アンケートの結果から、とりまサブタイ変えたぜ。内容合ってないやん、これ可笑しいだろ、ってなったら遠慮せず言うてみい(おじいちゃん)。
私はバッグを放り投げ、ハットと外套を脱ぎ捨てた。常日頃身に付けているが戦いには必要の無い物だ。そうして錫杖を強く握り、足をほんの少し開けた。
私は戦い方を知らなかった。だから一番動きやすい姿を取った。
騎士は構えを取った。190もの長身を隠す盾を前面に突き出し、背後に両手剣を引き摺るように持っていった。
一見守りに徹するように見えて、其の実相手の隙を突き強大な剣でもって一撃を叩き込むカウンターの姿勢だ。迂闊には攻められない。
「ふん。来ぬか。良かろう、為れば此方から行くぞ!!」
騎士は剣の柄を盾の側面に打ち付けた。発生した衝撃が何十倍にも増幅し私の体を突き抜けていく。私の体は少し浮かび、姿勢が崩れてたたらを踏んでしまった。
騎士はそんな私に一息で迫り、剣を振り下ろした。其の大質量に対して片手では分が悪いと判断した私は、錫杖を水平に持ち、元来の持ち手を握り締め、両手でもって迎え撃った。
「ぬぅん!!」
雷鳴が如く轟音が鳴り響き、其の強大な筋力によって私の足が地に沈んだ。押さえ込まれては私に勝ち目が無いので直ぐに脱出する必要がある。
錫杖と剣の接触部分にアーツによって反発する力を付与し、増幅させ、一瞬の間だけ剣を浮かせた。其の一瞬を使って右にステップを踏んで回避すれば、私の直ぐ横の地面に剣がめり込んだ。僅かではあるが私の動きに合わせてきたのだ。おっかない。
近距離での戦闘は不利であるので、錫杖を剣を引き抜いている騎士目掛けて薙ぎ払った。当然のように盾で防がれたが、力任せに振り切れば騎士は天井スレスレに飛んでいった。
今私と騎士との間は5m程だ。私の領域に確実に入っている。兜が音を遮っていたのだろうが、此の距離なら耳に糞が詰まっていても余裕で貫通できる。飛びっきりのアーツを使ってやろうと錫杖を掲げた。
「む! させんぞ!!」
私の行動に気付いた騎士が盾の上部を天井に突き刺して、片腕の力だけで私の元へと飛んできた。そう、文字通りあれは飛んで来たのだ。
其の勢いは脳を震わしたところで衰えはしないだろう。此のアーツは五感をぶっ壊すものであって、運動エネルギーを抑制するものではないからだ。此のままでは私は確実に叩き伏せられてしまうだろう。アーツの発動を中断して受け止めるしかあるまい。
防御姿勢に入った私に対し、騎士は最小限の動きで錫杖を切り上げた。手を斬られたり手から錫杖が離れる事は幸い無かったが、私の腕が万歳するように弾かれてしまった。私の胴体はがら空きになり、そして騎士は薙ぎ払おうと力を込めている。此れは不味い。
私は足元に力を込めて錫杖を突き刺した。あわよくばアーツを使おうと思っていたが、最速で振り下ろした為に乱れた音が出たので使えなかった。
そして左から来る斬撃を右に跳んで錫杖を間に挟んで受けとめた。
当然錫杖ごとぶっ飛ばされるが、直接被弾した訳ではないので其処まで痛手ではない。衝撃を殺しきれなくて肩が外れかけた程度だ。動きに支障は無い。
とんでもない滞空時間の後に地に足が着いた。まさか一撃で20mも跳ばされるとは、化け物かアイツ。
「ぬう……、やはり小柄であると戦い難いな。悉く避けられておるわ。さて、どう戦うか」
───……貴殿は。
「何だ?」
───貴殿は、強いな。天賦の才だけでなく、相当の鍛練を積み上げている。此処まで練り上げた者はそうは居るまい。
だが解せんな。当方からすれば貴殿は本気を出していないように見える。何故かね?
「ふん、何を言うかと思えばそんなことか。なに、貴様を息子と重ねてしまっただけよ。在り方からして全く似てないが、順当に成長していれば貴様と同じ背丈になっているだろうと思っただけだ。
知らぬ内に手が鈍っておったわ。だが、もう容赦はするまいて」
───左様か……。其れ以外にも有るように思えるが、まあ良いだろう。さて、再開しようではないか。
私が言うや否や騎士は剣の柄を鎧に打ち付けた。襲い来る衝撃に身構えれば予期していたものは起こらず、代わりに剣を振り下ろそうとする騎士が私の目の前に突如として現れた。
自身を音に置換するアーツのようだ。金属音の音に人の形をした不自然な波が乗っかっていたのを、一瞬だが捉えた。
音に乗って私の目前へ精確に顕現するとは、恐ろしい程のアーツ精度よ。下手をすると体が四散するぞ。
迫る剣先を錫杖の輪に引っ掛けて自身は騎士の足元へ滑り込んだ。錫杖は半ばまで地に埋没したが剣は私に届くことは無かった。
騎士が私に蹴りを放とうとしたので、騎士の両足と地面の接触部分のくっつく力を抑制し、先じて蹴った。私に蹴られた騎士は其の足を後方に滑らせ倒れ込む。
鎧の金属音が響けば地に沈んだはずの騎士が私の頭上に出現した。いつの間にか錫杖から引き抜いたのか剣を構えている。今更だが物体も波に置換できるようだ。出来てなければ真っ裸だもんな。
私は埋没した錫杖を無理矢理引き抜いて、落ちてくる騎士を避ける為に右へ転がった。気色の悪い体勢移動で難なく着地した騎士は、私を起き上がらせまいと剣を振るう。近くでアーツを使わせない為の牽制だが、あわよくば倒せるよう其れなりの力が込められている。
錫杖を構えて受け止めたが姿勢が不安定であり咄嗟に動いた為、体を駆け巡る衝撃を殺しきれなかった。変に殺した衝撃の差異が胴が真っ二つに解離しようとするのを押し留め、何度も地面を跳ねる最中打ち所が悪かった左腕が折れてしまった。
体中痣と擦り傷だらけで動く度に激痛が鈍く染み渡る。妙な熱が籠ってベッタリとした汗が体から滲み出てきた。全く、不快でしかない。此れだから怪我はしたくないものだ。
仰向けの状態で頭を上げて騎士の様子を窺う。遠目だが呼吸を整えているように見える。彼のアーツは連発が出来ないようだ。直ぐに飛んでくる事は無いだろうと判断し、左腕を支えにしてゆっくりと起き上がった。
阿保みたいに痛いが、左腕が折れていると悟られては駄目だ。左から攻撃されると防ぎきるのが難しくなる。彼の斬撃が直撃すれば其れこそ死だ。左腕だけでは済まんぞ。
一瞬で距離を詰めるし攻撃は当たると死ぬし、其れでいて此方の攻撃は中々通らないときた。騎士とはこうも厄介なものなのか。カジミエーシュとやらには近寄らぬ方が良いかな。
立ち上がった私は左腕で錫杖を構えて前に出し、右腕はダランと脱力したようにぶら下げる。左腕を上げ続けるのはしんどいこと此の上無いが、ブラフを貼らないとやってられない。苦しいが今は我慢だ。
騎士は構えをとったまま動かない。何時でも距離を詰めれるからだろうが、其れとは別に何かを待っているように思える。何か、時機となるものが。私に隙を作らせるようなものが。来るのを待っている。そう思ってしまう。そんなもの、有るのだろうか。
睨み合うこと数十秒、既に左腕が辛くなってきた頃、頭上から土と砂が落ちてきた。パラパラとした音で全てを悟った。
私の頭上には、天井に突き刺さった盾が有った。そう、騎士が刺した彼の盾だ。そして其れは今、私目掛けて落ちてきている。此れだ、騎士は此れを待っていた。私が動かなければならない状況を。隙が生じる機会を。虎視眈々と狙っていた。
してやられたものだ。私が此処に立つことを計算に入れて斬り飛ばしやがった。動かなかったのは完全に私の失策だったが、動いたら動いたで騎士は攻撃してきただろう。現に目の前に居るしな。
さて、どうしたものか。盾を避けるには左右か後方に動かなければならない。前方? 論外だろ。
左腕が折れている以上右には行けん。左は、まあ妥協案か。右手に持ち変える必要がある以上、其れなりのダメージを覚悟しなければいけないがな。後方に行くのは得策では無い。落ちてくる盾を蹴り飛ばされて直撃するだろう。そして体勢の崩れた私を一閃だ。
騎士ならばそんな事しないと信じたいが、天井にぶっ刺して取っ手代わりにするような奴だ。粗末に扱うに決まっている。
左に行くしか無いと思ったが、結局のところ、私は此処から動かなかった。確かに此の状況はピンチそのものだ。しかし逆にチャンスとも捉えることが出来る。何せ目の前に居るという事は、私の領域に入っているという事に他ならないからな。
「貴様、臆したか!!」
迫り来る盾を上にして微動だにしない私を、死を前にして怯える子供であると騎士は判断した。経験の浅い餓鬼だから、乳臭い餓鬼だから、斯うなるのだと騎士は憤慨している。見るも堪えんと剣を振りかざした。
驕り高ぶり油断しきった騎士を見て、私は少し悲しかった。本気を出させる前に殺してしまうのを、心底哀れんでしまった。本来なら、こんな戦いにはならなかったのにな。
───シャン。
響くは流麗なる音色。然れど其の音は貧弱で。虚空を少しばかり揺さぶった後、短くして消え失せた。私も同様に。
「なにぃ!? こ、此れは! 此のアーツは!!」
私は自身の体を波に置換して錫杖の音に乗った。いや、流されたと言った方が良いか。波に置換するのは大体理解できた。しかし、どのようにして特定の場所へ出現するかは分からなかった。まさか音の世界で距離を感じる事など出来る筈がない。
だから微弱な音を出した。盾の上で消えて無くなるように調整した。其処に現れるように、波の切れ目が盾の上だと分かるようにな。
「当家秘伝のッ……!」
私は盾の上に立ち、少し下には騎士の頭部が見える。私は何の躊躇いもなく錫杖を振り下ろした。騎士は既に剣を振り下ろしており、此の攻撃を防ぐ事は叶わない。
ゴシャッ、と金属とは思えない音が兜から出た。一目見て分かる程に兜は凹み、付随した衝撃は脳を破壊しただろう。呆気ないものだ。
盾が地に着く前に跳んだものの、着地に失敗して膝を突いた。上手く体が動かない。どうしたことかと思考を巡らせば出てくるのは激痛のみだ。まるで全身が引きちぎられたかのような痛みに体は震えるばかり。
血が吐き出される。心臓の鼓動が強く響き、其の音によって体内の臓器が滅茶苦茶にシェイクされているのが分かった。全て取り除いた後に全部適当に放り込んだような状態だ。治るのか? 此れ。
取り敢えず放っとくと怖いしアーツで動かして元に戻しておこう。あ、凄い気持ち悪い。吐きそう。
「う、お……あ」
まだ息があったのか騎士は声にもならぬ声を上げている。剣を支えにして僅かな力で立つが其の命は最早風前の灯火。一度吹けば消える灯りに一体何の価値が有るのだろうか。
───貴殿、たかが童子と侮ったな。油断も慢心も自身を滅ぼす厄だ。打ち消せず抱え込んだ者の結末が此れか。全くもって無様なものよ。
ひたすらに虚しかった。強者にも弱者にも最期は平等に訪れる。こんな事を知るために村を飛び出したのか。私は。此れでは旅に出て生き長らえた意味がまるで無いではないか。
「馬鹿者が……。子供相手に……本気になる騎士が、居て堪るか」
息も絶え絶えに騎士が言い放った言葉は、手加減された事と私がどれ程幼稚であるかを理解させた。
ひたすらに苛立った。沸々と怒りが込み上げてくる。そうだ、怒りだ。其の時私は怒っていた。何処に向けるでもなくただ怒りを募らせていた。
私は力を誇示しなかった。騎士を本気にさせるような力を見せなかったのだ。此れでは騙し討ちしたようなものではないか。
驕り? 油断? 慢心? そうさせたのは私だろう。其れでいて残念に思うなど、浅ましいこと此の上無い。何故私は生きているのだ。真に生きるべきは目の前の男だろうに。
自己嫌悪に苛まれ皹が走った。壊れるような心など最初から持ち合わせていないが、兎に角何かに皹が入ったのだ。
こんな恥さらし、即刻死ぬべきだと断じても生存本能は意思に逆らって働き出す。目の端に異変を感じ取った。周囲の跳鳥どもが苦悶の表情で倒れ付している。笛の音なんて聞こえていないのに。
妙だと思い錫杖を振り上げて周囲を探ろうとした瞬間、後ろから誰かに音も無く絞められた。伸ばした右腕に阻まれて首は絞まってないが、先のダメージと相まって身動きが取れなかった。
音を消すアーツだ。其れ以外考えられない。錫杖を揺らしているというのに其の音が全く聞こえない。天敵というものは居るものだな。くそったれ。
「今だ! 当主様を!」
「やっぱ英雄だぜお前! 兎に角でかした!」
大多数の奴らが騎士に駆け寄り、治療を施しているのが見える。騎士はそいつらを愕然とした表情で見つめている。そして其の顔を憤怒に染めて怒鳴り散らした。
「お前ら何してやがる! 騎士の戦いを愚弄するつもりか!! やめろ! 私に生き恥をかかせる積もりか!」
「今此処で当主様を失うわけにはいきません! 国を取り戻すには当主様の力が必要なのです! 騎士の誇りを優先するよりも、生きて機会を窺うべきでしょう!」
「愚か者共め!! 誇りを持たねえカスどもが作った国を見てないのか! 金に溺れ、我らにすがり付くことしか出来ん無能共の姿を! あんな国をもう一度作るのならば先ずお前らを殺すぞ!!」
騎士の声は何かに遮られて聞こえない。だが、思いは伝わった。激情を昂らせる様子は何か強い志を抱いていると私に感じさせる。
「当主様。今はご安静を。不穏分子は我らが始末致します」
「やめろ! 其の者に手を出すな!! 其の者はお前らではッ……」
奴らの一人が剣を構えて躊躇無く私に振り下ろした。身動きが取れず、アーツも使えぬ今、私は為されるがままに甘んじて受けるしかなかった。
深き地の底で金属の音が鈍く響いた。
戦闘シーンが長くなるのは私の悪い癖。細かく描写しすぎなんだよなあ。
もっとこう、バーっと走って、ゴンって殴られて、ドスンっとヌッコロす!(スカジ並感) みたいにすれば良いのだろうけど。難しいものだ。