個性「律者」のプロヒーロー   作:siera

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遅くなりました!

しばらく投稿が空いた中、多数の評価有難うございます!

これからも引き続き書き続けてまいります!


12話

 

炎が揺らめく路面、崩れたビルの瓦礫が散乱する場所に4人の美しきヒーロー……いや、戦乙女(ヴァルキュリー)が佇んでいた。

その美しき乙女達をビルの屋上、貯水タンクの上から悪意に満ちた青年が虚ろな目で見下ろしていた。苛立ちを露わにし首筋を掻き毟る、淀んだ悪意が。

 

「おいおいおい、なんでこの場にあの女が嫌がるんだ⁉それにあの女の周囲に居やがる()()()()()()は何処のどいつだ⁉」

「……増援が増えてきましたね。どうします、死柄木弔」

「はぁ……あの女が来やがったら終わりだよ。全て終わりだ、全部ぶち壊すさ」

「だったら……精々爪痕ぐらいは残してくれよな、脳~無?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 律者達が散開し、各自各々のすべき対処に向かう。エデンは避難誘導を行っているヒーロー達の所に向かい援護に。メビウスは周囲を燃やし尽くしかねない程勢いを強めている火災への対処を。デュランダルは、芽衣と共にこちらへ敵意を向けた脳無4体の対応を行う様だ。

 

エデン「皆様、援護にまいりました」

「え、えっと貴方は⁉」

エデン「(あら、調律の律者()の事しらない人なのね、まぁ仕方ないかしら)律者ですよ、律者。個性の能力で分体を作ったんですわ」

「そ、そうか?っと、とりあえず避難誘導の協力を――」

「―― シー、少し落ち着いて。貴方達ヒーローが慌てていては誘導される人達も落ち着けないわ」

 

エデンは手元に陽光に似た優しい光のエネルギーを集約させ、大きなハープを創り出す。

創り出したハープを持ち、近場の損壊が少ないビルの屋上に移動すると、ゆっくりと座り演奏の準備を整える。やさしい落ち着いた表情でハープの弦に指を掛け、瞳を閉じ、軽く深呼吸。

 

そして、調律を開始した――

 

「な、何を」

エデン「まぁ見ていて……いいえ、()()()いてください」

 

何を始めようとしているのかわからず、少し不安な表情を見せるヒーローへ軽くウィンクで返すエデン。先程指を掛けたハープの弦を優しくはじき、演奏を……いや、"調律"を始める。

 

エデン「...♪*°•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪

「これは……なんだろう、心が、落ち着いていく……」

「な、何この音」「……綺麗な音」「っ!避難者たちが落ち着き始めた!今なら、皆さん、急いで避難を!」「ああ、急ごう!」「おばあちゃん、手を貸しますよ!」「皆、焦らず避難を!」

「こ、これは……!先程まで統制が取れていなかった避難誘導がスムーズに……!」

エデン「♬♪̊̈♩♪̊̈♪̆♪̆̈♪̊̈♫ー.♪̊̈♪̆……(よしよし、皆冷静に行動しているわね)」

 

エデンの演奏による"調律"、自他共の精神への干渉を行い、演奏による波長で対象の心を変化させることが出来る。優しい旋律は皆の心を落ち着かせ、高い伴奏で意欲を高める。

彼女の手に掛かれば、その場の空気など意味をなさず、全て優位に傾ける。それこそが"調律の律者"の所以なのだ。

 

――

 

メビウス「あらぁ、エデン張り切ってるわねぇ」

「め、メビウスさん……!」

メビウス「はいはい、焦らないのマニュアルさん。まずは消火出来る個性持ちを集め左側から消火しなさい。左側は木造建築が多いから延焼させないように死ぬ気で消しなさい」

「「「は、はい!」」」

「め、メビウスさんは……?」

メビウス「私はとーぜん、右側からよ。全員だれも近づけさせないように……フフフッ」

 

メビウスの足元から淀んだ玉虫色の泥が濁流の様に流れ始め、炎が燃え盛っているビルや車を飲み込んでいく。

彼女の消火方法……それは、炎を消すのではなく"燃焼の原因となっている物体"その物を侵蝕し飲み込み消そうとしているのだ。

炎を消すより効率的、周囲に可燃性爆発する可能性のある物体全てを問答無用に侵蝕し飲み込めば二次被害がこれ以上広がる可能性が0になる。大胆かつ的確な判断での能力の行使、先程まで燃え盛っていた炎は、燃やす物体を失い先程までの勢いを急激に失い鎮火していく。

 

「す、凄い……!」

メビウス「ほら、関心してないでさっさと済ませなさい」

 

 

 

――

 

 

 

デュランダル「向こうは張り切っているようですね」

芽衣「まぁ、そのほうがこっちに集中できるから助かるわ」

「クる、ゥぅえェぁあ……!」「クるゥうァあアぇァアァ!」「クゥえェぇエエェェェぇぇエ!」

 

業火で囲われた共有駐車場にて、二人のヒーローと4体のヴィランが対峙する。両者相手を確認してはいるが足を踏み込もうとはしない。この刹那の判断が戦況を左右する場面、それを察知しているのだ。

その感覚は改造され生きるしかばね同等となった脳無にも残っているのか、歪な口角をした口で吠え威嚇はするが、踏み出そうとはしない。

 

この場が燃え盛る戦場だというのに、周囲の熱も、避難する者の悲鳴も、崩れる瓦礫の衝撃すら気にする素振りを見せない……そして、二組の間にて燃えている一台の自動車から漏れたガソリンに引火した爆発を合図とし、両者一斉に間合いを詰めた――

 

キイィンッ‼‼

 

"雷の律者"の刀と、"騎士の律者"が呼び出す大楯が脳無の拳とぶつかり合い、金属音が辺りに響く。芽衣の刃は雷電を纏った高速の一刀なのだが、何故かこの場へ合流した"黒脳無"が青脳無を庇い、刃を防ぐ。刀を止めた片腕は、軽く肉に喰い込んだ程度で、切り落とすには至らなかった。

この黒脳無、此処に来た直後に蹴り飛ばし駐車場奥まで吹き飛ばした筈だが、勢いよく炎の壁を突き抜け青脳無を庇ったのだ。

よく見ると、黒い皮膚の色が変化し、鉄の様な銀色に変化している。おそらく[金属化]の個性を持っているのだろう。

 

芽衣「(あの壁との衝突を金属化で極限まで抑えた。以前の脳無と違い頭が回る……)」

「クぇえエ、エぇえアぁぁあァァ‼」

芽衣「肩の傷がふさがっていく、以前の個体同様に[再生]を持っている様ね…!」

「うルぅうゥぅぅあァぁア!」

 

黒脳無が切られた腕に力を籠め刀を止める。その隙に後ろに居た青脳無が両腕を伸ばし攻撃してくる。よく見ると両手の指は鋭利な刃へと改造されていた。

芽衣は、動かない刀を利用し反撃に転じる。刀を軸とし体を捻り、黒脳無の顔面へ回し蹴りを打ち込む。少し怯んだ黒脳無は蹴りの衝撃で傷口の硬直を一瞬弱めた。その一瞬を見逃さず、芽衣が体の捻りを利用し強引に刀をひねり脳無の肉を抉り刀を抜く。

其のまま捻りの勢いでで横凪の一刀、こちらへ向かってくる青脳無の腕を切り落とし、距離をとる為、バク転で脳無から距離を取った。

 

芽衣「金属化、やっかいね。そして、青脳無も自己再生を……?」

 

青脳無も自己再生を行うと考えていた芽衣、だが10秒程観察していたが、自己再生を行う素振りすら見せず、脳無はこちらに敵意を向けた眼差しを向けているだけであった。

 

芽衣「再生しない?……個体に差が有るのかしら――」

 

ビュンッ‼‼

 

芽衣の目の前で、左から灰色の何かが飛んで行く。飛んできた"何か"は近くの電灯に勢いよく衝突する。どうやらその物体は先程いた灰脳無、左側でのデュランダルとの戦闘で吹き飛ばされて来た灰脳無の一体のようだ。

 

デュランダル「失礼、そちらに飛ばしてしまいまいましたか」

 

盾でいなした脳無がこちらに吹き飛んできたらしくデュランダルはこちらに軽く謝る。残った3体の脳無はそれぞれ体を変質させている。無数の刃を腕から飛び出させ、背中から帯状の触手を生やし、背中から生えた砲塔から砲弾を放っていたりと多種多様。その全てを的確にいなし、防ぐデュランダル。彼女が"騎士の律者"に選んで正解だった。

 

彼女、デュランダルの力「騎士としての力」は防御特化、あらゆる攻撃を防ぎ弱き人を助ける守護天使、守護の戦乙女(ヴァルキュリア)なのだ。

 

芽衣「そちらは楽そうですね」

デュランダル「いえ。一体一体は楽ですが、こちらも数が多いのでッ、大変ですよ」

 

デュランダルは芽衣と話しつつ3体の白脳無を相手取っている。二体の突撃を盾と巧みな体術で攻撃を捌いているデュランダル、盾で脳無の突撃をパリィして体制を崩し、背後から追い打ちを掛けてきた二体目の脳無の攻撃も飛び上がっての後ろ回し蹴りで対処する。

 

どうやら白は他の脳無よりも劣化した個体らしく、再生能力や厄介な個性を持っているといった個体が存在していないのか芽衣が相手している青と黒脳無より対処しやすいようだ。

 

芽衣「そう?なら……さっさと終わらせましょう」

 

芽衣は少し個性の出力を上げた。刀が纏っている雷が激しく明滅し激しくなる。眼前に佇む脳無達を捕捉し一気に踏み込んだ。芽衣の姿が消え、雷電が走り、瞬きの間に間合いを詰める。そしてそのスピードを乗せた神速の連撃、脳無の横を通り過ぎた芽衣が刀を振るい血を拭うのと同時に、紫色の剣筋が脳無を無数に斬り裂きミンチへと変えた。

 

デュランダル「ではこちらも、終わらせましょうか」

 

3体の脳無の攻撃を盾で弾き体勢を大きく崩すデュランダル。その隙を逃さぬように構えた槍に力を籠める。青いエネルギーが槍へ収束し槍先へ凝縮される。

3体の脳無が一列になった一瞬を狙い、素早く槍で突く。青いエネルギーがまるで流星の如く脳無目掛けて奔り、3体の脳無の体に大きな風穴、いやトンネルが出来上がる。再生能力を持たない灰色脳無はそのまま崩れる様に活動を停止した。

 

デュランダル「ふぅ、終わりました」

芽衣「これで最後かしら?」

デュランダル「近くには……居なさそうです」

 

周囲に残存ヴィランの反応はなし。火災や倒壊した建物の処理はメビウスによって処理、生き埋めにされた家族も救助。エデンの"演奏"で避難誘導は順調に進み怪我人の手当も終えている。一番被害が大きかった大通りの騒動はこれで収束するだろう。

まだ少し離れた通りからは戦闘音が聞こえてくるが、そちらにはエンデヴァーが向かっていった場所。彼であれば迅速に事件を抑えてくれる筈だ。

こちらでの後処理について周囲にいるヒーローと話しあった後、エンデヴァーと合流しようと考える芽依。

マニュアル達に詳しい経緯や被害の確認をしようと歩き始めようとした時、上から感じる無数の剣で刺されたような鋭く不快感をまとわせた視線を感じ振り返る。

視線を感じた大通りの少し奥、貯水タンクがビルの隙間から見えるビルの方角から感じた視線。振り返ってみたが誰もいない。ただ、貯水タンクの上に少し揺らめく闇が見えたよな気がした。

 

 

 

――

 

 

 

ヴィラン"脳無"による被害状況の確認を確認できた。

民間人の重軽傷20人、ヒーローの重軽傷者が6人。頭蓋骨骨折による重体が一人、あばらにヒビが入り搬送されたヒーローが一人、のこりは簡単なやけどや切り傷程度で幸いにも死傷者はいなかった。頭蓋骨骨折となってしまったヒーローも、意識朦朧としていたが、手術を行えば命に別状はないだろうとのことらしい。

 

芽衣「そう、ヴィランの様子は」

「幸い捕縛した後は無抵抗で動こうとはしていません。暴れる雰囲気は全く無いかと」

「3ブロック先ではまだヴィランが暴れているとの事ですが、エンデヴァーが対応し時期に収束するかと」

エデン「それはよかった。でも急いで事態を収める必要はある、私達は援護に向かうわ」

メビウス「ま、あの男が援護に来た私達を快く迎えるとは思えないわね~」

デュランダル「それでも向かうのがヒーローです。では皆さんは此処の処理を引き続きお願いします」

「「はい!」」

 

残ったヒーロー達にこの場を任せ、4人はエンデヴァーが戦闘しているというブロックに向かう。ビルの間を飛び援護に向かう4人。周辺に潜伏しているヴィランが居ないか、倒壊などで逃げ遅れた人はいないか等、向かいながらも周囲を観察しつつ目的地へ近づいていく。

その途中、左側から街頭とは違う明るい光が近づき、芽衣たちの前に羽が生えた脳無とそれを追うエンデヴァーが私達の前を横切って行った。

 

芽衣「っ、エンデヴァー⁉」

 

エンデヴァーは反応しない、目の前の脳無を追うのに精一杯なようで周りの音にまで気にする余裕が無いのだろう。わざわざ襲撃が行われた場所を離れてまでエンデヴァーが追いかけているという事は、「現場を任せられるヒーローが居た」か「残りがあの脳無だけ」のどちらか二択。

だとすれば我々もあの脳無を追いかけていくのが良いだろう。芽衣は方向転換、エンデヴァーの背中を追いかけていく。

だが、先頭で走りエンデヴァーを見かけた芽衣以外、メビウス達は急に方向を変えた芽衣に対応できず別れてしまう。

 

メビウス「ちょ、貴方⁉どこ行くのよ!」

デュランダル「どうしました⁉」

エデン「あらあら♪」

 

すぐに後を追いかける3人、だが一瞬の遅れにより芽衣との差が大分離れてしまっている。芽衣は雷の力を纏い高速で移動できるが、他の3人にはそのような能力は使えないので差が縮まる事がない。

エンデヴァーを追いかけている芽衣、そのエンデヴァーは突如地面に降りた。よく見ると下には幾人かのヒーロー、先程あったグラントリノ、そして負傷したヒーローと同じく負傷している轟達が集まっていた。

そんなヒーローの集まりが一同見ている方向に、ボロボロの赤いマフラーを靡かせとてつもない殺意を隠すことなく周りに放つ一人の男、その男に捕まえられた緑谷、そして男にナイフで脳を貫かれた羽の生えた脳無が映った。

あの男、よく見るとテレビや新聞で見たことがある。ここ最近巷に現れてはヒーローを殺してまわる殺人鬼、"ヒーロー殺し ステイン"。

芽衣はすぐに戦闘態勢を取るが、ステインはこちらに気付いておらず眼前のエンデヴァーを睨みこう言い放った。

 

「――偽物ぉ‼‼」

 

怨嗟が直接伝わるような怒りが籠った一言、ステインの言葉から発された殺意の一言は周囲にいたヒーロー達を委縮させた。まるで眼前に居る男が化け物に見えているかのような恐怖に囚われ震えている。

 

正さねばぁ……誰かがぁ……血を流さねばァ……‼ヒーローをぉ、取り戻さねばぁ‼‼」

 

怨嗟、執着、ヒーローへの理想その全てに取りつかれた為に狂気に落ち、自身の理想のヒーロー像を守る為、血を流せば世間を正せると妄信した者の末路、それがステイン。

あまりにも身勝手、あまりにも理不尽な言葉の羅列。だが彼の言葉はこの場に佇むヒーロー達を精神を恐怖の底に沈めるには十分な重さを持っていた。ただ一人を除いて——

 

こいぃ……来て見ろ偽物共‼俺を殺しても良いのは……本物のヒーローぉ‼‼」

 

№1ヒーローだけだぁぁああぁぁああぁああぁ‼‼‼‼‼」

 

まるで慟哭の様な叫びをあげヒーローへ叫ぶステイン。

狂気の塊のような叫びと殺意がヒーローへ恐れを抱かせあのエンデヴァーさえも体を委縮させ動けなくさせる。言葉とは刃、一言で恐怖を植え付け、言葉だけで人すら殺す事が出来るような恐ろしき凶器。

だが、"彼女"に刃は刺さらない。むしろ、"彼女"の逆鱗に触れ、雷が奔る――

 

――くだらない

 

「っ、ガハッ……⁉」

『『っ!?』』』

 

雷鳴が迸り、ステイン目掛け稲妻が走り抜けた。ヒーロー達の背後、ビルとビルの間で男の叫びを聞いていた芽衣。一気に間合いを詰めステインの()()()()部分へ神速の一撃を叩き込んだのだ。

瀕死であろうヴィランに無慈悲に刀の柄の一撃をかました律者の姿はいつもの断罪影舞(ダンザイカゲマイ)の姿では無く、本来の姿……"雷の律者"の姿になっていた。

その姿が意味する事…それは、彼女が今、自身の個性の出力を100%引き出している。そう……芽衣が本来の姿を、この場に晒しているのだ。

 

誰にも見せた事がない自身の体に纏っている赤鬼の外装、大太刀を携えた鬼神の義肢、そして……紫電が明滅する二本のツノ……まるで人が変わったかの様な変化に、この場にいたヒーローは、あの姿が芽衣…律者だとすぐには気づけなかった。

 

「ゴホッ……お前は……律者……」

「聞いていればくだらない事をベラベラと……良くしゃべる口ですね」

 

律者の眼は冷たく、怒りにまみれている。普段温厚な彼女から発せられているとは思えない程の強烈なプレッシャーは先程のステインの殺意なんかの比では無い。あのプレッシャーが自分達に向けられている者ではないと分かっているが、エンデヴァーや轟達には呼吸が荒くなり、大量の汗が流れだす程の圧力をその身に受けていた。

 

「く……はは…理想の…正義、よ」

「だまりなさい。ヴィランに落ちた者が……簡単に正義を語るな」

「自身の理想を押し付ける為に、人を殺し世間に恐怖を押し付けた罪……贖うと良いわ」

 

みぞおちに深く入った拳を引き抜く律者、ステインはゆっくりと膝から崩れ意識を手放した。狂人の戯言が収まり、ゆっくりとエンデヴァーや轟達が集まる方向へ振り返る律者。その瞳は暗く、鋭い瞳孔へと変化している。

彼女が人では無く、鬼神の生まれ変わりと言われても納得してしまうような迸るプレッシャーは場の空気を凍り付かせたままだ。

 

「り…律者……」

 

エンデヴァーが何とかして声を振り絞る。だが、声の奥は震えており完全に律者の気迫に飲み込まれているのが分かる。その光景を見た律者は、エンデヴァーの姿をみて小さくため息を吐き出す。

 

「どうしたのかしら、エンデヴァー」

「……っ」

 

律者の瞳がエンデヴァーに突き刺さる。冷たい地獄を見て来たかのような暗い瞳は、今まで見て来た律者のどの姿にも当てはまらない。

 

「ステインは捕らえました。あとは、警察が来るまでまちましょうか」

 

ヒーローや生徒が感じている芽衣への印象なんか気にする素振りすらせず、芽衣はこの場を収める為に動きだす。芽衣がこの場を離れると、今まで伸し掛かってきていた重圧が一気に解け皆腰が抜けた様に力が抜け、その場に座り込んでいく。

あのエンデヴァ―でさえ、芽衣のプレッシャーに耐えるのは限界であり、軽く膝を着き呼吸と鼓動を整えているのだ。

 

「あ、あれが……№1」

「日本一の、本当の気迫…か」

「(芽衣先生…気迫だけで人を押さえつけていた……。まさに鬼神)」

「(あの姿…おそらく今のが真の姿なんだろうな。どんな日々を過ごせばああなっちまうんだ)」

「(あんな姿見たことなかった。あれが本当の"律者"なんだ!……オールマイトの様に優しい雰囲気が、まるで……ヴィランみたいな気迫…いや、"鬼迫"に変わってた)」

 

夜が明け、現場に警察や救急が駆けつけ今夜の脳無による騒乱は一段落ついた。芽衣も元の断罪影舞(ダンザイカゲマイ)の装備に戻っており、顔も先程のツノは無く落ち着いた雰囲気に戻っており、警察と共に確保・処理した脳無の確認を行っている。

脳無は総勢8体、内2体がエンデヴァーによって処分済。残り6体を律者が、そして最後の一体は――

 

「えっ、ヒーロー殺しが?」

「ええ。あの男は何故か脳無を始末した、「粛清対象だ」と叫んで」

「この一件、"ヒーロー殺し"と"ヴィラン連合"が手を組んだ犯行ではない……のか?」

「断定はできないわ。けど、何らかのすれ違い……目指す方向性が違ったから死柄木の元を離れた可能性も――」

「――すれ違い?」

「ええ、あの男……ステインの行動原理は死柄木の行動原理とかけ離れていたの」

 

そういい警官にステインと死柄木が"目指す場所"について伝える。警官は芽衣が話す二人の方向性、全く相反する考え成れど、酷く悍ましい指標に冷や汗が流れる。

 

「な、成程……確かに違うな。まさに「水と油」じゃないか」

「あの男は行動こそ悪逆だけど、その行動の到達点は"正しき社会を取り戻す為"……それに比べて死柄木の行動は現代のヒーロー社会が酷いから全て殺す、"世界をを壊す為"」

「そう考えると、死柄木の異常さが際立って見えるな……」

「――そんなわけないでしょう」

 

芽衣はすぐに言い返す、"死柄木の方が異常"……それだけは無いと、芽衣は思っていた。

 

「死柄木の言い分、"ヒーロー社会の異常"が何を示しているのはわからないけど、確かに異常だわ」

「だけど…「自身の行いが世を変えると妄信し、其の為に手段を問わず血を流し、正しき社会という理想に取りつかれたあの怪物の方がマシ」というのは、あり得ない」

「覚えときなさい、一番異常なのは「自身の行いが悪逆と気づかない狂人」よ」

 

それだけ言うと律者は警察に軽く頭を下げその場を離れた。警官は彼女の言葉よりも、彼女の考え方に驚いている。

 

「……律者さん。貴女、その歳で"何を"見て来たんですか……」

 

返答は無い、いや……返答を聴かない方が良い事なのだ。

「この世は悪が成立しなければ成り立たない」「どちらかが欠ければ世界は綻ぶ」この事実を知ってマトモな精神でヒーローをやっていける人物がいれば見てみたいものだ。

 

世界は、"悪を必要としなければならない"なんて事、知りたくもなかった――

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

警官との会話も終わり、芽衣は治療を受けている緑谷達が入院しているという病院へ向かった。

時刻は既に昼近く、彼らが寝ているという病室を聞き向かってみると、病室から轟の声と思われる怒号が聞こえて来た。

 

「――人を、助けるのがヒーローの仕事だろ‼‼」

「(轟君?)」

 

病室には入らず、ドア近くの壁に寄りかかり話を聞いてみると何を言い争っているのかが分かった。

どうやら彼、飯田君は先日重症を負わされたインゲニウムの弟で、彼の敵討ちの為に保須市に事務所を構えるマニュアルと所に職業体験に向かい、ステインを探していた。

そんな時、脳無の出現と同時期にステインが犯行に及んでいた所を飯田君が発見。ヒーロー免許を取得していない彼は仇を討つ為にステインと戦闘。

その後、窮地に陥っていた飯田君を助ける為に轟君と緑谷君が合流、3人で協力しステインを撃破した……という事の様だ。

 

それは立派な規則違反、其の為警察は彼とその就職先の事務所ヒーローに重い厳罰を与えるという見解を示したようで言い争いになっていた様だ。

 

「(まぁそれは建て前で、本当は事実を隠した上で誰かの功績と公表するって事らしいわね)」

「―――講評しない場合…君達の功績は消え、火傷後を考慮し、律者を功労者に仕立て上げる。幸い、ステインへの最後の一撃は彼女が行ったようなので、辻褄は合わせやすい」

「っ‼ちょっと、聴いてないわよそれ!」

「「「め、芽衣先生!」」」

「ああ、来ていたのか」

「ちょっとそれより私の手柄にするってどういう事?功労者はエンデヴァーで良いじゃない。あの場所に最初に来て相手していたのは彼でなんでしょ」

 

「それはそうなんだが、「最後の一撃を君が入れた事」、「炎を操る個性がある事」、「エンデヴァーは本格的な戦闘は行っていなかった事」…これだけ要素が集まれば、君の功績にした方がやりやすいんだワン」

 

「あ…ああ……そう、もういいわ。勝手にしなさい」

 

あのヒーロー殺しを倒したとなればさらに名声が広がる。そうなると私を狙おうとする奴らが増えてくる……ただでさえ若い№1だからって襲ってくる馬鹿が多い律者にとってそれは嫌だったのだが、警察がすでにそう考えているという事は、そうする前提で既に各所に根回ししているという事だ。諦めるしか方法はなかった。

 

「ハァ~……またヴィランの相手が増える……」

「№1なんだからがんばってほしいワン、それが№1の責務だワン」

「当事者じゃないからって簡単に言わないで……」

 

また悩みの種が増えたことで頭を抱えた律者を他所に、生徒と警察の話は進みマニュアルたちは病室を後にした。

 

「あ、あの芽衣先生?それで、何の様でここに?」

「……ん、ああごめんなさいね。君達のお見舞いにと思ってコレを」

 

緑谷君の声に我に返った芽衣は、虚数空間を開き中から人数分のメロンを取り出した。まあまあ値の張るマスクメロンを3玉、ベッドの隣に置いてある棚に置いておく。

 

「う、うわ!こ、これかなり高いってテレビでやってたメロンじゃないですか!」

「そ、そんなものもらえ――」

「――見舞いの品よ、有難くもらっておきなさい♪」

「そ、そっすか……」

 

「……それにしても、とんだ職業体験になったわね」

「…そうですね」

「さっきの話、免許持たない君達が行った戦闘活動。世間には公表されないけど、雄英には伝えられるかもしれないわ」

「…!」

「貴方達は相澤君を、イレイザーの期待を一度裏切った事になる」

「……。」

「だから、これからそれを挽回できるように行動しなさい。これからの訓練で、本当のヒーローとしての貴方達を、私達に見せつけて」

「「「……っ!」」」

「(本当の……)」

「(ヒーローとしての…)」

「(…僕達を!)」

「「「……はいッ‼‼」」」

 

先程までの暗い雰囲気は消え、明るく決意を決めた良い顔になった。彼らがこの後、どのように成長していくのか、そしてどんなヒーローになるのか、非常に楽しみになって来た芽衣であった。

 

ステインによる保須事件編はこれにて終わり。ここから先、世界は大きく2転3転し、混沌とした世界へと変貌していく事になる。

だが、それはまた後のお話――




ここで一旦お話を区切ります♪

そしてこれから、「個性「律者」のプロヒーロー」こと"律プロ(勝手に命名)"と、「ありふれた×崩壊3rd」の新作の同時進行していきます!

またいくらか時間が掛かると思いますが、待っていただけると嬉しいです! XD

作品の投稿日時、いつぐらいに上がってると嬉しいですか?

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