「は?! 子どもができたのでパーティを抜けます?!」
「いや、できたとは言ってないでしょ」
このイベント、ゲームであったかしら……。
顔を真赤にした副リーダーのカイムを見ながら現実逃避をしていた。
そもそも拾って育てるって話から始まったから、
だからこうして私の背景ができてから思い出せたとか? ありえるわね。
でも答えがない。この推測はこのへんにしておこう。
「誰との子だよ!!」
ああ、もうだめ。頭が痛くなってきた……。
「お話聞いてもらえる? できてないって」
「誰だよ!! エルールとの子か!?」
ビールがもったいないわね……。他所のパーティの顔面に、口の中のビールをぶっかけるエルール。パーティの大剣使いで、ハーフオーガ。火力の要。私の酒飲み友達。おっぱいが大きい。もちろん、子どもを作るほど仲良くはない。そもそも女同士なんだから作れるわけがないでしょ。
「いやいや聞いて……。話を聞いて……。りっすんとぅーみー……」
「じゃあ、誰との子だよ! 答えろ、ハオ!!」
酒と興奮で顔を真っ赤にしたカイムは立ち上がって、どんどんとビールの入ったジョッキを固定されたテーブルが揺れるくらいに強く叩きつけた。
これがパーティの副リーダーの姿か……。
カイムは、私より頭一つ半高くて、綺麗な顔で女の子にモテる。普段は、風に自慢の茶髪をなびかせて、飄々としてる私の右腕。斥候やサポートとボウガンが得意な彼。そして、任務では、とても頼りになる。
ただいつも思うけど斥候にしては、目立ち過ぎじゃない? そして、今は、彼史上最高に目立ってる。
超超、もう一つ超をつけてもいいくらい酒に呑まれてる。酒は呑んでも呑まれるな。そして、あまり頼りにならない状態。
さらに付け加えるとかーなーり面倒くさい。
助け舟を求めて、私は、ちらりと他のパーティメンツの様子を伺った。
エルールは、ビールを吹きかけた他のパーティと喧嘩をしている。ナイスストレート。
エルフで魔法使いのランザは、喧嘩を肴に楽しげに酒を飲んでる。喧嘩の結果で賭けをしてるみたい。俗世に塗れすぎでしょ。
僧侶で癒術師のフォンは、いつの間にかテーブルから消えてた。視線を走らせるとカウンターで上品にグラスを傾けているのを見つけた。
皆こっちに巻き込まれたくないんだろう。どうやら助けは来そうにない。私は、チームプレイを早々に諦めた。
「この街で拾ったの。ほら、私が連れてきた兄妹見たでしょ? あの子たちよ」
「あ!? ……ああ、あの子らか」
「そ、あの子達。魔王種に、家族を殺された子たち。私たちが守れなかった子たちよ」
「それは、俺たちの責任じゃないだろ」
落ち着いてきたのか話の流れで酒が少し抜けたのか冷静さをやや取り戻したカイムは、私の前に座り直した。首が痛かったので助かる。
「俺たちは、ただの冒険者じゃねえか。その日暮らしで、決まった住まいもない。根無し草がお似合いで、明日には死んでるかもしれない。
そんな俺らが突然降って湧いた魔王種の討伐なんていう超難易度の仕事に挑んで、なんとか撃退して、こうやってビール飲めてるのが奇跡だろ。全部救おうなんて、俺らは王都の聖騎士でも伝説の聖者でもないんだ」
ごくっとビールを一口して、「無理なもんは無理だろ」カイムは、口元を手の甲で拭った。
「分かってる。そこまで傲慢になった覚えはない」
彼の言うことはもっともらしい。正しい。
「じゃあ、そんな責任感持たなくていいだろ。両親を失ったやつなんて珍しくもない。ここの領主は、賞金もケチらなかったしそれなりの孤児院に入れば普通に生きていけるだろう」
「……才能があると思ったの」
「ほんとかよ……」
「ひと目見て分かったわ!」
これはほんと。私は、あの子たちを見て、すぐに分かった。なぜなら知っていたから……いいえ、違うわ。思い出したから。まあ、言っても頭がおかしくなったと思われるだけだから言わないけど。
「……まあ、才能があるとしよう」
「一番付き合いの長い私の審美眼を疑うの? 皆を仲間にするのを決めたの私よ?」
「確かにあいつらに関して、間違いはなかったが見間違いくらいあるだろうが……」
……今の所、間違ったのを見たこと無いけどさ。ぼそぼそ呟くと口を尖らせて、ビールを啜るカイムは、拗ねてる子どもみたい。
「それでね。私、思うの。魔王種を滅ぼすのには、やっぱり手が足りてないわけじゃない? この領地も手が足りないから私たちを呼び出して、戦わせたわけじゃない? その人材不足を地道に解消していこうと思うの、私」
「冒険者学校でも作る気か?」
「将来的にはいいかもしれないわね。でも、意気込みだけあって、才能の無い子を育てるのは、時間の無駄だからやりたくないわ」
「そういうところほんと昔から変わらないな。1に効率、2に効率、3に効率。その子らは、お眼鏡にかなったってことか」
私、そんなに効率厨だったかしら……。
「さっきから言ってるけどそういうことよ」
足を組み替えながら縦に首を振って、間違ってはいないので肯定する。
「人生なんて短いんだから最高効率でやりたいこと、やらなきゃいけないことをやらなきゃね」
つい先日から私は、これを痛感している。元々思っていたことだが自身の真実とでもいうべきことを思い出したから余計に。
「じゃあ、俺もやりたいことをやらなきゃな」
「? そうね。あるならそうしたほうがいいわ。私たちは、根無し草の、朝日を拝めないかもしれない冒険者なんだから」
意趣返しとばかりの私の言葉に、カイムは、はっと鼻で笑った後、真剣な顔になる。
「俺は、お前と冒険を続けたい」
「パーティから抜けるのは承諾しないってこと?」
「そういうことぶへっ!」
「分からず屋!」
私は、そう叫んで、殴っていた。平手なんて可愛いことしないわ。グーよ、グー。どんがらっしゃんとジョッキを持ったままカイムは、椅子から床へ軽く吹っ飛んだ。
よく細身に見られるけどこれでも鍛えてる。酔っ払ってフラフラのカイムをふっ飛ばすくらいわけはない。
「てっめ……!! いつもいつも言葉が出てこなくなったら殴りやがって!」
頬を酒と私の手形で真っ赤にしたカイムが私へ驚愕と怒りをないまぜにした瞳を向けてくる。いつもの反応に私は、頬をほころばせた。
「言葉だと分かり会えそうにないわ! 拳よ! 拳でわからせなさい!」
「上等だコラ!!」
テーブルを乗り越えてきたカイムを見て、私は、笑った。ここからは益体もない、犬も食わない殴り合いなので割愛します。女の顔殴ろうとするなんて酷くない? 私が殴ったのが悪い? 確かに。そうかも。
「だけど私のミスで世界が滅ぶなんてなったらさ、もう殴り合うしかないわけよっ……!!」
カイムの顎を打ち抜きながら小さく呟いた。白目を剥いて、吹っ飛んだカイムには聞こえてない……と思う。
+++
――――兄さんと違って、私は、あの女を信用していない。
昨日、夜遅くに千鳥足で帰ってきたあの女を全く信用していない。リビングの床に転がって、本当にしょうがない人。風邪を引いてしまうわ。本当に全く。
まあ、お父さんで慣れているからあの人をベッドまで運ぶくらい私にとって労働にすら入らないんだけどね。
でも寝間着に着替えさせるのが一番大変だったわ。だけど大の大人の女が着の身着のまま寝るところなんて見ていられないわ。
助けたからって、こんなうちまで用意して、私たちを引き取りたいなんて言い出すのは、あまりに胡散臭いわ。きっと何か裏があるに違いない。
「スー。どうかしたか?」
「うんん、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけ」
隣でパンをちぎっている兄さんに頷いてから、スープに浸けたままだったスプーンを口に運ぶ。あっさりめの野菜とソーセージのコンソメスープ。美味しい。そりゃ私が作ったんだもの。美味しいに決まってる。
「このスープ、美味いな」
「当たり前よ。お母さんに習ったんだから。眼鏡、真っ白よ」
「……ああ、そうだな。母さんの味だ。父さんも好きだった」
眼鏡を拭く兄さんは、寂しそう。ほんと兄さんも兄さんよ。仕方がない人。しょうがない人。こんなことで一々湿っぽくなって……。
ああ、もう! 軽く鼻を啜る。熱いものを食べたからよ。まったく、本当に。私までしんみりしちゃってきたじゃない……。
「……これくらい毎日作ってあげるわ」
「ありがとう。できた妹で嬉しいよ」
「当然よ」それにと付け加える「……お父さんだって、どこかで生きてるわよ」
「ああ、そうだな」
お母さんが死んだのを見たのは、兄さんだけだ。死んだことしか教えてくれない。どんな風にかは、一つも。きっと伝えたくない死に方だったんだと思う。
兄さんは、優しいから言ってくれない。
「ハオさん、まだ起きてこないな」
……そういう話の切り替え方は、嫌よ。じっと睨んでしまう。兄さんは、気づいてない。
天井を見上げて兄さんは、言う。私たちの新しい住まいは、2階建て。あの女がさくっと用意してきた。中々お財布が強いみたい。凄腕の冒険者だっていうのは、間違いないみたいね。
ちなみに、兄さんの見ている辺りにあの女の部屋がある。透視ができたら犯罪ね。
「遅くに帰ってきてたし、かなり酔っ払ってたもの。昼まで起きてこなくても不思議じゃないわ」
「今日、買い物に行くとか聞いた気がするんだけどな。起こしに行ったほうがいいと思うか?」
「私は嫌よ」
スープが冷めちゃう。
「兄さんが行ってきたら?」
「僕が行くのは、不味いだろ……。頼むよ」
「別に大丈夫でしょ。問題ないわ。子どもなんだから特に気にしないわよ」
「僕が気にするんだ」
「……まったくしょうがないですね、兄さんは」
貸し一つです。と目で伝えておく。すると苦笑いで謝ってくる。本当にもう。と立ち上がったところ、階段を降りてくる足音が聞こえた。
どうやら気遣いは、必要ないみたい。兄さんの方に、肩を竦めてみせる。
「おはよ〜〜」
「おはようございます、ハオさん!」
大きな欠伸をしながらリビングに入ってきた女――ハオに、兄さんは、キラキラと顔を輝かせてから立ち上がると大きな声で朝の挨拶をした。
「お、朝から元気がいいね。よしよし」
ぽんぽんと頭を叩かれる兄さん。顔がだらしないわ。まったく。
兄さん、ちらちら見過ぎ。しょうがないわ。どうにか頑張って顔を見ているのだけは、褒めてあげる。
あの邪悪にたわわと実った胸。前から思っていたけれどあまりに欲望がつまり過ぎ。ふよんふよん揺れてるわ。昨日、つい揉んでみたけどすごかった。指が沈んで、離したらすぐに元に戻る。とんでもないわ。
何人を誘惑してきたんだか、本当に卑しか女。
「まったく……」
じゃがいもをすくって、もぐり。ほくほく。味しみしみ。流石、私。美味しくできてる。
「いい匂いするな〜〜って思ってたらこれね。今日もスーが作ってくれたの?」
「……これくらいなんてことない」
テーブルに置いた鍋の中を覗き込んだハオに、頷いて、温めたロールパンを千切って食べた。
「いやいや、すごいよ。美味しそう。一口頂戴。ね、いいでしょ」
「…………」
「あーん」
目を瞑って、口を開けたハオの姿を私は、ひな鳥のようだと思った。こんな大きなひな鳥がいるものですか! ただそのままあげるのもなんだか癪に障るので、じっーと見つめていた。
兄さんが視線で、『ほら』とか『早く』とかはらはらした顔で訴えかけてきますが関係ないわ。身長だけじゃなく肝が小さいんだから。
……ほんとしょうがない人。
「……どうぞ」
まあ、根負けしたのは、私なんだけど……。
人参とソーセージがハオの口の中に消えていく。しばらくもぐもぐしてたらぱっと笑った。
「うん、美味しい! 流石ね、スー」
「それほどでも、無いです」
「それほどあるわよ。じゃ、ちょっと顔洗ってくるわね、私。それから頂くわ」
私の頭をぽんぽんと軽く叩いたハオは、颯爽と洗面所の方に消えていった。
「よかったな。スー」
「別に、どうでもいい」
嬉しそうに笑ってから兄さんは、食事を再開した。とても機嫌がいいみたい。スープをおかわりまでしてる。
「どうでもいい」
隣の兄さんに聞こえないくらいには、小さく小さく、食器の音に掻き消されるくらいには、小さな声で、私は、呟いた。
「……兄さんが夢中な女の褒め言葉なんて」
+++
「そういえば私って、前世でも女だったのかしら」
鏡の前で、ふと思った。水に濡れた顔、見慣れた顔が鏡に映っている。お母様譲りの金髪。眉と瞳の色は……非常に、誠に残念ながらお父様譲り。お兄様やお姉さまみたいに、全部お母様で揃えて欲しかったわ。
「嫌な奴のこと思い出した。忘れよ忘れよ」
あー嫌だ嫌だ。蛇口を捻って、顔をぱしゃぱしゃと洗い直す。冷たい水が嫌なことを流してくれる……こともない。うっとおしいな。話題を戻そう。
「男でも女でもどっちでもいいんだけどね。ぼんやりしてて思い出せないし」
憶えてるのは、薄暗い部屋と明るいディスプレイ。後、死因。そして、この世界のこと、エンディングのことをしっかり憶えてる。好きだったことだから? 理由は考えても無駄ね。だってもう……。
「この世界が今の私の現実よ」
生まれてこの方、20年。私は、私よ。
「なんなら前より長生きして――あっ、今と同じ年の時に死んだのね、私」
また一つ新しい発見だ。うんうん、一歩前進。ただ……。
「びっくりするくらいどうでもいいわね」
よし、洗顔完了。タオルでふきふき。さっぱり。うん、すっきり。
「しかし、育てるかぁ……。どうしたものかしら」
歯ブラシしゃこしゃこ。動物を育てたことはあるけど、人間は無いのよねえ。私自身を鍛えるのはいいけど今回は、他人だものね。
とりあえず、整理するわ。
鍛えるうちで必要な要素。まあ、まずは魔法よ。魔法がなきゃ始まらないわ。身体能力が高くても今の世の中、魔法よ魔法。
なんて言ってたら熱心な人達に怒られるわね。でもまあ光神と闇神の信仰してたら魔法使えないし、確認しとかなきゃ。
なにより効率上げていきたい。
いつ魔王種がやってくるか分からないんだから。早くて悪いことはない。
……お財布の状況を改善させることを忘れてた。この家、にこにこ現金一括払いしちゃったのよね……。
貯蓄はあるけど安い買い物ではなかったし……うーん、やること山積み。
「朝ごはん食べて考えよう」
しかし、昨日は飲みすぎたな。気づいたらベッドで寝てたし。カイム、結構いい感じに顎に入れたけど大丈夫かしら。
リビングに戻ると二人は、まだテーブルに座っていた。
「おまたせ。あれ、まだ食べてた?」
「ああ、はい。聞きたいことも、あるので……」
「ふむ、なるほど。お、ありがとう」
スープの入った器を受け取る。湯気がもくもく。端をもってもアツアツ。いい匂い。腹の虫が早く早くとくうくう切なげに鳴き始めた。これはやばい……。めちゃくちゃ食欲でてきてしまった。
「先に食べてもいい? ちょっとだけ! ちょっとだけだから……!!」
「はは、大丈夫ですよ」
拝み倒すとシルヴァが許してくれた。スーを見たら、「パン、温めてきます」とキッチンの方に向かっていった。できた子たちだ……。
「それじゃあ、いただきます!」
一口。やっぱり美味しい。一口貰って分かってたけど美味しいのは変わらない。
お酒を飲んだ翌日は、温かいのは染みますね……。は〜〜とおばあちゃんみたいな溜息が出てしまう。野菜が大きめカットなのいいよね。私好き。ソーセージも美味しい。
静かに差し出されたロールパン。さくっとふわっとで美味しい〜〜。体にいい朝ごはんだ……。
「おっとごめん。あんまり美味しいから夢中になってた。それでシルヴァ、お話って?」
「えっと……これからのことについて、ハオさんに聞いておきたくて」
ふむ、なるほど。姿勢を正したシルヴァから出てきた言葉は、奇しくも私が聞こうと思ってた話だった。
「どうやら私たち気が合うみたいね」
「気が合う……!?」
「そんなに驚くところだった?」
「兄さん、しっかりして」
「あ、ああ……。つまり、ハオさんも同じこと、僕らのこれからのことを聞こうとしてたってことですか?」
立ち上がった衝撃でずれた眼鏡を直してから座り直したシルヴァが要約してくれた。そういうこと。
「うん。そういうこと。ね、私が君たちを引き取った時の言葉憶えてる?」
「当たり前です。忘れるわけがありません」
縦に首を振ったシルヴァは、言葉を続ける。
「僕たちに、魔王種を殺す方法を教えてくれるんですよね」
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