転生チートオリ主が超技術でVtuberを現実に降誕させる組織のボスになるお話   作:水風浪漫

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長過ぎる旅行編、加速します。

・第3話で描写した設定部分を変更しました。
 アニメで別地方のキャラ同士が当然のように会話できている点をふまえて、
 言語2種類 → 話し言葉1種類、しかし文字は複数へ変更。


7.旅行ダイジェスト、そして帰宅

 トーマさんに全力の右ストレートをお見舞いしてしまって後、お母さんの雷が落ちたことを除けば大きな事件もなくヤマブキジムを後にした。吐き出した赤い石はトーマさんが伝手を頼って詳細を調べてくれるそうで、一先ずヤマブキジム預かりということになった。一通りの調査が終わったら返却してくれるらしいが正直、自分から出てきた物とは言っても得体が知れなさ過ぎて、あまり手元に置いておきたくない……。

 元々予定されていたトーマさん主導のエスパー体験教室は「折角やるのなら」と事前に広告を打ち出していたようで私達一家以外にも多くの参加者がいた。老若男女問わず、ナツメちゃんやケイさん、その他ジムトレーナーの皆様の協力の下で疑似的に超能力を体験させてもらったのだった。一時的な借り物の力とは言え初めて体験する本物の超能力。レクリエーションとして行われたエスパーを用いた的当てや綱引きなどのイベントを通して教室は大いに盛り上がった。

 

 まぁどういう訳か! 私はスーパー超能力者ナツメちゃん様の力添えがあったのにピンポン玉一つ動かせなかったんですけどねぇ!! 各競技ごとに優勝した人はエスパーマーク刻印の特別デザイン*1のボールを贈呈されていた。羨ましい、めっちゃ羨ましい。

 

「だ、大丈夫だよ。先生もデュランちゃん才能あるって言ってたし」

「今のところよく分からん石を吐いただけなんだけどね……」

 

 唯一の収穫はイベントを通してナツメちゃんと友好を深められたことだ。暫くはナツメちゃんが人見知りを発揮し、私は突発性コミュ障を発症していた所為で会話の間が保たなかったけれど、少しずつでも話してみれば、彼女もどこにだっている普通の女の子だった。そりゃあそうである。前世の記憶なんて奇天烈なものを持った私が色眼鏡を通して見てしまっていただけで、ナツメちゃんはNPCでもなければアニメの登場人物でもない、生きている一人の人間なのだから。

 好物はオムライスで押し花が趣味だと教えてくれたナツメちゃん。特に最近は押し花の延長でガーデニングにも興味があるのだと言う。女子力と可愛らしさが溢れてる……散歩して、釣り糸垂らしてして寝るを繰り返している私とは天と地ほどの差があるぜよ……。ガラル文字の勉強や老人会の絵画教室には参加してるけど、私ももっと熱中出来て(あわよくば女子力が磨かれる)楽しみを知るべきではないだろうかと思った。帰り道で色々考えてみようかな。

 

 私は途中から終始「ふんふん」「ほぇ~」「しゅごい……」と感心するばかりの機械と化していたが、帰り際にナツメちゃんから「お近づきの印に」と子供らしからぬ言葉と一緒に(スミレ)の押し花をもらった。水性絵具で薄く桃色に染めた厚紙に重なる二輪の華、その上からフィルムコーティングが施され、角の穴に黄色のリボンが通されている。フィルムに僅かな皺が寄っているところもあるけど、素人が作ったとは思えない凄い一品である。しゅごい……。

 

「それ、ちょっと前に作って普段使いにしてたやつで。もっと上手に作れたやつもあるんだけど、家に置いてあって、今は手元になくて、その……」

「ありがとう! 大事にするね。これから本読むときに絶対使う!」

「……うん!」

 

 生憎、私からプレゼントできる様な物は何も持ち合わせていなくて、手紙を書くことを約束することしかできなかったけど、ハナコちゃんにしろナツメちゃんにしろ、アーシア島の悪ガキ共とは違って心の優しい良い子ばかりでもうお姉さん(幼児・精神年齢2X歳)感涙である。この真心に応えるために島に戻ったら海岸でとびっきり綺麗な貝殻を探そう。

 結局、ジムを出たのは太陽が傾き始めた頃だった。せっかく仲良くなれたのだから私としてはもっと一緒に遊んだりしたかったのだが、宿のチェックインもあるし、夕飯も予約しているそうなので我が儘を言う訳にはいかない。というよりナツメちゃんも家に帰る時間だしね……。

 それ以前に大人がそんな駄々こねるとかあり得ません。私はお母さんに手を引かれジムを後にしたのだった。ええい! ハンカチで目元を拭わないでってば!!

 

 

 旅行2日目の夕飯はマサラハウスのハンバーグにも勝るとも劣らない美味しさの魚介尽くしだった。ロビーに入った時点で分かる高級な雰囲気漂う旅館にチェックインした時は、思わずお母さんに宿を間違えてないか二回も確認してしまって笑われたが、お父さんってもしかして結構な高給取り? 久しぶりの旅行だって言ってたし奮発したのかな。

 ……前世の実家は曾祖父母の代から受け継いだ和風建築だった。一人暮らしを始めてからはアパート暮らしだったし、今世の家も和風とは違う形だったから久しぶりの敷布団で床に就いたとき、嗅ぎなれた和室の薫りがしたような気がして思わず目が潤んだ。

 一度涙が零れるとどうしても治まらなくって、一人寝を始めて以来初めてお母さんに抱かれながら眠った。深夜に目が覚めて聞こえてしまった話し声によれば、私が泣いた理由について、「旅行の終わりが近づいてきたせいで、初めて出来た友達との別れが寂しくなったんじゃないか」って思われているみたい。

 

 前世については、お母さんたちにも話すつもりはない。二人はたぶん私の話を信じてくれると思うけど、自分達の娘に一つ前に別の親がいるなんて荒唐無稽な話、私だったら容易には受け止められないと思うし、それ以上に今の私はデュラン・ウォーターホールだからね。

 言葉で説明するのは非常に難しいのだけど、前世の私も私には違いないが、自意識という面ではデュラン(今の私)の方が「私」というアイデンティティーの根幹を成している比率が大きい──そんな感覚。だから、わざわざ前世について言及するつもりはない。これまでも、そしてきっとこれからも私はデュランとして生きていくつもりだ。

 

 唯一ショックだったことは私に友達が()()という事実が二人にバレていたことだ。心配させないよう偶に公園に顔を出して子供達と遊んでいたというのに……私の努力の意味とは、そして心配かけてごめんなさい……。

 でもバレてるってことは、もう話の合わない子供たちと無理して遊ぶ必要はないんだやったー! とストレスから解放されたことを(無理にでも)喜んで、気が付いたころにはぐっすりと眠りに落ちていたのだった。

 辛い出来事があっても思い切り泣けば心は軽くなるし、気分が落ち込んでもちょっとしたきっかけでプラスに転じる。何より一度寝て起きたら大抵の悩みと苦しみは忘れてしまえるのだから、ほんと自分でも感心するお気楽頭である。でもこの特性はこういう時には本当に便利なのだ……。

 

 翌日、リニアモーターカーでジョウト地方コガネシティへ超特急で移動して、コガネのグルメを食べ歩きながら回りきれぬほどの観光地を練り歩き、最後に街中に設置された観覧車から夜景を眺めて三日目は終了。

 最終日はバスでジョウト地方の港町・アサギシティへ向かって潮干狩りイベントに参加。提携店で獲れたての貝料理を堪能して海辺のグルメを味わい尽くし、かの有名なアサギの灯台*2で地元民に記念写真を撮ってもらって、それからもあっちへ行ったりこっちへ行ったり。途中から見かねたお父さんにおんぶしてもらっていなければ、私はどこかでぶっ倒れていたのではないだろうか。

 そんなこんなで旅行の全日程を終えた私達がアーシア島行きのフェリーに乗り込んだのは、どっぷり日が沈んでからだった。実は帰りの船室でも一泊予定という子供心をくすぐるイベントにワクワクしていたのだが、実際乗ってみると夜の海は真っ暗で何も見えないし、体はくたくたに疲れ果てていてシャワーを浴びたらもう睡魔は限界突破。ベッドにダイブした以降の記憶がない。気が付いたらお母さんに手を引かれて見慣れた家の玄関前に立っていたのでした。

 

 

 起床して朝ごはんを食べ、洗面所で身だしなみを整えて外へ出ると、そこにあったのは年がら年中太陽がギラつく青い空。数日離れただけで照り付ける日差しに懐かしさを覚えるわけもなく、そこにあったのは出発前と何も変わらない日常風景だった。行く前はあれ程待ち遠しかった旅行も、終わってみれば本当に三泊四日も行っていたのかと疑問に思えてくるほどあっという間だった。

 でもその短い時間の中で私が得たものは、アーシア島ではずっと得ることができなかった大きなもので。あれ以来、私のベッドの枕元には緑色の怪獣みたいな()()()()()()が飾られていて、机の上の文庫本には紫の花弁が可愛らしい栞が顔を覗かせている。頻繁に会うことはできないけれど、成長して行動範囲が広がったら真っ先に会いに行きたい。いやぁ、本当に良い旅行だった。

 

 私は帰宅した翌日から数日間、我が家のポケモンを総動員してハナコちゃんとナツメちゃんにプレゼントする貝殻探しに励んだ。

 拾い集めた数多の貝の中からとびっきりに綺麗な貝を厳選して、浜辺で時々見かける赤くて綺麗な砂*3を小瓶に詰めて、アーシア島の絵葉書と一緒に二人に郵送した。ハナコちゃんには耳に当てると小さな海の音が聞こる薄黄色の巻貝を、ナツメちゃんには山吹色の二枚貝をそれぞれ同封した。気に入ってもらえるだろうか?

 

 

 一週間と少しが経った頃、ほぼ同時に二人からの返事が届いた。絵葉書と砂の小瓶については好評だったようで嬉しい限りだが、異口同音に語られていた「ポケモンを郵送してくるな」とは何の話ですか……?

 

*1
ポケモンカードの超エネルギー! この世界には前世にもあった要素が隠れてる

*2
残念ながらデンリュウはいなかった

*3
星の砂

地の文の改行は多い方と少ない方、どちらが読みやすいですか?

  • 多い方(一段落が短い)が良い
  • どちらかと言うと多い方が良い
  • 少ない方(一段落が長い)が良い
  • どちらかと言うと少ない方が良い

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