転生チートオリ主が超技術でVtuberを現実に降誕させる組織のボスになるお話   作:水風浪漫

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前半はズバッと書けたんですけどねえ。
投稿頻度を上げたいところです。……ウマ娘やめたらいい話なんですけどね。

・後半のヤマブキシティ到着後の話を大幅に改訂しました。
 今話中での登場人物の減少、足早すぎた展開の改善、ヤマブキ小学生登場シーンの消滅など。(別人のJKになりました)



5.エスパー少女(お墨付き)

「ま゛た゛ね゛え゛~!!」

 

 溢れ出る涙を堪えることもせず、ハンカチで赤らむ目を拭いながら私は離れゆくマサラタウンに向かって必死に手を振った。

 

 

 結局フレンチトーストを二枚もおかわりしてから、私は昨晩の約束を守ろうとお父さんの鞄からラプラスの入ったモンスターボールを持ってきて、道路に面したテラス席でラプラスとハナコちゃんを対面させていた。

 最初、ボールから出されたラプラスは寝ぼけているくせに私の顔を見ると条件反射で“みずでっぽう”を撃ってこようとしたけど、まるで物怖じしないハナコちゃんが首元に抱き着いてくると一瞬で「物わかりの良い素直な子」の皮を被りおった。

 どうやらハナコちゃんは今の発射動作に気づいていなかったようだけど、私はしっかり認識してたからな……? そんな事実はありませんでした、と言うような顔で「らぁん~」と愛想を振りまいているラプラスだが、この子も我が家に来てからの八ヶ月の間に随分と大きくなっていた。出会った当初は完全に私より小さかったこの子は野生動物らしい成長性ですくすく育ち、今では私より少し背が高い程度にまでなっている。……まぁそれでも取っ組み合いで私が負けたことは無いんですけどねえ!!(勝者の余裕)

 

「うわぁ~スベスベでプニプニ~!」

「こいつ甲羅のちょっと上あたりの首筋が好きだからそこ撫でると喜ぶよ」

「そうなの? あっ、気持ち良さそう」

 

 そんな風に可愛い女の子に可愛がられて、気分よく身を(よじ)らせて体を擦り付けているラプラスに私は白けた視線を向けていた。私が撫でてやるときはベターっと腹ばいになって、撫でるのを止めると抗議の声をあげる程度しか反応しないくせによ。

 まぁそれも、ハナコちゃんが言っていたように私に対してはありのままの自分でいる、ってのだと思えばほんの少し……極僅かに可愛さが増すような気がしないでもない。だからと言って今のこいつの振る舞いが気にならないかと言ったら勿論そんなことはないのだが。イラっと来たので甲羅に跨って体を揺らして遊んでやると、煩わしそうに私を睨みつけてきた。

 

 何だ~? そんな目で見ても降りてなんてやらないからなっ!

 

 視線を外さないまま甲羅の突起をハンドルに前後左右に揺さぶり続けていると、しびれを切らして私を振り落とそうと暴れ始めた。暴れると言っても近くにハナコちゃんがいるのでさほど激しくはない、ヒレを器用に使ってぐるぐると芝の上を走り回っているだけだ。

 いくら私が軽くとも、この程度で振り落とされるほど軟弱ではない。遠心力のかかる方向に合わせて体重をかけてやれば、逆にラプラスが転ぶまいと方向を転換させる。それを上手い具合に操ってやればこの通り、ライドポケモン・ラプラスの完成だ!! ただこれかなり体力使うんですよね……。

 気が付けばハナコちゃんを置いてきぼりにして、普段と変わらない意地の張り合いを繰り広げてしまった私たちだったが、互いに疲労してくるにつれて争いは緩やかに終わりを告げた。終盤は振り落とされないようにするので精一杯だったから完勝とは言い難いけど、最後まで乗ったままでいられたのだからこの勝負、私の勝ちだ!

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながら背中を下りた私の下にハナコちゃんが飛び跳ねるように近づいてきた。

 

「すごいすごい! 私も乗ってみたい!」

「えぇ~? ……いや危ないから止めといたほうがいいよ」

「大丈夫! 私これでも運動神経には自信あるんだから!」

 

 むんっ、と袖をめくって筋肉を見せつけてくる。日々の手伝いで鍛えられているのか、思っていた以上に立派な力こぶが浮かび上がっていた。

 

「うーん、じゃあ危ないと思ったらすぐに止めさせてもらうけど、それでもいいのなら」

「分かったわ、ありがとう!」

「ラプラスも私じゃないんだからあんまり暴れないでよ?」

 

 そう言い聞かせるがラプラスはこちらを一瞥するだけ。疲れてても返事くらいしろ! まあこいつは本当にダメなことは絶対にやらないし、お母さんに頼まれたら家事のお手伝いが出来るくらいにはちゃんと分かっている子なので大丈夫だろう。

 ハナコちゃんの手を引いて慣れるまでは地味に乗り(にく)い甲羅に乗せてあげようとしたら、当のラプラスがごろんと体を横向きにひっくり返ってしまった。だいぶ疲れたとき偶にやるポーズだ。顔見知りの釣り人おじさん曰く、お腹を晒すことで熱くなってしまった体を冷まそうとしてるんじゃないか、とのこと。

 お前そんなに疲れてたの? うーん、見知らぬ土地だからまだまだ子供のラプラスにはそこら辺が関係してるのかもしれない。ちょっといつもと同じノリで遊びすぎたかも、反省せねば……。

 

 ハナコちゃんは急に寝転がってしまったラプラスに戸惑っていたけど、こうなってしまってはラプラス乗りは無理だ。事情を説明して「私がいつもの感覚で遊びすぎちゃったんだと思う」と謝ると、顎に手を当てて考えこむ様に黙ってしまった。

 え、え、もしかして私、何か間違った対応してた? 謝るのは行き過ぎだったか……? でも本来なら滅多にないラプラスと遊ぶ機会を奪っちゃったのは事実だし、だけど友達ならもっと気楽にいくべきだったか……? ま、不味い、幼少期の友達関係って大人になってからとは違うんだから丁寧にしすぎるのは無駄に距離感つくっちゃうのか? わ、分からん……!

 

 内心わたわた震えていると、ハッと顔を上げたハナコちゃんがにこっと花の咲いたような笑顔を向けてきた。

 

「いいのいいの! 確かに慣れてない私じゃ危なかったかもしれないし、気にしないで?」

「そ、そう?」

 

 よ、よく分かんないけど問題はなさそうなのでヨシ!

 

 結局、その後すぐにお母さんとお父さんが起きて来てしまったので、ラプラスが元気だったとしてもどちらにせよ遊べなかったみたい。

 私がお母さんの下に飛んで行って毎朝恒例のハグをしている間、ハナコちゃんがラプラスに何か話しかけていたけど、いったい何を話していたのだろうか。憮然とした表情のラプラスが一瞬ギョっとしていたから気になって聞いてみたけど、満面の笑みで「ひ・み・つ!」と言われて教えてはもらえなかった。

 

 

 そして今、私は走りゆくバスの窓から身を乗り出して、バス停まで見送りに来てくれたハナコちゃんに手を振っている。

 せっかく、ようやく出来た友達だったのにもうお別れしないといけないなんて。もともとマサラタウンには一泊立ち寄っただけだし、そうでなくても旅行が終われば私はアーシア島に戻らないといけないことは頭では分かっていた。ただそれでも、本当に久しぶりだった“友達”との楽しい一時がまた縁遠いものになってしまうのが辛くて、悲しくて、別れは笑顔で涙は流すまいと気張っていたのが嘘のように、私の双眸からはどうしようもなく涙が零れ出ていた。

 

 さらばハナコちゃん、さらばマサラハウス、さらばマサラタウン。

 これからはお揃いのヘアオイルと別れ際に貰った“みがわり人形”をハナコちゃんだと思って大切にします! 家に帰ったらお手紙も出すから! またいつか一緒に遊ぼうね~!!

 

 大声で泣いてしまって他の乗客の方には申し訳ない。でも今だけ、今だけはどうかお許しを。

 マサラタウンの入り口も見えなくなってしまって、途中で森を迂回して、遠くに港が見えてきた頃にはどうにか私の涙も収まっていた。たぶん目元の赤らみは取れてないだろうけど大丈夫、もうすっかり私は元気です。

 

 今はもうハナコちゃんへの手紙に何を書こうかで頭が一杯だ。楽しいお手紙を届けるためにも、今は目一杯この旅行を楽しまなきゃね!

 

 ずっと繋いでいたお母さんの手を放して窓の外へ意識を向ける。

 これから夏が近づいてくる爽快な青一色の空、水平線の果てで空と交わる海の向こうには薄っすらと白い雲が浮かんでいた。

 

 

 

「いやもうお昼過ぎなんだけど」

「ちょっと道が混んでたわね~……」

「お父さんの友達に会いに行く前にどこかでご飯にしようか?」

 

 マサラ港発、クチバシティ行きの定期船に乗り、クチバからバスに乗り継いで目的地ヤマブキシティに到着したのは本来の予定から一時間ほど遅れてのことだった。ヤマブキに入るまでは順調だったのだが、流石は大都会ヤマブキシティ、そこからバスの発着場に着くまでの僅かな間にうんざりする様な渋滞に巻き込まれてしまった。

 

 時代を感じさせるアンテナ付きケータイで友人に連絡を入れているお父さんを横目に、私は前世の東京も()くやという街の風景に見入っていた。私が小さいせいもあるだろうが、私には体感東京の数倍の規模の大都市に見えていた。

 グルメブック片手に近くの美味しい店を探すお母さんと手を繋ぎながら、町を歩く人々を観察する。ビジネスバッグを携えて早足で過ぎ去っていくサラリーマンらしき人、アーシア島では見かけない服装でどこかへ向かうお洒落人たち、明らかに学校をサボっているであろう道端にたむろする学生たち、エトセトラ、エトセトラ……。

 

 誰もかれも素朴で身軽な恰好ばかりの地元にはいない種類の人ばかり。そんな煌びやかな都会人の中でも群を抜いて私が興味を惹かれたのは、大荷物を抱えて歩いていた一人の女性の姿だった。

 薄い金髪を靡かせながら歩く彼女は、背中にこれでもかと荷物が詰め込まれたリュックサックを背負い、両手を買い物袋で塞がれたまま、更に六つの食材が詰め込まれたビニール袋を運んでいたのだ。そして両腕が使えない彼女にそれを可能としていたのが、おそらくはサイキックによる不可視の力であった。

 ふわふわと宙に浮かんでいる買い物袋は女性に追随するような挙動を見せている。道路を挟んだこちら側からでも分かるほど大量の汗を流しながら、女性は何処かへと歩き去って行った。

 呆気に取られているうちに女性の姿は見えなくなってしまったが、私は本物の超能力を目の当たりに出来ただけでもヤマブキシティに来た甲斐があったと既に満足だった。

 私同様、お母さんも目を丸くしていたが、件の友人で超能力を見慣れていると言うお父さんだけは何故か得意げな表情を浮かべていた。「ヤマブキは超能力者が集まる町だからね」とのことだ。

 

 慣れない町で道に迷ったりもしながら、本場の三つ星ホテルで修行していたシェフが営むガラル料理の店で昼食を済ませて、私たちは父の先導で小規模なドーム型の建物の前に辿り着く。途中立ち寄った観光案内所でもらったパンフレットによればここがヤマブキジムらしい。

 ……屋根を支えるような棘型の装飾が特徴的だけど、個人的には趣味が悪いなぁ、というのが正直なところ。公共施設なのに看板ひとつ設置してないし、ぱっと見隣の立派な和風建築の方がよっぽどジムらしさがある。入り口脇にしっかり「格闘道場」って達筆な木彫り看板が掲げられてるから間違えることは無いだろうけど。

 

 まあ、地元の人なら把握してるだろうし、ジムが目的の人がたどり着けないってことは無いだろうから問題ないのかな?

 

 私は久々に友達に会えるのが本当に楽しみな様子で、見るからに高揚している様子のお父さんの後に続いて入り口をくぐった。

 

「オーッス!! 未来のチャンピオン!」

「へ!?」

「……ではなさそう、ですね。失礼しました! ようこそヤマブキジムへ、ご用件をお伺いします」

 

 ジムに入ったら急に黒白ストライプ服のオジサンが勢いよく声をかけてきた。どうやら最初に入ったお父さんに反応したようだが、家族連れだったのでチャレンジ目的ではないと気が付いたのだろう。

 不意打ちで驚いたけど……まさか現実に「おーす! 未来のチャンピオン」おじさんが存在しているとは……!

 すぐに普通の受付対応に変わったけど、まさか最初の挨拶事態も接客マニュアルに含まれているのだろうか? いつか他のジムでも同じおじさんがいるかどうか確かめてみなければ……。

 

「ジムリーダーのトーマさんと約束しているマサオミと言います」

「マサオミさんですね、少々お待ちください」

 

 そう言うとおじさんはこめかみに二本指をあてて目を瞑った。何も喋らないしだし、イヤホンをしているようでもないのだが……はっ! まさか念話ってやつですか!? こんな受付の人すらサイキッカー!? おじさんは数十秒沈黙た後に目を開くと、手で奥の通路を指し示した。

 ……それより、お父さんの知り合いの人ってジムリーダーだったの!?

 

「どうぞ、一番奥の扉の先へお進みください」

「ありがとうございます」

 

 案内に従って廊下を進むが、うん……この建物、内装も中々ぶっとんでいらっしゃる。

 

 天井から垂れる蝋のような独特な形状の柱(間隔狭すぎ、本数多すぎ)、柱とのつなぎ目が無い黄金色の天井と壁、瑪瑙(めのう)っぽい石製の波模様が艶やかな床、そして極めつけは廊下を照らす無数の蝋燭。……いや電気照明が玄関にしかないってどうなってんだよ!! 防災面でも、コスパ的にも、利便性でも蝋燭を採用するのは可笑しいでしょ!? この建物は江戸時代に作られでもしたの……?

 

 この独特なデザインセンスはどうかこのジム特有のものだと信じたい。将来会社勤めになって、どこもかしこもこんなのだったら心が休まりませんよ。光量は十分だとしても日常的に蝋燭を使うとか火災の危険が高すぎる。それとも、お父さんとお母さんは「火が床に反射して綺麗ね~」なんてのほほんとしているのでジムには観光スポット的な面があるのが当たり前で、こんなユニークな造形も珍しくないものなのだろうか……? どうかそうであって欲しいと願うばかりである。

 

 そうこうしている内に最奥の扉にたどり着いた。お父さんがノックをしたものの反応はなく、少し待ってからもう一度ノックをしようとしたら、扉の向こう側から凄まじい轟音が響いて建物全体を揺らした。爆発音ではなく、まるで途轍もなく大きな物が落下したような音で、一度目が響いてから二度、三度と連続して近くで花火が打ち上がるのに似た振動が伝わってきた。思わず顔を見合わせる。

 

「な、何だったんだ?」

「お、お父さん確認してみてよ」

「俺かあ!?」

「あなた以外誰がいるのよ! ほら、早く早く!」

 

 家族に急かされて父は嫌々ドアノブに手をかけてから、少し躊躇した後に扉を一気に開け放った。扉の先では子供から大人まで年齢に統一性のない数十の男女が、それぞれ必死な形相で何かに取り組んでいた。一人ひとりの唸り声、というか気合を込める声は僅かだろうけど、それが十、二十と重なってかなりの騒音と化していた。

 ある者は親の仇でも見るような目でスプーンを凝視し、ある者は台座に置かれたガラス玉を必死に覗き込み、また別の者はマーキングされた床の一点を見つめ、ある一団に至っては巨大な岩を謎の力で浮遊させている。ぱ、ぱねぇ……。

 

「す、すみません! ジムリーダーのトーマさんはいらっしゃいますか!?」

 

 張り上げられた父の声に無数の視線が一斉にこちらに注がれる。

 うっ……、と怯むお父さん。そしてその背中に隠れる私とお母さん。矢面に立たせてすまぬ、父よ。

 

 いやしかし、見た感じこの人たちは皆超能力のトレーニング中だろうか。凄い……ヤマブキジムって本当に超能力者の修行場なんだなぁ~! ガイドブックに偽りなし! すげー……あ、ちょっ、お父さん後ずさってこないで!

 

 すり足で徐々に後退してくるお父さんを二人で押しとどめていると、唐突に人の群れが左右に割れる。その人波の隙間からコツコツ、と非常に()()()音を鳴らしながら一人の男性が姿を現した。黄緑色の髪を切り揃えた細身の美丈夫は私たちの姿を―――というよりもお父さんを確認すると、その鋭い眼差しを湛えた顔を破顔させて駆け寄ってきた。

 

「マサオミ! 久しぶりだな~!!」

「トーマ!」

 

 バシッ、と乾いた音を鳴らしながら二人は互いに力強く手を握る。握手ではなく、久々に再会した男友達同士がやるグッと互いを引き寄せ合うようなアレだ。家ではまず見ることの無い「父」ではなく「少年」の顔を出したお父さんの姿は新鮮というか、凄まじい違和感だった。

 

「トーマ、お前全然変わんないなあ。もっと飯食った方がいいぞ!」

「そういうお前はちょっと丸くなったんじゃないか?」

「幸せ太りだ、幸せ太り」

「ヒュ~、羨ましいねぇ!」

 

 二人は久々の再会を喜び合っているようだった。一時は注目していた訓練生の方々もトーマさんが自分の客だと説明すると、各々のトレーニングに戻って行った。

 その後、別室に移動した私たちはお茶菓子を頂きながら少々の歓談を挟みつつ、二人の思い出話もそこそこにお父さんは改めて今回の訪問理由を説明し、事情を聞いたトーマさんの視線が私に向けられる。

 

「超能力があるかどうか、ね。電話でも伝えてあるけど、簡単なようで結構難しいんだよねこれ」

「らしいな。でもたしか昔、エスパーにしろ霊能力にしろ超常的な力は目を見れば分かる、とか豪語してなかったか?」

「あれは既に力が開花している場合の話だからなあ。その切っ掛けが偶然にせよ訓練にせよ、僅かにでも発露していれば見抜く自信はあるんだが……」

「ふむ、じゃあうちの娘がいつか超能力を身に着けたとしても、現時点で判別するのは無理ってことか……」

 

 お父さんが気落ちする様に視線を落とすとトーマさんは「まてまて」と手を横に振った。それから少し語気を強めて語る、「俺だって学生のときより格段に進化してるんだぞ?」と。それを横目に私はお菓子を頬張っていた。ヤマブキ銘菓“ぽっ歩”美味え!

 

「それこそ、今俺が教えてる生徒みたいに頭抜けた才能があったら話は違うだろうし、そうでなくてもこの後に予定してる“エスパー体験教室”で力の発露があるかもしれない」

「なにその教室……」

「お前が家族連れてくるって言ってたから俺の方で準備したんだよ」

「マジ? 期待してるわ。……っと、それで、つまり分かるのか?」

「ひとまず今のデュランちゃんを()てみないことには始まらないな」

「……だ、そうだぞ。どうだデュラン?」

 

 ぽん、と話題が振られてきて思わず体が跳ねた。ちょっ、私まだ口の中にお菓子入ってるから! 慌てて口の中の白餡が美味しい“ぽっ歩”をお茶で流し込む。そして一呼吸挟んでトーマさんに向かって頭を下げた。

 

「! ……(ゴクン) は、はい。それじゃあ、お願いします!」

「任されました。それじゃあ、まずは深呼吸してみよっか。リラックスしている時が一番視やすいんだ」

「わ、分かりました」

 

 はい吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー、すーはーすーはー……。トーマさんは自分がやる必要もないのに私と一緒になって深呼吸をしてくれていた。それを一分ほど続け、私の肩から十分に力が抜けたのを見計らって、しゃがみ込みながら私の眼を覗き込んできた。

 お母さん譲りの美しい“紫色の髪”とお父さん譲りの煌めく“紫の瞳”。私は両親それぞれの特徴を引き継いで生まれたバイオレットの申し子である。約束された美形の未来、そして紫色は古来高貴な色であったことから私は(謎の)自信を得ているのだ。*1

 

 私の瞳を覗き込むトーマさんの目は、焦点が合っていないとか斜視だとかではなく、文字通り「此処ではない何処か遠い場所」を見つめていた。

 害意が籠っているわけでもないのに、その瞳を見ていると背筋にゾワリと泡立つような感覚があった。ひたすら無言の時間が続く。お母さん達も固唾を飲んで見守ってくれているが、こういう緊張感のある場面は苦手だった。片手で瞼を持ち上げられて強制的に目をかっ開かれている状態で一、二分待っていただろうか。いい加減、乾燥が耐えきれなくなって目を震わせている私を意に介さず、トーマさんの目は逆にその爛々とした輝きを増してきていた。

 

 更に十数秒ほど経過して、限界です! とトーマさんの手を払いのけようと思った瞬間、彼は視線を外して立ち上がった。「長いことゴメンね」と謝罪と共に渡された目薬で潤いを補給しながら言葉の続きを待つ。

 「さて」とソファに腰を下ろしたトーマさんは、少し考える素振りを見せた後に僅かな沈黙を挟み、一言「驚いた」と言葉を発した。

 

 そして真面目な顔で告げた。

 

 ―――このまま帰す訳にはいかなくなった、と。

*1
非常にしょうもない




・お腹は空気にさらすよりも水に浸した方が絶対に発熱効率が良いです。
・釣り人のオジサンはごく普通の会社員です。
・ヤマブキ銘菓“ぽっ歩”:白餡、こし餡、カスタード餡の三種類がある。16個入り一箱2,500円。

地の文の改行は多い方と少ない方、どちらが読みやすいですか?

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