TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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第4話 冒険者たちのランチタイム

 この街〈ユーフォルビア〉の冒険者ギルドは、南ブロック中央よりの人通りが多い通りに面している。

 冒険者には、お馴染みのギルドのマーク――金と剣を乗せた天秤――の描かれた看板が門の上に飾られてる。私は、その目の前に立っていた。

 今日は、休みだからいつもの鎧と腰の剣は置いてきた。お気にの黒のレザージャケットをシャツに羽織って、履き古しの青のボトムス。動きやすいから休みの日は、だいたいこんな格好。

 

 「…………」

 

 道の真ん中に立ってるから、通行人の視線が痛い。さっさと入ってしまえばいいんだけど、この中にカイムがいると思うと足が重たい。

 別に、私とカイムの仲が悪いわけではない。悪くない。悪くなければここまでパーティとしてやってこれてないと思う。

 ……気まずいの一点よ。子どもか私は。意を決して、ギルドの方に一歩踏み出した。

 

 「何やってんだよ。入らないのか?」

 

 「――カイム。遅刻よ」

 

 「正午だろ?」

 

 足を止めて、カイムに、ぴしりと指を突きつけたらゴーンゴーンと遠くの方で鐘が鳴った。

 た、タイミングが……。空気読みなさいよ!! 

 ぐぬった私の前で、いつものスカした顔でカイムは、口の端を上げていた。

 

 「ほら、丁度鳴った。正午ピッタリだな」

 

 「……通行の邪魔になるからさっさと入るわよ!」

 

 「へいへい」

 

 「へいは、一回!」

 

 「そこ修正するとこか……?」

 

 冒険者ギルドの一階には、酒場とギルドの受付が併設されてて、昼間っから呑んだくれた冒険者や仕事帰りの冒険者とか仕事を探している冒険者とかで賑わっている。

 空いてるテーブルに腰掛けるとカイムも向かって座った。話をしにきただけだけど……。

 

 「とりあえず、ビール2つお願いー」

 

 「昼間から酒かよ」

 

 「どうせ頼むでしょ」

 

 「いや、まあそうだが……」

 

 呆れ顔から渋面になって、言葉尻を濁すカイム。何をしおらしい態度して。何を企んでるの?

 

 「この前は、飲みすぎたからな……」

 

 「……酒の失敗を反省する心があったのね」

 

 「俺をなんだと思ってる……!?」

 

 「冗談よ。冗談」

 

 こういうからかったら反応いいのが面白いのよね。

 なにより相棒(・・)として相性がいい。もちこんなこっ恥ずかしいこと言ってないわよ。カイムが調子乗っちゃうわ。馬鹿みたいに鼻が伸びちゃうに違いない。

 

 (……まあ)

 

 スカした顔で、ビール啜ってるこいつが居なきゃ、私は、きっと今頃、大地の肥やしになってる。

 それくらいの恩は感じてる。

 

 「あ、私のエビちゃん勝手に食べるな!」

 

 「さっきの仕返しだ」

 

 エビからを勝手に食べだしたのは許さないけど。分けるには分けるけど礼儀ってもんがあるでしょーが!

 

 「お前も俺のからあげ食ってるからイーブンだろ」

 

 「……それはそうね」

 

 論破されてないわよ。若鶏の唐揚げ美味しいわね。ビールに最高に合う。

 今思ったけどここのメニューほとんど居酒屋じゃない。転生者知識があってようやく気づくことが微妙すぎじゃない? 

 

 「ほら、これお前の分」

 

 「脈絡なく出てきたわね……。ま、助かるわ」

 

 「確認してくれ」

 

 「はいはい」

 

 受け取った紙袋をそのまま懐に仕舞おうとしたら止められた(インターセプト)。ちゃんと数えてるだろうから問題ないでしょ……。

 渡された紙袋を開いて、詰め込まれている紙幣を軽く数える。

 

 「そういえばこれ元々いくらなの?」

 

 「ん……」

 

 骨付きの鶏の唐揚げを齧りながらカイムは、空いてる手の指を立てた。なるほど……。金払いがいいわね。かなり、いえ結構。ま、入用だから助かるわね。

 

 「それ美味しそうね」

 

 「美味い。前の街のギルドよりここは揚げ物が美味いな。油か?」

 

 「分かる。新しいわ。ちゃんと換えてるわね」

 

 これは同感。それにご飯の美味しいギルドは、贔屓したくなる。しばらく、ここにいるから助かるわ。

 

 「……ここの領主は、経営上手だな」

 

 「急に何よ」

 

 おかわりしたビールを啜るカイムの横顔は、ちょっと赤い。酒が入って、口が回るようになってきたわね。

 

 「今回の報酬。ありゃ、討伐作戦で、魔王種を殺せた時くらいの報酬はあった。今回は、どうにか追い払っただけなのにそれだけ払ってる。金払いがいい。これだけで普通に好印象だ」

 

 「なによりここでケチって、次の時、冒険者が働かないって状況を避けるための布石でしょうね。追い払っただけで、魔王種は、また来るかもしれない。

 それに、これだけもらえるなら討伐できた時が楽しみ」

 

 「それでだ。ここの領主は、魔王種被災者への対応もしっかりしてる。孤児院もちら見してきたが悪い印象はなかった」

 

 「カイム。私、もう決めたからだめよ」

 

 「……なんでだ」

 

 「あの子たちに、才能があるから」

 

 ……このままだとあの夜の繰り返しになっちゃうわね。あの夜、あの時と同じ言葉を私は、口にしながらそう思った。

 才能がある。あの子たちは、しっかり育てさえすれば必ず魔王種を倒せる。そして、この世界を守れる。

 私が転生者だからこんな確信があるんだけどね。残念ながらそんなこと言えるわけがない。原作知識とか狂ったとしか思われないわ。

 

 「ねえ、カイム。どうしてそんなに引き止めてくれるの? パーティからの離脱なんてよくあることじゃない。それともあれとか。私が好きとか?」

 

 「そういうのじゃねえよ」

 

 わりと本気な顔で否定された。

 

 「……ごめん」

 

 「別にいい」

 

 あ、怒らせたかも……。ほんの少し、沈黙が続いた。ウェイターの人が気まずそうに運んできたサラダをむしゃむしゃ食べて、やり過ごしているとカイムが口を開いた。

 

 「理由だがお前が抜けると前衛が減る。息のあった連携を取れるようになるのは、お前も分かってると思うがかなり時間がかかる。なにより前に出て魔法の援護と指揮を取れるやつは、既にパーティに入ってる」

 

 だから、とビールを挟んで。

 

 「お前は、必要不可欠だ。俺たちが、雷の双牙(ライトニング・タスク)であるために。俺たちの目標を成し遂げるために」

 

 目を逸らしつつ真面目な顔で、カイムは、更に残っていた骨付き肉を齧った。

 分かった。私が会うの気まずかった理由。言葉に詰まったのと後ろめたさを誤魔化すのにビールをゆっくり啜った。

 

 ――私とカイムで始めたことをないがしろにすることが私は、後ろめたい。けど、でも。

 

 「いえ、私は、あの子たちが私たちの目標を、魔王種の殲滅を成し遂げる力になってくれると確信している」

 

 

 +++

 

 

 「兄さん、これ間違いなく痴話喧嘩よ。この2人絶対付き合ってるわ」

 

 「そうとは限らないだろ……!!」

 

 スーの口車に乗せられた僕は、ハオさんの後をつけて、冒険者ギルドまでやってきていた。酒場が併設されてて助かった。これなら冒険者でもない僕らが紛れ込んでも問題ない。

 結構テーブルが近いが簡単には、見つからない工夫をしてきたから大丈夫だろう。大きめのコートとフードで顔と体を隠している。これなら目立たなければ僕たちだとは分からないと思う。

 

 「兄さんは、子どもね。こんな情熱的なやり取り……恋人同士じゃないとできないわ」

 

 「いや、ああいう会話は普通、付き合ってたらでてこないだろ……多分」

 

 「だめね。だめだめよ。しょうがないわね、兄さん」

 

 スーは、やれやれと首を振る。僕の言ったことなにかおかしかったか? 分からない。この子というか女の子が分からない。

 恋愛小説でも読んでみたほうがいいのかな。父さん、教えてくれ……。母さんとどうやって仲良くなったんだ?

 いや、今、重要なのはそこじゃない。

 

 「魔王種の殲滅……」

 

 スケールが大きすぎて、理解が追いつかない。でも少し合点がいった。その手段を増やすために僕らを育てるんだろう。でも……。

 

 「才能、か」

 

 何をもって、才能というんだろう。僕らの何を見て、ハオさんは、才能を感じたんだろう。

 

 「それよりなにか頼みましょう、兄さん。折角酒場なんだからお酒とかどう? 私気になるわ」

 

 「子どもは頼めないよ。ジュースにしておきなさい」

 

 「しょうがない兄さん、こういうところよ」

 

 「こういうところは、別に関係ないだろ。おとなしくジュースにしときなさい」

 

 「このカルーアミルクにしてみるわ。ミルクだしいいでしょう?」

 

 「……まあ、いいだろう」

 

 聞き覚えがない飲み物だけどミルクだし大丈夫だろう……。

 頷くとぱっと嬉しそうにスーは、笑った。

 ……できる限り、楽しそうにして、笑っていて欲しいしな。

 

 「やった。お腹も減ったし他も頼みましょう。何にする?」

 

 「好きなの頼んでいいよ」

 

 「兄さんも選んで。私だけで選んでもつまらないわ」

 

 「はいはい……」

 

 ウキウキでメニューをめくるスーの脇から覗き込んでもやっぱりハオさんの方が僕は、気になる。何の会話をしているだろう。

 

 「ね、兄さん。何にする? 揚げ物盛り合わせ、美味しそうよ」

 

 「ああ、ハオさんも美味いって言ってたな」

 

 「ちゃんと盗み聞きしてるわね、しょうがない兄さん。この定食も美味しそう……酒場なのに定食メニューがあるのね」

 

 「昼間は、食事に来る人も多いんだよ。多分だけど」

 

 「なるほどね。兄さんは、このお子様ランチとかいいんじゃない? ギルド特製おもちゃ付きらしいわよ」

 

 「え? ん? ああ、それでいいよ」

 

 「……本当にまったく。しょうがない兄さんです。いいです。私が決めます」

 

 スーは、大きな大きな溜息を吐いた。しまったな。生返事すぎた。

 

 「へ? あ、あー……ごめん」

 

 「ふーんだ。あ、注文お願いしまーす」

 

 「はーい」

 

 上の空に答えてしまったからかスーを怒らせてしまった。ぷいっと横を向いて、通りすがりのウェイターに声をかけた。 

 

 「えーっと、カルーアミルクとレモネード、後は、これとこれとあ、これも――――」

 

 「いや、スー頼みすぎだ」

 

 「全部食べるから大丈夫」

 

 「そういう問題じゃなくてだな……」

 

 「? ……あの、君たち」

 

 「え? あ、なんでしょう」

 

 「子どもですよね? カルーアミルク、お酒なんですが……」

 

 「……エルフです」

 

 スー……!! その嘘は、すぐバレる! と思った矢先、僕の目の前でフードがふわっと捲れた。ウェイターさんが向けた指から一瞬、風が吹いた。魔法だ。

 

 「やっぱり子どもだ。未成年飲酒はだめですよ〜〜」

 

 「カルーアミルクがお酒なのを知りませんでした。ごめんなさい」

 

 すごい棒読みだな、妹よ。それじゃ誤魔化せないぞ。ていうか知ってただろ。この場合、知らなかった僕が悪いのか?

 

 「あれ、スーじゃない。そっちは、シルヴァよね」

 

 …………。

 

 「人違いです……」

 

 「無理に声低くしても分かるわよ?」

  

 ウェイターさんの優しい視線が効く。背中を突くハオさんの視線が痛い。観念した僕は、フードを脱いだ。

 

 「やっぱりシルヴァじゃない! どうしたの? そんな季節外れなの着て」

 

 どう説明しよう。スーに助け船を求めたけどプイと視線を逸らされた。

 

 「あ、カルーアやめて、ホットミルク2つお願いします。ドリンクと料理はあっちのテーブルに」

 

 え? 合流するつもりなのか? なんて思っているとあっという間に、状況が整えられて、いつの間にかハオさんと同じテーブルに座っていた。

 ハオさんと僕が向かい合って、スーとカイムさんがその隣。

 

 「ふうん、この二人が例の?」

 

 「こら。あんまりじろじろ見ない」

 

 ハオさんに、窘められたカイムさんが肩を竦めた。ありがたい……。刺すような視線に、穴だらけにされるところだった。ちょっと苦手かもしれない。

 

 「へいへい」

 

 「へいじゃなくて、はい。黙ってこれでも食べてなさい」

 

 「はいはい」

 

 「あ、私も食べたい」

 

 「ん? ほら、食いな」

 

 「ありがと、おじさん」

 

 「せめてお兄さんと言え。俺は、カイムだ。お前は?」

 

 「スー。あっ、おじさんケチャップ頂戴」

 

 「せめてお兄さんとか言わない? おじさんはあんまりだろ」

 

 「おじさんは、おじさんじゃない? 私から見たらおじさんよ」

 

 「最近の子って、情けも容赦もねえなあ……。せめて名前で呼べ」

 

 「分かった、カイム」

 

 「まったく……。で、こんなところで何してるの? シルヴァ」

 

 渡されたフライドポテトをモグモグカリカリとカイムとスーが頬張り始めたのを片目に、ハオさんが話を切り出した。なんて答えよう。こういう時、なんて答えたらいいんだろう。

 …………教えてくれ、母さん。

 

 「えっと……」

 

 答えは、もちろん返ってこないので自分で考えるしか無い。

 

 「ま、いいわ。ご飯食べちゃいなさいよ。お昼まだなんでしょ?」

 

 言葉に詰まってる僕を見兼ねたのか微笑んだハオさんは、パンの入ったバスケットを寄せてきた。

 

 「……種類多くないです? ここ酒場ですよね」

 

 「……最近は、色々新規開拓が必要なんでしょう。酒場で朝食を食べる冒険者も多いからね」

 

 「なるほど。あ、このクロワッサン、美味しいですよ」

 

 「え? ほんと? 私も食べる」

 

 「パン、好きなんです?」

 

 「好きよ。美味しいものは何でも好き」

 

 クロワッサンを手にとって、ぱくっと一口。幸せそうに頬を綻ばせる。3口で無くなった。はっや。

 

 「お、メロンパンだ。あれメロンパン? 酒場のメニューじゃないわねほんと……まあいっか」

 

 いっぱい食べる君が好き。完璧にときめいてしまった。心臓バクバクで死にそうだ、僕。

 

 「それで、お二人は、カップルなんですか? それとも元の関係?」

 

 スー、頼むから僕の心臓を労ってくれ……。

 

 

 +++

 

 

 「どっちでもないわよ!」

 

 突然、とんでもないことを言い出すわね……! つい大げさに反応してしまった。

 でも子どもの時、私もこうだったかもしれないわね。お兄様やお姉様にこういう話をしたような朧気な記憶が蘇ってくる。こういう気持ちだったのね、お兄様、お姉様……。

 

 「まあ、そうだな。ただのパーティのリーダーと副リーダーって関係だ」

 

 「そうよ」

 

 まったくもう。ついぐびぐびとビールを飲んでしまう。ちょっと飲み過ぎかも。控えなきゃ。

 

 「……しかし、お前が才能があるっていうのも分かる気がするな」

 

 「あら、そう?」

 

 え?! 何、まさか貴方もそういうの? 私と同じ? 突然のカミングアウト!? 驚愕希望、色々な感情ほんの一瞬で私の中で吹き荒れた。

 

 「この髪色は、滅びた北方の国々の貴族のものだ。珍しい魔法を持っていてもおかしくない」

 

 そういうこと……。安心と落胆が一緒にやってきて、なんとか落ち着かせてくれた。ビールもその役を買ってくれてたけどもう空っぽね。次は、レモンサワーにしましょ。

 

 「だけどそれだけじゃ、魔王種を滅ぼすくらいの才能だなんて言えないだろ。在野の魔法使いでもこれくらいのやつらは、それなりにいる」

 

 なるほど。そうきたか。向けられた視線の意図を私は、理解した。

 

 「あくまで、そういう姿勢ね」

 

 「ああ、そういうことだ。これくらいの才能ならこいつらだけでもやってける。拾った責任分、生き残る方法を教えてやればつり合うだろ。

 俺の時は、こんな親切心溢れたやつはいなかった。運がいい」

 

 「……私は、そんな無責任なことはできない」

 

 「俺との目標を投げ出すのは、無責任じゃないのか?」

 

 「私たちだけが殺し続けてもいずれ行き詰まる。もっと才能のある人を育てるべき。それがこの子たちで、私は、この子たちが魔王種を滅ぼす確信がある」

 

 「確信、ね……」

 

 納得した様子が欠片もないカイム。当たり前か。私の確信が理解できないんだ。確信に至る理由を私は、示せていない。そこを突かないのは、彼の優しさ。

 最低じゃない、私……。

 

 「じゃあ、そうだな。こういうのでどうだ」

 

 「こういうの?」

 

 「半年以内だ。こいつらが俺に一撃でも入れられれば認めてやるよ。お前の確信も、こいつらも」

 

 「それは……」

 

 半年。カイムなりの譲歩だと分かる。けど、半年で彼に一撃を? この子たちが? 

 ちらっと二人を見る。二人共食事の手を止めている。当たり前ね。

 

 「魔王種を滅ぼすんだろ。それくらい速度感無いと滅ぼせず結局人生終わっちまうぜ」

 

 「だからって、ズブの素人に、そんな無茶な条件を!」

 

 カイムは、私情も何も抜きにして凄腕だ。それだけは胸を張って言える。だからこそこの条件が無茶無謀。

 二人に才能があるという確信があっても私の中には、無理だという私がいる。

 転生者としての私じゃなくて、この世界を生き抜いてきた私。カイムを見てきて、信頼している私が訴えかけてくる。

 

 「……やります」

 

 「私もやってあげる」

 

 シルヴァとスーの宣言。カイムは、「へえ」と笑う。私は、なにか言おうとして――まるごと捨てた。この子たちがやると言っている。私がどんな形であろうと才能があると見込んだ二人がやると言っている。

 ――信じなくてどうするのよ、私。

 

 「いいのね? 二人とも」

 

 「ええ、いくら僕でもこんなに言われて引き下がれるほど温厚だったつもりはないです」

 

 冷たい理性と燃える決意が目に見えて分かった。シルヴァの真っ直ぐな意思に、私は応えなければならないと思った。

 

 「魔王種より弱い人に勝てなきゃ魔王種に勝つなんて夢のまた夢よ」

 

 大胆不敵とも言える言葉。スー、怖いもの知らずね。いい胆力だわ。素敵よ。

 

 「――カイム。受けて立つわ」

 

 「ああ、楽しみにしてる」

  

 絶対、間違ってたって言わせてやるんだから。決意新たにした私は、二人に言う。

 

 「折角、ギルドに来てるんだから登録、やってくわよ!」

 

 

 +++

 

 

 「スー」

 

 「別に、私、兄さんに気をつかってないわよ」

 

 小声の兄さんは、心配そう。まったく。関係ないわよ。私は、ただ。

 

 「あんなに舐め腐られているのがムカつくだけよ」

 

 「……そうか」

 

 「そうですよ」

 

 心配ばっかりで、しょうがない兄さんに、ふっと微笑みかけて、私と兄さんを置いて、ずんずんとギルドのカウンター目掛けて歩いていくあの女の背中を見る。

 この人もこの人で、しょうがない人。

 

 「置いていかれるわよ。兄さん」

 

 「ああ、行こう」

 

 私たちは、早足にその背中を追いかけた。

 

 

 +++

 

 

 「……子どもみたいな意地の張り方しちまったなぁ」

 

 カイムは、大きな大きな溜息を吐いて、丁度、ウェイターが持ってきたレモンサワーをグラスの半分くらいまで一気に飲んだ。酸っぱさに顔を顰める。

 自己嫌悪で、カイムは死にそうだった。

 

 「くそ」

 

 残った肉を適当に口に詰め込んで、自分のバカさ加減への腹立たたしさを肉にぶつけた。美味いな。くそ。ローストビーフの火の通り方、天才かよ。カイムは、また頼もうと思った。

 

 「喧嘩継続中ですか」

 

 「一度始めた喧嘩が簡単に収まったことあったか、フォン」

 

 肩を竦めたフォンは、つい先程までハオが座っていた椅子に腰をかけ、空いた皿を片付けに来たウェイターに、コーヒーを頼んだ。

 

 「それで、どうするんです? ハオさんは、パーティを抜けられますか?」

 

 銀縁眼鏡の向こうの瞳がカイムを試すように向けられる。

 いつ見ても教師みたいだ。学校なんて行ったことないカイムだがフォンには、そういう印象を抱いてしまう。

 

 「一時保留」

 

 短く返したカイムは、さっきのハオとの一部始終を軽く話した。するとフォンは、「なるほど」と頷いた。

 

 「意地悪な条件ですね」

 

 「分かってるよ」

 

 「一緒に育てればいいでしょうに」

 

 「いや、俺は、そういうわけにもいかないだろ……。パーティだって……」

 

 「一時的に、休止すればいいでしょう。私たち、随分働き詰めですから休暇があってもいい」

 

 「……それは、確かにそうだな」

 

 いい機会かもしれないな――パーティにもハオにも休息が必要な時かもしれない。

 結成から4年。カイムたちは、休むこと無く走り続けてきた。

 青春も普通も家族も投げ売って、ただずっと真っ直ぐに。目を閉じれば、あっという間に昔に帰れるくらい鮮明に、カイムは思い出せた。

 復讐のみを考えて歩んだ道のりを、カイムは憶えている。

 

 ――お前はどうだよ、ハオ。

 

 内心呟いたカイムは、残ったレモンサワーを飲み干した。

 

 「すっぱ……」

 

 「一気に飲むから……」

 

 




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