TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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月姫やってると全然書くのが進まなくて困りますね。


第6話 魔法使いの実習

 

 私、あの人がよかったな……。慌てて走っていく兄さんの後ろ姿を見ながら私は、オレンジジュースを啜った。

 

 「コップが面白くないからだめなのよ」

 

 どうしても面白い方を選んでしまう。あの人……カイムに当てるのは楽しい。びしょびしょになった姿は、かなり犬っぽくて面白い。後、情けなくなるのも面白い。

 

 「じゃあ、面白いようにやればいいじゃない」

 

 「カイムにやったわ」

 

 「なるほど。そういうこと」

 

 確かにあれは面白いわね。とハオは、笑う。つられて笑いそうになるのを堪えた。

 

 「じゃあ、今ならコップに入れられるってこと?」

 

 「それは……」

 

 どうだろうというのを言わなかった。弱みを見せるみたいで嫌。実際は、イマイチ魔法の感覚が掴めない。

 だからと適当にやったらカイムがびしょ濡れになる。

 

 「魔法の制御は、結構性格によるのよね。スーは、結構大雑把みたいね。 ……まあ、分かる気もするわ」

 

 「そう? ハオは、器用に見えるけど」

 

 「そんなこともないわ。最初は適当にしすぎてそこら中に電気を流しまくって、皆をビリビリさせてた」

 

 「へえ、練習あるのみ?」

 

 「反復練習は基本ね。でも面白くないと続かないなら……」

 

 どうしましょうか。とハオは、周りを見回す。困った顔。ずずっとストローからオレンジジュースが登ってこない。

 無くなっちゃったわね。無くなれば補充すればいいわけだけど……。

 

 「温いのしかないわ」

 

 キッチンの瓶入りオレンジジュースは、全部冷えていなかった。お高い魔力充填式冷蔵庫が折角あるのに入れてないのは、宝の持ち腐れね。次回は、こんな失態はしないわ。反省。

 

 「あっ、そうよ」

 

 私、閃いちゃった。

 

 「ねえ、ハオ」

 

 「あ、どうかした? ていうか今、名前で呼んでくれた!? しかも呼び捨て! 嬉しい!!」

 

 「魔法って、氷作れる?」

 

 「あ、スルーなんだ……。ええ、作れるわよ」

 

 だけど、と黒板をハオが指差す。

 

 「見ての通り、氷を作る魔法はここにない。ちょっと応用が入るのよね 

 火の属性なら熱の操作をできるから水さえあれば氷を作れる。水もまあちょっと頭を捻れば作れるわ。

 直接氷を生み出すならスーみたいな二重属性が必要になる」

 

 「できるってことね。呪文は?」

 

 「えっと……ああ、そうそう〈クリエイト・アイス〉。あ、すぐ唱えちゃ「〈クリエイト・アイス〉」遅かったぁ!!」

 

 呪文を唱えると同時にハオは、私から飛び下がって、ソファの後ろに隠れてしまった。失礼ね……。私は、ぷんぷんよ。

 

 「ま、どこでも冷たい飲み物が飲めるようになるのは便利ね」

 

 どやっとする私のコップの中のオレンジジュースには、氷が浮かんでる。キンキンに冷えてるのが見れば分かるし、持ってる手にも伝わってくる。

 

 「お見事。だけどそのオレンジジュース半分凍ってるわよ」

 

 水を差すハオを睨んで、そんなわけ……と傾けてみたらとオレンジジュースがちょびっとしか口に入ってこない。これだとアイス? シャーベット? 美味しい。

 

 「……ホントだ」

 

 「ま、今回は、誰も吹き飛ばさなかったし、成功でいいでしょう」

 

 やった。合格ゲット。

 

 「じゃあ、そういうことで……」

 

 スプーン取ってこなきゃ。

 

 「いえ」

 

 肩を掴まれただけで動けないとかある?

 

 「今の勢いで、クリエイト・ウォータ、完璧にできるようにしようね。基礎を疎かにすると痛い目あうわよ」

 

 本気だ。テーブルで紅茶を飲んでるフォンに助けを求める。両手でバツを作られた。だめみたい。残念。 

 

 「……シャーベット食べてからじゃだめ?」

 

 「よろしい」

 

 

 +++

 

 

 「はや……い……」

 

 「まじで体力ないな。軽く流してるだけだぞ」

 

 僕は、今、自分のあまりの情けなさを噛み締めていた。いくらなんでも体力がない。いや、カイムさんが速いだけじゃないか? 現役冒険者の軽くは、普通じゃないと思う。

 

 「言い訳はなしだぞ」

 

 道端に転がった僕を覗き込むカイムさんの呆れた視線が突き刺さる。痛くは無いのに、なぜか物理的に痛い。

 

 「……大丈夫です」

 

 口に出してはなかったはずだけど……。ただ、実際言われた通りだ。今僕は、自分に言い訳していた。立ち上がってもカイムさんを見上げるようになるけど僕は、カイムさんの目を見て。

 

 「僕、いけます」

 

 汗が額を伝う。汗でびしょびしょに濡れた服がうっとうしい。息もまだ荒くて、整ってない。だけど僕は、走らなきゃと思った。

 

 「へえ、そうか」

 

 なにが面白いのか分からないけどカイムさんは、にやっと笑った。

 

 「んじゃ、もうちょっとペース落としてやるからついてこいよ」

 

 「は、はい!」

 

 「あ、そうだ。こういうのご褒美があった方が頑張れるところないか?」

 

 「ご褒美です、か」

 

 走りながら話すのが難しい。

 

 「なんだよ。欲しくないのか?」

 

 「い、いえ、そんなことはないです!」

 

 「よかろう。俺の普段のペースについてこれるようになったら――」

 

 ご褒美、なんだろう。経験談? 技術? 知識? それとももっと分かりやすいお小遣いとか? 色々候補がぐるぐると頭の中で回る。

 体力は相変わらず無いけどちょっとペースに慣れてきたからか、考え事も少しできるようになってるみたいだ。いい兆候だと思う。この調子で足を引っ張らないように……。

 

 「ハオの昔話だ。恥ずかしい話から面白い話までなんでもしてやるぜ」

 

 「ごふっ!!」

 

 「お? 好みじゃなかったか?」

 

 「い、いや、えーっと……。プライバシー的にいいんですか?」

 

 「難しい言葉知ってるな、お前。嬉し恥ずかしに着色するから大丈夫だろ」

 

 「大丈夫なんですか……!?」

 

 まったく大丈夫だと思えない。

 

 「お前は聞きたいと思ったんだけどな。あんなあっつい視線向けててさ」

 

 「……分かりますか」

 

 「俺は、あいつみたいに無意識誘惑鈍感女じゃないからな。分かっちゃうわけだ」

 

 ウィンクがやたら似合う人だ……。かっこいい人だし、これはきっと何人も女の人を泣かしてきたに違いない。

 

 「で、どうする?」

 

 それは、それとして。

 

 「聞きたい、です……」

 

 欲求に逆らえない僕を許してください、天秤神様。走りながら空高くにいるという天秤神様に懺悔した。許されないと思うけど。

 

 「じゃあ、決まりだ。これから頑張ってついてこいよ」

 

 「はい!!」 

 

 ……あれ。というかこれから……? これからってことは……。

 

 「あ、そうだ。お前に聞きたいことがあったんだ」

 

 「聞きたいこと?」

 

 突然の質問に、思考がぷつんと切れる。

 

 「あいつさ。なんか変な行動とかとってないか? 気になるところとか妙なところとか無いか?」

 

 「はあ……」

 

 突然だ。変わった、気になるところ、妙なところ……。

 

 「うーん……存在じたいが変わった人で、気になる人、妙な人なので……急に言われても……」

 

 「まあ、そうか。そうだよな。普通のやつは、わざわざ才能があるからって子ども拾って、家まで買わない」

 

 「はは……。確かに。それで、どうしたんですか?」

 

 「……微妙にな」

 

 その時の、カイムさんは、会った時の中で一番真剣な顔をしていた。

 

 「なんか俺の知ってるあいつと微妙にブレるんだよな」

 

 「微妙に……」

 

 「ま、いいや。とりあえず、ラストスパートいくぞ!」

 

 「え、はい……って早い!! 早いですって!!」

 

 さっきまでのペースとは段違い。それはもうあっという間に、カイムさんの背中が遠くなっていく。

 

 「最終的にはこれくらいの速度は出してもらうからなー」

 

 気づけば随分と遠くから聞こえるカイムさんの声に、それこそ僕は、気が遠くなるようだった。

 

 「……走らなきゃ、距離は縮まらない」 

 

 だけどそう。僕が一歩でも進むためには、今、この一歩をできる限り速くするべきだ。だから僕は、走る。走った。そして、気づけばぶっ倒れてた。

 

 

 +++

 

 

 「……酷い目にあった」

 

 「しょうがない兄さんね。毎朝ランニング付き合ってあげる。頑張って体力作って」

 

 「あ、ああ、ありがとう。スー。助かるよ。ところで魔法の方は?」

 

 「ばっちりよ。兄さん。オレンジジュースを冷たくできるようになったわ」

 

 「そうか……。スーは、すごいな」

 

 「それほどでもないわ」

 

 夜の7時。私たちは、夕食を囲んでいた。ぼろぼろのシルヴァと余裕の表情があるスーは、対照的。

 シルヴァは、兎も角、スーは、もっと魔法の練習詰め込んでもいいわね。

 

 「……なんか寒気がした」

 

 「風邪か? 気をつけろよ」

 

 「しかし、シルヴァ。あれくらい軽く付いていけないとこれから困るぞ」

 

 シルヴァにスプーンを向けるカイムの顔は、また赤い。説教親父っぽいわね。酔うの早くない?

 

 「酔っ払いの絡みは、鬱陶しいわよ。あんまり無茶させないでよね」

 

 「今日は、フォンも居るから大丈夫だ。自分の体力の限界くらい知ってたほうが後々役に立つだろ」

 

 「それは、そうかもしれないけど……」

 

 カイムの言うことも一理ある。いつだって誰かが助けてくれるわけではない。自分でどうにかしなきゃいけない時がいつかくる。その時、自分がどれだけ動けるか把握しておくのは、重要なことだというのは分かる。

 

 「なにより俺が教えるんだから生白いままでいさせない」

 

 「あら、そうなの?」

 

 「……そういう話じゃなかったのか?」

 

 「そういう話に持っていこうと思ってはいたけど、自分から買って出てくれるとは思わなかったわ」

 

 手間が省けたわね。タイプの違う二人を一人で教えるのは、ちょっと大変だと思ってたのよね。カリキュラムを別に作らなきゃいけないし、同じことをやっても非効率だし。

 

 「俺自身もこういう経験もいいだろうと思ってな。別に、条件を撤回したわけじゃないぞ、ハオ」

 

 「分かってる。ま、大丈夫よ。貴方が教えるなら」

 

 「いや、それは……まあ、そうだな……」

 

 完全に自分の発言が首を締めることになって、カイムは、言葉を濁した。

 おもしろ。ワインが進んじゃう。あ、このワインめちゃくちゃ美味しい。道理でカイムがすぐに酔うはずね。

 

 「話がまとまって何よりです」

 

 フォンは、にこにことグラスを傾ける。ずっと呑んでるのに全く酔っ払った様子がない。相変わらず酒に強すぎる。

 

 「とりあえず、他二人と仕事をするか休みにするか決めるようにしようと思ってますが、構いませんか?」

 

 「ええ、もちろん。面倒事押し付けてごめんなさいね」

 

 「いえいえ、たまにはこういうこともあるでしょう」

 

 さっすがフォン。話が早い。年の功ね。

 

 「じゃ、話もまとまったしもう一回乾杯しましょ!」

 

 「なんだ? 酔っ払ってんのか?」

 

 酔っぱらいに言われたくないわよ。ジトーっと見てくるのでジトーっと見返す。

 

 「酔っ払ってない! 新たな門出よ? 祝わなきゃ! ほら! シルヴァにスー、フォンも!」

 

 「あーあー、分かった分かった」

 

 「はは、楽しそうでいいじゃないですか」

 

 「酔っ払いだ」

 

 「酔っ払ってますね」

 

 「はい! ぐだぐだ言ってないで、グラス挙げる!」

 

 あー聞こえない。苦笑いしたカイムが、グラスを掲げる。続いて、シルヴァとスー、フォンが掲げた。それでよし。

 

 「私たちのこれからに! かんぱーい!」

 

 『かんぱーい』

 

 こうして、私たちは、最初の一歩を踏み出したのでありました。お酒が美味しい。

 




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