個性「律者」のプロヒーロー   作:siera

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今回は物語が大きく動く回でもありますので、いつも以上に張り切って演出や文脈をがんばってみました……。これが日本人じゃない私が出せる今表現です。













しばらくこれ以上は作れない気がします……。&-(


19話

 

「……生徒、みつケたね」

「――――――……」

 

木の上で、もう一つの()()と共に森下の景色を眺める仮面の少女。樹々の隙間から数人の少年達が森を逃げるように散策している様子をその目に捉えていた。彼女を抱きかかえる両手鎌の貴婦人は、少女の言葉に反応するかのように数回頭をコクコクと動かし肯定の意志を示す。中身は絵具しか詰まっていない異形の肖像画だというのに。

 

「えっト、爆豪、爆豪……」

 

ポケットから一枚の写真を取り出し見比べる少女。その写真に描かれているのは金髪の人相が悪い顔をした少年の写真。その顔は怒りや悔しさ等の感情を大々的に表しており、少女の第一印象は「ダイナマイト」。一度点火してしまえば爆発を止められない()()()爆発物。

この少年が今回の標的であり、私達の側にもっとも近いヒーロー科の人間だろうと、手がいっぱいのリーダー(?)の人は言っていたなと思い出す。何度も写真と顔を見比べ、時々意味も無く写真をクルクルと回転させて爆豪が居るか照合している。ボロボロな緑髪の少年、複数の手がある少年、赤と白の髪をした少年、カラスみたいな頭の少年、爆発している様な髪型の少年……見つけた。

 

「手品のおジちゃん……みツけたよ」

『おぉそうか!じゃあそっち行くけど、どこ行けばいいか分かるかい?』

「大丈夫、分かりヤスい目印、出すかラ」

『分かりやすい"目印"……』

 

そうコンプレスに伝えると、少女は最初に描いた幽騎を脳内に思い浮かべ、やさしい口調でお願いをする。「お願い…あノ子達と "戦っテ"」と――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海合宿会場、広間――

 

虎とマンダレイがスピナー&マグネのコンビと幽鬼の騎兵との戦闘を終え、二人のヴィランの確保に成功していた。とはいっても、あの緑谷という少年が合流してから、スピナーとマグネとの間の思想の違いによって互いを妨害しあって邪魔をした結果という自爆からのおこぼれ勝利ではあるが。

どうやらスピナーは以前のヒーロー殺しの思想に取りつかれており、マグネはヴィラン連合よりの思考と考えだったのもあり、スピナーは「自身が崇拝し慕っている唯一の存在「ステイン」が助けた緑谷を殺させたくない」、マグネは「マスキュラ―を倒し優先殺害リストに有った人物は今すぐにでも殺しておきたい」……このすれ違いが起こった故互いで邪魔をしあい、その結果両者ヒーローに捕まってしまった。マグネは虎の軟体による腕の高速を抜け出せず、スピナーもマンダレイの拘束を抜け出せずもがいていた。

 

「とりあえず、これで終わりだな!」

「大人しく、しなさいっての……!」

「クソがぁ‼俺は、俺はステインの意志を継がなければならないのだぁ……‼‼」

「アダダダ‼‼それ以上締め上げたら骨折れちゃうわよ‼‼」

「ならば暴れず、大人しくお縄に付け!」

 

広場の制圧に失敗した二人はおそらく見捨てられる。先ほどやられたであろうマスキュラ―、霧が消えたのでマスタードもダメ、奇怪なムーンフィッシュの雄たけびも森に轟いた咆哮と轟音と共に掻き消えた。荼毘は彼らを救わない。自身の身の安全は自身で保証しなければならい、それが"開闢行動隊"なのだから。捕まれば切り捨て、やられても救いは出さない……所詮は寄せ集めの愚かな集団――

半ばあきらめかけていたマグネであったが、ふとある事が頭から浮かび上がり淡い期待をさらに膨らませていく。そして、空を見てその期待が事実に変わり笑みが抑えられない。そして、自身を拘束する虎へ笑みを崩すことなく、問いかけた。

 

「……ねぇヒーロー?」

「喋るな!これ以上抵抗するなら――」

「――空飛ぶ馬はお好きかしら…♪」

 

空から落ちる巨躯。大量の砂煙をまき散らし、衝撃波と風圧が二人のヒーローを襲う。空に落ちてきたのはあの幽騎、その足元にはいつの間にか救助されていたマグネとスピナーの姿。虎は拘束を解いてはいない、柔軟な腕を複雑に絡ませ確実に捕獲していたハズだ。一体何が起こったのかと思い、自身の手元を見ようとした瞬間鋭い痛みが腕を襲った。

そう、がんじがらめにした腕のあちこちが、まるでかまいたちに襲われたかのようにズタズタに切り裂かれ、血まみれだった。そう、砂埃舞う一瞬、あの幽騎は虎の腕を切りつけ、強引に拘束を緩ませて救出したのだ。スピナーはあの凄まじい衝撃波によってヒーローを引きはがし、その隙に回収したのだろう。あの幽騎はマグネを救うためだけに虎を傷つけた。それはつまり、救出だけを目標にされてなければ、虎は今確実に()()()()()ことになる。その事実は、二人のヒーローに力の差を目に焼き付け、不気味なかの存在への恐怖心を増長させる。

 

「(何故私はあの騎兵を気にしなかった…!?3対2の状態で無視できる存在では無かったはずだ……。それが、まるで()()()()()()かのように、存在が掻き消えていた……!)」

「ナーイスタイミングよ騎兵ちゃん♪」

「これで形勢逆転…じゃねえが、元通りだな?今度こそあのアバズレを切り刻んで――」

 

『そこまでですよ、お二人共』

 

虚空が吸い込まれ、黒い靄が広間に広がる。虚空は徐々に大きくなり一対の光が二人のヒーローを睨みつけた。あれはヴィラン連合の構成員の一人であった黒霧、黒い霧をワープゲートにしてあらゆるモノを遠距離へと運ぶ、ヴィラン連合の要注意人物。

 

「あらぁ?私達は一度捕まっちゃったんだけど……逃がしてくれるの?」

『一定時間内に再起不能、又は確保されたモノを捨てるだけです。貴方達は今、()()()()()()()()()()ではないですか』

「そうね♪戻ったらあの子に感謝しなくちゃいけないわ~!」

「ああ、あのままだったらステインの意志を全うする事は出来なかった……」

「あの子……?」

 

言葉が引っ掛かるマンダレイ。まるで小さな子供に向けて言うような柔らかさを感じる言い方。マグネの口調から察すれば少年少女にも同じ様にあの子と言いそうではあるが、それとは明らかに違う言葉に優しさと柔らかい口調……洸汰君を預かっているマンダレイだからこそ気づけた違和感、そのせいで嫌な想像が頭を曇らせる。まさか子供がヴィランとして働かされているのでは?と――

 

「貴方達――」

『残念ですが、貴方達と会話している時間はありません。それに、仕事はまだ終わっていない』

「っ⁉またあの騎兵が居ないだと!?」

「なんで!?あいつらの背後に居て見失うハズ無いのに……!?」

 

また消えた幽騎の姿。ありえない、何故ならその巨体はたしかに黒霧とマグネ達の後ろに立っていた。そう、常に視界に捉えていたハズなのだ。それが、瞬きの一瞬で消えている、本当に幽霊なのではと思える程に喪失する存在感は不気味の一言でしかない。それに、消えたとなればあの巨体は何処に行ったのか。その時だった。

 

森の方から大きな振動と共に絵具の噴火が森の中腹で起こった。あの複数の色が混ざった絵具、あれは幽騎の攻撃した際の軌跡や場所に残っていた絵具と全く同じ。まさか、いなくなったあの一瞬であの絵具が弾けた爆心地に向かったというのだろうか。

 

「あれは、あのヴィランの攻撃……!」

『さて、そろそろですね』

 

『ヴィラン連合開闢行動隊!"目標確保"達成だ!短い間だったがこれで幕引き‼予定通りこの通信後五分以内に"回収地点"に向かえ!』

 

「なっ⁉」

「今、目標確保って……!」

「あら、速かったわね♪」「これで終わりか」

『ええ、これでおしまいです。それでは、合流地点に戻りましょうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る――

 

「ちぃ何なんだよこいつは!」

「あれもヴィランなのか!?」

「脳無とは全く違う…!」

 

常闇、爆豪、轟、障子、緑谷グループは、突如背後から襲い掛かってきた幽騎に追いかけられていた。緑谷達が暴走していた常闇を助ける為に、轟と爆豪の元に訪れ救出してもらった数分後の事。突如背後の樹々がざわざわと騒ぎ始めたかと思えば、樹々の隙間から勢いよく幽騎が飛び出して強烈な一撃を振るったのだ。それは大地を深く沈め、攻撃の軌跡は大量の絵具が間欠泉の如く吹き出し空へと延びる。その強大な一撃を受け、最初は轟の氷結や爆豪の爆破で抵抗したが、それをまったく意に介することなく、幽騎の装甲は傷を受けなかった。

 

そのため緑谷、障子は戦闘は控え撤退を優先すべきと判断。戦わず逃げようと提案し、爆豪らはしかたなく幽騎との鬼ごっこをする事になったのだ。幸いあの幽騎は樹々を切り倒しながら追いかけなければならない様で、距離は段々開いてきている。これなら無事逃げられると思った面々は、前方に他ヴィランを拘束していた麗日と 蛙吹とも合流することが出来た。ただ、合流時の一瞬の気の緩みによってヴィランの一人には逃げられてしまったが。

 

実はこの一連の流れが少女とコンプレスの作戦。少年達が幽騎に追いかけられていた序盤、逃走するのに必死だった彼らは、逃げてる最中は一度幽騎との距離を確認しただけで、その後は後方から聞こえる音でヴィランの存在を確認し逃げることに専念してしまった。その一瞬の判断のミスを見逃さず、一斉に逃げたせいで最後尾になってしまった爆豪と常闇をコンプレスは木の枝に膝を引っかけ、空中ブランコの様に二人を華麗に確保した。

 

「よし一丁あがりっと!にしても、派手な絵具しぶきが"目印"とは、おじさん的にありがたいねぇ。まるでサーカスのクラッカーの様でワクワクしちまったよ!」

「嬉しソうデ、良かっタ」

「うぉおいビックリした‼‼嬢ちゃんどうやって此処に来たのさ!?」

「私の書イた絵に、連れてきてモラっタの」

「なるほど、嬢ちゃんを抱えてるその"貴婦人"にねぇ……ほんと何でもありだな」

 

高い木の上で余裕そうな表情で話し合っている二人のヴィラン。少女はコンプレスと話をしながら、何故かもう一人捕まえた事が気になっていた。捕まえたのはカラスの様な顔をした少年。たしか"あの人"からの()()()には入っていなかったような気がすると頭をひねっている少女。考えてもわからないし、覚えてないなら聞いてみる。

 

「……なんか、一つ玉多くナイ?誰か、捕まえタノ?」

「ん?こいつか?こいつなぁ、あの「ムーンフィッシュ」を一方的に倒しちまったんだよ!しかも無傷で!この狂暴性、暴走する影というシチュエーション!一緒に捉えても問題ないと判断したのよね!」

 

「ムーンフィッシュ」――

ヴィラン連合内では「歯刃の男」と呼ばれることの多い、死刑判決を受けた殺人鬼。黒い拘束具を身に着けたままの姿だが、脱獄後もその姿で自身の個性「歯刃」を扱い、いくつもの殺人を犯している、狂暴かつ高度な戦闘技術を持ったヴィランだ。そんな人間が一人の生徒に一方的に倒されたのであれば、確かにヴィラン側にとっては貴重に人材になり得る素質があると捉えられよう。ただ、そんな事まだ幼い少女には理解できるはずも無く、「ただなんか難しい事を喋っているんだなぁ」「とりあえずなんか一人増えたんだな」程度にしか理解していない少女であったが。

 

「……よく分かンなイ」

「まぁあれだ。一人追加で捕まえたけど問題ないって思えばいいよ!」

「ナるホ、ド……?分カった、問題ナシ」

「っと、話してたら下で二人が居ない事に気付いちまったな!悪いがじょうちゃん、俺様に付き合ってもらうぜ?」

「???」

 

コンプレスの言葉通り、下を見下ろすといつの間にか合流した女子生徒達に指摘され、後ろに二人がいない事に気付いていた。そしてその光景を笑うように、コンプレスは堂々と樹々の上から生徒達へ話しかけた。その立ち姿と振舞いは、まさしくマジシャン。あらゆるモノに演出を加えるエンターテイナーの姿だった。

 

「その二人なら、俺のマジックでもらっちゃったよ」

 

『『『!!』』』

 

「こいつぁヒーロー側(そちら)にいるべき人材じゃあねえ。もっと輝ける部隊へ俺達が連れていくよ」

「―――!?っ返せ‼」

「……っ。怖イ」

 

コンプレスの背後に隠れ、緑谷の叫びに驚きビクリと震える少女。ヴィランとなり人を傷つけても感情が露わにならない彼女もその年相応の感情の表し方はある様で、少しビクッとしながらも背後に隠れてながらも眼下の少年達を見下ろしている。その小さい姿を、まだ冷静さが残っている障子がコンプレスのコートを掴みながら背後でチラリと顔を覗かせる少女に気付いた。

 

「(子供…?なぜヴィランの背後に)」

「返せ?妙な話だぜ。爆豪君は誰のモノでもねえ、彼は彼自身のモノだぞ‼エゴイストめ‼」

「返せ…返せよ‼‼」「緑谷……!」

 

体を動かせない歯がゆさからくる悲痛な叫びが響く。そんな中、すぐにでもこの状況を打開しようと動き出した人物がいた。轟は、あの男を逃がさないために問答無用の大氷塊を繰り出す。森の樹々を一気に氷漬け、小さい山程の氷山を創り出した。だが、その技は以前行われていた体育祭で予習済みのヴィラン連合、コンプレスは見事な体捌きで樹々を飛び避け、少女は貴婦人に抱えられながら高く跳躍し避けた。

 

「ふっ!我々はただ、凝り固まってしまった価値観に対し、「それだけじゃないよ」と道を示してあげるだけだ。今の子は価値観に道を選ばされているからな!」

「……!爆豪だけじゃない、常闇も居ないぞ!」

「(後ろ二人を音も無くさらったってのか、どういう個性だ……!)わざわざ話しかけてくるたぁ……舐められてんな」

「元々エンターテイナーでね、悪い癖さ、常闇君はアドリブで頂いちゃったよ」

 

わざわざこの場にとどまってまで何故ついでに常闇をさらったのか説明するコンプレス。正直少女の心境としては早く撤退したい気持ちで一杯なのだが、このコンプレスが捕まったら目標を確保するのは自分の仕事になるかもしれないので、帰ろうにも帰りずらいので仕方なく一緒にいる。

 

「――――……彼も良いと判断したわけだ!」

「この野郎‼貰うなよ!」「緑谷、落ち着け…!」

「麗日、こいつを頼む!」「え!あぁうん!」

 

轟が抱えていた生徒を麗日に預け、フルパワーの氷塊を作り攻撃する。その動きも予測していた二人はまたも華麗に躱し避ける。まさに人を欺き笑う道化師、これがコンプレスの生き方なのだろう。だが一つ誤算があるとするなら、知っていた氷塊より大きさ範囲が少し大きくなっていた。それを助ける為、少女は貴婦人に"お願い"し、コンプレスの片足を飲み込みそうになった氷の一部を、襲われる前に砕き手助けした。

 

「おっと、サンキューな嬢ちゃん」

「甘く見過ギかも……?」

「(少女があのヴィランを助けた……?まさか――)」

「悪いね、俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか!」

 

『ヴィラン連合開闢行動隊!目標確保達成だ!短い間だったがこれで幕引き‼予定通りこの通信後五分以内に"回収地点"に向かえ!』

 

コンプレスの通達は生徒達の心を震わせた。急がなければ大事な学友が、親友が攫われてしまう。ヴィラン連合に連れ去られてしまえば、探す事も難しくなるだろう。自分達で何とかしなければいけない、今ここにいる自分達で――

 

「幕引き…だと」

「ダメだ…‼」

「させねぇ‼絶対逃がすな‼」

 

軽快な足取りで樹々を飛びながら集合地点へ向かうコンプレスとその先を飛んでいる少女と貴婦人。その後方の森を全速力で追いかける生徒達。だが、ヴィランの素早さに追いつけず、コンプレスに手が届く距離まで近づけることが出来ない。

 

「任務終了だネ。じゃア私は先に行っテるね」

「オーケー!おじさんの事は気にせず待ってていいぜ!」

「……それ■■■が言ってタケど、フラグっテ言うんダよ?」

「え?これもフラグなの?てか■■■って誰?」

 

コンプレスの言葉に耳を貸さず先を駆けていく少女。その背後をみて無視されたおじさんが少しばかりションボリしていることなど気にすることなく、少女と貴婦人は集合地点へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合地点――

 

すでに荼毘とトゥワイス、トガが集まっている。マグネとスピナーの方はコンプレスに合流する前に黒霧に救出をお願いしていたので先に戻っている頃だろう。貴婦人がフワリと華麗に着地し、地面に着いたのを確認してから貴婦人の腕からピョイと飛び降りる。

 

「上手くいったようだな」

「ダから言っタデしょ?問題ないっテ」

「はっ、そうだったな。まあこれで、お前は俺ら側の存在だと証明した」

「……。」

「そんナの、あ――」

「……ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおぉぉあああぁああぁあ‼‼‼‼」

 

突如近づいてくる男の絶叫。その声の主が凄まじいスピードで集合地点に落下してきた。重い衝撃音と共に地面に墜落してきたのはコンプレス、そしてその背にのるボロボロの緑谷。そして轟と障子が空から飛んできた。まさかの展開に全員が驚きの表情をあらわにする。

 

「知ってるぜこのガキ共‼誰だ!?

「Mr、避けろ」「おジちゃん、避けテ」

「ッ!了解(ラジャ)!!」

 

荼毘と少女、両者同時に同じ行動をとった。荼毘は高熱の青炎を纏めて放出、少女は貴婦人に指示を出し青黒い絵具の如き斬撃を飛ばす。二者同時に放たれた攻撃は、偶然にも重なり合い、青い炎を纏う絵具の斬撃となりて生徒達を襲った。

 

「う゛あ゛‼‼」

「がぁ゛‼‼」

「っ……‼」

 

強烈な炎の熱が生徒達の皮膚をあぶる。完全に回避できなかった障子と緑谷の腕が少し触れただけの炎によって大きな火傷を覆う。幸い3人共斬撃は上手く躱せたおかげで腕を切り落とされる事態にはならなかったが、その背後にあった樹々が切り落され、何十、何百もの木がバタバタと倒され燃える薪と化していく。切断された切り口には青い炎が揺らめき、チリチリと全てを灰に還そうとあがいていた。だがこれで終わりなわけがない。完全に仕留めそこなったとならば、それは他の仲間が対応する。

 

「死柄木の「殺せリスト」あった顔だ!そこの地味ボロ君とおまえ!無かったけどな‼」

「チィ!」パキッバキ‼‼

冷って(熱っつ)‼‼」

 

「トガです出久くん!さっきおもったんですけど、もっと血が出てた方がもっとカッコイイよ出久君!!」

「はぁ‼?」

 

現場は数秒で乱戦状態。あっちもこっちもバカ騒ぎのカオス状態、作戦も何もあったもんじゃない。すると先ほど炎を巻き込まれかけたコンプレスが地面のクレーターから光と共に現れた。彼の個性は『圧縮』、自分や対象の周囲の空間を球状に切り取り、ビー玉サイズにまで一瞬で縮小することが出来る。これを使い炎と斬撃を回避したのだ。コンプレスは腰をさすりながらやれやれといった感じを出しつつ荼毘と少女の元へ合流した。

 

「いってて……まさか()()で追ってくるとは!発想がトんでる……」

「対象は?」

「もちろんここに……、……⁉」

 

コンプレスがポケットの中に手を入れて探すが、見当たらないのか中々探すのをやめない。そして手の動きがだんだん焦りだし他のポケットの中も探し始めたころ、障子が皆に声を駆ける。

 

「……二人とも逃げるぞ‼」

「"今の行為"でハッキリした……!"個性"はわからんが、さっきお前がさんざん見せびらかした…右ポケットに入っていた()()が常闇・爆豪だな、エンターテイナー…!」

 

障子の手に握られているのは水色の2つのビー玉。あの落下中のどさくさに紛れてポケットから抜き取っていたのだろう。エンターテイナーであるコンプレスから気づかれずに盗み取ったのだから、かなりの器用な手さばき。

 

「障子くん‼」

「っしでかした!!」

 

「ホホウ!!あの短期間でよく…!流石の六本腕!!まさぐり上手め!!」

「アホが……」

「いや待て……」

 

荼毘が取り返すために動こうとするが、コンプレスが止めた。すると、生徒達の前を塞ぐように一体の脳無と幽騎が木の裏から音を立てず現れ、そして黒い渦が眼前を塞いだかと思えば、それは新たなヴィランの到着…そう黒霧だった。

 

「あいつは……!」

「ワープの……」

『合図から5分経ちました。行きますよ、荼毘』

「ごめんね出久くん、またね」「ン~~~~、トウッ!」「クルェア……」

 

黒霧がワープゲートを開き、トガとトゥワイス、脳無が先に入りこの場から去った。そして少女達の背後にもワープが現れ黒霧が入るように勧める。だが、肝心の2人の回収が住んでいない。このまま帰るわけにはいかないハズだ。それなのに、コンプレスの態度は何処か穏やかだった。先ほどまでの焦っていた彼は偽物だったのかと思うほどケロリと態度を変えるコンプレスに、少女はハテナが増える一方だった。

 

「まて、まだ目標が……」

「オジちゃん、どうすルの?」

「ん?ああ……アレはどうやら走り出すほど嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう」

「悪い癖だよ。マジックの基本でね……」

 

喋りながら仮面を外すコンプレス、チラリと見えたその表情はまさしくピエロであった――

 

「モノを見せびらかす時ってのは…………」

 

 

――――見せたくないモノがある時だぜ……?

 

口を開き舌を見せてあざ笑うあくどいピエロ。その舌の上には2つの球が艶めいていた。そしてネタ晴らしを済ませたうえで、指を鳴らし生徒という観客へトリックを話すエンターテイナー。

彼がもっていた玉を解除すると、それは二人の親友ではなく、冷たい無機質な氷の塊であった。人が嫌悪する最悪を喜ぶ、これぞまさしくヴィラン、彼が犯罪者と言われる所以だ。

 

「氷結攻撃の際に"ダミー"を用意し右ポケットに入れて置いたのさ。右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したらそりゃー嬉しくて走り出すさ……♪」

「フッ……」

「くっそ‼‼(圧縮して閉じ込める的な個性か‼‼?)」

「そんじゃあ、お後がよろしいようで…」

 

完全な勝利を確信しエンターテイナーらしく律儀に観客へお辞儀をみせるコンプレス。これで少女達と仕事は完全に終わった…雄英の地位は大きく崩れ、不快なヒーロー社会への大きな亀裂を作る大手柄、これで全て終わる……はずだった。突如木陰から撃ちだされるレーザーが、その傲慢を打ち破る一矢となるまでは。

 

完全に無警戒だった自身の側面からの奇襲。荼毘達が居たからこのあたりにヒーローや生徒はいないだろうという"緩み"が、青山のレーザーをコンプレスの顔に当てさせる失態へと繋がってしまった。コンプレスはその衝撃で面が壊れ、つい玉を2つ外へ吐き出してしまう。すかさず生徒は動きだしその玉を確保しようと手を伸ばす。

 

一つは障子の元へ行き、もう一つは……荼毘の手に渡った。轟が数秒早ければとれたほんの小さな差、その行為が目の前で無意味になったのをあざ笑う荼毘の眼は、冷たかった。

 

「哀しいなぁ……"轟 焦凍"……」

 

すかさず轟の腹部に蹴りを入れ、荼毘との距離を強引に開けさせた。あまりに急な一撃はすぐさま防御できるものではなく、轟は数メートル後方へ吹き飛ばされてしまった。

それでも諦めようとしない緑谷は、自身のケガですぐに失速し倒れたが、ヒーローの心で立ち上がり再度取り返そうと奔走する。だが、倒れていないのが不思議な程に傷ついた体からが、いつのも足は出せなかった。

 

「確認だ、解除しろ」

「っだよ今のレーザー…俺のショーが台無しだ!」

 

パチンッと指を鳴らし、解除する。荼毘の手元に現れたのは、緑谷の親友である爆豪。現れた瞬間喉をおもむろに掴み絞めながら、暗闇の奥へと引きずり込んでいく。奔走する緑谷。だが到底間に合いそうにない、だが諦めない。なぜならそれがヒーローだから。

 

「殿? ハしてオク」

「フッ……問題……なしだ」

「かっちゃん‼‼」

 

 

 

 

 

 

んな

 

 

 

 

 

 

「かっちゃああああああああああああん‼‼‼‼」

「……さよウナら」

 

少女が軽く手を叩く、それに呼応し貴婦人と幽騎の体がぐずぐずと溶け、元の絵具に戻り始める。そして、2体の絵画から溶け出した絵具は荼毘達が潜る黒霧のゲートの周りを渦巻き、何者も寄せ付けさせない巨大な多色の色彩を放つ大竜巻へと昇華する。

 

緑谷や障子、轟も絵具の渦から放たれる風圧の前に進むことが出来ず、ただ爆豪が連れ去られるのを、渦の隙間から見届けることしかできなかった。そして…緑谷は、連れ去られた爆豪と同じ様に、こちらを暗い瞳で見つめた後、暗闇へと姿を消す幼き少女の姿が、目に残った……。

 

ヴィラン連合開闢行動隊が完全に撤収し、絵具の渦はバシャリと力を失い只の絵具に退化し地面に雨の様に落ちていく。水彩画の一幕のような光景の中、麗日は――

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!

 

自身の非力さ故に友一人を救う事の出来なかった緑谷が泣き叫ぶ光景の前に――――

 

 

 

――――動くことが、出来なかった。















『どうやら任務は成功したようだね』

『ああ。最初から不安など感じていなかったが、君が貸してくれた()()がさらに作戦を円滑に進めてくれた。感謝するよ、わが友よ』

『感謝されるような事ではないよ()()()()()()()()()()。アレは前から実地で戦えるかテストしてみたかったからね、僕の方もいいデータが取れて良かったさ』

『君の技術力はすさまじい。何世代も先にならなければ到達しえない科学力と技術力がある……ぜひこれからも良い友として、縁を育みたいね』

『僕の目的と君の目標は違うモではあるが、ある一点だけは通じている。その分岐点が合流した道が再び分かれない限り、僕は君に協力しよう』

『ああ、僕は本当に良い友を得た!感謝するよ――――』














































『―― オットー君』       プツッ ザー―ーー……
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