最終到達点『ロドス』   作:カネナリ#2560

13 / 16
 四ヶ月も放置してて正直スマンと思ってる。


EP.13 信念之剣

「ヴッ、ごぱァッ……。な、何のこれしき」

 

 騎士は血を吐いた。力が入らないのか膝が崩れ落ちそうになっている。だが、堪えた。其の姿には二度と膝を付かないという確固たる意志を感じる。

 胴をが貫通しているのに死なないのも可笑しいが、其れは目の前の騎士に限った話では無いだろう。騎士道精神というものは実に御立派だ。相手をする分には面倒此の上ないがな。

 

 瀕死の騎士だが、闘志は未だ衰えていない。何か仕掛けてくる。そんな気がしてならなかった。此の距離、此の状況、そして極めつけは未だ構えている信念の剣。

 何処か似通った光景であり、そして騎士の一矢報わんとする其の姿勢。用心深く観察し、念のため錫杖を手元に戻しておく。

 

 錫杖を手に取った瞬間、私は脅威を感じ取った。命の危機が迫っている事を感じ取れたのは単なる偶然だった。何時も鳴りを潜めている本能が此処ぞとばかりに警鐘を鳴らし、脳が指令を出す前に体を一歩引っ込めたのだ。

 

 騎士は命を振り絞って信念の剣を振るった。私との間におおよそ10mの距離が有るのに、剣では絶対に届かない位置で刃を振るったのだ。

 そして伸びた。私が以前したように、己の刀身を伸ばしたのだ。

 

 信念とは無形である。自身の斯うあるべきと思い描く姿が信念を形作るのだ。詰まり、信念を顕現させる剣が伸びたとしても不思議に思うことはない。再度言うが、信念に形など無いのだから。

 

「ぜぇ……ぜぇ……ゴホッ。届かぬ、か。惜しくも──な、なに……ッ!」

 

 ビシリッ、と私のマスクが割れた。断面は実に綺麗だ。もし、私が一歩後退しなければ、私の体は此のマスクのようになっていただろう。

 

「面妖な……。顔が……無い、だと……?」

 

 人の顔を見て失礼なものだ。其れでは私がのっぺらぼうではないか。

 

 ───何処に目を付けておる。口が有るだろう。正面と側面合わせて六の穴も有る。不足は有るがな。……まあ、産まれた直後は穴すら無かったらしいが、定かではない。赤子の当方が斯様な些事、覚える筈もないのでな。

 

「馬鹿を言うな! 眼球が無い、鼻も無い、耳殻も無い! 貴殿は、一体……一体どの様にして、生きてきたのだッ! そんな体でッ、生き抜ける程……此の大地は甘くないッ!!」

 

 ───極論ではあるが……生物は栄養を摂り込む口と、其れを吸収する器官さえ有れば生きていけるのだよ。

 しかしだ、当方の身体は特殊な様でな。眼球が無くとも微かな光が脳裏に像を作り、鼻が無くとも香りが胃に染み渡り、耳殻が無くとも肌が響きを受け取る。器官が無くとも何人と変わらぬ感受性が当方には有るぞ? まあ、足首から下は無いのだがな。

 

「馬鹿げた話だ……ッ!」

 

 血反吐を撒き散らしながら、騎士は認めたくないと言わんばかりに怒鳴りたてる。私が目の前に居るというのが何よりの証拠だと言うのに。

 

 ───酷い言い草だ。こんな体故、苦労してきたのだぞ。

 赤子の身から十余年、彼の冒険家を見つけるまで砂漠の地で孤独に生き長らえてきた。方々を這い回ってはハイエナの血肉を食らい、虫を砂ごと飲み込み、嵐に身を削られようとも生き長らえた。生きて、貴殿の目の前に斯うして立っておる。

 

「……ッ」

 

 ───何故生きているのか。其れは当方が産まれながらの強者であったから。強いのだよ、当方は。其れとも何かね。貴殿の其の姿は証拠になり得んのか。

 

 認めたくないが、認めざるを得ない。そんな歯痒い思いを全面に出して、騎士は目を強く瞑り歯を食い縛った。

 数秒の苦悶の末、カッ、と目を見開き私を見据える。其の瞳は、実に、決意に極まっていた。

 

「認めよう。貴殿は怪物だ。其の力、其の在り方。最早人で無し。

 そんな貴殿が、矮小な存在の人を記憶に留めるはずが無かったのだ」

 

 そして、何を思ったのか信念の剣を自身の心臓に突き立てた。気が触れて自決を選んだか、と以前の私は思っただろう。流石の私でも、此処までくればただの自決ではないと分かる。

 

「ぬおおォォォォ……ッ!!」

 

 雄叫びを上げ、信念の剣を引き抜く。体内から蒼白い光が漏れ、鎧が内部から弾け飛び、突き刺さっていた源石剣は砕かれた。一房に纏められていた髪が逆立ち、覗く瞳は蒼く染まる。

 人では無いナニかに、騎士は変貌した。

 

「故に、私も対等の存在に成ろう。怪物を相手にするのは、怪物と相場が決まっている」

 

 ───嗚呼、素晴らしい。流石だ貴殿。此処までの覚悟、そうそう見れる物ではない。人が産む願望によって人の身を放棄するか。実に結構。

 さあ、来い。さあ、行くぞ。心行くままに闘おうではないか。其れが此度の闘争に相応しい。

 

 騎士の体表に蒼白い炎が纏いつく。其れは体表に留まらず、手にある二本の剣にまで及んだ。触れてはいけない範囲が剣一本から全てに変わったが、闘い様は幾らでもある。

 

 体内の源石を抽出し、源石剣を一本鋳造する。錫杖を全面に突き出し、源石剣は腰だめに浮かした。目的は至って単純。錫杖で防いで、源石剣で急所を一突きする。

 此れが私の知る二刀流の姿だ。彼の冒険家は急所突きを刃渡り5cmのナイフでやってのけていたが、今の私では到底真似できそうにない。

 

 騎士は手始めに輝く斬撃を二つ放った。明らかに大きさと強さが上がっているが、軌道そのものに変化は無い。慣れてきた攻撃など、私にかかればいなす事など容易だ。

 斬撃をいなした私に騎士は距離を詰めてくる。興奮しているようで、いきなり攻めっ気を見せてきた。此れが騎士の本来のスタイルなのだろうか。どちらにせよやることは一緒だ。気にすることではない。

 

 騎士は二つの剣を同時に振るうが、私は其れを錫杖で完璧に弾いた。興奮しているのは私もだったようだ。アーツの冴えが格別だ。

 隙が出来たので源石剣を突き出す。ジュワッ、と蒼白い炎に触れた先から気化していった。役立たずめ。

 

 再度剣が振るわれる。私は防御機構をふんだんに組み込んだ障壁を三枚出現させて防いだ。防御機構を搭載しているのに、二枚ぶち抜かれて三枚目に罅が入っているが、またもや隙が出来たので今度は錫杖を突き出す。

 錫杖の石突きは源石剣のように気化すること無く騎士の体を貫いた。しかし、引き抜けば穴を蒼炎が埋め尽くして塞いでしまった。困った事にダメージはない様子だ。どう倒したものか。

 

 ───怪物、か。少なくとも生物の体ではないな。

 

「ククッ。褒め言葉よッ!」

 

 障壁が騎士によって押し潰され、砕け散る。迫る絶死の剣を半身になって避け、蒼炎を纏いし蹴撃を潜り抜けて騎士の背後に立つ。

 騎士は振り向き様に剣を振るうが、潜り抜ける際に軸足を錫杖でもって消し飛ばした故、重心がズレて私の頭上を過ぎ去った。

 

 私は騎士の頭、肩、腰を錫杖の石突きで消し飛ばしたが、蒼炎が消し飛ばした所に燃え広がり、まるで何事も無かったかの様に元の姿へ変貌した。見れば足首も同様に現在し、呆気に取られた私を蒼炎を纏った蹴撃で飛ばした。

 物理的法則の一切が適用されないのではないかと私に思わせるくせに、此方には容赦なく干渉してくるものだから、どうしたものかと私を悩ませる。今の騎士は言わば霊体、或いは精神生命体の様な存在なのだろう。

 

 私自身見たことは無いが、其の様なモノがこの世に存在することを彼の冒険家に聞いたことがある。憑かれているとか何とか言っていたが、其の時の私は知覚できなかったので半信半疑であった。

 そして今、目の前に其れと思わしき存在が、此れ以上無い程に厄介な障害として現れた。もう少し踏み込んで聞いていれば何か対処法を見つけれたかも知れないが、彼の冒険家は既に故人だ。後悔先に立たずと言ったところか。

 

 焼け爛れた両の手を見た。あれから幾分か時を経ているというのに治る気配がない。

 蹴られた腹部を手でなぞった。火傷の様な感触がする。

 

 皮膚が焼ける程の熱だというのに、騎士に直接触れた服は燃えた跡が無い。そして極めつけは自然的治癒力の高い私の体に傷を付けたままにしている此の現象。

 何処か見覚えのある光景に、彼の補給拠点で錫杖の電撃に全身を焼かれた事を思い出した。

 

 以前不注意で全身を焚火で焼いてしまった事があるが、自前の治癒力だけで日が昇る頃には完治出来た。だが、錫杖の電撃によって出来た傷は、補給拠点の医療設備でも治す事が出来なかった。傷自体は認識されるが治療不可能と判断され、おととい来やがれボケナスと水玉から放り出されたのだ。

 焦った私は気にも掛けなかったアーツ学の本を読み漁り、自然的治癒力を底上げするアーツと何故効果があるのか未解明と紹介のあった不自然な治療アーツを修め、何とか一日で治した覚えがある。

 

 まあ詰まりだ。錫杖の電撃は騎士の蒼炎と同じ性質が有るのではないか、という考えに私は至ったのだ。波長の似たアーツが互いの効果に干渉出来る様に、騎士の蒼炎を焼き焦がす事が出来るのではないかと思ったのだ。

 何にせよ放電させるにはエネルギーを貯めないといけない。電ノコだと一時間程掛かったが、其れはエネルギーを意識的に留めなかった場合だ。上手くやれば数分で貯まるだろう。多分。

 

「ハハハッ!! 打つ手が無い様だな、貴殿ッ!」

 

 楽し気に振り下ろされた信念の剣を錫杖で受け止める。私の足が脛まで埋まる程の凄まじい力だ。霊体で物理法則をねじ曲げないで頂きたい。

 騎士は私を抑えたまま剣を振るう。水平に凪ぎ払われる其れを受ければ、地面にめり込む程の力で飛ばされてしまうだろう。受けるのは悪手ではあるが、生憎と私の足は地面に刺さったままだ。

 

 私は体内の源石を脚に集中させエネルギーに変換し、接触する地面に干渉して融解させた。私は押されるがままに溶岩へ身を落とし、振るわれる剣を回避した。シャツとズボンが燃えるが、この際致し方なし。命あっての物種だろう。

 私はアーツで溶岩を操り、拳大の球状にして大量に宙へ浮かべる。熱された空気が蠢き、冷えた空気とぶつかって渦を巻いた。

 

 騎士は剣を構え直し、再度剣を振るう。私は作り出した溶岩の弾丸を信念の剣にぶつけた。触れた途端に気化していくが、僅かながら干渉出来る。一つ一つはほんの少しの減退たが、百数十と打ち込めば非力な私でもいなせる程に弱まってくれた。

 

「流石は貴殿!! 此れを弾くか!」

 

 そして今、錫杖にエネルギーが貯まりきった。どうやら今までの攻防で既に八割は貯まっていたようだ。たった二度の受けでエネルギーが充足した。

 錫杖全体が熱を放ち、杖頭が金色の輝やきを灯す。あと一撃でも殴打すれば、錫杖内のエネルギーを放出しきるまで電撃を撒き散らすだろう。

 

「むっ……。金色の輝き……か」

 

 ───顔が強張ったな。貴殿は此れを知っているのか。

 

「……ッ! フハハッ!! なに、其の光には良い思い出が無くてな。だが、私が知るアーツでは無い事は確かだ。嫌な予感は凄まじいが」

 

 ───ならば、その予感を抱えたまま冥府へ行くが良い!

 

 私は残りの溶岩を一つに集結させ、目眩ましとなるよう大波の様に騎士へ向ける。騎士は其れを即刻斬り払って消し飛ばした。しかし、私は既に騎士の頭上へと跳躍している。騎士が剣を構える前に到達するだろう。そして錫杖を突き刺して放電させるのだ。

 電撃が効くかは未知数だ。しかし、他に手が無いのも事実。私は賭博を忌み嫌うが、今回ばかりは賭けるしかなかった。

 

「甘いぞ貴殿! 私の手は、まだ残っている!」

 

 騎士の手甲に輝きが集束していく。そして其の拳を私へ振り上げた。蒼く輝く衝撃が私を襲い、私の右腕が弾けた。そうだ、錫杖を握っていた腕だ。

 

「アーツロッドが地面に落ちるぞ。其の反響に乗って拾いに行くが良い。私は其処を斬り捨てよう。

 さあ、此の状況をどうする! 貴殿!!」

 

 音に乗る準備は既に済ませてある。距離を測る方法と体を保持するアーツは理解している。錫杖の前に出現するのは容易な事だ。

 だがそれは騎士も同じこと。私が錫杖を拾おうとした瞬間に斬殺されるだろう。そのままいけば私は錫杖を触れることすら叶わないのだ。そう、そのままいけばだ。

 

 ───ガシャン

 

 錫杖が地面に到達し、地中にその音を響かせた。私と騎士はその音に乗り、コンマ一秒以下の世界に身を投じた。落下の衝撃でエネルギーがオーバーフローし、錫杖が放電を開始する。

 

「居ないッ!? 何処へ……」

 

「後ろだ」

 

 曾ての補給拠点にて、私は放電の始めから終わりまで余すことなく受け続けた。私の肉体は電流が体を迸っても動ける程に強靭だ。其れは錫杖の電撃でも同様だったのだが、引っ付いてくるのだ。放電状態の錫杖は。まるで磁石の様に。

 故に、私は錫杖の元へ行かなかった。錫杖の近くに騎士が現れるのを待ち、そして騎士の背後へ移動したのだ。私と錫杖で挟み込む様に。

 

 私は騎士の背へ抱きついた。今の騎士の肉体は信念という謎の物質で構成されている。其れは霊的な存在であり、あらゆる物理法則が適用されない巫山戯けた性質がある。

 だが、思い出して欲しい。此の信念とは、一体何の信念か。そうだ、此の信念は私に覚えて欲しいが為に私を殺そうとする信念だ。騎士の信念が私を焼き焦がすのならば、私の魂が其れに触れる事が出来ない道理は無い。

 

「グゥッ……!! 我慢勝負とぉッ! いこうではないかぁッ!!」

 

「な、なんだと……!?」

 

 騎士に触れる全てが焼き焦げ、煮え滾っていく。魂が燃やされているのだ。辛く、苦しい、身の毛もよだつ激痛だ。だが、こんなものではない。錫杖の電撃が与える、地獄で燃え盛る業火の如き熱痛に比べれば、まだ優しいものだ。

 錫杖がひとりでに浮かび上がり、私の元へと高速で飛来する。騎士は防ごうと信念の剣を振るったが、錫杖は其れを呆気なく破壊し、騎士の鎧を貫通し、私の腹部を刺した。そして襲いかかるのだ。彼の電撃が。

 

「ギィ……ッ! アガァァァァッ!!」

 

「ぬ、おぉぉッ!? なん、だ……此、の威力!?」

 

 電撃が迸る。恐れ知らずの私に初めて死の恐れを与えた電撃が、私と騎士に襲いかかっている。最早止められない、止まらない。内包するエネルギーが尽きるまで。

 私は三つ賭けていた。一つは騎士に此の電撃が効くかどうか。もう一つは効くとして自身が耐えきれるのかどうか。最後の一つは耐えきれたとして騎士が倒れるのかどうか。

 

 分の悪い賭けだった。此の電撃は信念の灯火を容易く消し飛ばす力がある。だが騎士は強靭な意志を持つ漢だ。消された先から灯して、灯して、灯して、何度も灯し続けるだろう。騎士は此の電撃に耐えきると、私には妙な確信があった。

 しかし、そんな理解があったところで私にはどうする事も出来なかった。唯々、此の電撃から逃さぬ様に、騎士の背に必死にしがみつくだけで精一杯だったのだ。

 

 そして、千もの間に感じる時に終わりが告げられる。錫杖に内包するエネルギーが放出し尽くしたのだ。実際にはたったの十秒の間であったが、私も騎士もたった其れだけの間に満身創痍に陥った。

 

 私は腹部に錫杖が刺さったまま地に落ちた。全身が炭化し、痺れ、痙攣し、体を支えるどころか立ち上がることすら叶わなかった。

 騎士は膝をついたまま身動ぎしない。全身に纏っていた蒼炎の鎧は崩れ落ち、肉体が半分消失していた。彼れ程までに強き輝きを発してた蒼はくすみ、種火の様な微かな光のみが残っている。

 

 私が生きているのが確かな様に、騎士もまた生きている事を忘れてはいけない。動かなければ。其の一心でもって錫杖を引き抜き、崩れそうな肉体を震わせながら立ち上がった。重心の殆どを錫杖に預けなければ、立ち続けれない程に肉体が損壊している。

 騎士もまた、私に呼応する様に立ち上がった。左半身のみで、たった一本の脚を震わせながら短剣程に縮小した信念の剣を私に向ける。僅かな闘志、然れど此の一瞬の為に確かに燃え盛っている。

 

 ジリジリ、ジリジリと互いの距離が縮まっていく。騎士だけが動いていた。私は立ち続ける事しか出来なかった。倒れるような無様は晒すまいと、ただ其れだけで立ち続けた。

 

「オ、オオ……ッ、オオオォォォォォォォォッ!! まだ、終わってぇ、いないぞ貴殿ッ!!」

 

 騎士が雄叫びを上げる。私に覚えて欲しいが為だけに種火の様な信念でもって私を斬りつける。私の炭化した肉体に一筋の裂傷が作られ、赤黒い血が噴出した。其れに痛みは感じなかった。焼き焦げる痛みに塗り潰されたようだ。

 

 いや、そんな事よりも血だ。私の血だ。そもそも私の体に血なんて代物が流れていたのか。先の闘争においてもそうだ。四肢が引き千切れた時は液状化した源石しか垂れなかったのに、音に乗った後は吐血した。此れは一体何の血なのだ。

 いいや、いいや、此の血は魂の血だ。吐血したのも、魂が揺さぶられたから。出血したのも、信念に斬られたから。そうだ、そうとしか考えられなかった。此れは私の魂なのだ。

 

 私は錫杖を手放して拳に私の血を握らせた。何故そうしたのかは分からない。いや、違うな。理解があった。確信があった。此の拳なら、騎士に届くはずだ、と。

 騎士の信念が私を焼き焦がすのなら、私の魂が其れに触れることが出来ない道理は無い。そうだ、此の推測は正しかったのだ。私の魂は信念に触れることが出来るのだ。

 

 私は残存する力を此の一瞬に全てを費やした。ただ拳を振るうという一つの行動も、今の状態では命を削る程に大それた行為であった。

 

「グオオォォォォ……ッ!! ぶち、抜けェェェェ!!」

 

「……見事ッ!」

 

 私は拳を振り抜いた。私の拳は騎士の左胸を貫いたのだ。其処は騎士の核が存在していた位置であった。騎士の種火程あった光は消え、肉体が崩壊していく。私もまた、酷使した腕が塵と化した。

 だが、私は生きている。此の一世一代の闘争に打ち勝ったのだ。全身の激痛も、其の勲章と思えば悦楽にすら感じれた。

 

「良くぞ……良くぞ我を打ち倒した。前進する者……ロデーレよ。我らが名は……覚えているか?」

 

「フォルティナ……アンドロス。勇敢なる騎士よ。

 まだ、覚えているぞ」

 

 横並びになって私と騎士は談笑に応じる。互いの健闘を誉め称える様に。

 

「ククッ、為れば僥倖……! 強者の記憶にて生きることこそ……騎士の、誉れなり。

 さあ……我らが信念を受け継げ。其れが……勝者の役目なり」

 

 騎士は刀身の消えた信念の剣の柄を私に差し向けた。震える其れを私は受け取り、胸に抱く。僅かな残火が私の裂傷を癒し、出血を止めた。

 

「故国に……我が子息が居る。会いに行くと良い……。きっと……気に入る筈だ」

 

「……考えておこう」

 

 騎士の体が消えていく。蝋燭の最後の様に、僅かな火を灯して。そして、其の残火より数多の火花が飛び散り、一つ一つが人の姿を形作った。私が打ち倒してきた者たちが隊列を組み、仰々しく跪いている。

 騎士は拳を振り上げた。其れはまるで、鼓舞する様に。讃える様に。

 

「カジミエーシュの騎士が一族、アンドロス騎士団よ! カジミエーシュが誇る絶大なる盾にして矛よ!

 安堵せよ! 歓呼せよ! 賛美せよ!

 我らが信念は強者に受け継がれた! 我らが血族は故国にて栄えるだろう! 我らが名は未来永劫、全地に轟く事が確約された!

 さあ行こう我が同胞よ。我らが騎士団は、常に共にある!」

 

 大地の果て、其の深き地底にて、一つの騎士団が果てた。一斉に腕を振り上げ、歓喜の声をラッパの如く響かせる。悔いを残した者が居た。苦しみに果てた者が居た。望みを遂げた者が居た。

 其の者たちが今、晴々とした顔で終演へと歩を進めている。其の者たちは使命を果たしたのだ。

 

 蒼き輝きが渦を巻く。中心地には騎士が使っていたもう一つの剣が刺さっていた。次第に輝きは晴れ渡り、其処にはもう騎士団の姿は影も形も無かった。唯々、残された黒色の剣が、鈍く輝くのみだ。

 

「……フォルティナ・アンドロス。……勇敢なる騎士。

 当分、忘れそうには無いな」

 

 私は笑った。心の底から湧き上がってくる衝動に身を任せて、彼の者たちへ届く様に大きく声を上げた。初めての感覚に困惑しながらも、私は穏やかに眠りに就いたのだった。




 よ~~~やく戦闘が終わったよ。いや、まあ、原作もこんな感じだし良いのかな? 良かねえな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。