

 引き戸を開け、ただいまと軽く呟く。透き通るような声でおかえりと言われた。笑顔のフジキセキが爽やかにタイシンを待っていたのだ。

 

「うん、門限ギリギリ。トレーニングお疲れ様」

「今度からは……気を付けるから、さ」

 

 なんとか門限に間に合った事もあり、フジキセキは必要以上の言葉を発さなかった。タイシンが緊迫から開放されようとした、その時。

 

「タイシーーン! 心配したんだよーー!」

「そんなに遠くまで行っていたのか?」

 

 大泣きしながらタイシンにかけよったウマ娘はウイニングチケット。キリリと眼鏡を指で押し上げたのはビワハヤヒデ。どちらもタイシンと仲の良いウマ娘だ。チケットが泣きながらタイシンに抱きつこうとする。両手をポケットに入れていあたタイシンは油断し、反応が僅かに遅れた。

 

「……あっ」

──チピピピッ! チピピピッ! チーピー!

 

 ジャージから飛び出したカルガモの鳴き声が玄関に響く。ハヤヒデの火曜サスペンス劇場? という小さな呟きが、静かに壁へ染み入った。

 フジキセキがニッコリと笑う。

 

「お話してもらえるかな? ポニーちゃん♪」

 


 

 爽やかな笑顔のフジキセキに問われ、タイシンはバツが悪そうに目を逸らしながらカルガモの事を話した。その説明にチケットは号泣し、ハヤヒデは感心し、フジキセキは納得し、そして背後からタイシンを覗き下ろしたゴールドシップは興味深げに頷いていた。そう、ゴールドシップは。

 

「ほー、こりゃ刷り込みだな」

「えっ、ちょっ、ゴルシ? ……何それ」

「あれだな。産まれたばかりの小さい鳥とかが、見たものを親として認識しちまうやつだな」

「なに、それ。もしかしてコイツあたしの事を親だと勘違いしてるの?」

「じゃねーの? まあ、刷り込みはある程度修整出来るらしいし、親の所へ返せば問題ないだろ」

 

 タイシンは改めてピッと鳴くカルガモを見た。

 

「だがしかし、このカルガモが産まれたばかりなのなら、親はどうしたんだ? タイシンが見た時周りにはいなかったんだろう?」

「ハヤヒデの言うとおり。コイツだけだった」

「んー、そいつ普通のカルガモより小さいし。もしかしたら捨てられたのかもしれねえな。または置いていかれたのかも」

「えええ!」

 

 驚天動地。チケットは涙して叫んだ。

 

「カルガモさんが可哀想だよおお! どうしてお母さんはそんなごとするのおおお!?」

 

 そりゃあ、とゴルシは顎に手を置く。

 

「自然の世界は厳しい。親について行けないような奴はそれだけでリスクなんだよ。だから──」

 

 タ〜イシンが僅かに目を見開いた。カルガモは何も知らないのか、何も分からないのか、ただつぶらな瞳を輝かせて鳴いている。

 

「そのカルガモは孤独なんだな」

 

 と、雄弁に語ったゴルシだが、ふと天井を見上げてその口を閉ざした。その目は焦りの色だ。

 その変化に気づいたフジキセキとハヤヒデは、やがて同一の思考に辿り着き似た色の目をした。

 

「なに……どうしたの? 急に黙って」

「うーんとね、私の記憶が間違っていなければ、確か野生の雛を連れて帰るのは犯罪。になってしまうような……であってるかな? ゴルシ」

「あー、うん。鳥獣保護管理法に当たるなこれ」

「ちょうじゅうほごかんりほう……何それ」

「つまりは、無闇に野生動物を保護したり飼育してはならないという法律。だったなゴルシ君」

 

 すかさずゴルシは鳥獣保護管理法、正式名称を【鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律】と言う。の構成をすらすらと空で言い始めた。罰則に関する部分に差し掛かると、空気を飲むような悲鳴が起きた。チケットがまた叫ぶ。

 

「じゃ、じゃあ、タイシン捕まっちゃうの? そんなのやだよおおお! タイシンーー!」

「うるさいって。え……あたし捕まるの?」

 

 脳を空間光通信でWikipediaに接続していたゴルシがパチリと目を覚ます。その姿は、深く深く何かを考え込んでいる。……ようにも見える。

 

「まあ、明日放課後にも戻せば大丈夫だろ」

「ホントは明け方の方が良いと思うけれど、それはリスクがあるからね。とりあえず今日は解散」

 

 という事で、なぜだかカルガモの飼育方法と雛の世話について豊富な知識を持っていたゴルシ主導で必要な物が集められ、この晩はタイシンの部屋で保護する事になり騒動は収まった。

 因みに、何事も無く玄関から寮へ上がろうとした門限違反のゴルシは、抜け目ない寮長からのお仕置き? をありがたく貰う羽目になった。

 

 タイシンが部屋に戻ると、その遅い帰りを心配していた同室のウマ娘、スーパークリークが柔らかな表情に頬を咲かせて微笑んでいる。

 

「あら〜タイシンちゃん遅かったですね。心配したんですよ〜。トレーニング頑張りましたね〜」

 

 と、あらん限りの言葉でタイシンを肯定していたクリークだったが。タイシンが手に持つ布の敷かれた籠に目をやると、その瞳がゆんと揺れた。

 

──ピッピーッピチ!

 

「まぁ! 可愛いカルガモちゃんですね〜!」

 

 タイシンは面倒そうに、とても面倒そうに、これまでの事を掻い摘んで説明し始めた。

 

「……で、明日ニシンを元のところへ返してくる」

「ニシン……て、このカルガモちゃんですか?」

「そう。別に、チケットが勝手に名付けただけ」

 

 ネーミングの理由は、チケット曰くなんとなくタイシンに似ているから、2番目のタイシンという意味で「ニシン」である。

 

──ピピン!

「まあ! 可愛いですねえ〜! ニシンちゃん、いーこいーこ、よ〜し、よ〜し」

 

 カルガモを撫でているだけなのに、なぜだかその姿に恐怖を覚えるタイシンであった。

 

 翌朝、ハヤヒデがタイシンの部屋を訪れた。

 ニシンの様子を見に来たのだ。長くて癖の強い髪を揺らしながら、そっと籠を覗き込む。

 

「ふむ、確かにタイシンに似ているな」

「そうですね! 本当に似ていて、可愛いです」

「いや、あたしと全然違うでしょ……」

 

 やがて2人はタイシンに後ろから押されながら部屋を後にする。そのまま、全員もつれ合うように部屋を出ていった。空っぽの部屋を残して。

 


 

 チケットがそれに気づいたのは2時間目の事。

 授業中に突然叫んだチケットに、タイシンも、教師も、クラスメイトも、全員が挙動を止めた。

 やがて収まったクラスで、タイシンがチケットを小突く。チケットの顔は、なんとか大声を止めていますと言わんばかりに力が入っていた。

 

「なにしてんのさ……急に叫んで……」

「だって、あれ……!」

 

 チケットの指差す先、ハヤヒデの髪、髪の中からかおをのぞかせるニシン、その向こうの黒板。

 いや、1つ戻りハヤヒデの髪から顔を覗かせるニシン。そう、カルガモのニシンだ。

 

 ニ シ ン ! ?

 

 タイシンは声を発さずに叫んだ。

 チケットは少し声が漏れていたかもしれない。

 

「……どうしたんだ? 私の髪に何かついているのか? それとも、まさか私の頭が大きくて黒板が見えないとでも? む? 私の頭が大きい!?」

「ハヤヒデ! 振り向いちゃダメー!」

 

 揺られ振られ、楽しくなったのだろうか。まだ小さいカルガモの雛は、その口を大きく開けて喜びの歌を鳴き歌い──。

 と、それは運良くチャイムの音に紛れた。

 

 休み時間になり、困惑するハヤヒデの髪の中をタイシンは必死になって掻き分け続けた。混乱に拍車のかかるハヤヒデの気を、チケットは逸らそうと努力したが逸らせるわけもない。

 カルガモがいつまでも黙っているわけもない。

 

──ピピッ!

──ヒピッチピ!

──ピーッチピチ!

 

「な、なんだ? 私の頭の中から鳥の鳴き声がするぞ!? これは、カルガモの鳴き声……?」

「わっ、わっ、急いでタイシン!!」

「……待って、別に話せば良くない?」

「あ、そっか」

「こ、これはなんなんだ? お、教えてくれ!」

──ピッピチ!

 

 ハヤヒデとニシンの目があった。正確には、頭から滑り落ちたニシンをハヤヒデが両手で受け止め、そして目が合った。ハヤヒデは絶叫した。

 

「わ、私の頭からカルガモがぁ!!?」

「ニシンがやっと見つかったよおお!!!」

「あー、面倒くさい……」

 

 事が落ち着くまでには5分以上を要した。

 

 さて、事が落ち着いても問題は山積みだ。学校にカルガモがいるなんて見つかれば、面倒な事になるのは明白。放課後まではまだ時間もある。となれば、それを隠す必要がある。

 タイシンとチケットは一斉にハヤヒデを見た。嫌な予感を察知したハヤヒデが顔を暗くする。

 

「まさか、いや、それは無理だろう」

「お願い、ハヤヒデー!!」

「まあ、他に方法も無いから……」

「タイシンまで……!?」

「ニーシーンー! 静かにしててねー!」

 

 こうして、ビワハヤヒデという名の即席鳥籠が完成したのだった。

 ハヤヒデは自分の顔と同じように暗い曇り空を見ては溜め息をつき、放課後まで授業を受けた。

 


 

 黒い雲から冷たい風が吹き下ろし、草原を揺らしている。今にも雨が降り出しそうな空だ。

 終業のベルが鳴ると同時に教室を飛び出し、手のひらにカルガモを乗せながら河川敷を走る影。

 タイシンは、その小さな瞳から目を逸らすように前だけを見て走っていた。

 

 遥か上空を1羽のカラスが飛んでいた。

 タイシンはニシンを見つけた場所にしゃがみこみ、誰もいない事を確認してその手を開いた。

 

──ピッピピ?

 

 頬の横を鳴き声が抜けていく。

 

「この辺……だったよね」

 

 降り出した雨の中、草の影にそっと放り出された小カルガモはわけもわからずに親を見つめた。

 親と思われているウマ娘は名残が残らぬよう、足早にその場を離れようとした。

 

──ピ〜チピ!?

 

 今度こそ冷酷に、今度こそ鬼になって。自分とコイツは住む世界が違う、自分とは似ていない。そう言い聞かせ、納得させ、叫ぶ声を無視して雨の中を歩く。走る力は湧かなかった。

 

──ピッピー!

「うるさい」

 

──ピーッピーッ!!

「あたしとは違う世界に生きているんだよ」

 

──ピーーチピッチピーーー!

「お前もあたしも独りで生きていくんだ!」

 

 もう振り返らないと決めた。そもそも拾ったのが何よりも間違いだったと腹が立つ。

 白い雲に紛れて黒い雨雲が低く低く唸り、雨はその勢いを増していく。ふと見上げれば、真上を飛ぶカラスの姿。まるで、獲物を見つけたかのように急降下している。そう、背後の獲物を──。

 

 思わず振り返った瞬間、目が合ってしまった。

 それを無視するほどタイシンは冷酷にはなれなかった。否定したくとも出来なかった。

 カラスが早いか、ウマが早いか。その脚は空を蹴り、雨を裂き、カラスの頬を掠めた。

 灰色の世界でタイシンの視界が回る。慌てて逃げ去る黒翼の次に見えたのは小さく震えるカルガモの雛。そして、バランスを崩して河川敷を転がり落ちる自分。それから雨空、川、草、土。

 ゆっくりと立ち上がろうとするが上手く動けない。足首を擦ると熱を帯びた痛みが走る。折れてはいない。軽い捻挫だ。すぐに治る。それぐらいは自分でも分かった。適切な治療を受けた場合の話である事も。雨は、傷を癒やしてはくれない。

 

──ピッ……ピィチチ……?

「うっさい、どっか行け」

 

──ピーピチチ?

「うるさい」

 

──ピッピピピ?

「う る さ い」

 

──ピィ……ピーィ……?

「あっちに行け! 行けえ!」

 

 形容も出来ないような鳴き声を出しながらニシンは河川敷を登っていった。やがて姿も見えなくなり、代わりに雨は強さを増した。

 これで本当に独りだ。と、タイシンは呪うように呟いた。黒い雲が太陽を追い出した空に溶け込み、世界は光を吸い取っていく。

 

 自分でも愚かだと思う。そう、タイシンは何回も呟いた。自分のした事が全て空回りして無意味に吠え続けているだけ。まるで、さっきカラスを蹴ろうとした時のように空回りする。

 夜の世界で雨は白く見える。目の前の川は怒り狂う龍のようにうねりを増していた。

 時間と共に痛みの刃は鋭さを増していく。

 

「このまま、独りで駄目になるのかな……」

 

 多面的な意味を内包した死という言葉が雨に溶け込み始めた時、耳鳴りのように遠くで叫ぶ声が聞こえた。それは、まるでカルガモのような声。

 それから、地を駆ける足音。

 そして、空が切り裂かれる腕の鼓動。

 

──チッーーーーーピピピ!!!

「やれやれ、やっと見つけたぜ」

 

 突如暗闇から現れた長い腕をそっと取ると、次の瞬間にはその身体は高く抱きかかえらた。

 ゴルシは1言、軽いな。とだけ呟いた。

 タイシンが呆然と下を向くと、そこには跳ね回るニシンの姿。その視線を上に上げれば、離れていても分かるほどに顔を歪ませたチケットと、同じほどに口を開けて叫ぶハヤヒデ。

 

「なに、なんでここが分かったの」

「ん? ああ、アタシがいつものみたいに門限を過ぎて寮に戻ろうとしたらな、コイツが玄関にいたんだよ。オメーこんな所にいたらオグリに食われるぞ、って言ったらコイツがアタシをカッと睨んでな。で、cv子安武人で『ついて来い』とか言うもんだからゴルシちゃん空港特快で来たわけ」

 

 タイシンはゴルシの言う事の半分も理解する気力は無かったが、足元で跳ねて転がり鳴くカルガモが助けてくれた事だけは理解した。

 

「ターイーーシーーーンーーーー!!!!」

「まったく……無事で何よりだ」

 

 急に騒然とした世界にタイシンはうんざりだとそれぞれから目を逸らした。

 

──ピーチッ! チピピッピッチピー!

「タイシン、ありがとう! だって!」

「あのねチケット、カルガモだから」

「ふむふむ。ハヤヒデハ、デカイ。だってよ」

「誰の頭が大きいって!?」 

「いやハヤヒデ、カルガモだから」

 


 

 雨は止みかけ、雲の隙間に薄らと星が煌めく。

 暗くて見えない足元、そこに声だけが響く。

 

──ピピン!

「じゃあ………………ありがとう」

「ううっ、ニシンとお別れなんだ……」

 

 離れてゆく声、去る足音。タイシンがちらと見ても、そこにカルガモの姿は見えない。

 

──ピピーッッ!

──ピーピーッッ!

──ピーーーーーーッッッ!!!

 

 やがて、声も聞こえなくなった。

 まだ少し熱い風に吹かれて草が揺れ、向こうの街に灯る光は地上の星のよう。

 

「あはは、やっぱりありがとうって言ってたよ」

「だから、カルガモだって」

「でもタイシンもニシンにありがとうって言ってたじゃん! だから、おんなじだよ!」

「うっさい、蹴るよ」

「ふっ……ゴルシ君に抱えられた状態でか?」

 

 タイシンは悔しそうに口をつぐみ、そしてまたそれぞれから目を逸した。いつの間にか静けさを取り戻した川へと目を走らせる。

 

「さーて、アタシらも行くか。寮長に怒られに」

 

 げっ……。と、全員が低く声を漏らした。

 談笑に包まれる夜道。風に乗って微かに聞こえた鳴き声に耳を澄まし、それからタイシンは誰にも気づかれぬようこっそりと笑ったのだった。

 


 

 

 季節は巡り、とある年の春の月。

 桜吹雪光る河川敷を1人のウマ娘が駆ける。

 甘茶色の短い髪の毛が風に揺れ、背の低い体をそれに似合った腕と脚が支えて走る。

 ふと、視界の端にカルガモの親子が写った。

 

──そんなに、似てるかな。

 

 ナリタタイシンは風になって速度を上げた。

 

 




野鳥及び野生動物の無断による保護、捕獲は法律で禁じられております。もしもそういった場面に遭遇した場合は各自治体等に相談をしてください。本作品はあくまで物語の中での表現として野鳥を連れ帰るという描写を行なっております。本作品は犯罪行為を推奨するものではございません。

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