TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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第31話 VS〈ハンドレス〉 その6:雷公鞭(レイ・ル・ザン)

 

 シルヴァとスー、アーシェ、皆でダイヤスート大森林を見下ろした崖の上に、私は立っていた。

 戦場は、アーシェたちに任せた。不安はある。けれど私でなければこれはできないもの。

 私は視ていた。戦場を俯瞰して、シルヴァの合図を受けて、もっとも連携ができるのはここだと思った。

 

 「ここならまだ援護ができる――雷閃槍(ジュピター・アキュリス)

 

 下でやっていたのと同じように、雷を降らせる。ここからでも木々の隙間を見て、雷の槍を降らせることはできなくもない。私には視えているから。

 

 月の属性は、元々、魔法属性に含まれない不遇の属性だった。

 出自は、ある山奥のある星見の一族が始まりだという。

 星を見続け、星へ憧れ、星を繋ぎ、星へ手を伸ばす過程で月の属性は芽生えた。

 そこから高名な占い師が生まれ、とある大国で抱え込まれた結果、月の属性は、世間に広まった。

 それは、諸説ある内の一つで、他にも星から来た人外からもたらされたのだとか、この世界の外からやってきたもっとも邪悪な属性なのだとかというのもある。

 だけど私は、そういうのは好きじゃない。だって、ロマンチックじゃないもの。

 

 『頼みました、ハオさん』

 

 指輪から声が聞こえる。シルヴァの声が聞こえた。遠く離れた彼の声が聞こえる。

 

 「――任せて」

 

 遠い所に思いを馳せて、せめてもっと近くで見たい思った誰かが居てくれたおかげ、私は、こうして、シルヴァを、スーを、カイムを、みんなを助けられる。

 この指輪だって、月の魔法が付与されているし、私の両目に付与(エンチャ)した魔法は、星見たちが星々の下、観察に使用した魔法。星見の眼(スターゲイザー)。簡単に言えば、遠視の魔法。

 

 「視えた」

 

 魔王種の核を視認できた。シルヴァのマーキングがしっかりと視えてたおかげだ。大地と星の距離に比べればこんなの遠いに入らない。

 後は、核を撃ち抜くだけ――ばちりと私の魔力が大気を鳴らす。取る構えは、いわゆる居合。落ち着けよ、私。

外せば次はない。これで確実に打ち止めになる。

 

 「……|属性装填・雷《サンダー・エンチャント」

 

 更に、属性装填・雷(サンダー・エンチャント)。次に、属性装填・雷(サンダー・エンチャント)。ついで、属性装填・雷(サンダー・エンチャント)。重ねて、属性装填・雷(サンダー・エンチャント)属性装填・雷(サンダー・エンチャント)属性装填・雷(サンダー・エンチャント)――――。

 属性装填することの数、百と八。

 

「竜すら墜とす私の刃を見るがいい」

 

 私の制御できる最大限。私の出せる最高出力。その結果を私は、こう呼んでいる。

 

 「――――征け、雷公鞭《レイ・ル・ザン》」

 

 

 +++

 

 

『――――征け、雷公鞭《レイ・ル・ザン》』

   

 ハオさんの声。魔法が発動したんだ! 何が起こる? 僕はできるとだけ聞いてる。核の位置を伝えるだけどいいと。つまりこの魔法こそがハオさんの切り札!

 

 見なければ、見届けなければと目を開いた時、僕たちは〈ハンド〉に囲まれていた。それも今にも襲いかかってくる瞬間だった。

 

 その時、鼓膜を引き裂くばかりの雷鳴が響いた。

 

次に衝撃波。上空から強烈に僕らを叩く。木々が大きく揺れ動き、僕もスーも、〈ハンド〉すらも体勢を崩すほどだった。

一瞬、僕らは、風に弄ばられる枯れ葉だった。

 それから〈ハンド〉たちが一斉に空を見上げた。僕とスーもつられて空を見上げて――巨大な光があった。いや、光の軌跡だ。

 魔法の発動は、もう終わっている。

 強烈な白の輝き。木々の枝葉と〈ハンドレス〉を焼き切りながら残光でありながらも僕らの目を焼く光。畏怖すら覚える魔力の残光。直感的に、あれがなにか理解していた。 

 

 「ハオの魔法……」

 

 スーがぽつりと呟いた。僕は、答えることもできずにそれを見ているしかできなかった。

 遅れて、木々の焼ける臭いと、なんとも言えない肉の焼けるような、しかしどこか無機物感のある臭いが鼻を突く。

〈ハンドレス〉に、穴が開いてる。丁度、核のあった箇所。おそらく、貫通してる。そこから強い臭いがしてる。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 魔法の着弾から少し遅れて、強烈な咆哮――いや、悲鳴がどこからともなく大気に響いた。その後、地鳴りを上げて〈ハンド〉たちが糸の切れた操り人形のように、一斉に地に伏した。ぴくぴくと震えている。立ち上がる様子はない。

 これは、〈ハンド 〉……違う。〈ハンドレス〉の悲鳴だ。命を、核を斬り裂かれた、〈ハンドレス〉の絶叫。

魔法があまりに速くて、〈ハンドレス〉が現実を認識するまでにラグが生じたんだ。僕は、思ったより冷静に状況を分析していた。

その断末魔めいた絶叫がしばらく辺りに響いて……止んだ。

 

 「……?」

 

 スーが小首をかしげる。どうなった……? 僕も結果がわからず周囲を見回した。

 〈ハンド〉は、変らず地に伏したまま、動き出す様子はない。これは、死んでいる……?

 

 「……兄さん。〈ハンドレス〉は?」

 

 「あ、ああ」

 

 スーに言われて慌てて探査する。核の様子を――見るまでもなかった。魔力が流れていない。魔力生命体の体から魔翼が失われていた。循環していた魔力が次々と消滅していく。

 そして、零になった。もう、そこに命はない。

 

 「死んでる……」

 

 「……じゃあ。私たち……勝ったの……?」

 

 「そう、だ――うお……!」

 

 力の抜けたスーの腕からするっと僕の体は、地面に落ちた。痛い。けどそんなことが気にならないほど……。

 

 「……疲れた」

 

 ごろんと寝返り打った僕の口から自然と出てきた。あまりの疲れにまぶたが意識を無視して降りてきそうになる。

 木々の隙間から温かい日差しが差し込んでくる。昼間だというのに薄暗かったのは、〈ハンドレス〉が居たからだろう。あの手が木々の隙間を塞いでいたんだ。そんなことをぼんやり考える頭も霧がかっていく。

 

 「疲れたねえ……」

 

 スーもぺたりと座り込んだのが見えた。風が吹く。草木の香りと夕暮れの穏やかさをはらんだ風。心地が良い。

 

 「ああ、終わったんだな……」

 

 「うん……」

 

 「? スー……?」

 

 ぱたんと胸元にスーが倒れ込んできた。一瞬、血の気が引いたけど……。

 

 「……なんだ。寝てるだけか」

 

 疲れたもんね……。軽くスーの頭をなでた。ゆっくりお休み。

 

 「僕も寝てしまいそうだ」

 

 終わりに安堵と疲れからくる睡魔。それと同時に僕の胸をいっぱいに埋め尽くしているものがあった。

 魔王種の討伐の達成感。自分だけの力ではないのは分かっている。当たり前だ。僕は、終始足手まといが目立った。

 けどそれでも、こう口に出さずにはいられなかった。

 

 「やったよ、母さん」

 

 魔王種への復讐心がほんの少し、本当に少しだけ満たされた気がした。

 母さんの仇を取ることができた。殺したのは違うかもしれないけど、あんなことをされて許せるはずがない。

 でもまだだ。まだ終わっていない。

 まだ殺すべき相手は、のうのうと生きている。ぼっと暗い炎が心の中で勢いを増すのを感じた。

 

 「あの魔王種を、〈ストリボーグ〉を、父さんの仇を殺してみせる」

 

 志を新たにして――僕は、情けないことにぷすんと燃料切れ。いつのまにか闇の中に落ちていた。底がない闇。だけど居心地がいい。暖かな闇の中。

 

 「お疲れ様」

 

 ハオさんの声が聞こえた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「ほんとお疲れ様ね……」

 

 ああああ〜〜〜〜〜!! 疲れた!! 私も2人と一緒に寝転がりたい!! すやすやと寝息をたてるシルヴァとスーの頭を撫でながら心の底から思った。

雷公鞭(レイ・ル・ザン)は、私の正真正銘の切り札。今使える最強の魔法。威力も強力無比だと思ってる。

だから、これを撃てばしばらく魔法は使えない。シンプルガス欠。めちゃ疲れる。

 

 「……まあそういうわけにはいかないわよね」

 

 見回してみれば〈ハンド〉の死体。魔力の供給が止まって動かない。徐々に消滅するだろうけど、元になった人のこともあるから回収して、できれば家族の元に届けてあげたい。

 この〈ハンドレス〉の後始末は……私が考えることじゃないか。

 魔王種は災害でもあるけど、ある意味資源でもある。魔力生命体だから大型の、それこそ街を支える魔道具になったり、強力な武器になったり。使い道は、私の知ってる以上にある。

 だから領主とかギルドとかに任せておけばいい。

 

 「だったら寝てもいいんじゃない?」

 

 完璧なアンサーね。問題解決。じゃあ私もお隣で川の字になりましょうかね。

 

 「良いわけ無いだろ」

 

 横になろうとした辺りで、邪魔が入った。

 

 「あ、カイム。生きてたのね」

 

 「おかげさまでな」

 

 「外套、穴だらけじゃない」

 

 「あ? うわ、マジか……。手形ができてる……。ホラーかよ……」

 

 いつもの茶色の外套を広げてカイムがぼやいているのを見てると笑いがこみ上げてきた。ふふ、おかし。

 

 「笑うなよ……」

 

 「笑うしか無いじゃない。どうせ予備いっぱいあるでしょ」

 

 「そりゃそうだけどよ。高いんだぞこれ」

 

 縫って……修理とか……自分だとできないな……。などなどぶつぶつ呟くカイムに、呆れたように口を挟んだ。

 

 「報酬に期待しなさいよ」

 

 「そうだな。そうするか……」

 

 「それで、いつまで突っ立ってるのよ」

 

 「いつまでって……。ほら後片付けとかあるからさっさと戻るぞ」

 

 クソ真面目なこと言うわね。いいじゃない。ちょっとぐらい休憩したって。どうしましょう。どうやったらカイムを引きずり込めるかしら。

 

 「面倒くさいですわね」

 

 「? うお!!」

 

 とても面倒くさくなったのでカイムの腕を無理矢理引っ張って転がした。普段ならこうもいかないでしょうけど、カイムはあっさり足をもつらせて転がった。

 

 「なーんだ。君も疲れてるじゃない」

 

 「そりゃ、そうだろ」

 

 転がったまま私を不機嫌そうに睨むカイムに、笑みがこぼれる。

 

 「じゃあ、皆で一休みしましょう。もうちょっと遅くなっても構わないわよ。

 

 カイムの頭についている草葉を払って。

 

 「私たちは十分頑張ったんだから」

 

 「……それも、そうだな」

 

 少し休む。そう言って、カイムは目を瞑った。あっという間に穏やかな呼吸音が聞こえてきた。ほとんど気絶ね、これ。大きなあくびをしてから、私も皆にならってぱたんとその場に倒れ込んだ。

 柔らかい、暖かな日差し。硬すぎず柔らかすぎない土。肌を刺さない程度に支えてくれる草。ああ、お昼寝にはぴったりね。

 

 ……これで魔王種を一つ滅ぼした。次こそきっと本番。スケジュールが狂いに狂った以上、いつ《ストリボーグ》が来るかは分からない。もしかしたら別の魔王種が襲来するかもしれない。

 だけど私たちは、進まなきゃいけない。立ち止まっている暇はない。

 そこまで考えて、限界がきた。後は、起きてから考えよう。今は、もう無理。

 

 「おわったおわった」

 

 瞼を閉じるとまるで落ちるように、安らかな闇へと私は落ちていった。

 

 

〈System〉.........................................................

 

 ■個体名:魔王種〈ハンドレス〉の討伐を確認。

  天秤神〈ニュートラル〉より討伐によるステータスアップボーナスの付与を実行......完了。

  

 ○個体名:シルヴァ・フィルメント 13歳(男)

  ○ステータス

   スタミナ : D→D++

   パワー  : E+

   スピード : E+→D++

   インテリジェンス : B→B++

   ラック : E

  ○魔法属性:水、火

  ○装備:魔導銃ドミネーター、魔導銃エリミネーター

 

 ○個体名:スー・フィルメント 13歳(女)

  ○ステータス

   スタミナ : C→C++

   パワー  : C→C++

   スピード : C+→B+

   インテリジェンス : D

   ラック : E

  ○魔法属性:水、火

  ○装備:大斧

 

.....................................................〈GoodBye〉

 

 

 …………なにこれ?

 

 




以上で〈ハンドレス〉編終了です。
次は海です。おそらく。夏ですからね

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