転生チートオリ主が超技術でVtuberを現実に降誕させる組織のボスになるお話   作:水風浪漫

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2.荒くれ少女ラプラス

 こっそりポケモン捕獲作戦が失敗に終わってお母さんの激怒を味わった私は、性根を入れ替えていい子に暮らしていた。

 自分のポケモンがまだゲットできなくたって、この世界は私にとって夢の世界みたいなもの。家の中にも両親のポケモンが一緒に生活しているし、一歩外に出ればド田舎らしくポケモンをボールから出している人はかなり多い。

 八百屋のヤドンも肉屋のゴーリキーも、雑貨屋のコダックも郵便屋さんのギャロップも。ちょっと外に出れば遊ぶ……のは難しくても本物のポケモンたちがそこら中にいる。

 

 作戦の失敗を受けてモンスターボールを没収され、さらにはお小遣い禁止令まで出されてしまった私はそれはもう大そう不貞腐れた。言いつけを破った私が悪いのは間違いないし、もう勝手にポケモンを捕まえに行こうとは考えてないけれど、自分のお小遣いで買ったボールを没収されるショックとはまた話が別なのである。

 

「ニョロボンとベロリンガが卵をつくれたらよかったのになぁ」

 

 寝っ転がっているベロリンガのお腹をつついても“たまごグループ”の不思議は変わらない。ちなみにお母さんのベロリンガがメスで、お父さんのニョロボンはオスだ。

 せめて卵がつくれたら私がその子の“おや”になれたかもしれないのに。実現不可能な未来に意気消沈しながら、その日は一歩も外に出ずベロリンガと寝て過ごした。

 

 そんなことがあった翌週のこと。

 またしてもカントー本土の出張を終えたお父さんが、綺麗に包装された箱を持って帰ってきた。なんでも向こうのデパートで開催されていた福引で手に入れたというそれは、かのシルフカンパニーが販売している釣り竿だった。

 伸縮自在で耐久性も抜群、ギャラドスが引っ張っても壊れない! 子供から大人まで幅広く使える自慢の一品とCMで言っていた。ギャラドスと引き合いが出来る人がいるのかという疑問は置いておいて、こんな田舎では早々目にすることのない高級品だ。

 発売したばかりでそれなりに値も張っていたと思うのだが、それが福引の景品に並ぶとは……都会恐るべし。

 

「この釣り竿はデュランにあげよう」

「いいの!?」

「父さんは使い慣れた自分のがあるし、お母さんは釣りとかしないからな!」

「ありがとう! お父さん大好き!」

「ふははははは!」

 

 ぎゅうっとお父さんに抱き着いて、渡された箱を開けてみる。出てきたのは見るからに高級感というか、ハイエンド感漂う朱色の釣り竿だった。

 仕組みは不明だが、柄の部分を回転させると自由に長さを変えられるようだ。自分の適正サイズが分からないので後でお父さんに合わせてもらおう。

 

 庭に出て試しに振ってみるとなかなかいい感じ。釣りの経験は全然ないけど、釣り人はそこら中に沢山いるのでやり方は何となく分かる。その後も繰り返し素振りしていると、しなった竿がビュンビュン風を切るのが面白くて、結局お母さんに声を掛けられるまでずっと素振りをしていたのだった。

 

 それ以来、私の日課に釣りが加わった。といってもこの体はまだ三歳、たいして力もないので村を通っている水路の中でも更に安全性を考慮して狭くて浅めの場所を釣り場に選んでいた。

 引っ掛かるのは9割9分がコイキング、稀にトサキントやニョロモが釣れることがあるくらい。ボールもないので捕獲することもできないが、家ではテレビを眺めるか昼寝をするか図鑑を読むくらいしかやる事がなく、外に出かけてもポケモンウォッチとヤドン乗りくらいしか楽しみがない現状、大半が待ち時間とはいえ能動的に取り組める釣りは悪くない暇つぶしになった。

 

 え? 他の子どもだっているんだから一緒に遊べば良いって? 身体はチャイルドボディとはいえ、精神年齢三十路が今更ケンケンパや鬼ごっこ、おままごとで楽しめると思ってんの?

 お母さんに公園に連れて行ってもらっても、太陽が沈むまで無限に続く鬼ごっこやおままごとに興じている時間のいたたまれなさといったら……。楽しんでる風に振るまってたけど遊んでたら分かるんだろうね、気づいたら遠巻きにされるボッチになってましたよ(真顔)。

 

 PCもスマホも(未来基準の)最新ゲーム機もないこんな世の中じゃ……少なくとも今の環境には、インドア派サブカルオタクだった私を満足させられる娯楽が見つからないのだ。そうして一番楽しめる読書や散歩に時間を費やした結果生まれたのが今の私、脳内独り言ボッチ釣り竿散歩ガールだ。話し相手が家族しかいねぇ……。

 

 そんな私は、今日も今日とて釣り竿かついで魚釣り。昨日雨が降ったから水路は全体的に増水していて、いつもの釣り場が泥まみれになっていたので場所を変えることにした。

 水路に沿って歩いて、長時間だらけるのに具合の良さそうな場所を探す。

 

「あ、ココ良いな」

 

 街はずれで雑木林の中に入り込んでいるが、枝葉が日除けになって良い感じに日差しを和らげてくれている。水場の傍に座るのに手ごろな岩も転がっていたので文句なし。

 ニョロボンに今日はここで釣りをすると告げると、こくりと頷いて川の下流に泳いでいった。水ポケモンらしく水に触れている方が心地良いらしく、いつもぷかぷかと水面から顔を出しながら過ごすのだ。そして下流に陣取るのも、私がおぼれた時に助けるためだということも知っている。

 

 離れていくニョロボンに目をやりながら釣り竿をセッティングしていく。といっても糸を伸ばして、針の先端に水ポケモン用のポケモンフーズを釣り餌としてくっ付けるだけだ。

 日常食から釣り餌まで、ポケモンフーズの汎用性が高い。それでいて保存期間も長いし値段は安いとくるのだから驚きである。このフーズのおかげでポケモンと一緒に暮らすことによる経済的負担はさほど大きくないようで、アーシア島の住人も殆どがポケモンを所持しているらしい。以前騙したフレンドリィショップのお兄さんから聞いた話である。

 

 竿を振りかぶって糸を放る。あとは座して待つだけだ。体感でだいたい五分に一匹くらいの感覚でコイキングが釣れるのだけど、場所を変えたからもしかすると違うのが釣れるかもしれない。

 正直なところ、いい加減見飽きたので違う顔が見られるのは大歓迎だ。……もしアーシア島にヒンバスとかが生息しているなら是非釣れてほしい。ミロカロスは前世で大好きだったポケモンの一匹なのだ。

 

 腰を落ち着けてたまに竿を揺らしながら待って数分が経った頃、ぴくりと糸にほんの僅かな違和感が生じた。

 

「きたっ」

 

 釣り竿を引っ張りながら、糸が切れないように調整しつつリールを巻きあげていく。水面に隠れた糸の先はかなり激しく動き回っており、これまで感じたことのない引きの強さだった。

 これはもしかすると、もしかするかもしれない。薄っすらと魚影が見え始めた未知のポケモンへの期待を膨らませながら、逃がさないように慎重に、じっくりと糸を巻き上げる。

 

「よしよし、そろそろ……ここだ! フィーッシュ!」

 

 機を見計らい、相手の力が弱まった瞬間に一気に竿を持ち上げる。勢いよく水面から飛び出してきた影が水滴を散らしながら目の前に落ちてきた。

 赤い体に金の王冠つぶらな瞳、みんなご存じコイキング。白いおひげは女の子、黄色いおひげは男の子。どうやらこいつはオスのようだ。

 

「結局キミかぁ~!」

 

 期待させといてさぁ。ため息を吐きながら、びちびち跳ねているコイキングを抱きかかえる。捕まえることはできないのでキャッチ&リリースが私の釣りの基本なのだ。

 

 元気に暴れるコイキング。弱い弱いと言われても平均サイズ90センチの魚は小学生にもなっていない私にとってそれなりに強敵だ。気合を入れて抑え込まないと抱き上げることは難しい。転ばないように腰を落としてゆっくり川辺に近づいていき、コイキングを放り投げてリリース完了。

 

 水面を揺らして水中に帰っていったコイキングを見送って、次の準備に取り掛かろうと餌箱に手をかけたその瞬間だった。突然、頭に多量の水が降りかかると同時に何者かが背後に着地する音が聞こえた。

 

 

 どすん、とそれなりの重さを感じさせる鈍い音に危険を感じ取り、ゆっくりとその場を離れることを試みる。

 だ、大丈夫、ゆーっくり動けばバレないはず。熊と同じよ熊と……。

 

 しかし、背後の何者かは私の動きに目ざとく気が付いたようで、逃げようとする私に向かって低い唸り声を響かせた。

 人生で初めて聞く明らかな敵意が籠った唸り声。犬猫とは違う野生の獣の発する威嚇音は、私の本能を刺激するのに十分な脅威だったようで、私の体は無意識のうちに弾かれる様にして声の主と距離を開けていた。

 

 武器になるとも思えない釣り竿を剣に見立てて構えながら振り返った先にいたのは、青い体に隆起のある甲羅、前世の博物館で見たフタバスズキリュウを連想させる特徴的なフォルムのポケモン―――ラプラスだった。

 

 目は見開かれ、剥き出しにされた牙の隙間から荒い息が漏れ出している。図鑑で読んだ温厚な姿とは似ても似つかない怒りに満ちた相貌は、まさに海獣の名に相応しい威圧感を放ちながら……必死に首を伸ばして私を見上げていた。

 

―――ギャオォォォオオッ!!

 

 怒れるラプラスは、なんか小っちゃかった。

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

「君なんでそんなに怒ってるの?」

 

 すぐに事態に気が付いたニョロボンが戻ってきて私の前に立ちふさがってくれると、一気に心に余裕が戻ってきた。見たところ首をいっぱいに伸ばしても私のひざ下程度の大きさしかしかないラプラスだが、優に10倍は大きいニョロボンを前にしても怯むことなく果敢に挑みかかっていた。

 

 けれど何かしらの技が使えるわけでもないようで、やっている攻撃と言えば“たいあたり”くらいだ。地上では動きづらいヒレを使って、ペタペタ近づいてきて相手に体を押し付けているだけのあれが攻撃として成立しているかは非常に怪しいところだが……見たところ本人は至って真剣な様子。

 

 ギャァオ! ギャァオ! と首を揺らして威嚇を続けているラプラスだったが、しびれを切らしたニョロボンが片手で押しのけるとコロンと転がって起き上がれなくなってしまった。

 ヒレと首を振り乱しながら何とか起き上がろうと頑張っているが、比重が甲羅に寄っているのか甲羅を起点に揺れるばかりで起き上がれそうな気配がない。当初は手を出したらこっちが怪我しそうな勢いでじたばたしていたのだが次第に勢いが弱まっていき、とうとうへたり、と脱力してしまった。

 

「だ、大丈夫?」

「らぁん……」

「うーん、また襲われるのも怖いしなあ。……手伝った方がいい?」

「らあんっ!!」

「あ、助けはいらない感じなのね」

 

 グルルル……、と唸りながら私を睨み付けてくる。でも上下逆さまだし、動けないし、柔らかそうなお腹は丸出しだしでぜんっぜん怖くない!

 試しに釣り竿でお腹を突ついてみたら案の定めちゃくちゃ吠えられた。大きな声に一瞬驚かされるけど、その小ぶりなヒレは無力に空中をかくばかり。突いては吠えられてそれにビビって離れ、また突いては離れを何度か繰り返していると、ぽい、とニョロボンに竿を取り上げられた。

 ちょっと! と取り返そうとしたらこちらを見つめるニョロボンの白けた視線と目が合った。

 

「な、なに?」

「ニョロ」

 

 つんつんと指でつつかれる。無言だが「本当に分からんのか?」という声が聞こえてきた気がした。

 

「わ、悪かったよ。弱い者いじめみたいなことして……ごめんねラプラス」

「……」

 

 返事はない。代わりにぺっ! と足元に水が吐捨てられた。こ、こいつぅ……! やり返してやりたい所だが、いま私の手元に釣り竿がないことに感謝しろ! 流石に素手でやるのは噛まれそうで怖い。

 

 それにしても、このラプラスどうしたものか。

 ひっくり返って動けないけど起き上がるのに力は借りたくない様子だし、一般的に温厚とされるラプラスがどうして激怒していたのかも分からないし、そもそも何で川から海棲のラプラスが飛び出してきたの? 見るからに子供ってことを考えると群れからはぐれたのか?

 

「ねえ、もし違ったら悪いんだけどさ」

「らあん?」

「キミもしかして昨日の雨で迷子になっちゃったの?」

 

 ラプラスの体がびくんっと一際大きく震えた。あ、そっかぁ……。

 

「海に連れて行ってあげたら、一人でも家族のところに帰れそう?」

 

 返答は無言だった。ただ全身から力を抜いたまま明後日の方向へ顔を向けている。

 もし帰れるんなら私たちが海までなら連れて行ってあげれるけど、と提案すると、こちらを向いて力なく首を横に振った。

 帰れないのか……うーん。

 

 ニョロボンと顔を見合わせて「さて、どうしようか」と考えていると、どこからともなく地を這う地響きのような音が聞こえてきた。一瞬だけ「新手の野生ポケモンか!?」と警戒してしまったが、音の発生源はラプラスだった。上向きにさらし出されているその柔らかそうなお腹が、空腹を訴えて鳴っていたのだ。

 

「ちょうどお昼になるし。ご飯を食べてから考えようか。暴れないって約束してくれるなら、私の家(うち)でご飯を食べさせてあげるけど、どうする? 大人しくするって約束できる?」

 

 そう問いかけてあげれば、らんっ、の鳴き声と一緒にラプラスは今度は力強く頷いたのだった。

 




前話のラプラスのシーンは、ニョロボンが駆けつける前の僅かな瞬間を切り取ったものなんだよ! ということ。
ラプラスが怒っていた理由は獲物として襲っていたコイキングが釣り上げられて横取りされたと思ったからです。

主人公の歳:三歳一週間

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