TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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2週間ぶりですね。
メトロイドとメガテンが悪いんですよ


第21話 平穏の終わり

 「ドリンクお買い上げあざーっす!!」

 

 「ああ、助かった。ありがとう」

 

 ごきげんな鼻歌をしながら去っていく売り子を尻目に、大量の飲み物をカイムは、ごくごくとそれらを1つ残らず一気に飲み干した。空の容器が山になる。

 

 「やっと口の中が落ち着いてきた……」

 

 無数の激辛料理が入っていた紙袋をくしゃくしゃに丸めたカイムの頬は、げっそりとしている。

 

 「ちゃんと食べ切れて偉いわよ。いいこいいこしてあげようか?」

 

 「やかましいわ。んで、あの魔法、お前が教えたのか」

 

 「いえ、あの子のオリジナルよ。何回か練習してるところをみたことある」

 

 ちょっとアドバイスはしたけどね。役に立ったようでなにより。流れと破壊の操作がちゃんと出来てる。

 

 「ほー、やるな」

 

 カイムが感心したように頷く。私もほっとした。

 

 「ええ、本当にちゃんとできてよかった」

 

 「なんだ、上手く行ってなかったのか?」

 

 「そうね。上手く行ってなかった。上手く行かなかったらあの対戦相手は、ミンチだったわ」

 

 「ああ、そういう……」

 

 「加減がねえ……」

 

 庭が掘り起こされたり、植えてる木がねじ切られたり、朝練に使ってた空き地がめちゃくちゃになったりってのを見た以上、対戦相手が無事でよかったわ。

 

 「ま、これで2人とも次のステージに登ったわけだ。よかったな」

 

 「まあ、あの魔法は要訓練だけどね……。危なっかしいたらありゃしない。それで、さっきの続き聞いてもいいかしら?」

 

 「さっきの?」

 

 「遅れてきた理由よ」

 

 「俺が言うまでもなく、すぐに分かるさ」

 

 「なにそれ」

 

 言い渋ってるっていうかもったいぶってるっていうか。面倒ね。どう聞き出そうかしら……。

 

 『いよいよ2回戦、最終試合!』

 

 実況席が盛り上がってる。観客席も爆発したみたいに声が上がった。カイムから闘技場に視線を向けた。

 スモールソードにライトシールド、軽鎧をまとった男の冒険者が入場してきた。立ち振舞が堂々としていて、十分に実力があるように見えた。

 その対戦相手は、ローブのフードで顔も武器も何もかも隠した怪しい感じの人。

 

 『イン・フィルメント VS ココ・ファッフロン!!』

 

 「……フィルメント? カイム、貴方が遅れた理由ってそういうこと?」

 

 「まあ、そういうことだ。スーとシルヴァ、2人の家族、母親じゃないかと思ってな」

  

 察した私の視線に、口休めに水を啜るカイムは頷いた。

 

 「だったら早く、2人に教えてあげないと!」

 

 「まだ本当に家族か分かってない。昼に捕まえようとしたけど見つからなかった」

 

 「黙って探してたのそういうこと? へえ?」

 

 「んだよ……」

 

 バツ悪そうなカイムに、私は、にやにやが止まらない。へえ。サプライズ?

 

 「もう1年だ。情の1つや2つ移ってもおかしかないだろ」

 

 「ま、それもそうね。それにしても貴方が捕まえられなかったってほんと?」

 

 「嘘ついてどうすんだよ。非

 常に屈辱だけど追跡できなかった。人混みで見つけてもすぐに振り切られてしまってか、だめだった」

 

 膝の上で頬杖をついたカイムは、悔しそうに言った。

 

 「でも、それって……」

 

 冒険者として、斥候としてプロフェッショナルなカイムが捕まえられない素人なんているわけない。だとしたら何かしらの訓練とかを受けてるはず。なによりここまでド素人が勝ち上がれるはずがない。

 ただスーの母親だと思うとそれだけ強いというのは、ありえる。

 天秤神に愛された少女の母親なら同じ様に、愛されている可能性もある。

 だけど前提として、2人の母親は死んでいるはずだ。原作ではそうだった。原作では、魔王種〈ストリボーグ〉の襲撃の際に死亡していた。だから私がこうして引き取ってる。原作でもそういう流れだった。 

 

 『ここでも瞬殺だああああ!! 強い!! 強すぎるぞ、イン・フィルメント選手!!』

 

 物思いに耽っている合間に試合は、終わっていた。早すぎる。いくらなんでも強すぎる。低級の冒険者といえどここまで来たのは偶然ではなくて、実力のはずなのに……。

 ただ最後まで、ココという冒険者が戦ったのが見て取れた。ココの剣が手から離れて、不規則に空中を舞う。避けたせいで、不動だったローブのフードが私たちの眼の前でめくれあがった。

 

 『ウィナー、イン・フィルメント!!』

 

 勝利宣言が実況席から響き渡った。闘技場には、気絶して倒れ込んだ男と、銀髪の女――イン・フィルメント。カイムと同じ、サファイアの瞳。ただ深く、ただ静謐。感情の欠片も私には見えなかった。

 

 『おっと、乱入者か? あれは、準決勝に勝ち上がったシルヴァ・フィルメント選手だ!』

 

 「うん? シルヴァが出てき……どうかしたか? ハオ」

 

 ――何か、思い出しそうだった。

 カイムに答えず。私は、開きかけの記憶の扉をどうにかこじ開けようとした。

 目の前の光景が引っかかる。私は、原作でこのシーンを見ているはずだ。だったらこの次の展開だって分かるはず。

 早く思い出してよ。取り返しがつかなくなる前に、何か合ってからじゃ遅いんだから!!

 

 「『母さん、だよね?』に、『生きてたんだね……! よかった……ほんとうに……』だそうだ。感動の対面だな」

 

 「ナチュラルに唇読むわね。で、そのお母さんはなんて」

 

 「なんとも。今の所一言も喋ってない」

 

 「そう……」

 

 感動のあまり声が出ない? 何か怪我で声が出ない? いや、そういう様子じゃない。

 

 「なあ、子どもと久しぶりの再開であんな顔するのか?」

 

 不満げなカイムに、私は同感だった。

 イン・フィルメントは、無表情だ。氷とか鉄仮面とか。そういうのよりずっと常軌を逸した無の表情を浮かべてる。シルヴァが瞳に映ってるかも疑いたくなる。

 

 「少なくともシルヴァが両親に望みそうな表情ではないと私は思う」

 

 「まあ、あんな嬉し泣きしそうな顔してるあいつが欲しいのはそういう顔じゃないだろうな」

 

 「……そうね」

 

 ――そうだ。イベントがある。こういうイベント。シルヴァ/イン、どちらかが闘技場に現れた母親の元に駆け寄って……駆け寄った後……。

 

 「きゃああああああああ!!!!」

 

 悲鳴が聞こえる。布を裂くような、つんざく悲鳴。絶叫に近い。

 

 「なんだ?!」

 

 「え? なになに?」

 

 周りの観客と一緒に、声の方へと私とカイムは振り向いた。

 これが始まり。新たな地獄の釜の蓋が開く合図。自然と私は柄に手をやっていた。カイムもダガーを抜いている。

 鼻をつく鉄錆の臭い。凍りつく観客。春の陽気に不似合いな、冷たい空気。

 観客席に、真っ赤な花が咲いていた。その中心には、見覚えのある顔。ついさっきカイムと話していた売り子だ。

 先程までの接客用の笑顔は浮かんでいない。目は虚ろ。吐血が唇の端から顎へ伝う。。

 彼女は、背中から胸まで貫かれていて足が宙に浮いていた。貫いたのは長い手。細くて骨ばった手。

 その肌の色は、青褪めている。血の気のない死者の色。

 私が見慣れた色だった。つい最近、こういう色合いの”手”を何度と相手取った。

 

 「……ああ、そういうこと」

 

 苦々しい納得が私の唇を突いて出た。

 ぶんと荒々しく邪魔そうに振り回された売り子の死体が腕からすっぽ抜けて飛んでいった。

 売り子を貫いていたのは、エルフ。見た顔ね。たしか、トーナメントに参加していたエルフ。

 顔は、見たことがある。ただ表情は、無。ただ眼と鼻と口が並べてあるだけ。

 そして、その体はもう得意の弓矢をもっていなかった。

 無数の”手”が服やズボンのいたるところを突き破って、空を泳いでいる。ぐねりぐねりと服の下でまだなにかが蠢いてる。きっと”手”ね。

 あの”手”に、色々な形態があるのか。それとも魔物が人や動物、他の魔物に寄生しているのか。

 私の中に推測がいくつかよぎる。設定思い出せ、私。

 まあ、それはそれとして。

 

 「気持ち悪すぎる」

 

 生理的に無理。

 

 「同感――」

 

 カイムと視線を交わし、臨戦態勢を取った直後。

 観客席でも同じような悲鳴が聞こえてきた。視線を向けてしまう。血の花が咲いている。”手”に絡めとられた人の姿と真っ赤に染められて、闘技場にはたき落とされる人の姿が見えた。

 合図とばかりに何体もの同じような”手”の生えた魔物人間が現れて、観客たちに襲いかかっていた。

 

 『ぎゃあああああああ!!!!』

 

 実況席の拡声器を通した悲鳴が闘技場の中に響き渡る。どうやらそこにもこの魔物が紛れ込んでいたらしい。

 それに反応した観客たちが現実に戻ってきた。悲鳴が爆発した。闘技場は、一瞬で阿鼻叫喚となった。そして観客が一斉に逃げ出していく。

 もちろん、元エルフが居ない方。つまり、私とカイムの方――まずいわね。 

 

 「ちょっと、これ……!!」

 

 私とカイムが人混みに押し流された。正気ぎりぎりの必死な観客たちの濁流を掻き分けるのは、不可能に等しかった。魔法を撃つにもボウガンを放つのも難しい。

 元エルフが人混みの向こう側に見える。流石に皆、避けている。元エルフは、まだ動かない。じっと闘技場の方を見ている。あの表情見覚えがある。

 ――思い出した。

 最悪! なんでこんな肝心なことを忘れていたのよ!! 巫山戯るな!!

 

 「カイム!! イン・フィルメントも、そうよ!(・・・)!」

 

 聞こえているかどうかも確かめず私は、叫んでいた。

 

 

+++

 

 

 「なにが……!?」

 

 突然の大騒ぎ。歓声じゃない。悲鳴と怒号が闘技場に響き渡っていた。観客席を見たら見覚えのあるタイプの……魔物、かな。遠目だからよく見えない。

 だけどあの”手”のことは、覚えている。

 因縁がある。屈辱を忘れていない。苦渋が舌の上で蘇る。あまりの苦さに、反吐が出そう。怒りが滾る。

 なにより、もうトーナメントどころではないみたいだった。

 僕自身もうそんな場合じゃない。

 

 「積もる話は色々あるけど、とりあえず母さん……母さん?」

 

 「…………」

 

 問いかけに答えはない――夢中になっていて気づかなかったが、何かおかしい。何か。何かどころじゃない。

 

 「……母さん?」

 

 確かに。確かに母さんは強かった。母さんもスーと同じで、天秤神様に愛されていたからだ。

 だから母さんが生きていた。

 だからこうしてトーナメントを勝ち進んでいた。

 きっと僕たちに会うためだと思っていた。

 そう思っていた。

 

 「どうして、何も言ってくれないんだ?」

 

 母さんは、こんな顔をする人だっただろうか。こんなお面みたいな、人間味を感じられない表情をするような……。

 記憶を探る。探って出てくるのは、笑っている母さん。怒っている母さん。悲しんでいる母さん。

 ああ、そうだよ。

 僕の知っている母さんは、ずっと表情豊かだった。

 

 「違う……」

 

 これは、違う。

 

 「母さんじゃない」

 

 理解した事がそのまま言葉になる。

 

 「兄さん!!」

 

 スーが僕と母さんだったものの間に踏み込んでくるのと、母さんだったものが内側から弾けたのは、ほぼ同時。

 ”手”だ。予想、嫌な予想が的中した。翻ったローブの奥から手が伸びてくるのが一瞬見えた。

 空中を疾走する”手”をスーの大斧が迎撃した。”手”が熱したナイフでバターを切るようにぶつんと斬り裂かれた――というのを僕は、”手”が地面に転がったのを見てから理解した。

 僕だってボーッとしていない。ドミネーターを抜いて、撃つ。氷の弾丸が母さんの形をした魔物を貫く 

 手応えはない。というのも表情が欠片として変わらないからだ。ローブの奥から生えている”手”が変わらず蠢いている。

 胸が痛い。息が辛い。魔物だと分かっている。ほとんど反射だけど体は動いている。戦える。

 けど辛い。たまらなく苦しい。

 怒りよりも何よりも愛した人に、銃を向けることが殺意を向けるということがあまりにも苦しくて、辛い。

 けれど。

 

 「兄さん、大丈夫?」

 

 ――僕を慮るスーと目が合う。だめだよ。だめなんだ。それじゃあだめなんだ、スー。

 

 「大丈夫だよ」

 

 「辛いならいいよ」

 

 「一字一句同じ言葉を返しておく」

 

 妹に押し付けて、逃げ帰るほど僕は、弱くなりたくない。情けなくなりたくない。

 

 「僕たちでやるんだ、スー」

 

 「……うん」

 

 纏っていたローブが引き千切られた。ボロ切れになったローブが周囲に散る。

 そして、衆目から秘匿されていたものが僕たちの前に現れた。

 母さんの首から無数の”手”が捻れて絡んで、生えている。

 悪夢だった。吐きそうだ。でも夢じゃない。ここでうずくまることはできない。

 逃げ場はない。退路はない。目を覚ますことはできない。

 この母さんの顔をした魔物を殺す。

 

 「行こう、スー」

 

 悪夢の終わりを求めて、僕は、引き金を弾いた。……引けていない? 

 

 「あれ?」

 

 指が動かない? 引き金に触れていない? 触っている感覚がない。手にあるはずのドミネーターの感覚がない。重くない。重さがない。

 

 「……僕の手が、ない?」

 

 「兄さん……!?」

 

 カランカランと後ろから音が聞こえてきた。視界の端で、ドミネーターと僕の手が転がった。

 

 「がっ……!?」

 

 手首から先が斬り落とされた。現実に僕が追いついた途端、想像を絶する苦痛がわめき出す。

 激しすぎる痛みに、めまいがする。強烈な吐き気。さっきまでとはぜんぜん違う。耐えられない。込み上げるものを抑えられない。膝が地面に触れる。残った手がどうにか体を支えた。視界が揺れる。目眩と動機でおかしくなりそうだ。

 

 「兄さん!!!!」

 

 絶叫みたいなスーの悲鳴が聞こえた。駆け寄ってくる足音。だめだ。スー。来てはいけない。

 しかし、それも声にならない。呻きと嘔吐物だけが僕の唇を割って、地面に落ちる。

 立ち上がれない。今の僕の意思力では解決できなかった。

 

 「兄さん、手、手が……!! そんな、兄さん、兄さん!!」

 

 「……ス、ー、だめ、だ」

 

 声を絞り出して、なんとか上げた顔は、スーの蒼白な顔とその後ろ。静かに、ひたひたと”手”を足の様に扱って迫ってくる魔物の姿を見た。滑るように、距離が縮まる。

 

 「後、ろ……!!」

 

 「分かってる!」

 

 石突が背後の魔物へ突き出して、”手”を弾いた。それか、ら……――クソ。思考がまとまらない。ぐちゃぐちゃの頭の中。落ち着け。息を吸って、吐いて。痛みに慣れろ。

 まずは地面を赤黒く染める血を止める。このままだと出血多量で死にかねない。焼くか凍らせるか……凍らせよう。焼いたら今度こそ気絶しかねない。

 イメージを。魔法を使うイメージを成立させる。痛みに喘ぎながらかざした掌の先に、事象を産み落とすイメージを。

 

 「クリエイト、アイス」

 

 血液ごと切断面に、氷の蓋をする。出血が止まる。少し、マシになった。魔法を使えるくらいの冷静さが残ってた。なんだ案外やれるじゃないか。苦笑が浮かぶ。

 

 「っ……!」

 

 「スー!」

 

 そんなことをしている場合ではなかった。スーが弾き飛ばされてきた。息が荒い。致命傷は無いようだけど先の対戦のダメージが残ってる上、あの魔物の相手。スーでも疲労が見える。

 

 「大丈夫。まだま」

 

 不敵な笑みのスーが大斧を構え直――消えた。違う。吹き飛ばされた!! ”手”をまとめて絡めて捻って作った巨大な拳がスーの体を遥か後方、闘技場の壁まで叩き込んでいた。

 なんて膂力だ。驚愕する僕の背中に怖気が走る。残ったエリミネーターを引き抜く。

 

 「……クソ」

 

 思わず舌打ちをした。ほぼゼロ距離に、母さんの顔があった。無数の”手”が僕に絡みつく。無数の氷のように冷たい蛇に纏わりつかれて、締め付けられる感覚。

 それは、ついに首に到達した。

 抗うこともできず、僕の視界は、真っ黒に染まった。

 

 

 +++

 

 

 魔王子種〈ハンド〉。

 闘技場へ奇襲を仕掛けてきた魔物をギルドはこう名付けた。

 魔王子種とは、魔王種の子、分裂体である。

 過去に出現した魔王種でいえば、魔王種〈ロードオブゴブリン〉における各種ゴブリン。

 この魔王子種のゴブリンは、現在出現している各種ゴブリンとは、格が違う強さを持っている。

 

 つまり、此度出現したのは、魔王種。

 その名も魔王種〈ハンドレス〉。文字通り途切れぬ、無数の”手”を持つ魔王。本体不明の魔王種。

 別種の魔物の討伐任務などに出ていた複数の冒険者の目撃情報からギルドが存在を予見し、魔王子種〈ハンド〉が殺戮を振りまき、人々を連れ去ったことも魔王種〈ハンドレス〉の存在を補強した。

 群れを作る魔物の集成として、獲物を巣に持ち帰るというものがあり、なによりその奇っ怪な外観。現在まで確認されていなかったタイプの魔物は、親となる魔王種の出現が高い確率で考えられる。

 ただ魔王種〈ストリボーグ〉の出現時に行方不明となった者たちと同じ顔をしていることへの因果関係は不明とされている。

 

 こうして、〈ダイヤスート〉領に新たに出現した魔王種に、私たち冒険者は挑むこととなった。

 あまりに短いスパンの出現に、領民どころか冒険者すら暗い表情を隠せなかった。

 

 そして、これが物語のターニングポイント。本来ならもう2年は先のこと。あまりに早すぎる。

 シルヴァとスー、本来1人なのに、2人いるから早まった? 原作との大きな違いはそこ。それ以外、考えられない。

 たったそれだけの要素がイベント進行を早めたということ?

 それでも。そうだとしても。

 

 「……なにが、原作知識よ。大切なことを思い出せないなら意味ないじゃない」

 

 今回のことを私が事前に思い出せていればこうならなかった。

 もっといい結果があった、はず。

 無数の”手”が迫る。風切りが聞こえる。文字通りの死が私へ向かってくる。

 属性装填・雷(サンダーエンチャント)。抜刀を放つ。苛立ちを込めても、刃の冴えには問題ないと自負してる。

 重い音をたてて、”手”が地面を転がり、断面から零れる青の鮮血が地を汚す。

 

 「中途半端な攻略情報が私の邪魔をする」

 

 苦虫を噛み潰しながら私は、”手”を失った魔王子種〈ハンド〉の、見覚えのない顔を叩き斬った。

 今、私、ハオリア・ツァー・アルデバラニアは、〈ダイヤスート〉領近隣に広がる大森林に居た。

 くしゃりと短く生えた草を踏み、柔らかい土に足跡をつける。視線を巡らせて、薄暗い森の中に視線を配り、再び歩き出した。

 森は深い。森は広い。それでもこうして進まなければ私はやっていられなかった。

 焦りが、私の背中を押す。もっと早く、もっと素早く往けと。

 このどこかに、シルヴァが囚われている。

 

 「一刻も早く、助け出さなきゃ」

 

 「その前にお前が倒れたら意味がないんだが?」

 

 がさりと頭上の木々の隙間から落ちてきたカイムが私の前に立ち塞がった。

 

 「……なによ」

 

 「何もクソもないだろうが。言ったままだ。……お前臭うぞ」

 

 「うるさいわね!! こっちはあのトーナメントからずっと探しっぱなしだからしょうがないじゃない!!」

 

 かっと思わず頭に血が登った。頬も熱い。デリカシーってこと知らないのかしら!!

 

 「そういうところを言ってるんだよな……」

 

 ぐっ……。ぐうの音も出ない。反論が出てこない。私の行動が向こう見ずなのは分かってる。

 

 「んで、手がかりはなんか見つかったのかよ」

 

 さらに痛いところを突かれた。

 収穫ゼロ。現状、原作で言うイベント進行のフラグを1つも拾えていない。

 原作では、この森のフィールド、ダイヤ森林を探索して、ランダムで落ちている痕跡フラグを一定数入手することでイベントが進行する……そういう内容だったはず。

 まあその進捗が0である以上、私は、ただただ無駄な雑魚狩りに勤しんでいた。

 

 「……これから見つけるわよ」

 

 「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜……」

 

 クソデカため息やめなさいよ。

 

 「スーもおとなしくしてるんだから、お前も一旦戻ってこい。臭いし」

 

 「2回も言わない!! デリカシー無いわけ!?」

 

 「へいへい、それになによりもその酷い顔を治すためにもな」

 

 反省の欠片もない返事に私の怒りもマックスゲージ。3本消費必殺技も出…………。

 

 「……え、私そんな酷い顔してる?」

 

 「俺じゃなきゃ魔物だと思ってる」

 

 「言い過ぎじゃない!?」

 

 




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