忙しくなってきたから次回の投稿はすごく遅れると思う。多分。
アーツを使って腹が空いたので燻し肉を齧ってると鳥どもがせがんできた。仕方なしにバッグを開けば鳥野郎が隙を突いて掠め取っていきやがった。ひっくり返されて中身が地面に散乱する。仕舞うの誰がやるのか分かってんのか? あと燻し肉を食って全員微妙そうな顔をするの辞めろ。私に失礼だぞ。
そして鳥どもは燻し肉を粗方食べ尽くした。此れには犬っころどももカンカンだ。ガチもんの威嚇をして鳥どもを怯えさせている。怒るのは良いが其の肉はお前らの物では無いからな? 其処のところハッキリさせておかなければ。
取り敢えず耳の後ろ辺りをゴシゴシしとけば機嫌治るだろ。おらッ、治れ! 犬畜生が調子乗るなよ!
犬っころどもが寝付くまで付き合ってやった。今のうちに此の先どうするか鳥野郎に確認しておこう。言葉を理解している節が有るし、口頭でも十分だろう。
私は岩影で呑気に寝転がっている鳥野郎の前に行き、言葉を紡いだ。……此れ、理解されなかったら恥ずかしいだけだな。
───先の闘争は当方の行く手を阻んだが為に起きた事。謂わば当方に付き纏う障害を取り除いただけに過ぎん。貴殿らの奪還戦に当方が付き合う道理は無く、しかし貴殿らは当方の助け無くば同じ轍を踏む事になる。貴殿らは其れを如何様に切り開くのか、其の策は有るのか。
私の言葉を聞いた鳥どもは一斉に立ち上がり、山頂へ向けて高々と鳴いた。其れは決起だ。決意の表れだ。例え敵の手に落ちる事が分かっていても、彼らは決して逃げたりしないだろう。誉れ高い彼らにとって、敵前逃亡は誰かに乗られる事よりも屈辱的な事だ。相手が乗っていた連中ならば尚更。
負けるのは分かっている。何も出来ずに鎮圧されるかもしれない。再びの反乱を恐れてその場で始末されるかもしれない。
しかし其れでも、彼らは彼の腐れ外道どもに一矢報わんとした。逆境に居ようと必死に足掻き、魂を燃やす彼らの姿はとても美しい。
───良い、良い気迫だ。貴殿らは死を恐れていない。何よりも恐れるべき事が逃亡する事だと理解している。
貴殿らには当方の旅に同行し、貴殿らだけでも助かる選択が有った。息を殺し、奴らの目を盗んで他の地へ逃げ延びる選択も有った。
しかし貴殿らは敢えて過酷な道を選んだ。身が果てるまで抗う決死の覚悟。其の輝かしい選択を私に見せつけてみせた。私を魅了した貴殿らの勝利だ。私も此度の戦線に加わろうではないか。
何の事はない。彼らの姿を見て私も一緒に戦いたいと思っただけだ。久し振りに暴れたかったのもある。てか元より奴らの根城にお邪魔する積もりだったし丁度良いかなって思ってたりする。
私を捕まえようとした奴らだが、此の大地にしては肉付きが良かったし血色も其処まで酷くなかった。髪も艶が有り、鎧や服に多少の土が着いていただけで清潔そのものだった。健康的で清潔な体を作れる程の物資が奴らの根城に有るのだ。見逃す手は無い。根こそぎ奪ってやる。
人知れず私は闘志を滾らせる。握り込んだ錫杖が少し震えた。私の選択を嘲笑うかの様に。
***
Tips.ちょっとキレてる旅人くん
・其処まで動物は好きではないが、人間はもっと好きじゃない。惨たらしい所業を目の当たりにすると思わずぶっ殺したくなる。詰まりライン生命は一発アウト。覚悟しとけよ!
今回はアニマルセラピーが成功したので少し押さえ気味。
彼は自身を此の世で最も穢れた存在であると認識している。彼の村で犯した罪と其の所業は未来永劫付き纏うであろう。何よりも彼自身が其れを望んでいる。
悪意に敏感な彼を癒せるのは、其れこそ純粋無垢なるものだけだ。
***
テンションがハイになったのか、鳥どもは奴らの根城に向かって驚異的な速さで駆けていった。其れでいて音が無いのだから異様な光景である。
取り残されては格好がつかないので、犬っころどもをバッグに放り込んだ後、直ぐ様崖を登った。ちまちま登っていると追従出来ないので、アーツで足先に鉤爪状の物体を作り足だけで移動するようにした。鳥どもの走り方を見様見真似で行使した為、何度か躓いたが慣れてしまえば楽なものだ。視界が広いと動きやすいものよ。
根城の入り口には見張りの兵が居たようだが、私が着いた時には鳥どもによって首を落とされていた。状況からして呻き声すら出させなかったようだ。転がっている顔は穏やかそのものであり、死んだ事すら気付いていないだろう。何と鮮やかな手際か。
鳥どもは突入すること無く私の指示を待っている。無策に突っ込めば簡単にやられてしまう事を理解しているようだ。取り敢えず根城の構造を把握するために錫杖を振るった。
───シャラン。
───シャラン。
───シャラン。
流麗なる音色が三度響けば大体の姿を捉えることが出来た。奴らの根城はどうやら廃坑を利用しているようだ。其の廃坑は山一つ分をくり貫いている故、根城は相当な大きさを誇る。
出入り口は此処を含めて四つで、その内一つは隠し口のようだ。構成員は百人余り。八割が戦闘員のようだが半分は寝ている。常在戦場とは言うものの鎧を着たまま寝るとか、正気の沙汰ではないぞ。
最深部の各行き止まりに人が密集している。少し遠い為精確には把握できないが、先の女と隊員の会話からして賊を収容している牢屋のようだ。
目先の脅威は五人一組で巡回している奴らだ。八組の巡回者どもは等間隔に配置され、皆一律に動いている。同じ距離を同じ時間をかけて、しかも寸分違わずにだ。見張りとしては理想とされる体制を維持してある。其の統率力を使って違うところに住めよ。
巡回には穴も有れば死角も有る。しかし其処を通ったところで行き着く先は何処も行き止まりだ。中心部に辿り着くには必ず一度は巡回兵と出くわさなければならない。そうなった場合前方と後方から詰め寄られて袋叩きにされるだけだ。
もう考えるの面倒だし突っ込むか。出会う敵を全部倒せば後ろの心配をしなくて良いしな。んじゃ、行くか。
───さあ貴殿らよ。行こうではないか。当方が先陣を切ろう。敵は全て前方より迫るよう取り成そう。貴殿らを惑わす音色は全て当方の波動でもって打ち消そう。
そうして私は錫杖を力強く地に打ち付けた。其の波は雷鳴がごとく地に鳴り響き地盤を揺るがす。度重なる無理矢理の突貫工事によって脆くなった部分は崩れ落ちた。他の入り口は塞がりあらゆる通路が崩落した。残ったのはたった一本の道。唯一補強がされていた中心部へと続く直通の道だけだ。
───さあ、前進せよ。突き進め。未来は其の先に有る。掴みとってみせよ。
いきり立った鳥どもは決壊した堤防のように雪崩れ込んだ。長年の雪辱を晴らす為に今、彼らは奮起している。最早何であろうと彼らを阻むことは出来ない。
斯うして戦いが始まった。
***
───ィィィイイイン。
始まりはそんな耳鳴りのような音だった。
又耳鳴りかと辟易として耳を叩き、見渡せば他の隊員も同様な状態であった。妙な話だ。五人全員が一斉に耳鳴りを起こすなんて。軽くミラクルが起きてる。
微妙な雰囲気を払拭しようと誰かが口を開けようとした其の時、地鳴りが発生した。立つのも困難な揺れだ。こんな穴だらけの山で、しかも補強も万全でない警戒地帯に此の揺れは非常に不味いものだった。
天井からミシッと大嫌いな音が聞こえた瞬間、俺も隊員達も一斉に駆け出した。地面が揺れていようが関係ない。転ければ死ぬし立ち止まっても死ぬ。出来るだけ速く此の場から脱せねば死が待っているだけだ。
俺と隊員達は我武者羅に走った。後ろからけたたましい音が迫ってきても振り返ること無く走った。そんな余力も気力も無かったし、後ろを見て絶望を知りたくなかった。
漸く一息つけたのは中央の通路に出てからだ。当主様が“此の道だけは絶対に崩れてはならない”と真っ先に補強された道だ。マジで英断だよ当主様。愛してる。
迫り来る岩石から滑り込むようにして逃げ延びた俺達は互いを見合った。五人全員無事に生還できたようだ。兜も有るし剣も差しているし盾も持ってる。緊急時でも盾を手放さないとか、騎士として誇らしくないの?
───………ン。
見れば他の通路を巡回していた班も同様に倒れ込んでいる。四班二十人生還、と。素晴らしいね。しかし、此の分だと牢屋の方は駄目だな。今頃埋もれて死んだだろう。まあ彼処は別の意味で終わってたがな。
「おい! 前を向け!! 跳鳥どもだ!! しかも血まみれだ*ウルサススラング*!!」
跳鳥。恐ろしい生物だ。たかが畜生と侮った新人が何人か殺されている。しかも笛を持っていた状態でだ。身体能力が高く、其れでいて知能も人間並みだ。笛という弱点が無ければ当主様以外まず勝てない。
其の弱点を見つけた頭がキチってる新人は英雄扱いだ。勿論俺もした。
───シ……ン。
「盾構えい!! 前方に居る三班は跳鳥を迎撃しろ!! 良いか、守るだけでも十分だ! 一番後ろの班は笛持ちと当主様を呼んでこい!! 速くしろ!! 間に合わせるんだ!!」
昔、指揮官をやってた奴が指示を飛ばしてきた。正直助かったと俺は思った。考える時間は殆ど無かったからな。ああいった人間は何度も戦場を経験している。咄嗟の判断が出来るのだ。
此処から本部まで200m程有る。彼の班のアーツと足なら十秒で行ける。伝令に五秒、寝てる奴らを叩き起こすのに十秒、駆け付けるのに十三秒だ。詰まり俺らは後続が来るまで、最低でも三十八秒耐えなければいけないのだ。最前列で、七体の怒れる跳鳥を相手にして。
因みに最新鋭の跳鳥は鉄を踏み込むだけで叩き折る。
───シャ…ン。
おいおいおい、死んだわ俺。幾ら鍛えているからって跳鳥を三体捌くのが精一杯なんだぞ。
ん? いや待て。後ろにもう一体居た。あれは、妙な格好の奴を乗せている。何だ。新手の賊か? いや、確か三体と笛を盗んだ奴らが居た。其の内の一人が頭領だった筈だ。そいつか。
───シャラン。
右手に杖を持っている。アーツロッドか? 使われる前に折らねえとな。む、左手に……石? 石を持っている。妙にでかいな。
すると奴は其れをぶん投げてきやがった。かなりの速さだが石礫では鎧と兜には傷がちょっと付く程度だ。
石は横に居た奴に当たった。砕けた石からは黄色い粘液状のきしょいものが跳び散った。アシッドムシだ!! 其れも休眠中の。何て酷い事を。目に入って失明したらどうするんだ。
───シャラン。
さっきから何だ此の音は。鬱陶し……あれ? 何か、耳が遠くに……聞こえて、何だ? 妙だ。頭が、重……い? 目も、霞んで……変だ。不味い。……何が?
───シャラン。
あ? 何で、お前ら倒れて……あれ? 何か、変か? いや、可笑しい。其の、筈……多分。嗚呼、駄目だ。守らないと。騎士として……恥ずべき事が、無いように。……何で?
力の入れ方を忘れてしまった俺は、一体目の突進によって吹き飛ばされた。転がった俺を跳鳥どもは踏み越え、進んでいく。
全身を砕かれ死んでいく最中、奴が横を通り過ぎて行くのが見えた。俺に、一瞥もくれずに。前だけを見ていた。
嗚呼、*ウルサススラング*
念願の騎乗が出来た旅人くん。兜のせいで音の通りが悪いため、そこら辺に転がってた石を拾って投げたらアシッドムシだった。当然ムシは死ぬ。