TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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最近コードギアスを最初から見直しました。やっぱりC.C.が好きですね。


第1章 魔王襲来 
第1話 怒れる瞳たち


 ――なにか長い夢を見ていたような気がする。

 起きたのに、今も夢を見ているように思える。ぼんやりとした思考が僕の中を満たしていた。

 っつ……。ずきりと額が痛んだ。触れてみると腫れている。微かに血もつく。何かにぶつけたらしい。

 怪我の功名か。痛みのおかげで、ぼんやりとした思考が少しマシになった。代わりに額がずきずき傷む。

 ……ここはどこだ。僕は、鈍く痛む頭に、眉間に皺を寄せながら周りを見回した。暗い。床の上に倒れ込んでいたことだけが分かった。

 

 「……思い出した」

 

 痛みのおかげが一気に、記憶が蘇ってきた。

 魔王種(・・・)が現れて、母さんに家の中に押し込まれて、母さんの悲鳴が聞こえて、それからすごい音がしたと思ったら真っ暗になって……それから憶えてない。

 どうやら家が崩れてきたらしい。暗闇に慣れ始めた目を凝らすと近くに見覚えのある花瓶が割れていた。活けられていた花は、どこかに消えてた。

 もうそこに、僕の知っている場所はなかった。

 

 「そうだ! スーは……!」

 

 一緒に、家の中に押し込められた妹。同じ銀色の髪と父さんと同じストロベリーみたいに赤々とした瞳の女の子。我儘なところもあるけど可愛い子。

 居ても立っても居られず、探そうと立ち上がった。後頭部を何かに強くぶつけた。鈍い音が暗闇に響いた。痛い……。膝を曲げて、うずくまる。

 痛みが収まってからゆっくり、恐る恐る上の方に手を伸ばした。硬い感触。木、だと思う。天井の木材か柱かはわからないけど、どうやら僕は、瓦礫の隙間に転がっていたらしい。

 どこにいるかもわかってなかったのに今のは、あんまりにも軽率だった。僕は、自省した。

 

 「こほっ……ごほごほっ……!!」

 

 丁度、その時、前の方から咳き込む音が聞こえた。前、暗闇が広がっている。けど今のは、遠くはなかった。匍匐前進。皿などの破片を避けて進む。相変わらず暗い。それでも闇の中に、慣れ始めた目が見慣れた姿を見つけた。

 

 「大丈夫か!? スー」

 

 「……大、丈夫。兄さんは……?」

 

 「大丈夫。僕は、問題ない。だからあまり話すな」

 

 「……うん」

 

 声をかけるとスーは、頷き、また苦しげに咳をした。空気が悪い。僕も軽く咳が出た。瓦礫の下に閉じ込められているんだから当たり前か。今もなお呼吸ができているだけ幸運だろう。

 なによりこの量の瓦礫に、押しつぶされなかったのは、奇跡だ。大きな傷もない。少し息苦しいのは、やはり瓦礫に覆われていて、空気が上手く入ってきていないんだ。このままでは危険だ。

 そうだ。傷は……。暗闇に目を凝らし、スーの様子を伺う。大きな出血は……無さそうだな。少し安堵した。眼鏡が無いから見にくいな。

 

 そうなるとこの瓦礫が問題だ。押しのける? 無茶だ。僕の細腕で持ち上げられるならとうの昔にスーは、ここから脱出している。妹は、スーは、小さく細い体つきなのに、双子の僕や同年代どころかもっと年上の男より腕力や体力がある。父さん母さんが言うには、天秤神の祝福らしい。

 父さんや母さんは、僕の勉強の結果を見た時もそう言う。天秤神の祝福だって。お前が頭がいいのは、天秤神のおかげだから感謝しなさいって。

 

 「そんな祝福(こと)よりも今、助けてくれよ、神様」

 

 小さな弱音が口からぽろりと落ちて、砂埃に塗れた。嫌な想像が浮かんで、増えて、回っていく。消えてくれない。視界がやや潤んできた。だめだ。泣いている場合じゃない。

 でも誰の助けもこなかったら? 自力で脱出できるような場所がなかったら?

 ……僕たちは、このまま死ぬのか……? 暗い思考を僕は、首を振って振り払う。だめだ。死ぬわけにいかない。スーをおいて死ぬなんてだめだ。

 

 「兄、さん」

 

 「ここにいる。ここにいるよ」

 

 服の裾を掴んできたスーの指を、手を取って握る。温かさを失った冷たい手。強さのないか細い声を聞くとつい強く握ってしまう。

 そうだ。どれだけの間、僕たちは、閉じ込められているんだろう。時計もない真っ暗闇。魔王種が来たのは、夜だった。今も夜? もしくは、既に夜が明けている? なんならもう数日経っている? 分からない。

 お腹が減っているには、減っている。こんな時でも空腹になる自分が呑気なんじゃなくて、体内時計が狂っていない証拠だと思う。飢えるというと大仰に感じるくらいの空腹。普段感じている感覚。

 だからそんなに時間は、経過していないはずだ。

 信じて待つしか無い……。それから僕たちは、行き場も逃げ場もない闇の中に、並んで横たわっていた。

 どうしたらいいのかが分からない。どうすればいいのか分からない。ただ誰かが助けてくれるのを信じてとそこにいた。ただただ死にたくないと僕は、思っていた。

 

 ――その時だった。

 

 鋭さを感じさせる金属音の後、ごうっと強い風が吹き込んできた。砂埃が舞う。思わず目を細めた。

 同時に、何かが崩れる音。瓦礫か? 落ちてくる? 崩れる? ……死ぬ? 喉が一気に干上がった。恐怖で、スーの手を強く握り、開いた片手で引き寄せた。

 僕たちの視界を覆っていた闇が皆、光に切り裂かれて、散り散りになった。

 ……瓦礫は、落ちてこない。

 そこで僕は、自分がどういう場所に居たのかをようやく理解した。棚と壁の隙間。三角形の空白。

 光の方を見て、目が眩んだ。誰かがいる。誰かが歩いてくる。気づけば誰かが手を差し伸べてくれていた。ぼうっとした頭で、僕は、その人を見つめていた

 危機を脱したショック? 実は、人じゃなかった? それとも思いがけない人だった? それは半分はあってる。

 

 陽射しに輝くつやつやの金髪。綺麗に編まれた三編み。きっちりと着込んだ革と金属の鎧の隙間から見える肌は、スーと同じくらい白い。

 意思の強さを感じさせる眉は、ハの字。大きなエメラルドみたいな瞳は、かすかに潤んでいて、桜色の唇は、安堵を浮かべていた。

 陽射しを背中で受け止めるその人は、神がかって見えた。まるで人ではないみたい。

 なんて綺麗な人だ……。

 そこまで考えてから僕は、やっと気づいた。僕は、この人に見惚れているんだ。この見たこともないほど美しい人を正確に言い現そうと小賢しい頭が急に回転し始める。

 そうして、お姫様みたいだという感想が出てきた。貧弱な僕の語彙で、その人を例える言葉はそれくらいしかなかった。

 いやいや、流石に陳腐だろ。だったらじゃあ何――……。

 

 「大丈夫?」

 

 「……天使?」

 

 僕は、彼女の声を聞いた直後、彼女が何かを理解してから気絶した。

 後で分かることだが勿論、彼女は、天使ではなかった。

 彼女は、僕たちの救い主で、ある意味悪魔的だった。

 

 

 

 +++

 

 

 

 魔王種の出現を受けて、ダイアスート領内のすべての冒険者ギルド所属パーティに緊急通達が送られた。

 通達に従った私たち、雷の双牙(ライトニング・タスク)は、夜闇を引き裂く火の手と照らされた空を黒く汚す煙、そして、離れているというのに、天を高く突き、天を覆い隠さんばかりの黒い姿を視認した。 

 

 「これが魔王種〈ストリボーグ〉!!」

 

 ギルドから伝えられた魔王種の名前を叫んだ私の前には、家屋よりも遥かに巨大な、山と見間違うほどの巨躯の二足歩行の化け物がいた。

 炎に照らされぬらぬらと光る鋼のような色、質感の鱗で体全体を覆い尽くし、手足には、それぞれつるりとした巨大な指と爪とが六本ある。

 ここまでは、竜系統の魔物に似たものがいる。

 ただ、似た魔物たちよりも圧倒的に〈ストリボーグ〉は巨大だ。

 その巨躯でもなにより異様で、目を引くのは異様に巨大な顔。

 人と同じ場所に生えた頭にあるのは、怒りに満ちた男の顔。目を大きく見開き、歯を剥き出しにしている。腹の底に響く怒声は、あまりに恐怖を煽る。

 ビリビリと大気を震わせ、強烈な衝撃を放って、私たちの動きを僅かに鈍らせた。

 怒れる父性といった風な感想を私は、抱いた。食卓をひっくり返して、怒りのままに振る舞う。

 すると嫌悪感が私の胸のうちを満たしていく。これは、ただ単に私が父親のことが嫌いなだけ。最悪。

 なによりも魔王種が嫌い。私のものを、誰かのものをただ奪っていくこれが嫌い。

 憎たらしくてたまらない。

 だから殺す。

 

 「行くわよ!」

 

 〈ストリボーグ〉の怒声に掻き消されぬように声を上げ、最前線に、刃のような風が吹き荒れる戦場へ私たちは飛び込んだ。

 

 ――――結論から言うわ。私たちは、魔王種〈ストリボーグ〉を討伐はできなかった。

 

 撃退できた……と思う。そう思わなければやってられない。

〈ストリボーグ〉は、巨大な大竜巻を起こして作った大穴の奥へ消えていった。

 そこまで追い詰めるのに、いくつかの犠牲を支払った。A級のパーティも一つ全滅して、B等級なんて目も当てられない惨状だ。

 私のパーティも皆大小傷を負ってる。皆、癒術師にかかっても一週間は、寝たきりだそうだ。生きているだけ、幸い。こんなのほとんど軽傷。

 

 「……また会った時、殺せばいいわ」

 

 自分を慰めるのは、こうすればいい。簡単だ。ちょっと甘い言葉を吐けばいい。

 けれど、この都市や人々を癒やすには、その程度では足りない。

 

 「酷い有様」

 

 私は、吹きすさむ風、〈ストリボーグ〉の残滓に遊ばれる髪を押さえて、呟いた。白い雲、青い空。昼の日差しが照らすそこは、見渡す限り瓦礫。

 ダイヤスート領、最大の都市〈ユーフォルビア〉の西ブロックは、瓦礫だけを残し、完全に消滅していた。

 

 「……くそ」

 

 つい汚い言葉が口をつく。足元の小石をブーツの先で蹴り飛ばす。

 お母様に聞かれたら叱られるわね……。私は、一人で小さく苦笑した。

 それから止まった足をまた動かした。私は、逃げ遅れた人、逃げられなかった人、動けない人がいないか探していた。既に、他の冒険者たちが捜索をしているけれど…………。

 

 「今のは……」

 

 音が聞こえた。微かだけどたしかに、聞こえた。瓦礫の崩れた音とかそういうのじゃなくて、今のは息遣いだった。浅くて、こもった感じがある。

 遠い――……少し、下の方。瓦礫の、中? 音の方を追いかける。大気を伝う音をたどるのは、簡単ではないけどできないことではない。

 勿論、ただ耳を澄ますわけじゃないわ。

 5つある魔法属性のうち、私が最も適性のある月の属性は、大気を司っている。つまり大気を伝導する音の場所を探り当てるのもまた難しくない。

 積み重なる街の瓦礫の合間を抜け、根こそぎ引き抜かれ、間取りだけを残した家屋の跡を跨ぎ、どこからか吹き飛んできて、道を塞ぐ樹木を斬り裂き、春らしくない強風に揺れる髪がぱらぱらと遊ばれるのも気に留めず歩き続けた私は、音の元を見つけた。

 

 「……そこね」

 

 なんてことない積み重なった瓦礫。ここではもう珍しくなくなってしまったもの。それの隙間から聞こえる。音。呼吸音。規則正しい。傷を負ってはいなさそう。とりあえず場所が分かった。私は、腰に下げた剣の柄に手を置く。

 抜けば日差しにきらめくであろうロングソード。使い慣れた剣。〈ストリボーグ〉を相手にしても刃こぼれ一つ無かった。長い付き合いの相棒。

 ここで、ちょっとした雑学。魔法属性において、月は、大気の他、星と雷を司っている。

 私がもっとも得意なのは、その中でも――、

 

 「属性装填・雷(サンダー・エンチャント)

 

 ――雷。抜剣。眩い軌跡が昼と瓦礫を斬り裂いた。硬い手応え。中には、家具だったものが散らばっていた。ソファや机、棚、食器類。誰かが住んでいた場所の亡骸。

 棚と壁の下。二等辺三角形の余白にあるものを見て、私は、天を仰いだ。

 

 「天秤神の慈悲に感謝を……」  

 

 その亡骸が護っていたものに、私は、手を差し伸べようとして――――思い出した。

 

 細く糸のように艷やかな銀の髪、新雪の如く白い肌、深い青、サファイアを思わせる双眸の少年。

 ○個体名:シルヴァ・フィルメント ?歳(男)

  ○ステータス

   スタミナ    :E

   パワー     :E

   スピード    :E

   インテリジェンス:B

   ラック     :C

 

 細く糸のように艷やかな銀の髪、新雪の如く白い肌、鮮やかな赤、ルビーを思わせる双眸の少女。

 ○個体名:スー・フィルメント ?歳(女)

  ○ステータス

   スタミナ    :C

   パワー     :C

   スピード    :C

   インテリジェンス:E

   ラック     :E

 

 その姿を見た瞬間、無数の情報が頭の中のどこかから汲み上げられてきて、満たしていく。痛みはない。けれど知っていると知らないが入り乱れた私の中はぐちゃぐちゃだ。それもほんの一瞬で、収まって、整理されていく。

 私の視界に急に現れたものの意味を理解した。ステータス、これは彼らの能力を表してる。

 

 つまり私は、この子たちを知らない/知っている。

 

 いえ、知っている。知ってるわ。この二人を知っている。私は、この子たちを育てるのに、夢中だった。

 私が私じゃなかった時、私がハオリア・ツァー・アルデバラニアでなかった頃。

 日本で、私がただの会社員で、よくいるゲームオタクだった頃。

 私がハマっていたゲームのタイトルは、〈シロガネ・ファンタズム〉。

 主人公である少年/少女を育てて、魔王を打倒するゲーム。その主人公がこの子たちだ。間違いない。

 

 ……男女選択式だったはずなのに、何故か二人いるのは不思議だけど。兄妹ってことかしら。多分そう。そうだと思う。いや、間違いない。

 

 選択肢で、どちらかが死んでいるはずだった。死体が一つあって、その隣に選んだ一人がいる。

 だけどそうならなかった。私の目の前に二人いる。

 私が思い出せたことで、一番重要なのは、それじゃない。私がこの子たちを育てなければいけないということ。

 育てなければ彼らが戦わなければ世界は、滅ぶ。間違いなく。

 彼らがとある魔王種を倒さなければ世界は、滅んでしまう。

 

 ――彼らは、魔王種〈ストリボーグ〉になった父親を、彼ら自身の手で殺さなければならない。

 

 そうしなければ世界は、滅んでしまう。ゲームオーバーだ。

 間違いない。そのバッドエンドの光景を私は、思い出した。

 ……本当に? 私の妄想じゃない? こんな話があまりに大きすぎる。

 なにより酷く残酷な筋書きだ。こんなのあっていいものなの? いくら慈悲のないこの世でもあんまりよ。

 でも記憶、記録、前世のそれは肯定してくる。

 いいえ、今はいい。私自身の精神鑑定なんてしている場合じゃない。今、必要なことを、私がするべきことをする。

 

 「――大丈夫?」

 

 私が作った道から差し込んだ光に、目を細めていた二人へ私は、手を差し伸べた。

 ……そういえばゲームの始まりもこうだった。

 偶然だと嬉しいんだけどな。

 

 「天使……?」

 

 「天使、ではないかなー……って、ありゃ? 気絶してる?」

 

 脈は、問題なし。大きな出血も無さそうだけどとりあえず、早く観てもらったほうがいいわね。

 

 「……誰?」

 

 男の子を持ち上げようと伸ばした手を隣に倒れていた女の子に掴まれた。倒れているのに、恐ろしいほど素早くて、なにより不意を突かれたから驚いた。

 その驚きを呑み込んで、安心させようと笑顔を浮かべる。

 

 「あ、大丈夫? お兄さんは、気絶しただけよ」

 

 「……誰って、聞いてるの」

 

 すごい警戒している。めちゃくちゃ睨まれてる。えっとどうにか警戒を解いていかないと……。

 

 「私は、ハオ。ハオリア・ツァー・アルデバラニア。冒険者よ。お兄さんと貴方を助けさせてくれないかな」

 

 真摯に目を合わせて、自己紹介をする。後は、納得するまでお話するしかない。

 

 「…………そう。じゃあ、兄さんを、お願い……」

 

 ぱたんと力が抜けて、手が離れていった。床に落ちる前に、その手を握る。

 

 「うん、大丈夫」

 

 大丈夫。私が必ず、貴方たちを育て上げる。絶対に、バッドエンドになんてさせないんだから。

 最高の効率で、完璧に育て上げてあげる。

 




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