シャン・チー、面白かったのでおすすめです。
兄さんが起きてくるのは大体7時。そこから自主トレで、筋トレしたりランニングして、8時くらいには、帰ってくる。ちょっと前までは、疲れ果てて玄関先に倒れているのを見れた。
けど最近は、かなり体力がついたのかへとへとくらいで、だらしないあの姿が見れなくなったのがちょっと残念。
ハオは、早い時は私より早い。遅い時は8時くらい。冒険者時代は、朝早かったから最近ついつい寝すぎるとか言ってた。これはどうでもいい。
私は、毎日朝の6時に起きている。私が朝ごはんを担当してるからだ。
「今日は、何にしようかなぁ」
風を切りながら私は、冷蔵庫の中身を思い出していた。魔力充填式冷蔵庫は、よく冷えて食材が長持ちするので便利。お母さんが見たらすっごく喜んだと思う。
ハオが言うに、『朝からがっつり食べるのが冒険者の基本よ!』とか。
『お肉は多い方がいい。魚もあり。鮎の塩焼き食べたいわね。あ、卵は好きなので多めにしましょう。ね?』とかとか。
適当なメニューをループさせると昼夕担当の2人になんだか負けた気がするので、朝もそれなりに大変なのだ。
朝の習慣として、朝食の準備前に軽く走り込んでる。頭が覚めるくらいに体を動かすようにしてる。別に必要じゃないけど兄さんが走ってるのに感化されてはじめた。
なんか朝に走ると気持ちいいらしい。インドアな人が走り始めたときに言いそうなことだよねって言ったらしょぼんと肩を落としてた。
ちなみに兄さんは、夜型。夜中までずっと勉強したり本を読んだりしてるから自然とそうなったみたい。
ほら、インドアでしょう? しょうがない兄さんよね。
そうこうしてるとここ最近のお気に入りスポットに近づいてきていた。家から坂を下って、少しのところにある空き地。私は、一週間くらい前から毎朝来ている。
ぶわっと暴風みたいな強い風が挨拶代わりに私の顔に叩きつけられた。馬鹿みたいに大きな大剣の形をしてる木剣の切っ先が私の顔面目掛けて向かってきていた。危ない。
ここまで考えた時には、横っ飛びして逃げる。安心したらだめ。自分に言い聞かせる。だって、何もないところを通り過ぎた木剣は、もう振り上げられてる。
普通なら大丈夫な距離なんだけど相手の木剣が大きすぎる。
相手が兄さんなら振ってきたところのカウンターを狙う。魔法戦ならともかく、斬り合いなら負ける気はしないもの。
相手がハオなら? 知ってる範囲の技だと剣じゃなくて魔法が来ると思う。ハオは、毎回びりびりっと電撃を放ってくるから躱すか魔法で受けないとだめ。魔法に誘導されてしまう。魔法が苦手だと分かってるから使わせようとしてくる。腹立たしい。
うんん、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「っ!」
私の頭があったところを木剣が通り過ぎた後、いつのまにか斬り返してきた。斬れるわけがないのに、冷たさを感じる刃先に私は、両手を上げた。
ちなみにこの木剣の人もハオと同じで勝てる未来は見えてない。
「よお、昨日ぶりだな」
……でも、今だけよ。
「うん、昨日ぶり。お姉さん」
ちょっと強気に振る舞ってみる。多分見抜かれてると思う。にやって笑った後、剣先が首から離れていく。やっと息が吐けた……。
「じゃあ、いつものようにやるか?」
雑に投げられた木剣を受け取って、軽く振る。いつもの大斧よりずっと軽い普通サイズの木剣。でも兄さんには、きっと重い。ひょろひょろだもん。
「当然」
赤髪で、ショートヘアのお姉さん。男の子みたいに笑う人。耳にピアスがいっぱい。身長が高くて、シャツを着てても分かるくらい筋肉隆々。一回、腹筋を触らせてもらったけどすごい。硬くて、柔らかいの。
出会ったのは、ちょっと前。場所はここ。朝、通りすがるとさっきみたいに木剣を振っていた。足を止めて見てると今みたいに木剣を投げてきたのが始まり。
「浅い、遅い、軽い。拙いのコース料理か? せめてもっと踏み込んできな」
「うっさい!」
なんでそんな馬鹿みたいにでかい木剣を小器用に振るえるのよ。鍔と柄で、簡単に剣先がいなされてしまうのに、苛立ちがつのる。けど苛立ってる場合じゃない。
今日こそ一撃入れてやる……!! 私は、その意気込みと共に地面を蹴った。
「口より手」
「っ……!」
意趣返しと深く踏み込んで、わりと、自分史上的には、鋭く当てに行った。なのに軽くいなされた。その上、背中を軽く叩かれて、つんのめる。
「むぅ……」
転ぶのだけは嫌だったので、なんとか踏ん張ってから振り向いた私が口を尖らせるとお姉さんは肩を竦めて、その身長より長い大剣を構えなおす。無防備な背中を打たれることもなかった。
なによそれ……。不満が喉元までこみ上げてくる。だけど木剣を持ち直すだけにしておく。
まあ、見ての通り。私とお姉さんは、こうやって毎日木剣で打ち合ってる。
「そういえばお姉さんって冒険者?」
「そうだよ。よくわかったな」
「領主様のとこの兵隊さんとかだったらこんなところにいないから。忙しいと思うし」
「なるほど。確かにな」
「じゃあ、暇人ってわけね。お姉さん」
「暇って訳じゃねえよ」
向かい合った私たちは、雑談をしつつじりじりと距離を測りつつゆっくり回る。
こういう雑談で隙を作る作戦は何回かやってみたけどだめだった。なのでこれは本当に雑談。うーんそれにしてもどこから行ってもダメそうな未来が見える。
魔法とかどう? まだ見せてないし、意表を突けるかも。どうだろう。試してみる価値あるんじゃないかな?
「……だめだめ。そんなのだめよ」
考えてたことぜーんぶまとめて私は、捨てた。
「魔法使わなくていいのかよ」
……見透かされてるし。これだから大人はホントにもうしょうがないわ。
「いいの。魔法係はいるから」
兄さんのがきっと最終的に魔法がずっと上手になるのは目に見えている。
「私は、これで強くならなきゃって思うの」
「そりゃいい心がけだ」
「笑いどころじゃないわ。真面目よ? 私」
「悪かったよ」
いいでしょう。
「この前だってあっさりゴブリンに背中を取られてたし、私がこっちで強くならなきゃ不安でしょうがないの」
「ゴブリンにねえ。そりゃ不安だな」
「でしょ? 本当にしょうがない人なの」
「ふうん、なるほどな。正直に真正面か。悪くない打ち込みだよ」
涼しい顔で受け止められてそれ言う?
「しかもそれなに?」
「白刃取り。一回やってみたかったんだよな」
絶対指だけでやる技じゃないし、私の木剣が引き剥がせない。指の力強すぎじゃない……!?
「受けないでよ。当たらないじゃん」
「わりと無茶苦茶言うよなっと!」
「へ!? え!? 嘘!?!!」
悲鳴みたいな声になってた。だって投げられたんだもの!! 気づけば地面から離れて、ふわっと空中遊泳してて、ぐわんって感じで地面に顔面から行くとこだった。
なんとか手で跳ねて、くるんと着地できた。ほんとびっくりした。
「ば、馬鹿力!!」
「おっ、言ったな〜〜」
「え、ちょっと顔が本気っていうか。あ、ちょっと!! いやああああああああああ――――――!!!!」
――――この後、めちゃくちゃ投げられた。
「……今日もありがとうございました」
「ありがとうございましたって顔じゃないな……」
当然じゃない。ボロボロされたもの。
「あれだけ投げ飛ばされたらこんな顔にもなる」
運動着は、砂まみれ。髪は、ぐしゃぐしゃ。擦り傷多数。膝に痣もできちゃった。
「悪かったよ。軽いから簡単に投げれちまうんだ」
「……私も大きくなるかな」
隣を歩いているお姉さんを見上げる。筋肉もすごいけど身長も大きい。カイムより高い? なによりおっぱいがすごい。身近だとハオも大きいといえば大きいけどこれは桁が違う。
これは触ってなかった……。触らせてくれないかな……。
「あーそうだな。まずは飯だな飯。ちゃんと食え」
「分かった。そうする」
ご飯……確かにハオは馬鹿みたいに食べてる。ハオよりいっぱい食べるのを目標にしよっと。
あっ、そうだ。いつも別れる分かれ道までやってきたところで、私は、一つ思いついた。
「お姉さん朝食まだでしょ? うちに来ない? 私が作ってあげる」
「あ? あーどうすっかな」
「いいじゃない。どうせ暇なんでしょ? お腹もどうせ減ってるでしょ?」
「まあ確かに腹は減ってるけどさ」
「もしかして私の料理の腕を疑ってる? お母さん仕込だから自信あるわ。兄さんだって絶賛してる」
ハオは、数に入れません。
「いや、そういうわけじゃなくてだな。仕事があるんだよ。だから遠慮しとく」
「えーー」
ぽんぽんと頭をお姉さんが軽く撫でてくる。嫌ではない。でもそれくらいで誤魔化される私じゃないんだから。
「むぅー」
なので抗議しておくことにした。じーっと上目遣いに睨むと年上は、なんとなく居心地が悪くなるのが分かってる。カイムとか露骨にそう。
「そんな目で見るなよ……。また今度なまた今度。後、しばらく朝は多分来れない。来ないからって訓練サボるなよ」
「また今度っていつよそれ。しばらくってどれくらい? 後、サボらないわよ」
「今度は、今度。しばらくは、しばらくだ。サボらないのは偉い」
大人ってきたないわ。頭をがしがしされても誤魔化されない。
「仕事?」
「まあ、そんな感じだよ」
なんか最近聞いたな……。ああ、カイムが言ってた。忙しくなるからちょっとの間、来れなくなるって。
「そう……。気をつけてね」
「大丈夫だよ」
お姉さんは、にやっと強気に笑った。
「あたし、結構強いんだぜ?」
「知ってる」
……ただ、ちょっと心配なだけ。
+++
「スクランブルエッグとソーセージ! うん、朝食って感じ。スー、いいわ。素敵ね。ケチャップある?」
「どうぞ、ハオさん。スー、そこのドレッシングもらえるか?」
「はい、兄さん。しょうがないハオ、こっちにもケチャップ頂戴」
「今日も美味しいわね、スー。はい、ケチャップ」
「ああ、ソーセージの焼き加減いいよ。流石だ」
「私の作ったんだから当たり前じゃない」
うん、今日も完璧な朝食ね。お母さんに料理習っておいて正解だったわ。
「今日は、どうするんですか。ハオさん。やっぱり最近続けてる魔物憑きの動物駆除とかです?」
うげ、それは無しにして欲しい。イノシシとかたぬきの相手は、もううんざり。しかも結構気持ち悪い。思い出したくないのでこれ以上は考えたくないくらい。
「それもう飽きたから他のがいい。後、ご飯時に思い出させること言わないで」
「子どもみたいな事言うなよ、スー……」
「子どもなので」
じゃーんお手軽ホットドッグ。食パンしかないのが残念。でもパンとキャベツとソーセージが合わさって、ふわっとじゅーしーで、しゃきしゃきって感じで美味しい。
「あれ経験値の効率がいいから続けちゃうのよねえ……」
「効率……?」
「あーほら。相手が走り回るし、色々種類があるから色々練習になるのよ。魔物も種類がいるから動物で経験を積むと応用も効いたりするからね」
「なるほど……」
ハオの言ってることはよく分からないけど、動物相手じゃないならいいや。
「じゃあゴブリン? ゴブリンでもいいけど普通のゴブリンがいい。あのレアゴブリンは嫌」
「レアほどじゃないけど普通のゴブリンもそんなに可愛くないよ」
「前回殺り損ねたもの」
「そういう理由か……」
不思議な反応をするのね、兄さん。頭が痛そう。風邪かしら。最近寒いんだからちゃんと暖かくしないと。
「ただ僕も賛成だな。前回は死体しか観察できなかったからね」
「……絶対持ち帰らせたりしないから」
前回の任務の後、ゴブリンの死体とかを持ち帰ろうとしたのを全力でハオと止めたのを思い出した私は、怒りを込めて、兄さんを睨んだ。
「し、しないって……。流石に防腐処理に困るしね。採取するにしても爪とかだよ」
「兄さん……」
「シルヴァ……」
とっても渋い顔をしていたハオと私の視線の集中砲火を食らった兄さんがちっさくなった。
これは自業自得だと思う。
「まあ、朝ギルドで他のお仕事を貰ってきたからとりあえず見てみて」
そう言ってハオがテーブルに置いた依頼書を兄さんと一緒に覗き込んだ。
「……なにこれ」
「『冒険者初心者講習会のご案内』ですか」
「今更じゃない?」
「まあね。だけど私が教えきれないとことか思いつかないとことかもあるし、受けてみてもいいかなって。どう?」
つまんなそ。私、それなら自主練でいいんだけど。
「いいですね。受けてみます」
……兄さんはそう言う気がした。つい私は、ふかーいふかーーーい溜息を吐いていた。
「しょうがないわね。兄さんが行くなら私も行く」
「ハオさんは、来られるんですか?」
「今日は、私、別で用事があるから2人で行ってきて。あ、夜も遅くなるから2人でとっちゃって」
「了解です」
「へえ」
ハオと兄さんのやり取りを見て、私は、ホットミルクを飲みながら適当に相槌を打って。
「これはチャンスね」
+++
「今日も疲れたわね、兄さん」
「9割寝ててそのセリフは、どうかと思うよ。スー」
「だってしょうがないじゃない。つまらない話しか無かったわ。それに、面白いところは兄さんがメモしてるでしょう?」
「面白いというか必要なところだよ」
冒険者ギルドの酒場なのに、プリンが美味しいのってなんだか変。でも美味しいからいいよね。このプリン、ちょっと硬い感じがいい。濃厚なカスタードプリンも好きだけどこういうのもあり。
「それで、面白いこと言ってた?」
「そうだね。スーが好きそうなのといえば……」
「といえば?」
「例えばこの酒場のおすすめメニューは、プリンアラモードパフェとか」
「それもっと早く言ってほしかったわ」
「次頼めばいいだろう?」
「そうね。すみま――「また今度にしような?」……ケチ。他にはなにかあったの?」
もう兄さんたら気が利かないんだから。本当にしょうがないわ。
「冒険者の等級一覧とかかな」
「ギルドカードに書いてるD級ってやつよね。ハオ、説明してなかった?」
「ああ、あれは簡単にだったし、僕の方でもメモできてなかったから改めて聞けてよかったよ」
兄さんの差し出したメモ帳を覗き込むと簡単に一覧にしてあった。分かりやすい。流石ね兄さん。
○等級一覧
・ S等級
魔王種の複数討伐や国とギルドに功績を認められた冒険者の等級。
・ A等級
ハオさんやカイムさんの
・ B等級
魔王種討伐に招集されるのはこの等級から。
僕たちはまず、B等級にならなきゃスタートラインに立てない。
・ C等級
一端の冒険者としてギルドで認められる。第一関門。
・ D等級
初心者脱出。僕たちがここ。
・ E等級
皆最初はここから。今日来てた人たちは、大体ここ。
「目標って、そういうこと?」
「ああ、そういうことだ。僕たちは、僕たちだけの力でB等級になる必要がある。そこに届かなきゃ魔王種と戦う資格がない」
「ふうん、そうなんだ」
「多分、ハオさんが僕たちに初心者講習に行くように言ったのは、これを理解させるためだと思う」
「ほんとかなぁ……」
ハオって、ちょっと抜けてるところあるしそんなこと無いような気もする。どっちでもいいんだけどね。
「とりあえず目標も分かったことだし、まだ早いし家に戻って、自主練しようか」
「何真面目腐ったこと言ってるのよ兄さん。脳味噌、腐っちゃった?」
「腐ってはないよ。もっと強くならなきゃだめだろう。なら自主練とかしなきゃほら」
「そういうのを腐ってるって言ってるの」
やれやれって感じ。こういう真面目腐ったとこ嫌いじゃないけどね。強くならなきゃってのも分かる。でも今はだめ。
「今日、ハオ帰り遅いんでしょう? 夜も遅いみたいだし」
「ああ、そうだね」
「だったら遊ばなきゃ! せっかくお昼で初心者講習が終わって、街の中まで出てきてるんだから!」
「いや、だけどなあ……」
「仕事が休みの日も兄さんずっと自主練か本読んでばっかなんだから、たまにはいいじゃない」
そうこのまったくもってしょうがない兄さん。お休みの日も自主練と勉強で一日を消費しているのです。休むって意味をご存じないの? 毎日毎日読んでいる本で何を勉強してるのやら。
「ほら家族水入らずにね?」
「……分かったよ。降参だ。スーの言う通り、たまにはいいかもしれない」
「それじゃあ早速行きましょう!」
支払いは済ませてるから顔なじみの給仕さんに手を振って、暇を持て余してる兄さんの手を取るとギルドの外に駆け出した。まっ昼間の人並みをすり抜けながら私は、兄さんの手を引いていく。
ちゃんと着いてこれて偉いよ、兄さん。でもまだまだな兄さんは、足が絡まりそうになる。
それがおかしくて笑ってしまった。
「っと、あんまり引っ張るなよ。スー」
甘いわ、兄さん。時間は有限よ。やれやれね。
「今日は、兄さんの足腰が立たなくなるくらい遊ぶんだから急がなきゃ」
「お、お手柔らかに頼むよ……」
「絶対に嫌」
だって楽しみでたまらないんだもの。だから、嫌。
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