TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

18 / 31
最近レバガチャダイパンを作業用BGMにしてます。
Vに興味あんまりなかったんですけど面白いですね。


第18話 ランダムイベントおそるべし

 「なにかいいのあったかい、スー」

 

 「大変よ、兄さん」

 

 露天の並ぶ通りをスーと腕を組んだまま歩いているとスーが僕を真剣な目で見上げてきた。大変、か。内容の予想はできている。それでも聞き返してあげるのが優しさだろう。

 

 「何がだい、スー」

 

 「良いものが多すぎて、目移りしてしまうわ! こんなの全部買うしか無いじゃない!!」

 

 「うん、そんなことだと思った」

 

 つい苦笑がこぼれる。分からなくもない。露天の雑踏を踏みしめて、漂う甘い香りが、香ばしい匂いが僕たちの鼻を、空っぽの腹底をくすぐる。

 右を見れば鯛焼きやお好み焼き。左を見れば焼きそばに綿あめ。食べ物系が軒を連ねてる。

 唾が出てきた。早くなにか食べたいな。何にしよう。スーじゃないが目移りする。

 

 「スー」

 

 「んー」

 

 「先に何か食べてから探そうか」

 

 ハオさんの件だ。

 

 「…………」

 

 「なんだよ。そんな変なものを見たみたいな目で」

 

 「変なものよ。兄さんが買い食いを提案するなんて珍しいにも程があるわ」

 

 「……まあ、そうだな」

 

 普段しないことであるという自覚くらい僕にもある。ただ、そう。ただ。

 

 「僕がそう言い出してしまうくらいお腹が減ってるんだよ。ほら、スー、そこの串焼き……えーっと牛肉の串焼きか。それとか食べ歩きによくないか?」

 

 「いいわね、兄さん! 早速買ってくるわ!」

 

 ぱっと僕の腕から重みが消える。風のようにスーが僕の言った串焼きの屋台へ駆けていく。

 

 「ああ、そのへんで待ってるよ」

 

 軽くなった腕は、さっきまでの重みが無くなってちょっとばかり違和感を主張する。離れていくスーの背中に、僕は声を投げた。

 

 「はーい!」

 

 雑踏の喧騒に負けない返事が聞こえた。

 

 「さて、隅の方で待ってるか」

 

 通りの真ん中は流石に居心地が悪い。邪魔にもなる。適当なところに落ち着こうといそいそと通りの隅に行こうとしたその時。

 

 「兄ちゃん、どうだい」

 

 かけられた声の方を見ると黒のサングラスをかけたスーツをまとった黒髪の男性がいた。僕の視線を受けて、男性は、ニヒルに笑った。そういう笑顔が似合うタイプの人。

 その男性の隣りにあるテントの奥には、木で作られた商品棚は5段あって、一定の感覚で商品の人形や玩具が並んでいる。

 なんとなく何の屋台か分かった。

 

 「射的ですか?」

 

 他に客は居ない。がらがらだ。きっと店主があまりにガラが悪いせいだろうと僕は、あまりに失礼な当たりをつけた。

 

 「ああ。やるか?」

 

 店主から差し出されたのは、木製のライフル型のコルク銃。スーはまだ列に並んでいるし、時間つぶしにはなるかな。

 

 「じゃあ、ちょっとやってみます」

 

 「おうよ」

 

 コルク銃を受け取って、僕は、代わりに店主に代金を手渡した。

 

 「手前のテーブルに置かれた皿のコルクが残弾だ」

 

 「分かりました」

 

 言われて見た皿の上には、コルクが3つ。

 

 「装填済みはおまけにやるよ」

 

 「じゃあ、4回ですね」

 

 とりあえず構えてみる。銃口を商品棚の方へ向ける。しかし、何にしよう。困るな。特に何も考えず取ってしまった。何を狙おう。

 

 「なにか、おすすめあります?」

 

 「好きなの狙いな」

 

 店主は、暇そうに欠伸をした。こんなやる気なさげでいいんだろうか。一応、商売だろうに。まあ、人のことだしいいかな。

 

 「好きなのかあ……」

 

 と、言われても射的の商品なんて子供向けだろうに。

 

 「兄さん。あそこのぬいぐるみが欲しいわ」

 

 悩んでいると隣からスーの声がした。串焼きの良い香りが僕の腹を鳴らす。スーが片手で抱えている紙袋から串がいくつか生えている。

 

 「あれかい?」

 

 「そうそれ。ぞんあまくんのぬいぐるみ」

 

 「ああ、そういえばあんなぬいぐるみ持ってたね」

 

 今はもうない僕ら家族の家にあったスーの部屋のぬいぐるみたちに混ざっていた気がする。

 

 「うん。家ごと無くなっちゃったから新しく欲しいわ」

 

 「分かったよ。頑張ってみる」

 

 「兄さん、絶対にとってね」

 

 「プレッシャーかけるね……」

 

 妹のささやかな期待くらい兄として、僕は、応えてみたいと思った。

 揺れる銃口の先を見る。ターゲットは動かない。だから焦る必要はないんだ。

 問題は、コルク銃は、ドミネーターと違って強い力があるわけじゃないということ。

 当たれば商品が落ちるとは限らない。

 倒すのは無理だ。だから隅を当てる。回転させて、棚を滑らせる。

 後は、そのコルク銃の性能。コルクをバネで押し上げる空気で飛ばすんだから、バネがしっかりしてるかとかそういうところになるかな。

 新品同様だし、多分大丈夫だ。

 コルク銃を脇で挟んで、支える。銃身を揺れないようにする。

 

 「ほう……」

 

 店主の視線を感じた。その言葉の意味が関心かどうかとかは無視。的に意識を集中させる。

 人の視線を感じなくなる。雑踏の声や足音、音が消える。それから自分の胸の鼓動だけが唯一残った。

 本のページを捲る時と同じ没入感。毎朝続けてきた射撃訓練の結実。

 そして、そんな無駄な考えも消えうせた。

 

 「お見事」

 

 ぽすんとぬいぐるみの落ちる音。店主の拍手。なんとか落とせた。強敵だった。想定より重くて結局、コルク全部使い切ってしまった。

 

 「はい、どうぞ」

 

 「ありがとう。兄さん」

 

 手に入れたぬいぐるみを抱きしめるスーの笑顔は、十分以上の報酬だった。

 

 「おまけだ。もってけ」

 

 「なんですかこれ?」

 

 どこからか取り出した銀色のアタッシュケースを店主に手渡された。慌てて受け取った両腕に、アタッシュケースの重さが両腕にずっしりと伝わってくる。なんだこれ。

 

 「おまけは、おまけだ。今どき珍しく俺の作品(もん)を使ってるやつにな」

 

 「? おまけってこれは、な……に……あれ」

 

 アタッシュケースに向けていた視線を持ち上げるとさっきまであった射的が屋台ごと無くなっていた。

 露天の間にある空き地になっていた。何が入っているか分からない木のコンテナが転がっている。

 

 「……幻覚?」

 

 店があった痕跡すらない。僕は、まず自分の目と頭を疑った。

 

 「ぬいぐるみあるから違うと思うよ」

 

 まったくもってその通り。

 

 「アタッシュケースもあるもんな……」

 

 物証だけがしっかり揃ってる。

 

 「……余計になんだったんだってなるね」

 

 困ったな……。このおまけについても聞き損ねてしまった。

 

 「開けたら煙が出て老人になるとか……はないか」

 

 お伽噺じゃあるまいし。

 

 「はら、ふだりどもふぉうがしだの?」

 

 聞き慣れた声に振り向くとハオさんが居た。いつもと違って、ホットドッグを口に咥えてるけど。

 そんな姿も美しいと感じさせるこの人は本当にすごい。

 

 「もぐもぐ……お待たせ」

 

 そのホットドッグもあっという間に口の中から喉の奥に消えていった。いつものハオさんだ。頬にケチャップついてるけど。

 

 「ケチャップついてますよ」

 

 ちょっと背伸びして、指で拭う。甘酸っぱい。もっと身長伸びないかな……。なんて思ってから見たハオさんは目を丸くしていた。

 

 「……シルヴァ。貴方、意外に大胆ね」

 

 しまった。失礼だったな。

 

 「あ、すみません。ついスーの時と同じことしちゃいました」

 

 「……兄さん」

 

 「スー。割と結構痛いからやめないか?」

 

 スーの左の爪先が僕のふくらはぎをズボンの上からえぐる。言った通り痛い。

 

 「兄さんの頭が良くなるまでやるわ」

 

 「僕の方が頭良くないか? 痛い!?」

 

 「バカ兄さん」

 

 スーの視線と突き刺さる爪先が痛い。

 

 「それで、2人ともこんなところで何してるのよ。勝てる食べ物手に入れた?」

 

 「本気で言ってたんですね、ハオさん」

 

 「当たり前じゃない。常に勝利を狙っていくわよ。トーナメントくらいガチでね」

 

 至極真面目な顔で、ハオさんは、僕に言う。

 

 「そういうハングリー精神も必要よ、シルヴァ」

 

 「肝に銘じます」

 

 「後は、それに引きずられないだけの冷静さね」

 

 「……肝に銘じます」

 

 今の僕に、一番必要なもの。

 

 「それで、何かいい感じの屋台でもあった?」

 

 話題が元に戻った。とりあえず、説明してみようか。何か分かるかもしれない。

 

 「それが――」

 

 

 +++

 

 

 「――カクカクシカジカなんです」

 

 「射的の露天で、それを貰ったら消えた、ねえ……」

 

 シルヴァの膝の上に置かれたアタッシュケースに目を下ろす。まだ開けてない。中に何があるか分かったものじゃないしね。

 場所を変えて、休憩所代わりに開放されてる広場に私たちは居た。

 広場といっても凝ったオブジェとか噴水があるわけでもなく、申し訳程度の木製ベンチとかがあるだけの原っぱだ。

 ベンチは既に埋まっていたから比較的空いている場所に腰を下ろしていた。

 さんさんと降り注ぐ日差しが暖かくて気持ちいい。寝転がって、目を閉じたら寝てしまいそう。

 こういうところがあるなら別に会場じゃなくてもいいわね。と思ったので、カイムに連絡もしといた。そのうち来るでしょう。

 

 「何かご存知ですか?」

 

 膝のアタッシュケースの不気味さがシルヴァの視線を離さない。なんだかからかいたくなってきた。

 

 「私も魔力に意識が紐付いた実態のないゴースト系は、相手したことある。けどああいうのの特徴として半透明で会話が通じないってのがあるんだけど。

 その店主には、そういうところはあった?」

 

 「……いや、なかったです」

 

 「じゃあ……つまり……」

 

 「つまり……?」

 

 「もしかしたら2人とも呪われてるかもしれない……」

 

 「呪い……!?」

 

 「だってゴースト系の魔物じゃないなら、それはもう立派な心霊現象よ。まじな幽霊」

 

 深刻な顔をしてみる。私も見たこと無いけど、幽霊。でも転生者ってある意味幽霊じゃない?

 

 「心霊現象……!?」

 

 そんなビックリすることある?ってくらい反応がいい。ちょっと楽しくなってきた。

 

 「そんな仮称:幽霊が渡してきたものよ。呪いの1つや2つ、おまけに3つくらいついててもおかしくないわ」

 

 「お得に……!?」

 

 ほんとにびっくりしてる? まあこの現象、憶えがあるわ。原作でもあった気がする。

 成長イベントとしてあるこのトーナメントでは、メインのNPCとの戦闘イベント以外にもいくつか時限イベントが用意されてる。

 ミニゲームや成長イベント、もしくは、マイナスイベントがランダムで発生する。

 そのイベント数もやたら多いのも特徴的。そのうちの何かをシルヴァは引き当てたのだ。

 しかし、何かしら……。ミニゲームの結果とかイベントの選択肢とか能力値判定でアイテム入手というのはもちろんあるから何かのイベントを踏んだのは間違いないんだけど。

 

 「というのは、冗談として」

 

 「冗談だったんですね……。よかった……」

 

 安心したようなシルヴァの反応がおかしくて笑ってしまう。

 

 「あ、ほんとにびっくりしてたんだ」

 

 「ハオさん、人が悪いですよ……」

 

 「あんまりシルヴァが面白いから。ごめんね? とりあえず、そのアタッシュケース開けてみようよ」

 

 「罠とかは……?」

 

 「大丈夫。探査済み。罠では無いと思うよ。

 音探知と電気探査の魔法である程度、アタッシュケースの中身を事前に見ておいた。専門じゃないけどある程度測ることはできる」

 

 音探知は、ともかく、電気探査はこういうところで使うものじゃないけどね。

 

 「すごい……。僕もやってみます」

 

 熱心でいいね。でも闇雲にやるのは時間の無駄だ。この子のことだからそんなことはないだろうけど。

 

 「アドバイスするなら流れと熱を見てみなさい。中に何かが入っているとして仮定して、このアタッシュケースの大部分が金属とするなら熱は。確実に金属を伝い流れていく。

 そこから罠もそうだし、中身の輪郭も見取れると思うわ」

 

 「分かりました」

 

 アタッシュケースに触れたシルヴァの指先が青白く輝く。魔力光。魔法が起動している。

 周囲を気にせず眼前への集中力。アドバイスをすぐに反映させていくことのできる技量。やっぱり才能があるわ。

 なによりこの子は、私があてにしてなかったイベントを引き当てる運がある。

 

 「……ワイヤーが張られてる様子も無いですし、内応物を包むように緩衝材、クッションがあって余計なものを入れるスペースはなさそうですね」

 

 魔力光を指先から消し去って、シルヴァが言う。私は、同意の頷きをした。

 

 「ワイヤートラップなんてよく知ってるわね」

 

 「小説で見たことあるんです。あれは宝箱にあったんですけど、構造的に、アタッシュケースにもつけられますし」

 

 「なるほど。ま、開けてみましょうか。一応、慎重にね」

 

 「了解です」

 

 首肯したシルヴァは、地面に置いたアタッシュケースのロックを外した。鍵もかかってないからそのまま開く。ゆっくりと蓋を持ち上げ、途中で止めて一応、中身を軽く確かめた。問題なし。ゆっくりと蓋が芝生に触れた。

 アタッシュケースの中身が日差しに触れて、濡れたように光を反射した。

 その姿に、中身を予想していたシルヴァも目を見開いた。

 

 「これって……」

 

 アタッシュケースには、1丁のハンドガンが格納されていた。重厚なボディを覆うのは、メタリックなブラック。ドミネーターと違った大口径でありながらも芸術品の様な姿の上には、メモが1枚乗せられていた。

 シルヴァは、メモを持ち上げて、読み上げた。

 

 「『俺の魔道銃エリミネーターをよろしく、魔道銃ドミネーターを持つ少年』……どうして僕の銃の名前が分かると思います?」

 

 「そうね……」

 

 可能性としてありえるのは……製作者とか? なら見るだけで銘を見抜けるかもしれない。

 といってもドミネーター自体、遺跡での拾い物。遺跡も最初の魔王の頃。なら製作者だってその頃の誰か。どう考えてもおかしい。人間は生きてない。シルヴァとスーの出会ったのが人間とは限らないけど。

 そう人間でなければ、ありえるのよね。エルダー級の亜人には、最初の魔王の頃から生きてる存在だっているらしい。

 製作者、その線が濃厚。確証はない。この辺り設定どうなってたかしら。思い出せない。いつも肝心なところが抜けてる。つっかえないわね。

 とりあえずシルヴァは、無数に存在するランダムイベントの、それもきっと非常に低確率なものを文字通り撃ち抜いたってことね。

 

 「順当に、製作者と思うわよ。それならその魔道銃の銘を見抜いてもおかしくない」

 

 「製作者……でもこれって遺跡で手に入れたって言ってましたよね。しかも、最初の魔王の時代の遺跡で。なら製作者なんて生きてるはずが……」

 

 「ええ。でもエルダー級の亜人の一部は、その時代から生きているって話よ」

 

 つまり。と私は、自分の考えをまとめて口にした。

 

 「エルダー級の亜人で、魔道銃の製作者と偶然出会って新しい銃まで貰ったってことになるかしら」

 

 「なる、ほど……」

 

 シルヴァは、誤魔化しているが納得しかねてる様子をしてる。うん、分かる。私も言ってて思うわ。

 

 「無茶苦茶ね。憶測と可能性でしか話せてないわ。うんざりしちゃう」

 

 「いや、そんなことは……。僕は、憶測の一つも出せてませんし……」

 

 尻すぼみに声が小さくなっていくシルヴァの頭をクシャッと撫でた。

 

 「うじうじするな、男の子」

 

 「っ……は、ハオさん……」

 

 顔を赤くしてる少年の上目遣いから得られる栄養素は、確実に存在する。ぐへへへ。っと、こほん。

 

 「なにはともあれ折角、また強くなれる方法ができたんだから」

 

 「2丁目って、使いこなせる自信がないですね」

 

 「当たり前じゃない。最初からできたら天才よ。頑張って修行しなさい」

 

 「了解です。頑張ってみます」

 

 「よろしい!」

 

 うむ、解決。まあ疑問は残ってるけど。そのへんは、ぼちぼち暇な時に調べてみましょう。

 

 「あら新しい銃が入ってたのね、兄さん」

 

 焼きそばとフランクフルトに、たこ焼きからまあ色々もったスーがもぐもぐと口を動かしながらアタッシュケースを覗き込んでる。この子の忍び寄り、どんどん精度良くなってない?

 

 「おめでとう。2丁拳銃かっこいいと思うわ。それに強そう」

 

 「さっきも言ったけど、使いこなすのが難しいんだよ。今回のトーナメントでは使えそうにない」

 

 「付け焼き刃で逆転ってのもある意味王道じゃないかしら。漫画だといい感じになることもあるよ」

 

 「漫画は、漫画だろう?」

 

 本は読まないけど漫画は読むのよね。分からなくもないけど。 

 

 「それに、私なら使う。その方が絶対かっこいい」

 

 ふふんとドヤ顔して、スーが笑う。あー。間違いなくス―ならやるでしょうね。間違いない。

 

 「かっこいいか……」

 

 あ、揺れてる。シルヴァのマインドが揺れてる。かっこいいに負けそう。どうするのかしら。エリミネーターを見て、唸るシルヴァ。

 まあ確かに習熟できていないと両手で武器を使うなんて実戦で使えたもんじゃない。両手利きに矯正する必要があるわね。そのうちしようと思ってたけど思ったより早くなった。

 

 「いや、僕はまだ――って、あれ? カイムさんじゃ……」

 

 言われて見るとカイムが歩いているのが見えた。だけど、そっちに私たちいないんだけど? こっちを1ミリも見ていない、気づけば人混みに紛れて消えていた。

 何かを追ってるような素振りだったけど、こうなったカイムを追いかけるのは、難しいわ。伊達にうちで斥候してない。

 妙に真剣な顔してたのが気になるけど。ま、後で問い詰めればいいわね。

 私のバカみたいな提案に乗ってくるとか元々妙に不自然なところがあったし、丁度いいわ。

 

 「あ、どこか行っちゃいましたね。僕、呼んできます」

 

 「無理無理。やめときなさい。ああなったカイムを見つけられないわよ。ほっときなさい。お腹減ったらそのうち来るわよ」

 

 「子供とか動物みたいな扱いですね……」

 

 「カイムのことより、シルヴァは食べなさい。食べ過ぎはだめだけど少しくらい入れておいたほうがいいわ」

 

 苦笑いするシルヴァに、私は、手元に残ってたねぎまを差し出す。ちょっと冷めたけど十分美味しい。こういうところで食べる特別感かもしれないけれど。

 

 「あーん」

 

 「えー……」

 

 「兄さん、あーん」

 

 対抗心を燃やしたスーがたこ焼きを爪楊枝に指してる。こっちは熱々。熱々のたこ焼きをあーんするのは、ある意味罰ゲームじゃない?

 目が笑ってる。確信犯よこれ。

 

 「うーん……」

 

 曖昧な表情を浮かべたシルヴァが視線を私とスーの間を彷徨わせて。

 

 「隙あり」

 

 その口にスーが素早くたこ焼きを突っ込んだ。私にはない思い切り……!

 

 「やるわね、スー」

 

 「ふふ、ハオには負けないんだから」

 

 ばちばちと火花を散らす私たち。

 

 「……ぐお……!?」

 

 ――の間で、シルヴァは悶絶していた。熱いとかそういう顔じゃない。大丈夫かしらこれ。

 

 「美味しすぎたのかな」

 

 「そういうわけでは断じて無いと思うわよ。それ普通のたこ焼きじゃなかったりする?」

 

 「特製非合法激辛たこ焼き?って売ってあったわ。刺激的で素敵なの。ハオも食べる?」

 

 喜色満面、美味しいものを共有したいスーの差し出したたこ焼きからなにか瘴気めいたものが見えた。

 ちなみに刺激的ってその名前? それとも味? どっちも?

 

 「……口内炎できたから遠慮しとくわ」

 

 特に良心の傷まない嘘を私は吐いた。

 

 「残念……」

 

 しょぼんとスーの笑顔が萎んだ。嘘。めちゃくちゃ良心が痛んだ。でも私死にたくない。ここでゲームオーバーになんてならないんだから!

 

 「やっぱり食べる」

 

 「ほんと? 嬉しい!」

 

 ぱっとスーの笑顔が花開いた。くっ……。良心に負けてしまった。

 

 「あーん」

 

 「あ、あーん……」

 

 スーの手で湯気立つたこ焼きがゆっくり私の口の中に運ばれて、口の中で爆発した。味蕾という味蕾が消し飛んだ。

 

 「死ぬかと思った……」

 

 一瞬、そんな気になるほどの刺激で私の意識は消し飛ばされた。

 

 「死ぬほど美味しいかったのね。よかったわ」

 

 嬉しげなスーの言葉を私は、半笑いで誤魔化した。この子の笑顔に、私はなぜだか逆らえない。笑顔を見れたならなんだかどうでもよくなる。たった1年で私も結構どうしようもなくなったわね……。

 

 「うう……」

 

 「兄さん、美味しかった?」

 

 「え? あ、そ、そうだな……」

 

 ようやく起き上がってきたシルヴァ。修行が足りないわ。中も鍛えなきゃいけないわね。何かメニュー考えましょう。

 

 「大丈夫?」

 

 「……なんだか体が軽いような……。調子が良くなった気がします。魔力を普段よりクリアに感じられているような……そういう感じがしてます」

 

 「つまり……調子がいい……?」

 

 「そういうことですね……」

 

 困惑顔のシルヴァに、私も困惑した。意味が分からない。

 これもイベント? イベントかしら……イベントかも……。私も最後までイベントを網羅できなかったから判別できない。

 ランダムイベント、おそるべし。

 




感想評価よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。