最終到達点『ロドス』   作:カネナリ#2560

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 レベル100到達記念にお盆を使ってずっとこれを書いてた。

 アークナイツの物語が大陸の端っこで起きている事を念頭にお読みください。


楽園への旅路
EP.01 一念発起


 幼き頃より、私の目は外の世界へと向けられていた。興味や羨望といった輝かしいものではなく、必要に駆られて。

 

 天災が過ぎ去った後の枯れた大地に蔓延する死の病。一つの小さな集落を崩壊させるには充分であった。食糧庫が潰れ、近くの水源が汚染したのも大きな要因だったのだろう。それらが発覚したときに村全体で争いが起きたのだから間違いあるまい。

 

 僅かに手に入る糧で生き長らえる日々に辟易とした私が、其の場から脱却せんと画策するのも無理からぬことであろう。 幼き身ではあったが其処らの者よりかは肉体が強靭であると自覚していた。そこに輝く粉塵を撒き散らしていた冒険家の遺品があれば、遥か彼方に存在する都市に辿り着けるという確信が芽生えたのだ。

 

 そうして私は崩壊した村を背に足を進めた。此の先に生きる道があるのだと信じて。

 

 

 

 此れは旅路である。

 

 地を練り歩き楽園へと到達せし者の記録だ。

 

 此の一冊に其の全てが書き記されてある。

 

 愚かな私の生き様をどうか御賞味有れ。

 

 

 

***

 

 

 

 歩く度にサイズの合っていないブーツがベコベコと情けない音を立てる。身の丈に合わぬ外套の裾が地に跡を残して引き摺られている。時々引っ掛かったり躓いたりするので非常に歩きづらい。

 ゆっさゆっさと揺れる背負ったバッグの中には水筒、携帯食、刃渡り5cmのナイフ、火打石、何処かの地図、グルグル回る方位磁針、道中で集めた枯れた草木がパンパンに詰まっている。重量があるが何てことはない。肩が擦れて痛いぐらいだ。

 

 吹き荒ぶ砂の混じった風が、目深に被ったハットを飛ばそうとしたので慌てて片手で押さえた。自身の倍はある錫杖がガシャンガシャンと耳障りな音を立てる度に、先端だけでも取り外すべきかと考えるが、そんな暇があるなら一歩でも足を進めた方が有益であると判断した。

 所持品がシャツとズボンしかなかったからといって、死んだ冒険家の───それも大人の───服を態々着る必要があったのだろうか。身に合うものなど村に幾らでもあったし、強奪すれば済む話だったのだ。

 一心不乱に歩みを進めるなか、脳内にそんな疑問が駆け巡る。まあ村を出て既に三日は歩いている。引き帰すにしては遅いだろう。帰るつもりなど全くないが。

 

 地平線の遥か先に村からも見えていた山峰がある。取り敢えずあれを目指しているが近づいている感覚が全く無い。心なしか大きくなっているが気休め程度だ。

 無心のまま荒野を突き進んでいると辺りが暗くなり始めた。眠らずに三度目の日没を見るとは粋なものだ。

 序でに風を凌げそうな岩場が有ったので休息をとることにした。頑強とはいえ流石に身体が疲弊している。糧を得る必要もあるだろう。

 

 嘗て誰かが私のように休息をとっていたのだろう。岩の窪んでいた所に人の痕跡が残っていた。年月が経っているのでそれ以上は分からんがな。

 バッグを下ろして一息つく。バッグの中から枯れた草木と火打石を取り出した。枯れ草に火をつけて枯れ木をくべれば焚き火の完成だ。これで今晩は野犬の群れに襲われずに済むだろう。襲ってきたら錫杖の錆びになるがな。

 

 寝る前に携帯食を食べて腹を満たしておく。粉塵にまみれてジャリジャリとした食感だが、味はハッキリと肉々しく悪くない。美味しいものを食べたことが無いからそう感じるだけかも知れないが。

 水筒の水は汚染された川の水だ。何に汚染されているかは知らないが飲むと喉に違和感を感じる。数分経つと消えているのでそこまで気にしていない。

 噛み応えのある携帯食を水で流し込みながら、此の旅路を振り返る。思いの外順調であった。懸念していた外敵も貧弱な野犬と通常種のオリジムシぐらいしかいない。前者は錫杖で脳骨を粉砕すれば大人しくなるし、後者は踏み潰せば何とかなった。

 

 食事を済ませた頃には辺りは真っ暗になっていた。砂塵が光を遮っているのか月明かりは殆ど無い。

 此の場を支配するのは草木の燃える音と荒れ狂う風の音だけだ。

 此の大地の夜は凍えるように冷える。

 

 私は外套にくるまって火の暖かみを頼りに眠りに落ちたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 Tips.ハットと外套

 ・極東に存在する菅笠と合羽である。雨風だけでなく日差しを遮れる此の一式は旅にもってこいだ。

 

 遥か遠き国の物が如何様にしてこの地に至ったかは些細なことだ。人の役に立っている。物としてそれ以上の事は求められていない。

 

 

 

***

 

 

 

 砂塵で遮られているはずの日光はその熱線をいかんなく突き抜けて私の服を焦がしてくる。ハットが無かったら禿げてたな。多分。

 砂の混じった風もまた厄介だ。目や口、鼻に容赦なく入ってきて、吐き出すのも億劫だ。仕方なしにズボンの裾を割いてマスクにして防いでいる。

 運悪く砂嵐の時期に差し掛かったのだろう。丸一日吹き荒れるままだ。方向感覚が狂うが目的地など有って無いようなもの。前に進めているので問題はあるまい。

 

 妙に生物や人間が居ないと思っていたが、まさか砂嵐が起きるから離れていたとは思わなかった。収まった後は盗賊や地を潜む生物に気を付ける事になりそうだ。

 

 砂が身体中に叩きつけてくる。そこまで痛くは無いが服の至るところに砂が侵入して感触が鬱陶しい。ブーツの中なんて足以外は全部砂だ。此れは此れで安定するから別に良いがな。

 前を見ようとしたら目に砂が大量に入った。考えなしの行動を反省すると同時に、当分は空を見れないなと呑気にそう思うのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 Tips.砂嵐

・砂嵐あるいは砂塵嵐は、塵や砂が強風により激しく吹き上げられ、空高くに舞い上がる気象現象。空中の砂塵により、見通しが著しく低下する。砂漠などの乾燥地域でよく発生する。

 

 砂嵐は此の大地において最も近しい災害である。吹き荒れる砂の集合体は目前すら見えぬ障害になる。縮こまり身を潜めて過ぎ去るのも一つの手だが、時には無理にでも前へ進むべきだろう。

 

 

 

***

 

 

 

 太陽が落ち、夜になっても砂嵐は続いた。さらに方向感覚が狂うがどうでも良いことだ。

 こんな時に錫杖という鉄棒が頼りになる。躓いた時に体を支える第三の足になってくれるからな。非常に頑丈なのも良いことだ。雑に扱っても簡単に折れないし曲がらない。冒険家が持つに相応しい代物だろう。欠点は先端のガシャンガシャンする奴*1が取れない事ぐらいだ。何で取れないんだよ。

 

 背後から光が差してくる頃には砂嵐は段々収まり、ヂリヂリとした熱を感じてくると嵐はただの風に戻っていた。久方ぶりに顔を上げると見慣れた山峰が見えた。寸分違わずに真っ直ぐ歩けていたようだ。私の健脚を誇らしく感じるよ。

 

 日陰の出来る岩場を見つけたので、其処で入り込んだ砂を落とした。叩けば叩く程出てくる。ある程度落としてさっぱりした。気分が良い。爽やかなものだ。

 

 ハットを被り直し、ブーツを締めて、錫杖を握り、ズルズル、ベコンベコン、ガシャンガシャンと音を立てながら、また遥かなる山峰を目指し歩みを進めた。

 

 

 

***

 

 

 

 Tips.錫杖

・修行僧が携帯する道具の一つである杖。有声杖、鳴杖、智杖、徳杖、金錫ともいう。六個か十二個の遊環が有り、其れが金属音を奏でる。

 

 音は万物を惹き付けると同時に警告を放つ。幸福を呼び寄せ災難を退けるだろう。また、逆も然り。此の旅路に試練が伴う事は確実だ。努々、その音色に囚われる事無きよう気を付けることだ。

 

 

 

***

 

 

 

 二度目の明けごろ、ふと違和感を覚えた私は歩みを止めた。それが何であるか確認しようと辺りを見渡していると、手元の錫杖が動かしてもいないのにカシャンカシャンと音を立てている。地面の振動が十二個の遊環を揺らしているのだ。

 その事が示すのはつまり地中より何者かが来ているということ。直ぐ様意識を研ぎ澄ませて迎撃出来るようにした。

 時が経つに連れ錫杖の音はガシャガシャと激しくなっていき、ガシャンと一際大きい音と共に私の立つ地面が盛り上がった。

 

 私を呑み込もうとする巨大な口を左へ一足跳んで避けると、横からガチンと口を閉じた音が聞こえる。歯が生えているのかとチラリと見れば、妙な光沢を持つ目の無い気色悪い生物が頭を出していた。

 不快なので右手にある錫杖を振りかぶってそのスベスベとした頭に叩きつけた。硬質な感触が返ってきたが、構わず振り抜くと頭部を凹ませながらぶっ飛んで地面に転がった。のたうち回ったあと苦し気に耳障りな鳴き声を上げて大人しくなった。

 

 見れば見るほど気分の悪くなる生物だ。何処と無く図鑑で見た沙蚕に似ているが人サイズにはならないと書いてあったはずだ。まあこんな生き物も居るだろうと私は思考を放棄して旅を再開するのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 Tips.偽沙蚕

・ゴカイと読む。環形動物門多毛綱に属する動物の一種。主に釣り餌として使われていた。芋虫とミミズを足して割ったかのような外見を持つ。 主に干潟や岩礁に生息し、泥や砂の中にある有機物を食べて生活する。

 

 つまり主食はオリジムシである。嘗て大地の中心が巨大な水溜まりであった頃、巨大魚を釣り上げんとした人々が遺伝子操作の末に産み出した悲しき生物。幾千年をかけた進化により砂の大地に適応している。砂中に潜み何処までも追いかけてくる存在は正しく驚異であろう。オリジムシを餌にして釣るのも一興だ。

 

 

 

***

 

 

 

 あれから三度程、同じような生物に襲撃を受けたが難なく始末した。見慣れてくるとそこまで不快にならないので解体も行った。

 解体用の凄い切れ味のナイフで硬い皮膚を裂くと、バシャッと白濁した体液が噴出した。とても臭い。幸いにも手のみにかかったので服が汚れることはなかった。不快さが再発して二度と解体しないと誓ったが、些細なことだ。

 しかし体内の殆どが水とは。何を食べているのだろうか。奇妙なものだ。

 

 ……遠目にだがオリジムシが捕食されているのが見えた。バリバリごりごりと噛み砕いている。エネルギー源としては優秀なようだ。そこら辺に山程居るし、知能の低い奴らは真っ直ぐにしか動かない上動きも鈍重だ。狙いやすいだろうな。弱い奴から死ぬ、此処はそういう場所だ。

 

 

 

***

 

 

 

 Tips.オリジムシ

・言わずと知れた雑魚、或いはマスコットキャラ。源石がある限り何処にでもいる。容易く死ぬ故によく群れる。群れても死ぬ。

 

 新情報で源石を纏った軟体生物(カタツムリみたいなもの)と知り、前作の設定がぶっ壊れたのを作者は理解した。

 

 

 

***

 

 

 

*1
遊環




 アークナイツ、楽しいよ。皆もやろう。
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