TS異世界転生早死師匠ポジRPG   作:クルスロット

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第7話 効率追求とその結果

 2人への本格的な鍛錬と勉強を始める前に、私は、まず効率を上げようと思った。

 あの子たちはとっても優秀。シルヴァは、魔法。スーは、身体能力。それぞれ欠点はあるけど特筆したところがある。

 だけど欠点は埋めなければならない。そしてその欠点を埋めるのは、時間がかかる。

 特にシルヴァの身体能力。積み重ねるしかないところではある。日々のトレーニングと食事に睡眠が体を作るんだから。

 

 それ以外にできることいえば、魔道具による学習の効率上昇とか経験値の上昇。そういうものは、普通なら買うにも高価、市場にもそうそう現れない。

 だけど丁度いいものが私にはある。私にはもう意味がないもの。ゲームだと確かレアアイテムに該当していたはずだ。

 私にとってこれは、その程度の価値だけじゃない。もっともっとずっと価値があるもの。

 思い出の品だけど今、私が持っていて意味はない。

 

 「これ、2人にあげる」

 

 「指輪?」

 

 「……綺麗」

 

 ある日の夜、私の部屋に2人を呼び出していた。月は丸くて、そのくっきりとした輪郭が夜闇の境に滲んでいた。雲も少ないから夜空によく映える。

 そういうある日の静かな満月の夜。

 

 「魔法銀(ミスリル)で作ってる魔道具で、天秤神様の祝福がかけられてるの。私の兄と姉から貰った強くなれるようにっていうお守り」

 

 私が冒険者になる前、騎士になる前、私がまだなんとか剣を持てるようになった頃、お兄様とお姉様から頂いた魔道具。その時のことは、いつだって鮮明に思い出せる。

 

 「同じものを……?」

 

 「笑っちゃうでしょ。私のためにって2人とも同じタイミングで同じものくれたの。その時は、すごくびっくりしたわ」

 

 今だって思い出し笑いがすごい。いつまでも忘れられない、嬉しい思い出。

 

 「えっと……でもそんなご家族からの贈り物なんて大切なもの、いいんですか?」

 

 指輪を手のひらに乗せたまま困惑するシルヴァに、私は、頷く。

 

 「いいの。私にはもうアクセサリー以外の意味はないし、今の貴方たちが一番役立てるものだから」

 

 「僕たちが……?」

 

 シルヴァが首を傾げる。スーは、もう夢中で指に通して、眺めてる。女の子ね。その気持ち分かるわよ。私も昔、お姉様とお兄様に頂いた時そうだった。

 

 「その指輪はね、学習能力の向上とか手に入れられる経験値を上乗せしてくれる……つまり強くなるための補助をしてくれる。いいでしょう?」

 

 「それならハオさんの方が……」

 

 「成長期の子どもにだけ有効って条件があるの。だからもう私に意味はない」

 

 成長期も思春期も過ぎ去ってしまった私には、もうなんの効力もない。お母様の加護を受ける資格がもうない。悲しいけど時間は残酷よね。

 強力な効果には、代償がつきもの。これは使える時間が限られているだけだからかなり優良な分類。

  

 「だから貴方たちに持っていて欲しい。これから成長する貴方たちに」

 

 「分かりました。ありがとうございます」

 

 「……ありがと。大切にする」

 

 「そうしてくれると嬉しいわ」

 

 思い出の品だけど後生大事にして欲しいから私に、渡したわけではないでしょう。

 特に、お兄様は間違いなく絶対そう。私を優秀な騎士にするために渡したに違いない。

 ごめんなさいね。でも、私冒険者として頑張ってます。

 これからはこの子達と頑張ります。

 

 「2人とも夜遅くにごめんなさいね。明日から忙しくなるわ。今日はもうおやすみなさい」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「うん、よろしく」

 

 強くなれる時間は、少なく短い。ぱたりと背後で静かにドアが閉まった。

 

 「私も頑張らなきゃ」

 

 明日への思いを胸に、私は、部屋の明かりを消した。

 

 

 +++

 

 

 ――それから気づけば季節は、秋に差し掛かっていた。

 地道な積み重ねの日々だったけどやることが多くて、時間の経過はあっという間だった。

 陽射しは、夏より和らぎ、緑が過ぎ去る季節。読書と食欲と運動と……後、なにかしらの季節。動物が忙しなく溜め込む季節。落ち葉が舞う季節。

 

 「私の期待は間違いじゃなかった。貴方たちの努力は無駄じゃなかった。そう思わせて」

 

 自分にしか聞こえないよう独りごちる。

 自分勝手すぎるよ、私。内心で思って、自嘲気味な笑みが零れそうになる。

 その私の目の前で、切り揃えられ、青々とした芝生が白く染められていく。氷がパキリと生まれていく。微かな冷気が私の肌を刺す。柔らかさを失った芝生は、ツンと尖っている。見た限りかなり硬くなっていそうだ。

 そういう芝生が私に向かって、頭を垂れていた。

 どうやらただ凍らせたわけでないみたい。何やら複雑なラインを凍った芝生で描いている。何をやる気なんだろう。

 

 「氷弾(アイスショット)

 

 「よっと」

 

 考える時間は与えないようにってことね。偉いわよ、シルヴァ。

 氷弾を軽く剣で払う。1、2、3、4、5――6は、来ない。5つが限界。

 飛んできたほうを見るとその背丈ほどある杖を構えたシルヴァの姿。深海のような青の双眸が眼鏡の向こうから静かに私を見ている。焦ってはいない。こうなることが分かっていたってとこかな。

 

 「っ!」

 

 お返しに私が向けた人差し指からシルヴァは、急いで逃げる。

 うんうん、それでいいわ。今は、それでいい。一応、牽制ついでに電撃を放っておく。ばちんと空中を微かな雷撃が走り抜ける。

 魔法は、イメージ。呪文による定型(テンプレート)な起動は、強力な術や安定させたい術、出力や精度を上げたい場合でもちいるのが基本だ。

 こういう簡単な魔法の行使は、やりたいことをイメージするくらいでいい。

 

 「隙あり!」

 

 そんなことをしていると声と共に影が私に差す。半身を向ける。

 ダンッ!と大斧が地面を裂いて、砕く。舞い上がる芝生、土。遅れてやってくる風が私の前髪を舞い上げた。

 鋼の煌めき。重々しさが見れば伝わる両刃の大斧。昼間の陽射しが軽く反射する。

 柄の方には、大斧と不釣り合いなスーがいる。白銀のポニーテールの毛先が踊る。ルビーのような双眸に、不満げな色が宿っていた。

 

 「スー。不意打ちで、声を出すのはだめよ」

 

 「思いやりよ。声が無きゃ避けれなかったで、しょっ!」

 

 減らず口を叩いたスーは、大斧を蹴り上げて、肩に担ぐとその勢いのまま、滑るように離れていく。

 なるほど。足元を凍らせたのは、移動手段ね。その速度には、思わず感心してしまう。

 そこへ差し込まれる氷弾を剣ではなく雷撃で迎撃する――「がっ……!?」――あっ。

 

 「……うーん、しまった。いつもの通りに撃っちゃった」

 

 魔法で避けようとしたシルヴァに、電撃が見事命中してしまった。

 ばちんと音をたてて、シルヴァがごろんと転がった。あんまりかっこいい倒れ方ではないね。私ももう少し手加減をするべきだったわね。

 反省反省。

 

 「人に教えるのも大変ねえ……」

 

 息を吐いて、私は思わず肩を落とす。

 

 「兄さんの役立たずっ!!」

 

 「役、立たず……!?」

 

 妹の心からの罵声に、シルヴァは、目を大きく見開いてがくっと頭を落とした。

 

 「うん。今のは、ダサくはあるよな」

 

 痺れて立ち上がれないシルヴァを邪魔にならないようカイムが引き摺っていく。

 運び方が雑よ。つい苦笑い。

 

 「私がまだ残って――「いえ、終わりよ」――ぴっ!?」

 

 加速しようとしたスーが目を見開いて、細かく震えると膝から崩れ落ちた。

 どすんと重く大斧が地面に突き刺さり、ぱきんと氷が一気に水に返った。凍らせていたスーの魔力の供給が途切れたのだ。

 電熱で、軽く氷を解して、一気にちょっと強めに電撃を走らせておいた。やっぱり防御がおろそかね。このへん指導しなきゃ。

 再度反省。

 

 「足元がお留守。ちゃんと反撃を意識してないとこういうのを食らうわよ。肝に銘じておきなさい」

 

 返事はない。痺れて口が回らないんでしょう。

 

 「ま、ここ半年経たずにこれだけできるようになるのは、大健闘だと思います! よくできました」

 

 「……まだ、やれます」――立ち上がるシルヴァ。子鹿みたいにプルプルしてるけど悪くないわ。

 

 「私だって……!」――いい負けん気ね、スー。女の子は、そうじゃなきゃ。

 

 「元気なこった」――他人事みたいに笑うカイム。いや、なに観戦してるのよ。

 

 「今度の相手は、カイムよ! 半年以内の約束、ここで終わらせてきなさい!!」

 

 「あ!? 今かよ!! てめ!! シルヴァ、不意を打つな!! スー! 笑いながら武器を振るな!! 怖いだろ!」

 

 けしかけられた弟子2人からカイムが逃げていくのをお腹が痛くなるほど私は、笑った。

 目尻に浮かんだ涙を拭って、近くの手頃な岩に腰をかける。

 

 「もう半年かぁ……」

 

 西ブロックの外れ。小高い丘の上にあって、魔王種〈ストリボーグ〉の被害をまぬがれた家屋の一つを私が買い取ってからもうそんなに経つ。

 眺めが良いのが私のお気に入り。周りに他の家がないのも景観を損ねずいい感じ。

 

 何気なくステータスを開いてみる。開くのは簡単。念じるだけ。

 私があの子たちを知る度、ステータスに表示される情報は増えていった。

 

 ○個体名:シルヴァ・フィルメント 13歳(男)

  ○ステータス

   スタミナ    : E→D

   パワー     : E→E+

   スピード    : E→E+

   インテリジェンス: B

   ラック : E

  ○魔法属性:水、火

  ○装備:杖

 

 ○個体名:スー・フィルメント 13歳(女)

  ○ステータス

   スタミナ    : C

   パワー     : C

   スピード    : C→C+

   インテリジェンス: E→D

   ラック     : E

  ○魔法属性:水、火

  ○装備:大斧

 

 「ここまで順調なのは、運がいいから? いえ、2人の努力の賜物ね」

 

 だってこのラックだものね。思わず口元が緩んだ。

 そう考え事をしているとふと強い風が吹く。

 魔王種〈ストリボーグ〉が現れてからもう半年。

 この街に刻まれた傷跡は、街並みや人の心に残るものだけではなく吹く風もどこか変わってしまったように、シルヴァやスーには感じるらしい。

 2人を育てることを決め、半年しかこの街に住んでいない私には、違いが分からなかった。

 季節は、秋になろうとしている。涼しげな風が私の髪を揺らす。

 

 「おっ、当てた」

 

 氷弾がカイムの頬を掠って、明後日の方向に消えていったからカイムの口があちゃーという形を取るのに、また笑ってしまった。

 とりあえず第一関門突破でいいかしら。

 ……最終的に、いくつの関門になるのやら。

 

 「あーくっそ……。やられたな」

 

 「やった……!」

 

 「私と兄さんがコンビを組んだんだからカイムくらい余裕よ」

 

 「はいはい。よくやったよくやった」

 

 言葉と裏腹に笑顔のカイムは、シルヴァとスーの頭をくしゃっとやった。その顔を見上げて、私は、勝ち誇った。

 

 「偶然なんて言わせないわ。私たちの勝ちよ」

 

 「むかつくドヤ顔しやがって……。分かってる。俺の負けだよ」

 

 「清々しい笑顔しやがって。うりうり。悔しいって言ってみな!」

 

 「うるせえよ、馬鹿」

 

 なんとなくからかいたくなったので、頬を指でぐりぐりとしてみた。

 鬱陶しそうなカイムがどうにも面白い。

 

 「まあ、なんだ。お前の見る目は間違ってなかったよ。

 同じ歳の頃の俺が同じように教えられてもこれくらいできたかは分からない」

 

 「へえ、褒めてくれるじゃない」

 

 「率直な感想だよ」

 

 「じゃ、これからもお願いね」

 

 「暇な時はな」

 

 よっと跳ねるように立ち上がったカイムは、軽く尻を払って、真面目な目を私に向ける。

 

 「財布も寂しいし、仕事の方も再開しなきゃなんないからな」

 

 なら仕方ないか。

 

 「そっ。じゃあ、パーティの方、しばらくお願いね」

 

 「なに、俺がリーダーになって、俺色に染めておいてやるから安心しな」

 

 「人望無いから無理よ。残念だったわね」

 

 そんなことはないと思うけどちょっとムカついたので、そういうことにしておく。

 

 「は、いってろ。お前よりずっとよく仕上げてやるよ」

 

 「無理でしょ。私がいての雷の双牙(ライトニング・タスク)よ」

 

 「言うじゃねえかよっ!」

 

 声と同時に、カイムの上段蹴りが襲いかかってきたからくるんと華麗に躱してあげる。空振ったつま先が空を切る音がした。

 

 「ほらほら、鬼さん。手の鳴る方へ。捕まえたらカイムが雷の双牙(ライトニング・タスク)のリーダーでいいわよ」

 

 「ほーー……言ったな。いいぜ。全力で捕まえてやる、よ!」

 

 子どもたちの突き刺さるような視線を受けた鬼ごっこは、そこそこ続いた。勿論。

 

 「――私の勝ち!」

 

 勝利のV! カイムの方が足は早いけど近距離なら躱すのくらい訳はない。

 いい汗かいて、お腹も減った。時間も丁度いいわね。

 

 「今夜は、カイムの奢り! 決まり! 敗北者に拒否権無し! 敗北者は搾取されるのみ! シルヴァ、スー、行くわよ!!」

 

 「お腹減りましたね。何にしましょうか」

 

 「お肉がいいわ、私。牛と豚、鳥……悩ましい」

 

 「それじゃあ、焼き肉ね。カイムよろしく」

 

 「畜生が!!」

 

 他人の金で食う肉は、最高よね。高いところ予約しよ。 

 

 




こいつら毎回飯食ってる気がしますね。
感想評価よろしくお願いします。
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