ということで今回は所々日本語がおかしいです。長ったらしくなってますし精神状態が丸分かりですねクォレワァ。
振り下ろされた剣は私の頭部に当たった。しかし其の刃は、アーツによって硬化した私の頭皮を少し削っただけだ。発生した衝撃はアーツによって全て剣に留めてある。よって其の剣は触れるもの全てを固定する。
「な、何だ……剣が、俺の剣が動かねえ。餓鬼の頭にくっついているみてえにピッタリと! まだ乾いてねえ融合材を触っちまった時みてえによぉ!!」
何だコイツ。迂闊過ぎるだろ。先の攻撃だってそうだ。まさか、回避出来ないからといって何もしないとでも思っていたのか? 阿保らしい。お前らの攻撃は既に対策済みだ。物理法則が適用される限り、私がお前らの攻撃で深傷を負う事は決してない。
「剣から手を離して下さいフレイダンッ!! やられますよ!」
「……ッ!! 無理だ! 手もくっついていやがる!! 手離すことは赦されていないッ!!」
抑え込んでいたエネルギーを適当に解放すれば、静止していた剣は四方八方に暴れだす。無茶苦茶な動きに腕の間節が耐えきれずに砕け、奴の右腕は随分と柔軟な動きをするようになった。剣のエネルギーが手に伝播すれば、脆い肉体では抑えきれず内から弾け飛んだ。
男の絶叫と共に肉片と血が辺りに飛散する。ビチャっと私にも降りかかった。ヌメヌメで生温い感触に、ハットは被っておけば良かったかなと思った。マスクを着けているので吸い込む心配は無いが、出来れば濡れない方が良いだろう。
「お前、騎士の腕を壊したのか! 何て奴だ!」
後ろの奴が五月蝿い。多数で囲んでいる時点で騎士も糞も有るか。此処に居るのは醜く汚ならしい人間だけだ。人道的な戦いがしたいのならお稽古でもしてるんだな。
「何て、事だ……ッ。フレイダンの、腕が……」
「へ、へへッ。もう、剣を握れねえや。すまねえなポンフリー。お前との勝負、楽しみだったのによお。畜生、最悪な気分だぜ……」
ぐちゃぐちゃの腕にはもう剣を握るための手は存在しない。最早治療したところで肉壁にしかならない存在に成り下がった。可哀想なものだ。
「クッ!! おのれ、此の下郎!! もはや容赦はせん!!」
「駄目ですポンフリー! 奴に近付いてはいけません!」
騎士の治療をしている奴の静止の声を振り払って、また一人剣を抜き放って構えた。そんな攻撃しても同じ末路を辿るだけというのに、何故わからないものなのか。羽交い締めにしている奴が無事な時点で攻略法など幾らでも見つかる筈だが。何なら教えてみるか?
剣が振り下ろされる光景を眺めていると横合いから紫電の電光が迸った。電撃が奴が焼き焦げていく中、発生源を見れば犬っころどもが角を生やして電気を纏っている。
「ポンフリーッ!!」
犬っころどもはそいつを焼き殺した後、何もするでもなく私をじっと見詰めるのだ。恨みがましく、呆れるように。まるで其れは、私を叱責しているように感ぜられたのだ。其れもまた、私の思い込みからくる錯覚かもしれんがな。
───ああ。理解しているとも。ああ。理解しているとも。今更何をしているのか問いたいのだろう。興が削がれたとしても戦いは終わらない。なら、終わらせなくっちゃあならない。分かっているさ。もう真面目にやる。
羽交い締めにしている奴に左の手首だけを動かして指で触れた。何故か肌の感触があったが其れはさておき、ちょっとしたアーツで肉をほんの少し抉った。
「うぐぅッ! お、お前ぇ、今何を……」
痛みで一瞬拘束が緩んだ。其の一瞬が有れば抜け出すことなど容易だ。腕が抜けたので、取り敢えず左手の甲で奴の鼻っ柱をへし折っておく。
「ブヘッ!!」
完全に拘束が解けたので離れて錫杖を鳴らそうとすれば、追い縋ってきた奴に右腕を掴まれてしまった。良く見れば袖が穴だらけだ。後で修繕しなくちゃな。
すると奴の指先が放電し、右腕に電気を流れて神経が刺激され、私の意思に反して錫杖が手離された。地面に転がる錫杖を空かさず奴が拾い上げる。取り返すのも面倒なので錫杖ごと奴を蹴り跳ばした。まあ、有っても無くてもやることは一緒だしな。別に構わない。
「うおッ!? ……あ? 手放しただと。何故……」
「何故、か。其れはな、使わないからだ。有ったら便利だが、頼ってると体が鈍ってしまう。それに、両手が自由ってのは気楽で良い。うん、実に良い。
ところで、何でお前は裸なんだ?」
「うるせえ! こちとら好きで真っ裸になってんじゃねえぞ!」
大方、音を消すアーツの発動条件に関係しているのだろう。いや、裸でないと集中できないタイプかもしれん。まあどうだって良いが、なあ。
「此れが騎士の姿か……。嘆かわしいものだな」
「ヴッ。ま、まだ騎士じゃねえし! 見習いだし!」
「年は? 幾つだ?」
「……」
言葉に詰まった奴は錫杖を後ろに放り投げ、クランタ族特有の太くて長い尻尾*1をブンブン振り回して私に飛びかかった。
再度私を捕らえようとしているのだろうが、見通しが甘いな。無駄話をしている間に私がナイフをホルスターから抜いたのを見ていないのか。鎧も無しに素手で戦うつもりか。
捕まえようとする奴に、私は敢えて奴の懐に飛び込んだ。筋肉やら骨やらがどうたら聞くが、胸を5cm程抉れば心臓に届く。届かないにしろ重傷は免れない。だからナイフで刺す。其れだけの事だ。
振りかざして左胸辺りにナイフを突き立てる。硬質な感触が返ってきた。刃先は確かに刺さったし血も相応に出ている。しかし其れ以上は行かない。そういえばナイフを研ぐの忘れてたな。
「使わせてもらったぞ! お前のアーツをな!」
硬化のアーツを見て転用したらしい。見ただけで使える代物では無いのだがな。其れはさておき、衝撃操作のアーツに関しては真似できなかったらしく、肋骨が二本程折れているようだ。痛いのに良く耐えるよな。
ナイフが駄目なら後は金的位しか無いのだが、直接蹴るのはちょっと遠慮したい。彼方も此方も嫌な思いしかしない。
離脱しようにも私の両腕は奴にがっちり掴まれてる。折れた左腕は痛いし右腕は痺れて動かしにくいし、段々面倒になってきた。
「死にさらせぇッ!! オラァッ!」
奴は私を引き寄せるのと同時に顎へ膝を食らわせた。生憎だが私にアーツを使わせる余地を与えた以上、脳震盪や骨が折れるといったものは起こらない。起こることは発生した衝撃をそっくり其のまま返して、奴の膝の皿が割れることぐらいだ。
「ッ……。お前、今硬化してねえな。其の硬さは自前かよ。とんでもねえ野郎だぜ。耐えられないものとか弱点とか有ればお兄さんに教えてほしいんだけど」
「さあな。生憎闘った奴らは弱っちいのばっかりでね。自分の耐久性なんて確認のしようが無い。取り敢えず、お前の攻撃では傷付かない事が証明されたな」
「いいや、其れはどうか分からんぜ? 彼のビリビリワンちゃんが此の状況で攻撃してこないって事はよ、其の攻撃を防ぐ手段がお前に無いってことじゃあ無いのか? さっきのアーツもすんなりくらってくれたしよ」
奴の掴んでいる裾の少し上辺りをアーツで切れ目をつけておく。ちなみに右腕だけだ。左腕は肘が破けているだけで損傷は少ないからな。
「此れは弱点見つけちゃったかなあ? なあ、お前さんはどう思うよ」
「此方としてはな、やれるもんならやってみろとしか言えない。お前に人を焼き殺せる程の電気を作れるとは思わないが。どうだ、グーチョキパーでもやってみるか?」
「吠えるのも今の内さ。お前に俺の取って置きを見せてやるよ」
突如として奴の体が輝きだした。全身の毛が逆立ち、紫電を迸らせ身を焦がしている。肌の至るところに黒色の結晶が浮かび上がれば、其の電撃は苛烈を極めて私に襲いかかった。
「お、おい! アレを使うつもりか!? やめろ、まだアレは未完成のッ……」
「今! ここで! 此の化物を仕留めるべきだ! そうすべきと俺は判断した!
此れ以上、目の前で血を絶やされる訳には、いかねえんだよぉッ!!」
奴の体表は染み出てきた汗が瞬時に蒸発するほどに熱く燃えている。其の熱は私だけでなく奴自身の命すらをも脅かしている。
いや、此れは自ら燃え盛る炉に命をくべている。自身の命をもって私と刺し違えようとしている。何とたゆまなき精神よ。
そんな自己犠牲に付き合うつもりなど毛頭ないがな。
ビリッ、と右腕の袖が破けた。私が破いたのではなく、奴が力みすぎて破けたのだ。アーツでもって肌と服の間に発生するくっつく力は既に抑制している。破れた袖は奴の手ごと滑っていき、そうして私の右腕は自由になった。
「なッ……!?」
私の右手には、小さなナイフが握られている。ちょいと体勢が悪いが奴の心臓には十分届く。私はまた同じようにして奴の左胸にナイフを突き立てた。硬化をする暇は無かったらしくズブズブとナイフが刺さっていく。
もう少しで心臓に届くというところで、奴は一歩後ろへ下がった。まあ、予期はしていた事だ。次善策は考えて有る。
今の私はつんのめるような状態だが、爪先だけでも跳ぶ力は十分に有る。だから跳んだ。ナイフが奴の胸を抉るように切り裂いた。どうしてもナイフが下に行く関係上、切り裂いたのは心臓に繋がっている大動脈だが、心臓と大して変わりはしないだろう。どちらにせよ帰結するのは肉体の死だ。
奴は切り裂かれたところから鮮血を溢し、よろめいた後倒れ伏した。ドクドクと絶え間なく流れ出でる鮮血が、其の体を赤く染めていく。
「カフッ、ゴホッ! ゴポッ!! な、何でぇ。効かねえでやんの……」
「まあ、確かに電気は弱点だ。其の力は剰りにも驚異的で、恐怖すら覚える程だ。お前の読みは正しかったが、電気の恐ろしさは身をもって知っている。対策は既に取ってあった。
感電の痛みは中々消えない。其れは、随分と苦しいものだ。少なくとも、其の事実をお前は知っているようだな」
倒れ伏す奴は死に体でありながらも悪態をついてきた。元気なものだ。一気に血を失うとショック死するものだと学んだのだがな。違うようだ。
「へへッ、所詮は博打か……。だが、よ。只じゃあ死なねえ、ぜ。お前に……ラブソングでも、歌ってやろうじゃあ、ねえか。地獄のッ、底でよぉ!!」
全身を青へ変貌させながらも奴は不適に笑う。浅はかな行動をとった自分を嗤った。そして其の顔は果てしなき決意で満たされている。
体が少し引き寄せられる感覚がする。地に転がる土塊や石ころが奴に向かって動いていく。何らかの力場を発生させている奴は全身を輝く黒い結晶へ変えつつあった。
突如として波動が私を貫いた。奴から産み出された波は、出てくる結晶ごとに強さが異なっている。しかし響く音色は全くもって同一であった。此の現象を私は異常であると判断した。
奴が紡ぐ波に整合性など一つも見られず、本来ならば互いにぶつかり合って打ち消され、私に届く頃にはほんの微細なものでしかなくなっている筈だ。しかし現実として響く音色は荘厳で雄大である。其れが私を形作るナニカを揺れ動かすのだ。
「此のアーツは、死した魂を呼び覚ます。死者を著しく冒涜する禁術だ。編み出したのは、俺。禁じたのも、俺。此れを使うのは、最初で最期だ。
さあ、覚悟しろ。我ら、が……相手だ」
そう言い残して奴は全身を結晶に変えた。物言わぬ半透明のソレは隠れていた地面を写し、最早生命体ではなくなったことを私に知らしめる。
黒く光沢を帯びたソレは淡く光を放ち、塵となって儚く方々へ散った。其処には何も残らなかった。
極めて妙である静寂の間が空いた。一体奴は何がしたかったのだろうか。何であろうと私が為すことは変わりはしないがな。
騎士の方へ向き直す。炭化した死体の傍で片腕だけで止血する者と、其の奥に四人がかりで騎士を治療しているのが見える。一人ぐらい寄越してやったらどうだ。
布で傷口を縛り付けた奴は炭化した死体から一歩歩み出て私に対峙した。
「右手に武器を。左手に防具を。其れが騎士の鉄則であり、原則だ。其れを破るものに騎士を名乗る資格は無い、って俺の親父が言ってたのを思い出したぜ。腕を失う辛さが、此れ程まで心を蝕むとは思ってもいなかった。親父が俺に大事な剣を渡した気持ちが、よおやく理解できた。
盾しか持てない俺に騎士で有る意味なんてねえ。だから、今此処で捨ててやる」
奴は鎧の左胸に刻まれた刺繍を無理に引きちぎって其処らに投げ捨てた。首に着けていたブローチも同様に。
「へへッ。此れで俺は騎士でもねえし、剣も持てねえ一般人だ。糞餓鬼だった鼻垂れ小僧の俺に逆戻りってか。笑えねえぜ。
なあ、ポンフリー。どうして俺達は、斯うなっちまったんだろうな」
奴は炭でまみれた手で頭を掻いた。
「ま、言っても仕方ねえか。片腕の俺でも、時間ぐらいなら少し稼げる。当主様はさっさと其の傷治してくれよ。無駄死には俺は嫌だぜ?」
「フレイダン……。すまない」
「チビ助は……ま、なんだ。頑張れよ」
「……はぁ。此れが最期だっていうのに。もう少し何か無いんですか?」
治療している奴らの一人が苦言を呈した。随分と、仲が良いようだ。
「……へへッ」
「あっ! 笑って誤魔化した! あなたは何時もそうやって……」
奴は盾を構えて私の行く手を阻んだ。其の盾は腕に装着されており、其の大きさは周囲に転がっている盾の半分程しか無い。身を守る物にしては、些か心許ない感じがする。
「……少し、良いかい?」
「あん?」
だから、聞かなければいけないと思った。
「何故、ここまでして護ろうとする。仲間と言っても所詮は赤の他人だろう? 身命を賭してまで護る価値なんて、有るとは思えない。
端的に言えば、お前の行動が理解できないんだ。誰だって自分の命が一番の筈だ。其処から逸脱するお前の存在が理解できない」
「お前さんがそう言うのは環境のせいか従来のものかは分からねえがよ、小さい物差しで人の思想を決め込んじゃあ駄目駄目だねえ。人間誰しも大事なもんを抱えて生きてんだ。お前さんが関わった人間全て、大事なもんが命だったんじゃあねえのか」
「お前たちのような人間は……そうだな、初めてだな」
「勿論、俺は違うぜ? 命なんてのは二の次だ。一に我らが家、二に彼処で燃え尽きてる奴だ。
それと、お前さんは赤の他人と言ったが、其れは全くの見当違いなんだぜ? アンドロス家一族とはな、構成する人員全てに共通する血が流れているんだ。謂わば家族であることがアンドロス騎士団に加入できる条件だ。太く長く受け継がれる血筋は初代当主様の悲願であり、現在に至るまで存在してきた思想だ。
其れなのにこんなに減っちまってよお。真っ先に死ぬのは、俺だと思っていたんだがな。占いなんて信じるもんじゃあねえぜ」
「……家族、家族の為か。そうか、成る程。だが、やはりお前の行動を理解出来ない。故郷に親や兄弟が居たことは、確かにあった。共に過ごした時間もあった。しかし、窮地に陥って最期は互いに殺し合った。家族が大切とは、どうしても思えない」
私には親が居た。歳の離れた兄が居た。血縁が共同意識を形作るのなら、あの関係は間違いなく家族だったのだろう。
そして此れだけは言える。あの関係に、私が犬っころどもや鳥野郎に感じているような暖かさなど、微塵も無かった。
「お前さん、愛って知ってるか?」
「愛……愛か。そうだな───忘れた」
心臓が呼応し爪がひび割れる。指先から伸びる黒色の結晶は鋭く尖り、触れたものを容赦なく傷付ける武器となった。奴に迫って完治した左腕でもって爪を振るう。
「おおっ、速えなお前」
奴は小盾で私の攻撃を弾いた。盾の下部を三つに分断したが、驚いたことに奴に傷は無い。しかも爪が全て砕けている。盾ごと切り裂くつもりで振るったのだが防がれてしまった。
ならばと肘にある間接部の隙間にナイフを突き立てる。
「躊躇ねえな、おい」
私がナイフを突き立てた瞬間、奴は腕を曲げて力任せにナイフをへし折った。用済みになった柄を奴の顔に叩きつけて、古びた鎧の脆くなっている部分に拳を振るう。
リーチの差で奴の足が先に入って少し体が浮いた。拳が届かない距離まで離されたが、奴の片足はもう使い物にならない。体勢を崩す奴にもう一度拳を振るった。
苦し紛れに小盾の残りを間に差し込まれたが問題なくぶち抜き、奴の刺繍の無い左胸を手で貫いた。確かな心臓の感触に顔をしかめてしまう。血を吹き出しながら腕を引き抜いた。
「何終わったようにしてんだ」
心臓が破壊されたのに、奴は元気に頭突きをかましてきた。予期せぬ攻撃にアーツの行使が遅れ、衝撃を殺しきれず後ろへ倒れそうになる。無防備になることを嫌った私は踏ん張って体を起こした。
「体を起こす為に重心を前に傾ける。俺はそうすると分かっていたぞ」
留め金に穴が空いたのか小盾が奴の腕から外れ、地に金属音を響かせる。次の瞬間には奴は私の背後に移動しており、身を起こしたばかりの私を足で払った。
普段の私であれば、不安定な蹴りをくらったところでびくともしない。しかし、今は奴が言ったように重心を前に傾けている。何の抵抗も出来ずに、私は呆気なく前に倒れ込んだのだった。
「そして、お前さんは足掻き方を知らねえ」
すかさず奴は私の両足を折り曲げて其の上に乗っかり、左肘に突き刺さった刃を引き抜いて、其れでもって私の右手を貫いた。左腕は奴の万力のような力で地に押し付けられている。私が少しでも動こうとすれば何処かが折れる、そんな組み付きだった。
「お前さんは分かりやすくて良いね。素直ってのは、其れだけ闘いを知らねえって事だからな。失った頃に其れがどれ程眩しいか理解するんだ。悲しいねえ、全く」
そう嘯きながら奴は更に力を込める。流石に近接戦闘では経験の差がもろに出るな。アーツでズルをしても其の差はどうしても埋められない。困ったものだ。
「此のままで居るのもなんだし、少し昔話でもしようや。俺が初めてアーツという技術を認識したのは戦場だった。山奥の隠れ家で穏やかに暮らしてた俺は、餓鬼特有の退屈さから刺激を求めて山を降った事がある。すぐ其処が戦場であることも知らずにな。
んで、俺を助けようとしたじい様が、ウルサスの将校に突っ込んで自爆した。源石に侵されていたじい様が、結晶を剥き出しにして華々しく散ったんだ。
心底恐怖したね。何時かは俺にもアレが出来るようになるのだと。何時かは自分以上の使い手に成れるだろう、ってじい様自身が言っていたからな。一時は発電機を起動する事すら拒絶した程にトラウマになっていたんだぜ?」
「其れで、其の話をしてどうだと言うんだ」
「そんな臆病な俺に、自爆を決行させるお前さんは大した奴だってことさ。其れに、見ろよ此の輝きを。源石病ってのは此処まで人を化物に変えちまうらしい。新しい心臓が生えてきたぞ」
後方より光が此の薄暗い洞穴を照らす。私の目前には自身の影が長々と伸びていく。今まさに奴は病魔の根源へと変貌しつつある。
「きっと此のまま放置すると、彼の阿保みたいに俺は結晶化して源石粉塵を撒き散らす存在になるんだろうな。だが、そうはならねえ。そうなる前に、全エネルギーを使い果たしてやる。此れも未完成だが威力はピカ一だ。
さあ、燃やすぜ」
私の腕を掴む籠手が熱を帯びて溶け出した。奴の体温の上昇とともに大気が熱される。真っ先に発火したのは奴の髪だった。其の火種が全身へと移り、一つの業火として此の地底を照らしつける。
「此れが、お前さんに効くだろうか……。彼奴の電撃を防いだお前さんに……。効いてくれると、俺は嬉しい」
液状化した鎧が降り注ぎ私の服を焼き焦がしていく。そして溶けた金属がインナーに触れた瞬間、其れは一瞬にして固まった。発火とは熱運動のエネルギーが何らかの要因で増加し、物質間の衝突が活発になって生じる現象だ。故にエネルギーを操るアーツを行使する私が燃える事は決してない。
私の体表はある一定の水準に固定している。シャツとズボンは僅かに燃えるが、肌に触れているインナーとパンツは燃えない。奴に出来る事は無意味に燃え盛る事しか無いだろう。其れ以外は何もできないのだ。そう、防御する事さえも。
右手と刃を癒着させ簡単に外れないように固定する。私の身体の一部と化した金属を其の構造、形状、長さを自在に操れるよう支配下に置いた。地面から引き抜き右腕を翻して奴の腹部を切り裂いた。頑強性と切れ味を代償に細長くなった刃は、炭化しつつある奴の体を容易く分断した。
私に覆い被さるようにずり落ちた奴を、起き上がる際に振り払った。空気中に火花と炭を撒き散らして業火は消え失せた。私を燃やすことは、叶うことはなかった。
「……へ、へへッ。へへへッ。やっぱ、駄目だったかあ……。情けねえ、なあ……俺。あぁ、悪いな、ポンフリー。おめえの仇、とれんかった……」
血が蒸発仕切った体からは流れ出る物は何も無い。ただもう一つの焼死体へと向かう軌跡は、地に擦りついた炭の跡だけだ。
「なあ、ポン、フリー……。あそ、ぼうぜ? また……いっ……しょ、に……」
片腕の其れも燃え尽きて神経すら無い腕で上半身だけの体を引き摺らせる。土を掴んでひたすら前進し、そして目的まであと一掴みのところで力尽きた。命の灯火が消え失せたのを見届けた私は、体に付いた炭を払う為に頭を振った。
「ん?」
動いた気配を感じてもう一度奴を見た。届かなかったはずの手は、もう一人の手に重なっている。完全に死んでいる奴が動いたようだ。
「愛……愛か。愛の力、か。奇妙なものだな」
だが終わった事に興味を抱けなかった私は、其の事を気にも止めず奴らの横を通り過ぎる。死んだ奴は二度と動く事はないという下らない真実に気を取られていた私は、此の時どうしようもなく油断しきっていたのだ。死にながら動く人間を何度も見ていたくせに。
足を掴まれる感触があった。驚愕し、思わず右手の刃で切り裂こうとすれば、脆い刃は硬化した奴らの腕に弾かれ砕け散った。炭化した死体が動いている。其の事実に瞠目した私は、次の行動に移ることが出来なかった。
周囲から何かが蠢く音が聞こえ出した。立ち上がった血の抜け落ちた死体。這いずる全身が潰れた死体。自身の頭を持つ死体。頭部が潰れた死体。流動的な粘液が滴る死体。
何とおぞましい光景か。私が殺めたはずの奴らが、再び剣を向けたのだ。
悪夢でも、見ている気分だ。
ポンフリーは女、フレイダンはノンケです。悪しからず。
場面転換がないせいでTipsの文章が書けない……。Tips禁断症だッ……!(いみふ) ちょくちょくメモに書いてるから何処かで放出しようかと思ってる。
10/28 少々修正