「カンナくん、急な呼び出しすまない」
「問題ありません、総長。要件はなんでしょうか」
「深海棲艦の侵略が始まってから、どれだけの時間が経ったかわかるか?」
「…5年以上でしたでしょうか?」
「そうだ。だが、それは戦線維持となっているだけで一向に解決に変わらない」
「そうですね。深海棲艦との戦いもずっと続いてますが、お互いに決定打がないようにも感じます」
「そこで…だ。君に任務を与える。今日この瞬間より君を対深海棲艦部隊『艦娘』を率いる提督となり、深海棲艦と戦って欲しい」
「さてと、ここが俺の配属先の鎮守府か…。前任の提督の配属艦が既にいるって話だったな」
コンコン
「失礼しまーす」
渡されたメモの通りに鎮守府内を歩き、司令室と書かれた扉をノックし、中へと入る。
「ゲ…」
絶句した。
部屋が汚いとか、歓迎されてないとか、そういうものではなかった。
ここは一応戦場だから、新任が歓迎されないなんてことはよくある。
だからカンナもある程度は覚悟していた。
だが、カンナの目に映ったのはそんなものとは程遠いものだった。
その場にいる全員の目が死んでいたのだ。
生気が宿っていない。
未来を見ていない。
どんなことをされたらこうなるのか、どんなものを見たらこういう目になるのか、おおよそカンナの知り得るものとは、違う目をしていた。
「色々と聞きたいこととかあるけど…、とりあえず」
脳を巡る数多の疑問に、カンナは1度まてをかけ、とりあえずやるべきことをすることにした。
「初めまして!本日付でこの鎮守府で提督をすることになる、龍崎カンナだ!同じ戦場で戦う仲間としてどうぞよろしく!」
「加賀です」
「金剛デス」
「暁です」
「響です」
「吹雪です」
「川内です」
…
………
…………………………
「え!?自己紹介終わり!?俺の自己紹介聞きてた?」
とてつもなく呆気なく終わった自己紹介に、カンナは驚きを隠せずにいた。
「はい、必要以上のことを話す必要はないかと」
「いや、コミュニケーション大事だと思うよ!?」
加賀と名乗った彼女の返答に即座に反論するも、もうそれ以上誰からも言葉は発せられなかった。
「んー、まぁいいや。とりあえず顔合わせはこれでいい。今日は解散にするから、あとは自由行動でいい。ただ、なんか秘書艦?ってのをつけなきゃいけないらしいから、明日までにそっちで決めといて。明日の業務開始までにいてくれればいいからさ。じゃ、解散」
皆が一礼し、静かな司令室に1人残されたカンナは携帯電話を取りだした。
プルルルル
『もしもし』
「あぁ総長、私です。カンナです」
『あぁカンナか。艦娘たちとの顔合わせは終わったのか?いささか早い気もするが』
「えぇ、その事で1つ頼みがあるのですが」
『ほう、カンナが頼みとな。珍しいこともあるのだな。して内容は?』
「彼女たちの前任の提督について調べて欲しいのです」
『前任の?なぜだ?』
その質問に、カンナはあの目を思い出し少し黙った。
あの目、あの態度、この雰囲気何度も何度も見てきたものだったから。
だから、ほんの少しの怒りを込めて、カンナは口を開く。
「あれは…、戦うヤツらの目じゃない。目の前で何度も地獄を見てきたヤツらの目だ」
『なるほど…。だが、見た目こそ少女に見えるかもしれんが、彼女たちは間違いなく戦士だ。戦場にいる以上地獄も見るだろう。目の前で友がやられたりな』
「違う…違いますよ総長。あれは戦場で戦うヤツらの目ではない。その地獄から引きずり出された、生きる意味も理由も何もかもを失ったヤツらの目だ」
『…君にそこまで言わせるとは、相当酷いのか?』
「えぇ、まずは彼女たちのメンタルケア、コミュニケーションを取るところから始めなくてはなりません」
『なるほどわかった。前任の件はこちらで引き受ける。君は君の務めを果たすように』
「了解しました。よろしくお願いします」
「さてと、どこから始めるか…。あれは…酷すぎる」
そんなことを考えながら、カンナは書類の整理を始めた。
コンコン
ふと、司令室の扉がなった。
「どうぞ」
「失礼しマス」
金剛がそこにはいた。
正直、今の自分の状態や彼女たちの雰囲気を考えて今日はもう彼女たちと関わることは無いと思っていたカンナは、少し戸惑っていた。
「なんの用かな?」
「ヒトゴーマルマル、ティ…お茶の時間デス」
妙にカタゴトで、たどたどしく彼女は言葉を紡ぐ。
「金剛…、金剛型一番艦の帰国子女…」
カンナは手元にあった彼女達の資料を手にし読み取る。
「なぁ金剛」
「な、なんデスカ?テイトクサン」
「お前それ無理してるだろ。そういう喋り方をするように矯正されたか?」
「…前のテイトクサンから馴れ馴れしいと怒られマシテ…」
紅茶を注ぐ手を止め、ガックリと肩を落として彼女は話す。
その顔は、笑っていたが悲しそうで寂しそうで、今にも泣きそうであった。
「なら、そんな話し方辞めちまえ。馴れ馴れしくて構わん。変に堅苦しくされるよりラフの方がよっぽど楽だ」
「で、でもテイトクサンは人間サマで私たちは艦娘で…」
ドゴン!!!
金剛の言葉をカンナは机を殴り無理やり遮る。
それに金剛は体をビクンと強ばせ、恐る恐るカンナの顔を見る。
「二度とそんな言葉を口にするな」
ただ静かにカンナはそう言い放った。
怒りが込められていた。
だがそれは金剛に向けられたものでは無い。
その場にいない誰か、確かに標的を目に据え獲物を狩る獣のような冷ややかな目をしていた。
「すまん、お前に怒っても何もならんのにな。だが金剛、頼むからそんな考え方今すぐやめてくれ」
「で、でも…」
「確かに俺は人間で、お前たちは艦娘だ。俺は提督で司令官でお前らはその部下だ。だがな、最初に言ったろ?俺たちはそんな関係の前に同じ戦場で戦う仲間だ。そこに必要以上の関係があっちゃいけない」
「艦娘なんデスヨ?兵器なんデスヨ?」
「それを辞めろ。お前たちにも命があり、心があり意思がある。なら俺たちとなんも変わらない。さぁ紅茶を入れてくれ。無論君の分もな。せっかくの初めてのティータイムなんだ。色々と話そうじゃないか」
「…はい、テートク」
その顔は泣いていたが、とても嬉しそうに笑っていた。
「で?秘書艦の件はもう決まったのか?」
「一日交代でみんなで変わるってことになりました」
「なるほど、お前ら自身は仲は良さそうでよかった。それで、明日は誰に?」
「ブッキーデース」
「ブッキー…あぁ吹雪か。了解した」
「戻ったらテートクはいい人だったってフォロー入れときマース!」
「そりゃ嬉しいが、あまり過度なのはやめろよ?」
「どーしてデスカ?」
「お前が心配されるからだ。変な洗脳とかされたんじゃねぇかってな」
「テートクはそんなことしません!」
「しねぇしする気もねぇよ。だが、ついさっきまでのお前も俺の事恐れてただろ?そういうことさ。軽めのフォローでいいよ。信頼は自分で掴み取る」
「テートクのそういうとこ好きデース」
「あのなぁ出会って一日目だぞ?仮にも女の子が軽々しく好きとか言うんじゃありません」
「問題ナッシングデース!バーニングラーブ!!!」
「うぉほァ!?急に抱きついてくんじゃねぇ!」
そんなこんなあって、金剛との初めてのティータイムは幕を閉じたのだった。
「んん〜、書類もひと段落着いたな。ヒトナナマルマル、飯には早いな。ちょいと鎮守府の探索にでも行きますか」
「間宮…か。お邪魔しまーす」
「あら…、いらっしゃいませ」
「本日着任しました。龍崎カンナです。これからご厄介になります」
「いえいえ、優しそうな人で何よりです。今日はどんなご要件で?」
「いえ、特に要件とかは無いのですが、着任したばかりなので鎮守府の探索をと」
「それでここを見つけたということですね」
「ええ、そんなところです。彼女たちは以前からここに?」
「はい、前任の方の時からここにいます」
「…」
カンナは、一瞬戸惑った。
今これを聞くべきなのか、と。
彼女は、笑顔でいてくれるが、手を出されていないとは限らない。
同じく深い傷を負ってい可能性もある。
無闇に詮索するのは…。
「前任の方でお悩みですか?」
よもや、先にその話題を出されるとは思っていなかった。
「えぇ、どれだけのことをされればあんな目になるのかと」
「私の口からは多くは語れません。ですが、これだけは確かです」
彼女は、ふぅと一呼吸おいてから口を開いた。
「あの方は、超能力者です」
超能力者…、かつての透視能力とか、予知能力とか、そういう類ではない。
言うならば、炎を操ったり、氷を生成したり、魔法を使ったりと、ファンタジーの類の方が近い。
深海棲艦が現れるよりもずっと前、突如として現れた今までのとはわけの違う超能力者達。
初めは、実験や観察のために保護されていたが、基本的にはただの人と変わらないということで、今まで通りの生活をしている。
「厄介なことになったな…。だとしたら…、いや、だとしてもか…」
司令室に戻ったカンナは、独り言をブツブツと口にしながら頭を抱えていた。
「もしそれが全てだったとして、どうしたら救える?」
悩み、考察し、また悩む。
答えを出すのには、あまりにも情報量が少なすぎた。
「クソが、これじゃあ埒が明かない」
ふと時計を見ると、既にフタマルマルマルを回っていた。
「また間宮さんに、逆戻りってのもな」
仕方なくカンナは、持ってきていたカップ麺で夕食をすませた。
食べながらも、ずっと考えていた。
彼女たちを救う方法を。
ただ、考えれば考えるほどにその頭を埋めるのは怒りだった。
その怒りに汚染され、まともな解はまるで出てこない。
フタヒトマルマル、少し早いがカンナは眠りについた。
マルロクマルマル、カンナは目を覚ます。
顔を洗い歯を磨き、司令室の机に腰かける。
コンコン
「どうぞ」
鳴らされた扉に反射的に答える。
「…失礼…、します」
怯えた子犬のような目をした『吹雪』がそこにはいた。
「君が秘書官…なのかな?」
あくまで何も知らないふうを装い、社交的にあくまで友好的にカンナは言葉を紡ぐ。
「はい、本日秘書官を努めさせていただきます、吹雪です。よろしくお願いします」
堅苦しく、重々しく、言葉は返される。
その内にある心情は手に取るようにわかった。
『できる限り関わりたくない。可能な限り当たり障りのない行動を』ということだろう。
(昨日の金剛の状態から、ある程度他の子達の事も予想していたが、やはりこの反応は堪えるね)
吹雪の反応に、少し悲しく思いながらも一呼吸おいてから、提督としての言葉を告げる。
「昨日の今日で申し訳ないが、今日の午前中は君たちに出撃をしてもらおうと思う。そんな難しいことではないよ。この鎮守府の付近の海域の調査とかそんなものさ。鎮守府の近くは比較的安全と言っても、深海棲艦がいない訳では無いだろ?」
「それは…、はい、確かに個体性能も低いものが多いですが」
「そ、今回はそれを倒してきて欲しい。あくまで目的は君たちの練度を確認することだから、そんなに無理しなくて大丈夫だからね」
「わかりました」
「それが終わったら午後は自由行動でいいよ」
「え?」
「ん?」
吹雪が、カンナの言葉に反応する。
だが、カンナにはその反応がどういう意味なのかよくわからなかった。
「どうした?なにか不満か?」
その言葉に、肩をビクッっと震わせてから恐る恐る吹雪は口を出す。
「い、いえ…不満という訳では無いのですが、その…お仕事、書類整理とかが…」
「それなら昨日のうちに終わってる。やることがあるとしたら、君たちの出撃の結果を見ることだ」
「え…」
また、吹雪は同じ反応をする。
未だに何が引っかかっているのか、カンナは分からない。
「なんだ?どうかしたのか?」
「私は…必要ありませんか…?」
目を疑った。
今、彼女を支配する感情はカンナに対する恐怖ではない。
恐れと、不安。
自分が『捨てられる』ことを恐れている。
「…必要ない訳ではない。ただ、昨日の今日だからな。他人に任せるほどの仕事がないんだ」
「……、……」
吹雪は顔を伏せ、喋らない。
「良かったら教えてくれないか?前の提督と何があったのか」
迷っていた。
今、これを聞くべきなのか。
もっといいタイミングがあったのではないか。
彼女を、苦しめるだけではないか、と。
「悩んでいたんだ、昨日からずっと。聞くべきなのか否か。でも、聞かなきゃ始まらない。言葉にしなきゃ伝わらない。自分の中で閉じと込めてちゃ、何も変わらないんだ。だから、教えてくれ、吹雪。君は何をそんなに恐れているんだい?」
……
…………
僅かな沈黙が流れる。
無理だったか、そうカンナも諦めを考えていた。
「……大破してしまったんです。初めての出撃の時に」
小さな、波の音で掻き消えてしまうような声で彼女は呟いた。
「それで、お前は使えない、いらないと言われてそれからは出撃はさせて貰えず、ここで事務作業ばかりしていました」
吹雪は笑ってそれを話す。
笑えない
ふざけるんじゃない
カンナはその顔を知っている。
つい昨日それを見たばかりだ。
悲しくて、寂しくて、苦しくて、今にも泣き出しそうなその笑顔。
苦しい
吐き気がする
カンナは無意識に拳を握る。
それに気づいたカンナは、少し驚いていた。
ここまで素直な怒りと殺意を抱いたのは久しぶりだった。
今、自分はどんな顔をしているのだろう。
今、自分は何をしようとしているのだろう。
もうカンナは、吹雪を直視することは出来なかった。
帽子を深くかぶり、意図的に吹雪を視界から外す。
「すまなかった。辛いことを話させたな」
「いえ、大丈夫ですよ。前の話ですから。今度は大破しませんよ!見ていてください!役に立ってみせますから!」
やめろ
やめてくれ
今にも砕けそうなその心を悟らせまいと、ポジティブを振る舞う彼女に、カンナは最早嫌悪感すら抱いていた。
あぁ、反吐が出る
だから、俺は………
お前たちが嫌いなんだ
「馬鹿野郎」
小さく、そう零れた。
カンナにすら、それを口にする意思はなかった。
だからこそ、それが本音なのだ。
沈黙が支配する。
カンナは喋らない。
その意味を悟られたくないから。
吹雪は喋れない。
その意味を理解できないから。
「辛いなら辛いって言っていいんだ。苦しいなら苦しいって言っていいんだ。泣いていいんだ。八つ当たりだってしたらいい。ポジティブと心を殺すことはイコールじゃないんだぞ?なぜ言わない?なぜ行動しない?なんでお前らはそうも揃いも揃って……!」
カンナの方が先に張り裂けた。
誰も言わないから、誰も教えないから、それしか知らないから、いつまで経っても変わらないんだ。
誰に対する怒りか。
彼女たち『艦娘』に対するものか?
それとも前任の提督に対してか?
あるいはどちらもか?
もうカンナにすらそれはわからなかった。
それ程に、酷すぎた。
「……ごめんなさい」
怯えた声で吹雪は謝罪を口にする。
僅かな沈黙の後に発されたそれは、『意味がわからない』と証明しているようなものだった。
「……………すまん、声を荒らげてしまって」
もはや、カンナにはどう声をかけたらいいのかわからなかった。
「……今日の予定はさっき説明した通りだ。もうそろそろ時間だ。他の子達を起こしてきてくれ」
冷静を装い、静かに口を開く。
それに少しでも安心したのだろうか、吹雪は元気に返事をして部屋を後にする。
「必ず、お前らを変えてみせる」
吹雪が部屋を出る際に、小さく、小さく、波の音で掻き消えてしまうような声で、カンナは口にする。
カンナのその言葉が吹雪の耳に届いたのかはわからない。
だが、部屋の前で一礼した吹雪の顔は、少し笑っていたような気がした。
「……………、ふぅ」
深く、深く、息を着く。
僅かにでも冷静を取り戻すために。
取り戻せるわけがなかった。
ふと、カンナは時計に目をやる。
マルロクヨンマル
集合がマルナナマルマル、まだ時間があった。
カンナは、部屋を出て外に出た。
「…………」
静かに、ただ静かに波の音に耳を澄ませる。
「……誰だ?」
背後にいる誰かの気配を察知し、鋭い声を静かに放つ。
もしかしたら若干の八つ当たりも含まれていたかもしれない。
「ドーモはじめまして、アクギョウスレイヤーです」
そこに居たのは、軍服に身を包んだ大男。
その口元は大きな金属製のマスクで覆われそこには憲兵の二文字。
「ドーモはじめまして、アクギョウスレイヤー=サン、龍崎カンナです」
互いに向かい合い、手を合わせオジギをする。
アイサツをおろそかにできない。
武人の礼儀だ。
古事記にもそう書かれている。
「あなたがここの憲兵か?前任の時からここにいるのか?」
…
………
………………
「いや、いないのか。あんたは喋ってくれないけど対峙してるだけでひしひしと伝わってくる。あんたの正義感の強さ、悪に対する嫌悪。だからこそ、あんたを俺は信用する」
目の前に立ち、口を開かないその大男に一方的に話しかける。
「俺は彼女たちを傷つける気は一切ない。むしろ救うために全力を尽くす。そのためにあんたの力を借りたい。何をしろということではない。提督の俺ではなく、憲兵のあんただからできることもあるはずだ。その時に働いてくれればいい。あと万が一俺が彼女たちを傷つけるようなことがあれば止めて欲しい。俺からは以上だ。顔合わせ感謝する」
「まだ何か?」
未だに、カンナの前に立ち口を開かない男に流石のカンナも戸惑う。
「1つ、聞かせろ」
「……お、おう、なんだ?」
ようやく口を開き重い声がはなたれる。
「貴様は何者だ」
ただただ短く、されど強く問われる。
カンナが、彼の気配を察知し、強さを感じ取ったように、彼もカンナの力を感じ取っていた。
その目は鋭く、カンナを見据える。
敵か味方か、それを定めるために。
「それはまだ秘密だ。だが、その時がきたら俺は正しく何者であるかを示そう。それまで待って欲しい。だがこれだけは誓って言おう。俺は、彼女達の味方だ」
「……未だ信用には値しない。しばらく監視させてもらう」
しばしの間を置いたあと、短くそう残してカンナの前から消えた。
久しぶりにまともな会話をしたおかげか、ほんの少しだけカンナの心は落ち着きを取り戻した。
「戻るか」
マルナナマルマル
コンコン
「どうぞ」
時間通りに鳴ったその扉に向かい許可を出す。
「「「「「「失礼します」」」」」」
静かにゆっくりと司令室の扉が開き、彼女たちが入ってくる。
横一列に並び、ビシッと敬礼をし挨拶を行う。
気持ち悪いくらいに統率された動作だった。
「おはよう。吹雪には先に伝えてあるが、今日は出撃をしてもらう。とは言っても、鎮守府周辺の見回りだ。それほど危険なものでは無い。帰還後、報告の完了次第本日の任務は終了とし、自由行動を許可する」
目の前にいる6人の艦娘の目を見てますっすぐにカンナは言葉を紡ぐ。
「任務開始は2時間後、マルキューマルマル。それまでに朝食と支度を済ましてくれ。以上、解散」
「……、……はぁ」
1人残るカンナの深い溜息だけが司令室を埋め尽くす。
彼女たちが出撃してから30分、不安だけがカンナの心を埋める。
椅子から立ち上がり、うろちょろ室内を動き回り、また椅子に座り直す。
先程からこれを繰り返し続けている。
仕事を少しでも残しておけばよかったと、少し後悔もしていた。
「……!…憲兵、いるかい?」
「……」
ふと思いつき呼んでは見たが、既に横にいた。
「うぉほァ!?いつから居た!?」
「呼ばれたから来たまでだ。何の用だ?」
「前任の提督について調べてくれって言ったらできるか?」
「俺が対応できるのは今起きている問題だけだ。過去に起きた問題を掘り返すことは出来ない」
「そうか……、ならせめて彼女たちに何かあったらすぐに報告してほしい。お前の目から見てもわかるだろう?あれは酷すぎる……。戦う戦士の目じゃない」
「……わかった。せめてそれは協力してやる」
「あぁ、ありがとう助か「もうひとつ聞こう」」
カンナの言葉を憲兵が遮り問いを口にする。
「なぜお前はそこまで強くなった?」
短く、そして的確に知るべきことの要点を詰める。
「はは、それもまだ言えないって言ったら?」
「お前は信用に値しないと断定しよう」
「はは、それは困るなぁ」
目をつぶり、はぁ、と深呼吸をしてからカンナは目を開き憲兵をまっすぐ見据え口を開く。
「全ては言えないが、そうだな……、少し昔話をしよう」
「昔も昔、俺がまだ小学生だった頃の話だ。俺には腹違いの妹がいたんだ。名前はリーナ・アルテナス。俺の親父の再婚相手の娘さんだ。5つも歳が離れててな、俺が小三の時に再婚したから3つか4つだったかな?子供だったからしれないけど、俺とリーナはすぐに仲良しになった。もうホントに最初から兄妹であったかのように。でな、俺が小学五年生になった年にリーナも小学生になったんだ」
笑ってカンナは、過去を話す。
幸せだった過去を、色鮮やかだった過去を。
「その年にリーナは殺されたんだ」
その一言で、過去は混沌へと堕ちた。