夜明けだ朝焼けだ。彼の太陽は変わることなく大地を燃やしている。手加減してくれても良いんだぞ? 空はまたもや砂塵によって黄色く濁っている為、日の強さは弱まっているが熱いものは熱い。
大地を蹴り飛ばしてその反響に耳を澄ませる。辺りに生物の反応は無いし、目視でも何の面影も無い。行くか、とバッグを持ち上げたらまた一回り重くなっていた。開けて見るに今度は犬っころが二匹に増えてた。冗談ではない。
方や純白に所々赤く染まった毛皮の犬っころに、方や赤いのと同じ模様の青い毛皮の犬っころだ。因みに昨日居たのは青い方だ。クピークピーと呑気にイビキをかいている。
旅は道連れ世は情けってか。変な拾い物をしたものだ。私は構わずバッグを背負い直し、バサバサ、ペコッペコッ、シャランシャランとのんびり歩く。餌はどうしようかと適当に考えながら。
***
明くる日。風が弱まり太陽が容赦なく照りつける昼頃。私は岩影で燻した野犬の肉片を二匹の犬っころに齧らせていた。山に近づくに連れて植物の姿が所々に見え始めた。地下水も地表に程なく近い為、あと少し歩けば山の麓に着くだろう。
かと言ってガンガン照りつけられて熱された大地を踏むのは遠慮したい。最近良く見る青空を眺めながらそう思うのだ。
……遠くに妙な砂埃が見える。風で飛ぶにしては少し不自然だ。何かがいる、その考えに行き着いた私は肉片を犬っころどもの口に突っ込み、錫杖をシャランと奏でた。
反響が対象を捉える。二足歩行の鳥類だろう。羽が退化した代わりに脚が凄い発達した種類だったか。背中に何かを乗せているようだ。恐らく人間だろう。そんな存在が三体いる。しかも進行方向からして此方に向かっている。
───如何様にして察知した?
と思ったがこんな砂漠で青と赤は流石に目立つか。まあ対策案を練るのも馬鹿馬鹿しいし此のままで良いかな。
おっと、随分と速いな。もうすぐ近くにまでやって来ている。あの村で飼っていれば此の旅路も楽になったのに。無い物ねだりしても無駄か。
さて久方振りの人との会話だ。私は言葉は覚えているかな?
三人は20m程先で鳥類を乗り捨てて私に駆け付けてくる。全員男だ。襤褸を身に纏い、黒い肌は土と汗で汚れて異様な光沢を持っている。私に向けられた瞳はギンギラギンに燃えたぎっており、とても切羽詰まる表情だ。見れたもんじゃない。
───何用か……
正面の男に話しかけたら、その男はサーベルを抜き放ち問答無用に振り下ろしてきた。剰りの思慮の低さに苛ついた私は錫杖でサーベルを叩き折り、杖先で脳天をぶち抜いた。
痙攣する男を捨て置き空いた右手でホルスターから解体用のナイフを取り出した私は、呆けている右の男に放った。寸分違わず脳天を刺し貫いたのを確認して、左の男を見れば犬っころどもに首を落とされていた。犬畜生に負けるとは情けない。
脳天に刺さった錫杖を取り一振して血を飛ばす。まるで変わらない姿が其処にあった。
解体用のナイフは頭を貫通して地面に血まみれで刺さっていた。少々ばっちいので水で血を流してからホルスターに仕舞う。
死体を漁れば襤褸以外にはサーベルと弓、矢の無い矢筒、空の水筒、趣味の悪い笛を見つけた。もう一人も漁ろうとしたがおもちゃにされていて触りたくなかったので放っておいた。
笛の用途は何だろうか。形からして動物用と思える。あの鳥類生物を呼ぶ用なら吹き鳴らす必要は無いな。反響からして近場に三頭とも倒れ伏している。内二頭は呼吸が完全に止まり、残りは辛うじてだが生きている。
彼の鳥は錆びだらけのサーベルより利用価値がある。生かすのも良いだろう。彼の速さはとても魅力的だ。
件の一頭は倒れ伏す仲間の体を甲斐甲斐しく突っついている。私が近付けば其の鳥は弱々しく警戒音を放つ。私は構わず鳥を担ぎ上げて岩場まで運んだ。抵抗する力も無いのだろう。暴れずに大人しくしていた。
さて、見たところ体は痩せ細っておりとても軽い。此の体格ならば相当な筋肉を持っていた筈だ。水分も殆ど失っているらしく体に熱がこもっている。此の消耗具合は三日は水分も糧も与えてないようだ。大層な無茶をさせたものだな。
水筒を取り出して蓋を開けると、間髪入れずに嘴を突っ込んでビチャビチャ溢しながら全部飲み干しやがった。お前其れ水筒の口が大きかったから良いものの、嘴が入らなかったらどうするつもりだったんだ。
燻した肉を与えようとしたら、犬っころどもが恨めしそう喧しく吠えてきた。無視無視。
犬っころどもに体を囓られながら与えると、忙しなく飲み込んだ後微妙そうな顔をしていた。ふてぶてしいなお前。笛を持つと嫌そうな顔をして弾いてくるし人格持ってるだろ。鳥ってこんなに賢いものかね。
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Tips.砂漠の村
・此の荒れ果てた大地に唯一滞在している集合体。川辺に密集し僅かに得られる糧で慎ましく生きていた。住民の体は特殊な構造をしており、僅かなエネルギーで一週は飲まず食わずで生きていける。主人公と冒険家は大飯食らいと疎まれていた。
そんな村にも天災は平等に降り注ぐ。此の大地に安息の地など無く、留まることは破滅を意味することを住民たちは忘れていた。決して足を止めてはいけない。
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夜明け頃に腹に妙な蒸し暑さと圧迫感を感じて目が覚めた。岩のごつごつした天井から目線を下げると、黒い毛の鳥野郎が私の腹の上で寝ている。布団か何かと勘違いしてない? てか普通立場逆だろ。何してんだこの糞鳥。
背筋で弾けば鳥野郎は文句を言うようにギャワギャワ騒ぎ立てる、が無視。朝から無駄な体力を使わせるな阿呆。
錫杖を掴んで空を見た。天候はカンカン照りの晴れ。少々の風が吹き、時々砂埃が舞う程度だ。鳥野郎は歩けるぐらいには回復している。私が乗って走らせるとなると痩せ細った脚では潰れてしまうが、バッグを乗せる程度なら大丈夫だ。
鞍にバッグを固定して手綱を引き山に向かって歩んでいく。遠くに山の麓が見える。今日か明日には着くだろう。目的地が近付くに連れて高揚感が滲み出してくる。彼処に何が有ろうと此の旅路の一区切りとして分かりやすいだろう。此の地を横断せし者は中々居るまい。……彼の冒険家も此のように歩いたのだろうか。何の意義があって此の大地に来たのか、今となっては知りようが無いがな。
日が昇り、天辺を過ぎた頃に鳥野郎がバテてきた。何くそと必死に隠しているが足取りからしてバレバレだ。休憩させるか、と立ち止まればまだ行けると言いたげに手綱を引っ張っていく。変に意地っ張りだ。
まあすぐにへばったが気骨のある奴よ。全盛期はさぞかし強い個体だったのだろうな。偉そうな態度からして長でもやってそうだ。
水でも与えようかと水筒を取り出すと、其の軽さで昨日飲み干された事を思い出した。補充するかとアーツで地面を50cm程掘り起こし固めておき、其処に地下水を引き上げて水を貯めた。
さあ飲めと鳥野郎に目を向けると頑として飲もうとしない。拗ねたかと濾過装置で水を清めて水筒を満たそうとしたところ、間に嘴が割り込んで注いでいた水を飲み始めた。泥水は嫌だってか。贅沢な奴だねえ。
水をたらふく飲んで落ち着いたのか岩影に行って毛繕いをし始めた。お前落ち着きすぎな。其れに鞍とか着けているのに毛繕いして意味あるのか? 取り敢えずバッグは下ろしておいた。犬っころどもも呑気に寝ているし動物は人間を舐めているに違いない。
しかし日が一度も落ちないで休息とは初めての事だ。鳥野郎の体力が戻るまでこんな日が続くのだろう。先を急がぬ旅、其れもまた一興か。直ぐに飽きそうではあるが。
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鳥野郎の体力が回復すれば半日程歩いて休憩。其れを三度繰り返して漸く山の麓を目前にした。踏み締める地は湿り気を帯びている草で覆われ、低木が群生しておりあたかも別世界に来たようだった。舞う砂塵もなく、砂で足が取られる心配も無い。なんと進みやすいものか。
中には実を付ける植物があり、一つ摘まんで口に含めば初めて感じる甘味が弾けて溶けていった。鳥野郎も好んで食べ、見つけ次第駆け付けては貪り尽くして丸裸にする程だ。目先の欲に駆られては棘に刺さって泣きわめくのを見るに、其処まで賢く無いのかもしれない。刺さった棘を抜く身にもなって欲しいな。
目前にした山を見上げれば、遠くより眺めていた山峰は分厚い雲に遮られ見えなかった。だが、其の山の雄大さは褪せることなく主張し、此れを登るのは骨が折れそうだと私に思わせる程だ。
此れを登頂するのは鳥野郎には無理だろう。二本足では岩を一つ越えるだけでも苦労する。此処まで連れてきてなんだが置いていくしかあるまい。無理にでも連れて行くのは何よりも鳥野郎の為にならん。其れに私も其処まで面倒を見れなかったし、見るつもりもなかった。
鳥野郎からバッグを下ろせば休憩だと勘違いしたのか、鳥野郎は嬉しそうに鳴き声を上げてバタバタと小躍りし始めた。何とか宥めて鞍と轡を外して其処らに投げ捨てる。此れでコイツは自由の身だ。好きに生きろと私はソイツに言い、背を向けて山を登った。
背後よりクエックエッと独特な鳴き声が聞こえる。何其れ初めて聞いた気がする。思わず振り返りそうになって、止めた。彼の間抜け面を見たら連れていきたくなるだろう。其れは、きっといけないことだ。そう思うのだ。
歩みを再開すればまた彼の鳴き声が聞こえてくる。後ろ髪を引かれる思いをしながらも、私は頑として振り返りはしなかった。
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Tips.鳥野郎の好物
・トゥナ。言うなればサボテンの実。サボテンの中でもウチワサボテン属のサボテンが実らせる果実、らしい。現実の市場に有るのは大抵棘無しに品種改良されたものだそうだ。野生のは棘が結構あるっぽい。水分を多く含み、健康にも良い為、砂漠において頼りになる食べ物だろう。
過酷な環境において数十年もかけて花を咲かせる事は容易ではない。其れでもなお、根強く生きて花を咲かせるのだ。生命を注ぎ込んだ果実が美味である事も頷ける。
棘が鬱陶しい? 美しい薔薇に棘が有るのなら、美味しい物にも棘が有っても可笑しくはないだろう。
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逃げられると思うなよ?